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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 三日目(後)
373/523

そのさんじゅういち

――31――




 セブラエルと合流する会長と副会長。二人とも準備万端と言うことか。ちゃっかり制服を着込んでいた。

 その姿を呆然と見る――フリをして、私は状況の把握を行う。腕甲“黒風”の損傷率は五割。衝撃波に咄嗟に浮遊盾を使用したら起動しなくなった。鏃は発射できるけれど、ワイヤーも無理だろう。忍者刀“嵐雲”は、刀としての機能以外は全て起動しない。というより、この破損率でトリガーを引こうものなら、誤作動し(ジャムり)かねないので却下。

 リュシーの止血は終えている。ついでにこっそり浴衣に“自動回復”の術式刻印レリーフィングを施しておいたから、ひとまずは大丈夫だろう。でも、可能な限り早く、適切な治療を行いたい。

 静音は完全に沈黙している。倒れ伏して動けない、ように見せかけている、かな。ゼノが護衛に付いているし、あちらにはほとんど気を裂かなくても大丈夫だろう。

 鈴理は……泣いている。きっと心も罅だらけだろう。でも、折れてはいない。立ち上がって、それでも魔力を充填させていた。

 フィーは姿が見えない。違う、電気による光学迷彩? よし、そのまま温存して貰おう。

 充填? 見れば、レイル先生は砕けた大理石に背を預けて、ぐったりと動かない。それでもよく見れば、握りしめた十字架から、全員に少量の霊力と魔力を送ってくれていた。サポートに徹してくれるのなら、ありがたい。



(でも……伏見さんと刹那は、無理ね)



 驚愕。

 絶望。

 困惑。

 恐慌。



 様々な感情を瞳に浮かべて震える、二人の姿。

 同じ生徒会だからこそ信じられず、だからこそ、動けないのだろう。そりゃ、私だってショックだ。今すぐにでも、胸ぐらを掴んで問いただしたい。

 ――でも、私は“碓氷”だから。今この場では、みんなの“司令塔”だから。だから、感情と理性を切り離す。


 気張りなさいよ、碓氷夢!

 ここで私が踏ん張らなかったら、誰も助かりはしないと思え!!


「鈴理、立てる?」

「……立つよ、夢ちゃん。話を聞くのは、ぜんぶが終わってからで良い」

「そう。なら、私と鈴理のツートップよ。負ける気がしないでしょ?」

「うん――夢ちゃんと、一緒なら」


 立ち上がる私と鈴理を、セブラエルのは慈悲の目で見る。

 そんな彼に付き従う会長と副会長は、無言のままだ。


「まだ、立ち上がるのですか? 良いでしょう。もう、侮りません」

「すぅ、はぁ――刹那、伏見さんはリュシーと焔原の護衛! 私と鈴理で前線維持!」

「良いでしょう。同士よ、お相手して差し上げなさい」


 私たちの前に立ち塞がるのは、会長と副会長。

 相変わらず何も言わない。これで洗脳の類いだったらまだ、気が楽なのに、ままならないな。私の解析陣は、彼らが平常であることを告げていた。




「汝は希望、汝は勇気、汝は闇を祓う勇猛なる戦士。なればその身は、【勇者の旅団】と知れ♪ ――と、も、もう一個! ♯(シャープ)、汝は悪、汝は罪人、汝は希望を侵せし愚者。なればその身に纏うは【咎人の枷】と知れ♪♪」




 霊力解放。

 それだけ唄いきり、静音の体が傾く。術者の意識が途絶えれば、異能の効果は危うくなる。けれど静音は余分な力を抜くことで持続を選んだのだろう。

 倒れていく静音を、ゼノは優しく抱き留めた。そのまま、静音の体がゼノに吸収される。いや、ゼノを纏う状態にしたのかしら? なるほど、それ以上の防御手段はないだろう。


「く、弱体化ですか。私は試練の王を討ち倒します。あなたたちは異端者を」

「ええ」


 ゼノに突貫していくセブラエル。

 彼に指示を受けて、会長たちは私たちに向き直った。


「土壇場で裏切り、なんて、随分と姑息ですね。B級映画の見過ぎでは?」

「レルブイルが粘ってくれたら、裏切っていることも悟らせなかったのだけれど、ダメね。彼も道に迷っていたから、躓いた」

「へぇ? 会長は迷わず来たんですか?」

「ええ、もちろん。――慧司」


 副会長が、唐突に放つ炎の弾丸。

 再生“可能”な炎を生み出す異能。その真骨頂は、“破壊”と“再生”を司る、ということだ。向かってきた弾丸を、鏃で落とす。けれど炎は散りながら分裂。矢のように降り注いだ。


「ッ」


 結果は、“領域”だ。

 周辺一帯を炎に包まれて、援軍は期待できない。これじゃあ、刹那の目が醒めたところで、参戦は期待できない、かな。


「あの子が、歩くことをなくした日から、私は一度とたりとも迷わずに生きてきた。異能を持たない人間に、中途半端に与えられた牙がなんの役に立つ? それは、弱者にナイフを持たせて、銃弾の飛び交う戦場に放り出すことと、何が違う?」


 会長は、目を伏せたまま歩いてくる。

 その表情も、その声も、どこにも激情はない、はずなのに。


「人は、力なんて持たない方が良かった。弱い異能者も、異能の使えない者も、一緒くたに強者が護れば良い。でも、それは今の世界が許さない。許さないのであれば、作り替えなければならない。そのためには、鈴理さん――例えあなたが相手でも、私は殺すわ」


 決意。

 あるいは、絶望。

 目を上げた会長の、その眼光に移るのは如何様のものか。ただ、赤紫色の瞳が、血のような真紅に輝いたような、そんな気がした。


「鈴理、避けなさ――鈴理?!」


 息を呑んで硬直する鈴理を、咄嗟に押し倒す。

 ――直後、私の頭上で強烈な炸裂音が響いた。


「ご、ごめん、夢ちゃん。それから、会長のあれ、たぶん――“魔眼”だ」


 鈴理を横抱きに抱えたまま、二つ、三つ、四つと爆破を避ける。

 というか、魔眼? ……未登録の、多重異能者(マルチホルダー)か!


「もう、大丈夫! 夢ちゃん、凛さんの目は見ないでっ」

「りょーかい……!」


 鈴理を降ろして、刀を構える。

 術式刻印レリーフィングで身体能力強化。余計な行程は全て省いて、短期決戦で決める!


「“爆重火タブレット――」

「げっ」

「夢ちゃん、下がって! 【速攻術式セット平面結界フラットバリア展開イグニッション】!」


 四角いキューブ状の爆弾。

 鈴理の盾に隠れるように身を翻すと、その先にはもう一つ――?!


「――絨毯アソート”」

「【展開イグニッション】!!」


 懐から投げるのは、未知先生からの逆輸入。

 術式刻印レリーフィングの施されたカードは、その身を代償に衝撃を一度だけ防ぐ。


 轟音。


「うぁっ?!」


 衝撃。


「づっ」


 鈍痛。


「はは、さすが、っ、生徒会長様ってことね……!」

「水守さんの異能が無ければ今ので片付いたのに。悪運が強いのね」

「おあいにく様! 私には常に、勝利のヴィーナスがついているのよ!」

「そう。なら、天に召されたときにでも、そのヴィーナスに縋りなさい」


 残念ながら、私たちのヴィーナスは地上にいるのよ!

 そう叫びたい気持ちを抑え込んで、会長に向き直る。徐々に酸素が薄くなっているのは、常に炎を調整している副会長の仕業だろうか。

 考えろ、考えなさい、碓氷夢。私がこの場を任されている。だから、だから!


「――夢ちゃん」

「鈴理?」

「わたし、ちょっと凛さんと話し合い、してくるよ。だから夢ちゃんは、副会長をお願い」


 “お話”という言葉に伏せられた意味。

 考えるまでもない。鈴理は、やるといったらやる。


「頼んだわよ、鈴理!」

「させない。“爆火矢ボンボン”!」

「それはこっちの台詞だよ、凛さん! 【反発バウンド】!」


 爆発音を背に受けながら、一直線に駆け出す。

 途中、大理石の破片を一つ拾い上げた。即興で刻むのなら、簡単で派手な方が良い。



「【術式刻印レリーフィング形態フォーム爆破弾ボマー様式アーム広範囲指定エリアロック付加パーツ氷結雪コールドスノウ追加プラス術式起動要請フリーズワード】」



 ぼんやりと輝く大理石。

 それを頭上に放り投げて、カフスから全員に合図。伝わっていることを祈って――。


「【展開イグニッション】」


 ――起動。

 周囲一帯を覆い尽くす、雪。その雪は炎に触れると勢いを弱め、雪同士がくっつくと雹になり、雹が突き刺さった場所には氷柱が立つ。

 同時に、全員どうやら無事なようだ。各々で結界を張ってくれたらしい。どうせ雪は一瞬のこと。ほんの瞬きの間だけ降り注いだ大吹雪は、けれど炎の檻を消し飛ばし、再び生み出せないように氷の結界を作った。



「私の嫌がらせ、お味は如何? 副会長」

「――君は、性格が捻くれているな。凛ほどではないがね」



 氷柱の影から出てきたのは、制服姿の副会長だった。

 だが、万全にはほど遠いのだろう。その右手は凍傷にただれていた。


「痛そうですね。異能は使用されないので?」

「わかっていてやったのだろう? 熱を奪われたら、火の鳥は羽ばたくことが出来ない」

「そうですか。――じゃ、満身創痍は同じなんだし、鈴理と私とみんなとついでに刹那の信頼を裏切ったことを、泣くまで刻み込んでやるから覚悟するがいい!!」

「怖いな。ああ、だが、こちらも、負けられない戦いをしているんだよ――!」


 副会長が走り出す。

 火の鳥が羽ばたくことが出来ない、というのは真実なのだろう。純粋霊力運用による肉体強化しか使ってこない。けれど問題は、その精度、かな。


「動きが鈍いぞ。どうした? 碓氷」

「あんたたちのせいだっつーのッ!」


 蹴り。

 突き、胴回し、掴み、投げる。

 恐るべき精度で繰り出される技。一つ一つが洗練されているから、速度はたいしたことは無いのに、目で追うことが出来ない。


「約束したんだ、凛と! 例え地獄に落ちようと、オレだけは最期まで付き合うと!」

「地獄に落ちたいなら二人だけでやれ! 私と鈴理と、リュシーと、みんなを、巻き込んで良い理由にするな! それは――」


 抜き放たれるのは、銀のナイフ。

 仕込んでいたのだろう、制服の袖から取り出したそれを避けるのは至難の技だ。きっと、避けたときに体勢が崩れるのを見越して、追撃を仕掛けるつもりなのだろう。



「――友達ひとり支えられなかったあなたの、現実逃避じゃないんですか、副会長ッ!!」



 でも、だからこそ、突き出されたナイフを肩で受け止める。

 気合いで神経は避けて、けれどナイフは深々と突き刺さる。痛いとか熱いとか、このアドレナリンが切れたら一気に襲いかかってくるのだろう。

 ――それでも、構わない。


「ッ」


 小さく、息を呑む音。

 自ら突き刺さりに行った私への驚愕か、それとも、私の言葉に思うところでもあったのか。凍傷以外は万全であるはずの彼は、見事に足を止めた。


「捕まえた」

「なっ」


 モーション・イグニッション。

 私の指の動きに合わせて起動したワイヤーが、副会長にぐるぐるに巻き付く。



「お休みなさい。お説教は、次に目が覚めたときで許してあげるわ」

「ぐ、待て、オレはまだ――」

「【展開イグニッション】」

「――ガッ?!」



 術式刻印レリーフィング起動。

 浴衣の裏に仕込んでおいた“麻痺パライズ”の魔導術が、副会長の意識を刈り取る。

 同時に、足から力が抜けて、尻餅をついた。


「は、はは、情けない。づっ、ぁあっ、はぁっ」



 ナイフを引き抜き、止血。

 治癒魔導陣を、こう、ち、く。



「あ、だめ、だ」



 いしきが、もたない。

 ちからがぬけていく。

 あかいちが、じめんをつたって。




「情けなくなんか、ない。悔しいけれど、立ち上がったあなたの方が、ずっとずっと格好良かった」




 てをさしのべる、“かげ”をみた、きがした。





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