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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 三日目(後)
369/523

そのにじゅうなな

――27――




 黄金色の疾風を、フィフィリアは横目で見ながら薄く微笑む。

 出会いからもう半年以上。逆に言えば、まだ半年程度。それなのに、フィフィリアにとって鈴理とは、大切な存在になっていた。もう一年早く出会えなかったことを、惜しく思う程度には。


「だからこそ、おまえにばかり良い格好はさせられない」


 名門に生まれ、没落した家を支え、今日まで走り抜いてきた。

 優秀であるという自覚と、特別であるという驕り。その全てを抱えて走り抜け、もう少し肩の力を抜いてもいいと教わった。

 フィフィリアにとって、鈴理も、仲間たちも、掛け替えのない存在だ。だからこそ、彼女はここで、格好悪い様など見せたくはない。


「さて、ドンナーの戦い方を見せてやろう」


 踏み込み。

 過剰霊力が稲妻のようにフィフィリアの足を伝い、水を蒸発させ、大理石の地面に蜘蛛の巣のような罅を入れる。


「剛腕力帯」


 浴衣に巻き付いた帯。

 銀がかった半透明のそれは、黄金のバックルで留められている。雷神トールが身につけていたそれの効果は、持つモノの身体能力を増幅させるというモノ。



「【メギンギョルズ】!」



 力が解放される。

 単純身体能力強化のみによる跳躍は、余波で、群がる天兵たちをなぎ倒して飛び上がる。

 足場にはちょうど良く群がる天兵たちを踏みつけて、頭蓋を砕きながら疾駆する。砂に変わる石の天兵たちは、仲間の死を怖れない。ただ戦うだけの人形は、痛みを覚えずに向かうのみ。

 ――それすらも、フィフィリアにすれば、都合の良い足場でしかなく。


「重火減転」


 腕甲。

 複雑な紋様の刻まれたそれは、掴んだモノの重さを自由に変えられる。普段は巨大化させたミョルニルに用いるそれを、今は敵に用いる。


『オォォォォッ!!』


 風を切って飛来する鉄。

 剣と言うにはあまりに無骨な鉄塊。

 痛みを孕んだ、鉄と石の大剣。



「【イルアン=グライベル】!!」



 それをフィフィリアはあろうことか素手でつかみ取り、その重さを“ゼロ”にした。

 掴み、巨人ごと持ち上げて、投げる。一連の動作になすすべもなく、巨人は轟音と共に転がった。


 振動。


「ッ」


 踏み込み。


「雷揮神撃」


 跳躍。


 強大化する黄金の鎚。

 膨れあがる稲光。

 眩い紫電。



「打ち砕け――【ミョルニル】ッ!!」



 雷光。


「オォォォォッ!!」

『ルォオォォォォ?!』


 光の柱。

 巨人の上半身と下半身を別つような一撃は、大理石の地面に巨大なクレーターを刻み込む。だが、巨人は上半身だけになってなお、腕で上体を持ち上げて見せた。


「ふむ。鈴理のように頭を割らねばならんか」

『オ、オオオ、オオオオォ』

「ならば、それでも構わん」


 踵を返し、半回転。

 ゴルフのスィングのように、下から上へ振り上げる。それはさながら、上空へ打ち上げるスポットライト。脚光を浴びる彫像のように、巨人の顎下に稲光が灯る。


『ルオッ?!』

「防いでも無駄だ」


 両手でカバーする巨人のその腕に、轟音と共に打ち込まれる雷光。

 振り上げから飛来するレーザービームが如き“登る落雷”が、巨人の体を無残に削った。

 だが、防御の代償は大きい。機敏に動くことも出来ず、フィフィリアの、遠心力によって戻ってきた鎚が残酷に煌めいた。


「二つ」

『グッ』

「三つ」

『オオッ』

「四つ」


 まるで、舞いのようですらあった。

 回転。打ち上げ。砕いて進む。その度に花火のように打ち上がる稲光に、ついに巨人の両腕が屈した。

 砂となって消える両腕を、巨人は呆然と見つめる。けれどその僅かな時間さえ、巨人は逃走に使うべきだったのだろう。もっとも、迫る雷光は、離してはくれないのだろうが。


「五つ」

『ルグギァッ?!』


 五回目の打ち上げで、頭部が粉々に砕け散る巨人。

 その巨体がゆっくりと倒れ伏すと、地響きのような音が鳴り響いた。


「さて、これで私も掃討戦に参加できる。――ああ、逃げても良いぞ? 私の鎚から、逃れられるものならば、な」


 雷光。

 紫電。

 稲光を纏いて踏み出すフィフィリアに、天兵たちは襲いかかる。

 それを彼女は、ただ何気ない表情で、打ち砕くために鎚を振り上げ出迎えるのであった。






































――/――




 不利を悟ったのだろうか。

 天兵たちのとった対策は、簡単だ。己の“核”を差し出して、より強力な一個体を作り上げる。突きには対応していない先端の平たい剣。より強靱になった一振りのそれを、強化天兵は、哀れな後方要員に向かって振りかぶる。

 なるほど、より強く強化された戦士で後衛を狩るというのは、効率的で合理的な判断であるといえることだろう。だがそれは、“後衛が力を持たない場合に限る”ことであったが、人形でしかない石の天兵に、それを判断する力は無い。


『シャァッ!』

「すぅ、はぁッ!」


 振り上げ。

 横からいなす、漆黒。


「や、やっぱり後衛を狙ってきたね、ふ、伏見さん」

「そのやっぱりを、なんなく近接で弾くんですね、水守さん」

「あ、私はこの強化天兵を相手取るので、ふ、伏見さんは他をお願いします」

「ええ、はい、わかりました。お気を付けて」


 離れていく六葉の気配に、息つく暇も無い。

 首元まで迫る剣を、柄頭で弾く。距離を取るまでもない。静音はただ半歩踏み込んで、天兵の間合いをくぐり抜けた。


『シャッ?!』

「えいっ」


 気の抜けたかけ声。

 けれど魔鎧の王より手ほどきを受けた剣戟は、妙なる手管を以て天兵の剣をいなす。絡め取るような動き。柳が如く流麗さ。


「やぁっ」

『シギィッ!!?』


 一歩静音が踏み込むごとに、二歩追い込まれてよろける天兵。

 一手静音が切り込むたびに、三手足らずに打ち込まれる天兵。


「ゼノ」

『応』

「いくよ」

『是』


 静音が一歩踏み込むと、天兵はキレの落ちた剣速で防御に回る。

 これがもしも意志ある存在だったのならば、全力で“回避”に勤めたことだろう。だが、それも最早詮無きことだ。既に静音は、準備を終えて(・・・・・・)いたのだから。


「汝は人、汝は魔、汝は界を異とする隣人なれば、その身は【魔鎧の主】と知れ♪」


 霊力と妖力の同調。

 翡翠と真紅が合わさり、顕現する力は紫。

 黒とも見まがう深紫が、静音の持つ剣を覆う。



「【彼岸(バーリ)――」

『ッッッ』



 人形に過ぎない天兵は、未だ防ぐことが出来ると思っているのだろう。

 大きく振り上げられた剣を受け止めることは、膂力さえあれば難しい話ではない。強化天兵となれば、受け止めることなど造作も無いことだろう。

 だが彼は意志無き人形であるが故に……それが、“驕り”であることに気がつけない。


 故に。




「――涅槃寂静(ニルヴァーナ)】!!」




 解放された力の色は、紫紺。

 光の帯となったそれは、豆腐でも切るように滑らかに、強化されているはずの天兵の剣と体を両断する。それだけでは飽き足らず、天兵の後方にいた他の天兵も巻き込んで、光の帯に触れて消滅していった。


「き、切れ味が甘いね」

『だが、前よりは良い。修練あるのみだ』

「う、うん、そうだね、ゼノ」


 踵を返した静音のその背後に、蠢く存在はない。

 ただ剣の一直線にえぐり取られた大理石の地面に、緩やかに水が流れていった。





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