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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 三日目(前)
363/523

そのにじゅういち

――21――




 ――朔月の間。


 周辺一帯、見渡す限りの“水”。

 黒い水晶の上に薄く張られた水が、薄闇の向こうまで続いている。


「【速攻術式セット窮理展開陣ハイアナライズバレル展開イグニッション】」


 周囲を解析。

 素材は、霊力と天力? 疑似的な異界、ということだろうか。天力が混じっている時点で嫌な予感しかしないのだけれど……うーん。


「【速攻術式セット以心伝心(テレパス)展開イグニッション】」


 魔導術を展開。

 生徒たちやリリーに繋ごうとするも、失敗。どういうことなのだろうか。別の階層にいる? いや、階層程度、ぶち抜けないほど柔な術式ではない。となると……。


「特殊な法則性を持った異界、かな。だったらなによりもまず、ルールを解明しないと」


 こういった異界は“ルール”という縛りをつけることで存在を確立していることが多い。であるならば、そのルールを暴き、乗っ取れば、攻略はさほど難しくはないはずだ。


「うーん、どうしようかな」


 独り言が増えていることを自覚しつつ、周辺を見回す。

 私は裸足に浴衣姿。とてもではないが、元気に走り回ることが出来るような格好ではない。なら、靴の一つでもちょちょいと作れば良いのだろうけれど、それよりも、動かずに出来ることもある。


「【基点術式オープン律動開始セット】」


 周辺。

 闇から溶けるように現れる、闇の異形たち。彼らを一掃することは難しくはないのだろうけれど、わざわざ相手にする理由もない。


「【形態指定フォーム多重効果マルチプル・エフェクト】」


 複雑に鳴動する魔導陣。

 綿密に律動する魔導術式。


「【様式設定アーム瑠璃の箱船(ラピス・ノア)】」


 魔導陣の展開先は、私の足下。

 その術式の異様さから異形たちが走り出すが、止めるにはもう手遅れだ。


「【装置付加パーツ思考読取起動サイコキネシス・コンダクター自動攻撃機構(オート・オフェンサー)】」


 異形たちが増える。

 周辺一帯を覆い尽くすほどの、大所帯だ。



「【重装ハーモニクス術式展開イグニッション】」



 けれど、これで終わり。

 私の足下からせり上がるのは、SFチックな一人乗りの飛行機。瑠璃色にあしらわれたそれの両翼がカシャンと開くと、中から銀の筒が現れた。

 私は飛行機のシートに座ると、ただ、飛行機に身を預ける。たったそれだけで思考を読み取った飛行機は、筒から瑠璃色の光線を照射。



 そのまま、ぐるっと回旋した。




『ぎゃああ!』

『うるぉ?!』

『ぎひゅ』

『ゴラアアッ!??』

『クフル?!』




 周辺一帯に溜まっていた異形たちが、一閃の元に両断されていく。

 その奇妙な光景に、異形の仲間たちは固まっていたが、直ぐに行動を開始。襲ってきた。だが、これに付与した魔導術式は、“自動攻撃機構(オート・オフェンサー)”。私の意図する方向性に準えて決定行動する。

 つまり、極論、私は寝ているだけで敵を一掃できるのだ。


「設定、不審物」


 私の意図を読み取って、黒い水になって消滅した異形たちを、思考の片隅に追いやる。


「さて、自動で探しているうちに、と」


 掬い上げるのは、足下に溜まっていた水だ。

 なにせ移動も、探索も、攻撃も、この一隻があれば充分に事足りる。

 であるのなら、私がここでやらなければならないことは、たった一つ。


「【速攻術式セット窮理展開陣ハイアナライズバレル展開イグニッション】」


 水を魔導術で浮かせて、解析魔導陣の中に浮かばせる。

 私にできることは、一刻も早くこの異界について“知る”ことだ。知らなければいかんともできず、生徒たちを救出することだって支障が出ることだろう。

 新しく、慕ってくれるようになった六葉さんや刹那さんに魔法少女姿を晒すのかと言われたら、まぁ、はい、彼女たちの命に関わる場面であるのなら、私はきっと躊躇わない。

 でも、でもだよ? そうせずに済むのであれば、済ませたいじゃない。あの六葉さんの純真な目で、『えぇ、痴女だったんですか? 見損ないました』とか言われたら、立ち上がれる気がしない。


「ふ、ふふ、なんとしてでも、生き残る術を探さないと……」


 不肖、観司未知。

 さすがに、社会的に死にたくはないのです……。

 敵に手の内を明かすわけにはいかない、という至極真っ当な理由もあるのだけれど、社会的に死ぬことと優先度を考えたら、その、ね?



「いきなさい、瑠璃の箱船(ラピス・ノア)!」



 だから私は、必ず全てを乗り切って見せよう。

 こんなところで、もう、あらゆる意味で、立ち止まっているわけにはいかないのだから!
































――/――




 純白の世界だった。

 ただ延々と白が続く世界だった。

 その世界の中央に、ただ一箇所、景色が歪む部分がある。


「へぇ、未知、あんなのも作れるのね。今度せがまないと」


 そう――リリーは、外の情景を見ながら呟く。

 両目にはまだまだ期待や愉悦があるが、これが果たしてどうにかなっているのはいつまでだというのだろうか。

 リリーは小さく微笑みを讃えながら、ただ、楽しげに未知の様子を視ていた。


「ふふふ、そうそう、そうやって私を退屈させないでくださいな」


 外に出ることは、未だ叶わない。

 それは、景色を抽出できる程度しか歪められていない空間からも、読み取れることだろう。けれど同時にそれは、リリーを封じ込めるために作られた必殺の結界が、もう、攻略の糸口を捕まれていると言うことに外なかった。



「カウントダウンが必要かしら。ふふ、ふふふふ、っあはははははははははっ」



 笑う。

 ――それは歓喜。

 嗤う。

 ――それは侮蔑。

 わらう。

 ――それは序章。



「報復されたくないのなら、急ぎなさいな。ねぇ?」



 語りかける相手に、届いているか否かはさほど問題ではないのだろう。

 未知たちが異界攻略に尽力する裏側。一人強制的に仲間はずれにされたリリーは、ちょっとだけむくれながら、導火線に火を付けるが如く、白い空間を侵略していった。





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