表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 三日目(後)
368/523

そのにじゅうろく

――26――




 ――それは、“白”だった。



 月面。

 物理的に触ることが出来るのに、強く押すとするりとすり抜ける不可思議な空間。

 みんなで“豆の木”のような竹と蔓の道を登り切ると、わたしたちは真っ白な空間に這い出た。


 空は夜。月も星もなく、延々と広がる漆黒。

 床は昼。仄かに輝く大理石と、薄く張られた水。


 その空間の中央に、影が一つ。

 月のような丸い石。バスケットボールサイズの白く輝く宝石に手を翳している、男が一人。


「あなた、は」

「ん? ――ほう、存外優秀なのですね。あと五人は削れるかと思ったのですが」


 穏やかな顔つき。

 皮肉げな笑みを浮かべ。


「残念ですが仕方ありません。“異物”の排除は、私自らの手で行うことにしよう」


 支配人、玲堂れいどう出流いずるは、そう言って――“天使の翼”を出現させた。


「なんだ? ショックを受けているのか? いいさ、直ぐに楽にしてやろう」


 黙り込むわたしたちに、玲堂はそう言って微笑む。

 なるほど、天使らしい慈悲に満ちた表情だ。でも、余裕たっぷりよりも、激昂させた方が扱いやすそうかな。

 そう、夢ちゃんを見ると、夢ちゃんは察して頷いてくれた。


「夢ちゃん、採点」

「五点ね。想像の付く展開で拍子抜けよ。旅館を知り尽くした人間でないと、準備できないトラップでしょ、これ」


 わたしと夢ちゃんの言葉に、玲堂の額がぴくりと動く。

 うんうん、ほどよく怒らせたかな? と、そう思っていると、完璧に空気を読んだみんなが見事に乗っかってくれた。


「ゆ、夢、十点満点で?」

「いやねぇ、静音、百点に決まってるじゃない」

「む。夢よ、千点ではなかったのか?」

「ははは。フィー、ユメのことだ。千点満点なら百点くらいはくれるだろうさ」

「ドチラにせよ、落第だガね」


 最早、ぷるぷると震えて呂律が回らなくなっている玲堂。

 や、やり過ぎたかなぁ、なんて思っていると、深く頷いたあと、刹那ちゃんも参加表明。


「評価点が死んでいる。天使じゃなくて点死だった?」

「語呂は良いな。すさまじく格好悪いが」

「せ、刹那、心一郎、みんなも、ちょっと図太すぎるよ……」

「え? なに六葉? あの程度の点数で天使を名乗るなんて図太い? すごいこと言うね」

「だから、言ってないからね?!」


 ああああ、玲堂の顔色が、赤を通り越して紫色に……。

 急に襲いかかられたらことだし、平面結界フラットバリアを不可視にして、小さくして、配置して、時間稼ぎをできるようにして置こう。


「ゆ、許さんぞ小娘たちッ。矮小な人間共め! 今この場で、神の裁きをへぶッ?!」


 そう、玲堂は薄く張られた水面に顔から着水した。

 設置した平面結界フラットバリアで、足をぶつけて警戒してくれたら良いなんて思っていたのに……ま、まさか転んじゃうなんて。


「さ、さすが鈴理」

「さすすずね」

「鈴理はトラップもできたのか。ふむ」

「スズリ、やるね」

「さすが、ボクたちの生徒ダ」

「どん引き。でもグッジョブ」

「女ってぇー」

「笠宮さん……すごいことするね……」


 違うの。

 待って、やめて、玲堂が凄い目でわたしを睨み付けているから!!


「特異魔導士の存在は“全人類超人計画”に必要だ。だが、他は不要。貴重な超人は生かしておいてやることも考えていたが……ククッ、神の敵対者は死んだ方が良い」

「見てみなさい、鈴理。あれが“うっかり計画名まで漏らす無能管理職”よ」

「こっ、コ、ココクククゥェエエエェエエエエェェエエエエエェッ!!!!」


 今までに見たことのないような怒り方で、怒り狂う玲堂。

 これってひょっとして、やり過ぎたのではないだろうか。



「目覚めよッ! 我が名はレルブイル! 管理者たる我が名に従い、その力を顕現させよッ、“楽園(エデン)”よ!!」



 玲堂の叫びと共に、周辺に生み出される石の“天兵”。

 その数は瞬く間に増え、あっという間に百を超えた。その上、レルブイルの背後には、十メートルはあろうかという石の巨人が居る。



「うひ、ひは、はははははははははげふィッアッ?!」



 ……。

 …………。

 ………………。



「夢ちゃん?」

「よし、悪は滅びたわね」



 腕甲“黒風”から硝煙を出しながら、夢ちゃんは、額から天装体の破片を噴出させながら倒れ伏した玲堂――レルブイルを一瞥する。

 やっぱり過剰な激昂は、“防御膜”をはぎ取るためのモノであったらしい。玲堂出流を最初に見たときに思った“違和感”。彼はどうやら、用心をして体に防御膜を張っていたようだった。

 それを、力を出し切らせることで解除。狙撃をした、と。


「じゃ、あとは“掃討戦”よ。やれるわね? 魔法少女団!」

「“霧の”、生徒会も忘れて貰っては困る」

「はいはい、足を引っ張らないでね? “闇の”」


 天兵たちが、ガソリンを注ぎ込まれてエンジンを吹かした機械のように、動き出す。

 きっと厳しい戦いになる。けれど、これを小出しにされて、本人は防御膜で高みの見物、という状況よりは遙かに良い。


「さて、心一郎。タッタ二人のオトコだ。格好良くキメよう」

「ロードレイス先生みたいにずば抜けて顔が良ければ、良いんでしょうがね。おれはせいぜい、鎧越しにやらせていただきますよ」


 先走った天兵が、輪を外れて突貫してくる。

 けれどわたしたちの前に現れる直前に、翡翠の弾丸に打ち落とされ、稲妻によって打ち砕かれた。


「ナイスショット、さすがだな、リュシー」

「フィーこそ。良い狙撃だったよ」


 それで、天兵たちは動けなくなった。

 たったそれだけで、機械たちは突撃のタイミングを見失う。そしてその“ワンテンポ”は、十分すぎる“準備時間”だった。


「汝は希望、汝は勇気、汝は闇を祓う勇猛なる戦士。なればその身は、【勇者の旅団】と知れ♪」

「管狐、全弾展開! 臨兵闘者、皆陣列在前ッ――九字解放、限定覚醒“仙狐せんこ転臨”ッ!!」


 わたしたちの体に、光が宿る。

 その状態で六葉ちゃんが唱えると、九匹展開された管狐が、全員、尾が二つに割れた。



「――息を潜め、牙を研ぎ、爪を揃え、獲物を捉え」



 流石に、天兵たちもこれ以上放置しておくつもりはないのだろう。



「――思考を回すは冷たき意思を、思念を燃やすは灼火の意志を」



 剣を構え、突貫を狙う。



「――摂理に満ちるは、我が矜持」



 同時に、巨人も動き出す。

 一斉攻撃。乱戦。そんなもの、わたしたち――狼の群れには、役に立たないのだと思い知らせよう。



「【“霊魔力同調展開陣ハイマジックユニゾンバレル”】」



 翡翠と蒼玉が混ざり合う。

 これより成すは、一つの奇跡。

 凛さんたちを追い詰めた“敵”を狩り尽くす、狼の妙技。



「【“心意刃如(プリズン・アーツ)”】」



 ――師匠の手は患わせない。

 わたしたちの敵は、わたしたちの手で、根こそぎ狩れば良いのだから!



「【“創造干渉(クリエイト・ロジック)狼雅天星(フェンリル・アウター)”】」



 黄金の力が体に満ちる。

 手足は鎧に包まれ、黄金の尾と狼の耳。

 けれど、いつものように爪で戦う訳じゃない。静音ちゃんが使ってくれた強化の詩歌は、わたしに別の可能性を与えてくれた。



「――【“転臨(シフト)人狼刃魔(タイプ・ルーガルー)”】!!」



 黄金の腕甲。

 手に握るように出現するのは、巨大な黄金装飾の“大斧”。

 巨大な敵に立ち向かうために生み出した、わたしの牙。


「フィーちゃん!」

「ははっ、鈴理と肩を並べて前衛か、光栄だ――雷揮神撃ッ」


 巨人は二体。

 わたしが右で、フィーちゃんが左。

 一歩踏み出し地を割り、二歩踏みだし風を切り。


『オオオオオオォォッ』

「はあああああああぁぁッ!!」


 並み居る天兵を踏み台に、跳躍。

 巨人が振り下ろした鉄の剣を、弾き返す(・・・・)


『オオオォッ!?』

「まだ、まだぁッ!!」


 一合。

 ――地を砕き。

 二合。

 ――余波を生み。

 三合。

 ――天兵を砕き。

 四合。

 ――轟音と共に。


「せい、やぁッ!」

『オオッ?!』


 五合。

 ――剣を、砕いた。



「【“狼雅刃威(フェンリル・アーツ)”】」



 黄金の斧に、稲光が灯る。

 たゆたう稲光。氷河のスコル、雷臨のハティ、風雅のポチ。

 全て集い成されるのは、“嵐”だ。



「【“嵐転咆吼シュトゥルム・ウント・ドランク――」

『オゴッ!!?』



 形成された風が惑わし。

 巨人の足下が凍り付き。

 黄金の斧に稲妻が宿る。




「――神殺しの裁斬(ロア・ロンギヌス)”】ッ!!!!!」

『ッッッ!?!?!!??』




 一刀両断。

 巨大な鉄の塊は、頭上から股下まで一直線に切り捨てられて、二つに分かれて倒れていく。そして、何体もの天兵を巻き込みながら、倒れて砕けて割れた。


「ふぅ――わたしはまだまだ戦えるよ。かかってきなさい! これよりこの身は、天使を狩り喰らう悪魔の牙だッ!!」


 天兵たちが、遠巻きにわたしを見る。

 うん、なるほど、かかってこないんだね?

 だったら――わたしから、行くまでだよ!



「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」



 遠吠え。

 あるいは咆吼。

 まだ始まったばかりの戦場に、狼の声が轟いた――。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ