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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 二日目
358/523

そのじゅうろく

――16――




 びしょびしょになったシャツを絞りながら、競技の終えた選手たちの並ぶシートに戻って、腰掛ける。ビキニだけは早々にコン太くんの影で着け直させて貰ったけれど……やっぱり、クールに気取っていても男の子、ということなのだろう。鳳凰院君も焔原君も横目でチラチラと見て、周囲の女の子たちに感づかれて白い目で見られていた。

 いや、まぁ、うん。隠そうとするだけ良いと思うよ? ほら、海外の方ってそうなのかな? レイル先生は隠そうともせずにいたし、なんだったら直接「Sexyだったよ」などと褒め? られたし。


「慧司、女性教員の胸元をじっくり見るなんて、副会長の威厳はどこへ行ったの?」

「ま、待ってくれ、凛。じっくりとは見ていない!」

「とは、ねぇ? そんな言い方ではぐらかそうなんて、ミルクチョコより甘いわ」


 四階堂さんにそう、じとーと見られる鳳凰院君。

 必死の弁明も空しく、はぁ、とため息を吐かれていた。


「わかる、わかる。所詮男はむっつりスケベ。心一郎も男だったか」

「待て、待ってくれ刹那、生暖かい目で見ないでくれ」

「あの、焔原君、近づかないでください……」

「待て待て待て六葉! おまえはおまえで引きすぎだろ?!」


 生温かい目で焔原君を見る、刹那さん。

 そんな焔原君から、あからさまに距離をとる六葉さん。

 まぁ、こんな女所帯でそんな反応すれば、いた仕方のないことではあるだろうけれど、あとで両者にフォローは必要かな。


「ふぅ、中々絞りきれないわね」

「なら、私のを使うと良いよ、ミチ。ちょうど、動き回って暑かったんだ」

「……アリュシカさん」


 いつの間にか、水鉄砲を担いで戻ってきていたアリュシカさんが、私の肩に前ジッパーのラッシュガードをかけてくれる。


「ありがとう、アリュシカさん。アリュシカさんも疲れたでしょう?」

「いやいや、まだまださ。ようやく体が温まってきたところだよ。次は鈴理の助っ人?」

「ええ、そう、なるのかな? 鈴理さんが助っ人をお求めなようでしたら」

「ふふ、スズリがそれを断るなんてことは、ないと思うけれどね」


 その、鈴理さんは今、夢さんとレイル先生を手伝って次の試合の準備をしている。

 次はいよいよ第三回戦。手料理対決、ということだが、果たして材料はドコにあるのだろうか? まさかとは思うけれど、嫌な予感しかしないのもまた事実。

 どうか、平穏に終わってくれることを願うばかりである。


「……でも、裏方で良かったの? アリュシカさんも、本当は――」

「いいんだ。私から、ユメたちにお願いしたんだ」

「――え?」


 “友達”と“遊ぶ”ということに、なによりも喜びを見いだすアリュシカさんは、どんな些細な時間でも、彼女たちと何かをすることが幸福に直結している。

 それは、アリュシカさんの過酷な過去が影響しているのだろう。日常、という時間の尊さを知っているから、かな。


「一度、こうしてちゃんと、みんなを色んな視点から見てみたかったんだ。そうしたら、もっと視界が広がるかも知れない。もっともっと、新しい発見があるかも知れない。そう思って、一歩離れて、何が見えたと思う?」

「アリュシカさん……ふふ、わかりません、答えを教えていただけますか?」

「はは、簡単さ。――ユメが時折、私たちを見て優しく微笑む理由がわかった。私は一歩離れて始めて、ユメが見てきた視界を、見たんだ」


 ……なるほど、そうか。

 夢さんはいつも、一歩離れたところからみんなを見て、俯瞰で判断して行動をしていた。だから、アリュシカさんもその視点に立って始めて――私たちが見ているような、みんなを見守る場所に気がついたのだろう。


「見たかった、ものだった?」

「ああ! もちろんさ、ミチ!」


 太陽のように笑う彼女は、子供らしく無邪気で朗らかだ。

 学校では王子様のような扱いを受けているアリュシカさんも、本当は可愛い物が好きな可愛らしい女の子だと、私たちは知っている。だからこれも、アリュシカさんの本来の顔なのだろう。

 優しくて、朗らかな、可愛い女の子だ。



「――リュシー! そろそろ準備するわよー!」

「ああ、ユメ、今行く! それじゃあミチ、また三回戦で。試合では、手加減しないよ?」

「ふふ、ええ。またあとで」



 手を振り、楽しげに駆け出すアリュシカさんを見守る。

 さて、助っ人なら助っ人で、かまわない。私も彼女を見習って、もっと全力で楽しんでみようかな、なんてね。





























――/――




 青空の下。

 砂浜になんとかかんとか引っ張ってきた厨房に、わたしは師匠と並び立つ。

 相手選手は、不敵な笑みを浮かべる会長だ。うむむ、こっちには師匠だってついてるんだ。負けないよ!



「さぁさぁ始まりました、第三回戦! 今度の品目は、手料理対決です! 審査員三名プラス、スペシャル審査員としてリリーが加わり四名! 一人持ち点二十五点の百点満点で勝負が決まります! 今回、魔法少女チームは助っ人を召喚。助っ人の活躍の場は、“材料集め”でのみ、動かすことが出来ます!」



 ええっと、そうなのだ。

 今回、材料はこの佐渡の大離島の中で採取することになる。その材料採取で師匠の手を借りて、調理では、お手伝い以上のことは期待してはならない、というシステムだ。

 つまり、味の勝負は完全にわたしの舞台、ということになる。



「制限時間は九十分。時間経過時点での結果で、材料が確定します!」



 夢ちゃんの実況に、真剣に耳を傾ける。

 つまり、その時点で目標のモノが取れていなくても、そこで打ち切らなければならない、ということだ。時間配分は気をつけないと、痛い目を見ることになりそう、かも。



「それから、今回、審査権は持ちませんが全員同じ料理が食べられる、というシステムですので、両者とも多めに作って下さいね!」



 うんうん、それはもちろん。

 今回ずっと裏方で走り回ってくれていたリュシーちゃんにも、色々と食べて貰いたいしね。



「それでは、両チーム、位置について――」



 今回は、異能も魔導もフル解禁。

 相手への妨害行為禁止だからこそのルールだ。それに、異能を使用したからといって、いいものが見つかるとも限らない。



「――スタート!」



 鳴り響く音。

 同時に駆け出す、わたしと会長。


「正々堂々、よろしくね? 笠宮さん」

「はい! こちらこそです、会長!」


 視線の交差は一瞬。

 たったそれだけで、別れて別方向を目指す。


「師匠!」

「ええ!」


 師匠にお願いすると、師匠はわたしを横抱きにして勢いよく走り出してくれた。


「まずは、なにを?」

「川から行きます! 道中で山菜の類いを採取するかもしれません!」

「わかったわ、飛ばすわよ。捕まって!」


 風のように駆ける師匠に負ぶわれて、突き進んでいく。

 献立は、もう立てた。ちょっとわたしにはまだまだ、理想の男性や女性なんてわからない。

 だからこそ、私が今できるのは、審査員のみなさんが欲しがっていそうなモノ!


「師匠」

「はい? どうしたの?」


 凜々しい横顔。

 けれど、わたしに向ける笑顔は、いつだって優しい。

 だから、わたしの理想のひとは、本当は。



「今日は、よろしくお願いします!」

「――ふふ。ええ、こちらこそ。よろしくね? 鈴理さん」



 うん、えっと、だから。

 不肖、笠宮鈴理、ぜったい優勝して見せる!





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