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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 三日目(後)
370/523

そのにじゅうはち

――28――




 伏見六葉は考える。

 生徒会でありながら、一般生徒に負けているという事実を、深く――けれど率直に受け入れていた。なにせつい近頃に友達になった特異魔導士の少女は、石の巨人と平然と打ち合いをしているのだ。


 そして同時に、こうも思う。


「だからなおさら、負けられない」


 二股に割れた尾を持つ九匹の管狐。

 伏見に共存する九尾の狐より生まれた子狐は、皆、伏見の異能者によって育てられる。自分の兄弟も同然な管狐たちを、六葉はなにより信頼していた。


「行くよ、みんな」

『キュウッ!』


 九匹九属性。

 それぞれに宿る力の強さはまちまちだが、仙狐であるのなら話は別だ。

 駆けだした六葉に付き従うように、管狐たちが纏わり付く。剣を振り上げる天兵、光の矢を生み出す天兵、腕を引く天兵、翼を広げる天兵。集まってきたそれらに、六葉はただ指揮者のように手を振った。



「一つ」



 炎。

 青白い火は、天兵の半身を焼き、消えること無く伝播させる。



「二つ」



 氷。

 淀んだ黒い氷は、天兵を凍らせる。凍り付いた天兵はぎこちない動きで仲間に突撃。爆散して果てた。



「三つ」



 雷。

 白い雷は、天兵を貫く。そのまま地面に着弾すると、複雑な軌道で跳ねて、天兵たちを背後から強襲した。



「四つ」



 無。

 不可視の風刃。それが刃であったことは、切り裂かれた天兵の、鋭利な断面が物語る。



「五つ」



 水。

 青みがかった水は、生き物のように流狂う。その波に呑まれたものを、分解させながら。



「六つ」



 石。

 天兵たちが、突如、足を止める。その理由に気がつかぬまま、彼らはせり上がった壁のシミと化した。



「七つ」



 木。

 種が打ち込まれる。天兵は腕を犠牲にそれを防ぎ、その選択が誤りであったことを知った。枝葉が縦横無尽に生えて、そこに一本の木が立ったのだから。



「八つ」



 光。

 瞬きの閃光。単純に強く速いだけの光線は、見てから避ける脆弱を許さない。ただ、体中を穴だらけにした天兵の、歪なオブジェクトが残るだけだ。



「九つ」



 闇。

 天兵たちが光弾を放つ。あまりの密度だ。到底、避けきれるモノでは無いだろう。そのはずなのに、闇に覆われた六葉には届かない。ただ、自らの光弾に貫かれた彼らを視れば、光の行く先は理解できることだろうが。



「零」



 空。

 六葉の姿が掻き消える。

 肩で息をする彼女の、その通り過ぎた道には“なにもない”。ただ、在ったはずの天兵すらも掻き消えて、えぐり取られたような大理石の地面だけが、すさまじさの代弁者であった。



「ふぅ、はぁ。――どうしました? 私はまだ限界ではありません。掛かってきなさい、悪鬼共ッ!」



 伏見史上、最強の後継者は天兵たちにそう吼える。

 ただ謙虚に、実直に、己が役目を全うするために。

































――/――




 ――そう、暴れ回る六葉を横目に、心一郎はため息を吐く。


 焔原心一郎は、他のメンバーのように名家名門の出ではない。一般人だった両親は幼い頃に他界して、考古学者だった祖父に育てられた。世界各地の異界を巡り、冒険し、やがて祖父と同じ(・・・・・)タイプの異能(・・・・・・)を手に入れて、彼自身も冒険家として名を馳せる。

 それから祖父の隠居を機に特専に入学。中等部から将来を期待され、天狗になり、生徒会に入会して直ぐに某爆弾魔によってプライドを粉々に砕かれた。


 だからこそ、焔原心一郎は侮らず。


「来たれ【光機の紋章】」


 だからこそ、焔原心一郎は無力を恥じる。


「変身――」


 白銀の腕輪を頭上に掲げ、ポーズをとりながら横へ、下へ、また頭上へ。



「――【チェンジ・ゲット・シャイニング】!!」



 円環が腕輪から出現。

 光の輪は心一郎の体を上から包み、覆い、装着させる。

 銀のボディスーツ。はめ込まれた白い鎧。銀色のバイザーに光が灯ると、心一郎はかけ声と共にジャンプする。


「世界が闇に覆われし刻、銀河の果てより臨み出で、悪を滅する正義の光」


 足下より輝くスポットライト。

 幼い頃、祖父が命を助けられたという“魔法少女”のお話を朝から晩まで聞いていたら、何故か異能が変質。演出効果つきになってしまったという不具合。

 本物のように、何故か変身中は敵に攻撃されないなんて言うご都合主義は未実装。その代わり、キッチリポーズをとってから戦うと強くなる謎仕様。

 襲いかかる天兵たちを、この一瞬だけは無視を決め込み、心一郎は最後の台詞を言い放つ。



「閃光戦士――シャイニング・レイ!! さぁ、おれと果てまで踊ろうか?」



 謎の爆発。

 吹き飛ぶ天兵。

 心一郎は、襲いかかる天兵たちに踏み込んだ。


「副会長の仇だ。悪く思うなよ? ――シャインキック!」


 それは、言ってしまえばただの蹴りだ。

 けれど、ポーズと技名を決めれば、その威力は跳ね上がる。普通のミドルキックだったはずなのに、天兵五体を巻き込んで、その全ての体を両断させる程度には。


「喰らえ、シャインチョップ!」


 手刀。

 地面まで割れ、水しぶきが弾ける。


「シャインラリアット!」


 轟音。

 首にたたき込まれたラリアットは、天兵の頭を砕き、それだけでは飽き足らず、射線上を纏めて吹き飛ばす。


「シャインドロップキック!!」


 そして、重ねられた両足。

 さながら砲弾のようなそれは、天兵を吹き飛ばし、周囲一帯を巻き込んで砂に変えた。


「閃光に溺れな――“シャイニング・アサルト”」


 一歩。

 踏みだし、水しぶき。


「遅ぇよ」


 二歩。

 天兵の背後に回り込み。


「ゼァッ!!」


 三歩。

 閃光と化した体で、群がる天兵たちを砕く。


「恐れを成したのなら逃げれば良い。弱者は追わない。だが、立ち向かうのなら覚悟しろ。――これより先は死地だ。その安っぽい双眸で、捉えきれると思うなよ?」


 心一郎は、マスクの下で不敵に笑う。

 その笑顔が天兵たちに伝わったのか、彼らは一斉に襲いかかった。

 それが、過ちだとも知らずに。


「そうか、立ち向かうか。なら、ここで果てろ」


 剣。

 光。

 矢。

 力。


 八方埋め尽くすその光景も、今の心一郎にとっては獲物でしかない。




「閃光覇陣――【シャイニング・バーストォッ】!!」




 光が、周囲を埋め尽くす。

 心一郎自身を中心に、クレーターを作り上げながら――。





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