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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 三日目(前)
361/523

そのじゅうきゅう

――19――






 ――かちり、と、どこかで音が響いた。






 ――合宿三日目。



 瞼の裏を、灯りが照らす。

 うんうんむにゃむにゃ当たりを探って、手元に触れるごつごつとした感触。なんだろう? って、そういえばわたし、合宿中だ。昨日のようなミスは犯さない。ふふんと笑って目を開けながら、がばりと起き上がった。


「えへへ、今日は悪戯されないよ! 夢ちゃ……ん……?」


 布団に寝て。

 毛布を被って。

 枕もふかふかで。

 周囲はごつごつと。


「え? え? え? ――ここ、どこ?」


 地面は青紫色の水晶。

 空は霧がかって天井知らず。

 木や草はなく、延々と広がる水晶地帯。

 生物らしい生物は、のっしのっしと歩く水晶の亀くらい。


「やだなぁ、寝ぼけちゃったかなぁ。あははー……なんて、ことは、ないよね」


 なんていったって、周辺一帯見知らぬ場所なのに、布団とかの一式はあるのだ。手荷物はないけれど。だから、空間が拡張・変質されたと思うべきかな。召喚だったら、さすがに布団はついてこないだろうし。

 そうなると、ここを歩いて抜けないとならないのだけれど……えっ、裸足で?


「じっとしてるのが一番、だったら良かったのに。うぅ」


 きぇぇ、きぇぇ、と鳴く鳥声。

 見上げれば、あからさまにわたしめがけて突っ込んでくる、水晶を纏った怪鳥。


「【速攻術式セット平面結界フラットバリア四枚カルテット展開イグニッション】」


 二枚は足裏に固定。

 一枚は左腕周辺に配置。

 一枚を天井に掲げて、“反発バウンド”。


『きぇぇぇッ!?』


 嘴を突き刺そうとして失敗し、のけぞる怪鳥。

 わたしの身長ほどもある怪鳥は、予想外の事態に体勢を立て直すことができない。


「【回転ロール】!」

『きぃぇっ?!』


 怪鳥はわたしの盾の一撃を無防備なまま受けると、“粉々に”砕け散った。えっ、あれ?


「水晶を纏っているんじゃなくて、水晶そのもの? う、うーん、やっぱりこれって異界化なのかなぁ」


 きぇぇ、きぇぇ、と遠くから聞こえる声。

 声の方向性から考えて、こちらに近づいてきているみたい。砕け散った水晶が妖しく輝いてるし、これはたぶん、仲間の死に反応しているんだろうなぁ。

 だったらやっぱり、じっとしているのは得策じゃない。どんどん仲間を集められて、ピンチに陥るだけだ。


「【浮遊ホバー】」


 足裏の盾に浮遊を付与。

 足音も立てず、体重移動だけでふよふよと移動する。

 まずは、みんながどこにいるのか捜索。あとはついでに……。


「服、かなぁ」


 乱れた浴衣の裾を直す。

 誰かの目があるわけではないとわかっては居るのだけれど、顔が熱い。わたしって今、とっても破廉恥なかっこうで戦ってるよ……。




























――/――




 かちゃ、かちゃ、かちゃ。

 私の足下で響く音は、重厚な金属音のそれだ。


『きぇぇッ!』

「疾ッ」

『ぎゅぇッ!?』


 襲いかかってきた怪鳥を、剣の一撃で切り落とす。

 粉々に散った水晶に反応して襲いかかってくる怪鳥を、なんなく“鎧”で押し止めて、返す刃で一刀両断。繰り返すと、怪鳥は警戒して近寄らなくなった。

 けれどそうすると、より上位のモノが出るようだ。水晶を身に纏ったティラノサウルスが現れて、獰猛に私を見据えて飛びかかる。


「ぜ、ゼノ、跳躍補正」

『心得た』


 足下に妖力が循環。

 跳躍と共に補正が発動。大きく飛ぶと、ビル二階分のティラノの頭上まで、簡単に飛び上がった。


『グルォッ』

「せい、やぁッ!!」

『ガギュッ?!』


 体に“ゼノを身に纏った”まま、飛び上がってティラノの体を縦に割る。

 粉々に砕け散った水晶が、やはり妖しく輝き、仲間を呼ぶ。けれど、その全てが無駄だ。なにせ彼らは、脆すぎる。


「疾ッ」

『ガゥ?!』


 足を砕き、体勢を崩すティラノの首を手刀で断つ。

 胴に腕を突き入れ、引き寄せながら剣で首を落とす。

 剣を投げて首を落とし、戻しながら手刀で頭蓋を割る。


「せいっ!」

『グギァッ!?』


 大きく横薙ぎに回転しながら二頭の首を落とすと、それ以上は復活してこなかった。


「み、みんなが心配だね、ゼノ」

『む? そうか? 全員、粒ぞろいだとは思うが?』

「で、でも、私みたいに鎧があるわけじゃ、な、ないんだよ? ……裸足は、きついよ」


 私は常にゼノを身につけているから、鎧を展開して装着するだけで良かった。

 けれどみんなは、そうではない。身動きするのだって痛いだろうなぁ、なんて思うと、いたたまれない。


「ゆ、夢はきっとどうにでもしちゃうんだろうけれど、ふぃ、フィーと、リュシーと、鈴理が心配。は、早く合流しないと」

『心得た。反応があれば知らせよう』

「あ、ありがとう。ゼノ――疾ッ」

『ギギャッ!?』


 会話をしながらも、襲ってきた怪鳥の首を落とす。

 一定時間が経過すると、復活しちゃうのかな? だとしたら、大変だ。いちいち切り落とすのも、ちょっと大変。


『殲滅するか?』

「み、みんなを巻き込んじゃうから、だめ」

『承知』


 それから、そうだ、みんなの服があったら回収しよう。

 最低でも、靴は欲しいなぁ。


『ギェッ?!』

『ギャンッ!!』

『グルォッ!??』

『ギグリュッ!?』


 切り落として。

 砕き切って。

 割って。

 斬り。


「す、進もうか、ゼノ」

『うむ』


 水晶のドラゴンを、股下から頭にかけて、切り上げて両断した。

 みんな、無事かなぁ。早く探し出して、合流しないと!


























――/――




 ごうごうと燃える風景。

 ぱちぱちと散る火花。

 どろどろと流れる火の川。


「副会長、無事ですか?」

「ああ、心一郎」


 おれは変身して、副会長は鳳凰の力を纏う。

 そうでもしないと、この灼熱の風景を切り抜けることは、できそうになかった。

 というか、これ、どういう状況だよ。朝起きたら周囲は灼熱地帯で、布団も端から燃えていて、焦げる匂いで目が覚めた。


「生徒会の連中は良いさ。なんとかするのが特専生徒会だ。だが、いくら優秀だろうと少女団のやつらは違う。早く、助けてやらないと」


 女子供を放置して、自分だけ安全地帯を探すことなどできない。

 ましてや、水守なんかは気の弱い普通の女生徒に見えた。一昨日の生徒同士の模擬戦ではいくら強く振る舞おうとも、バケモノ連中――それも、安全の保証なんてどこにもないような突発的な事態にどこまで対応できるかなんて、わかったものじゃない。


「特異魔導士もいるんだ、そこまで心配することもないだろう。だが、修羅場の経験に対して未知数であることは同意する」

「はい。早く、見つけ出しましょう」


 おれたちは、生徒会だ。

 生徒たちの危機には、誰よりも前に出て、教員たちと肩を並べて戦う“正義の味方”だ。

 こんなところで燻って、自分たちの身を守っている場合じゃない。


「だが、その前に」

「はい」


 ぼこぼこと、地面からわき出る異形。


『ぐげぇぇぇ』

『おろろろ』

『おごむむむぼぁ』


 蛙、蛇、カモノハシ、魚人、リザードマン。

 炎を身に纏うそれらを前に、異能の力を振り絞る。


「障害は、潰しておこう」

「はい――“シャイニング・ブレード”ッ!!」


 だからどうか、無事でいてくれ。

 おれたちはそう、祈るように、異形の群れに飛び込んだ。





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