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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 三日目(前)
362/523

そのにじゅう

――20――




 ふよふよ、ふわふわ。

 ホバー移動で進みつつ、時折、水晶の陰に身を隠す。途中で、異能で気配を消せば見つかりにくくなると気がついたわたしは、消耗を抑えるために姿は消さず、慎重に進んでいた。

 あれから、みんなを探し回りながら移動して、わかったことが一つある。それは、ここがだだっ広い空間と言うだけで、壁があること。壁を壊すことはできないということ。壁を伝って天上へ昇ると、いつの間にか天井から降りていた――空間が歪んで、戻されていたということ。

 何度かチャレンジしてみたくもあるけれど、戻れなかったら笑い話じゃ済まないもんね……。事実、何も見えない霧の中をひたすら進む、ということはとても怖かったのだし。


「あと、あれも」


 と、一番の取り扱い不明物を思い出して、重く息を吐く。

 だってまさか、この水晶世界の中に引き戸(・・・)があるなんて、どうして想像できようか。ちょっと開いて中を見て、霧がかった天井の“森”が見えたので、魔導術で目印だけつけて放っておいた。

 ちょっと、一人であれを潜るのはリスキーだよね。いや、もちろん、誰も見つからなかったら潜るけれど。


「そろそろ、誰か見つからないかな――」


 寂しさ。

 それから、押し殺した不安と心配。

 時間の経過と共に、それは焦燥と共に押し寄せて。


「――っ」


 轟音。

 雷鳴。


「まさか!」


 怒濤のように、消えていった。


「今のって、そうだよね?」


 空に残る、バチバチと鳴り響く音と、微かに残る稲光。

 そっか、はぐれたら目印を打ち上げれば良い。そうすれば、その灯りに集うことが出来るから。思いついて、即実行したんだろうなぁ。さすがフィーちゃんだ。



『ぎぇぇ』

『きしゃああ』

『がるるる』

『きぃぃえええ』

『ぐるおぉ』



 でも、その音に吸い寄せられるのは、なにもわたしたちだけじゃない。

 誘蛾灯に群がる羽虫のように、稲光に向かって突き進む怪鳥たち。放っておいたら、直ぐに到着してしまうことだろう。

 むむむ、フィーちゃんのもとへわたしたちよりも早く到着しようなんて、許さないよ?


「だから――すぅ、はぁ、【速攻術式セット身体強化フィジカルエンチャント展開イグニッション】、プラス、“狼の矜持”!」


 身体能力を強化。

 四足用いて、一息に駆け出す。

 足裏の盾は、一時機能を停止。ただ、強固な靴のように使えば良い。


「がうっ」


 水晶を蹴り、怪鳥を踏み砕き、浴衣の裾をはためかせ。


「がるっ」


 怪鳥を打ち砕き、恐竜を踏み抜き、地面に罅を入れ。


「ああああああぁっ!!」


 雄叫びと共に、突き進む。

 目標は――見えた。前方、稲光と鎚を揮い、水晶の異形たちと舞うように戦うフィーちゃんの姿。その勇ましい姿に傷一つも無く、ほっと安心を一つ。

 同時に、加勢に向かうために、足裏の盾を反発バウンドに切り替え、跳ねるように飛び出した。


「【回転ロール】!!」

「ッ鈴理! 最初に来てくれると、思っていたよ」

「えへへ、ほんと? だったら、嬉しい! 【投擲スロー】!」


 フィーちゃんの後ろに回り込んで、背中合わせで群がる異形に立ち向かう。

 誰かと一緒に、信頼できる友達と、肩を並べて戦う。それだけで、負ける気がしない!


『ぎぇぇッ』

『ぎぇぇッ』


 だけれども、ちょっとキリが無い。

 斬って、凪いで、たたき落として、壊して、貫く。

 ばらばらと砕ける水晶が、まるで砂浜のように積もっていくのは圧巻だ。ただの観光だったらもうちょっと愉しめたんだけどなぁ。


「っ鈴理、気を抜くな!」

「え?」


 振り向いて。

 崩れ掛けの怪鳥が、口から何かを吐き出す。

 それは針。水晶の棘。死にはしないけれど、致命傷を負う位置。



 あ、だめだ、避けられな――




「【起動ライズ】」




 ――快音。

 あるいは、壊音。



「スズリ、油断は禁物だよ」

「リュシーちゃん!」


 浴衣姿に二丁拳銃。

 ぱちんとウィンクをしながら、リュシーちゃんがわたしたちに駆け寄る。


「拳銃、持ってたの?」

「いや、こう、だよ」


 リュシーちゃんが霊力を込めると、拳銃が分解されて指輪になる。

 もう一度霊力を込めると、拳銃に戻った。おお、すごい。


「ほう。有栖川博士の?」

「いや、手伝って貰って、作ってみたんだ」

「オリジナルか! やるじゃないか、リュシー!」

「はは。ありがとう、フィー」


 なんとか一息つけたので、しばしの談笑。

 いやもう本当に、どうなることかと思ったよ。


「助けてくれてありがと、リュシーちゃん」

「役に立てたのなら光栄さ。……二人とも、無事で良かった」


 いやー、合流できて良かった。

 ……といっても、全員じゃない上に、まだ浴衣姿なのだけれど。

 さて、ここからどうしよう。フィーちゃんが合図を出してくれた以上、ここから動かないのが得策――なんだけどなぁ。




『オオオオオオオォォ!!』




 雄叫び。

 嫌そうに顔を向けるわたしたちの目に映る、水晶の巨人。その手には巨大な剣が握られていて、自然と、これまでの怪鳥や恐竜とは格が違うように見えた。

 スコルとハティ、使うしかないかな? いやでも、フィーちゃんの鎚に任せて援護に回った方が良いのかな?


 ――悩むのはあとでもできる。即断即決、状況は待ってくれない!


「【投擲スロー】」

「待て、スズリ!」

「っへ?」


 巨体に見合わぬ俊敏さで、わたしたちに向かってくる巨人。

 けれど、ストップした体は急には動けない。焦るわたしたちの横で、落ち着くリュシーちゃん。その行動の意味は、ほんの数瞬後にわかる。




「い、一刀両断!」

『オォオオォオオオォオオ!?』

「せいやぁっ!!」




 跳躍する重厚な鎧。

 巨人を頭から二つに切り分ける斬撃。

 悲鳴と共に砕け散る巨人をバックに降り立つのは、見知った漆黒。


「静音ちゃん!!」

「あ、す、鈴理。フィーにリュシーも! ぶ、無事で良かったぁ」


 そっか、ゼノが居るんだったら一安心だよね。

 ゼノを纏った静音ちゃんは、剣を背に納刀しながら駆け寄ってくる。うん、嬉しいけれど、厳つい鎧で女の子走りされると、こう、途方もない違和感が付きまとう。



「あとは、ユメだけだが――」

「はいはいお待たせー。ふぅ」

「――ひゃんっ、ユ、ユメっ?!」



 いつの間にかリュシーちゃんの背後をとっていた夢ちゃんが、リュシーちゃんの首筋に息を吹きかける。効果、オフにしていたんだね、天眼。扱い熟せるようになったって言ってたもんね……。


「もう、へんな悪戯をしないでくれ、ユメ」

「あはは、ごめんごめん、お詫びにほい」

「夢ちゃん、これって……!」


 わたしたちの前に差し出されたのは、四人分のブーツ。

 なにを後ろに持っているのかと思えば、これだったんだ。あれ、でも、わたしたちが履いてきたブーツじゃない?


「早急に必要なのは靴でしょ? だから、腕甲“黒風”の疑似空間圧縮収納スペースにあった素材で作ったのよ。私のは、刻印鋼板レリーフィング・プレートブーツがあるしね。いやー、なんでもかんでも収納して身につける忍者の習慣、あって良かったわ」


 一緒に渡された足袋を履いてから、黒いブーツを身に纏う。

 静音ちゃんもそうするとゼノを解除して、腕輪と剣の形に戻してからブーツを履いた。

 うん、歩きやすい。靴擦れ補助、歩行補助、気配遮断? すごい、短期間なのに盛ってる。


「さ、とりあえず合流できた訳だけど、どうする?」

「あ。それなら夢ちゃん、わたしね?」


 そうだ、目的地があやふやなら、うってつけの場所がある。

 なにせ、こんなに経ってもここに合流できていないのなら、後の人は“別の場所”にいるのではなかろうか?

 そう考えたとき、一つ、思い当たる節があったのだ。




「ちょうど良い場所、知ってる!」




 ――そう。

 道中で見つけて目印をつけた、“あの”扉を。





2024/02/09

誤字修正しました。

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