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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 二日目
355/523

そのじゅうさん

――13――




 涙目でミョルニルを握りしめるフィーちゃんをなんとか窘めて、わたしたちは合宿二日目の第二回戦に挑むことになった。

 といっても、わたしの役目はあくまで三回戦の料理バトルだ。試合の終えたフィーちゃんと並んで、理想のお嫁さん対決というよくわからない試合に出ることになった静音ちゃんを、観戦している。


「影都刹那――ミョルニルの錆にしてくれよう」

「フィーちゃん?」

「ああいや。なんでもないさ、鈴理。さて、向こうの対決風景はどうなっている?」

「そう? ええっとね……ふむふむ。シチュエーションに沿って“理想のお嫁さん”ならどうやって艱難を乗り越えるか、ということみたいだね」


 旦那さん役は、くじ引きで選ばれる。

 今回の静音ちゃんの相方は、副会長だ。師匠が居る以上、特殊なことはやらされないだろうから、色々と割り切ってやる、と、気合いを入れていた。

 対して相手の六葉ちゃんの相手は、レイル先生。……だったんだけれど、あまり普段触れあいの無い男性の先生、つまり大人の男の人に対して六葉ちゃんがカチンコチンに緊張してしまったので、ここで助っ人を発動。どうやら、師匠が旦那さん役をやるようだ。なにそれ羨ましい。

 シチュエーションは、幾つかのものをやっぱりくじ引きで決める。静音ちゃんと六葉ちゃんでじゃんけんをして、勝った方が引く。で、動体視力がとんでもないことになりつつある静音ちゃんがくじを引いて、シチュエーションが決まったみたいだ。



「では、競技が決まりました! 競技名は、愛のうきうきサーキットです!」



 サーキットかぁ。アトラクションコースを二人で走る? なるほど。

 えっ、シチュエーションって、そういう? なんでも選択肢には看病とか朝のやりとりとかもあったみたいだけれど、厳正なるくじ引きでそうなった、と。


「フィーちゃん、どう見る?」

「未知先生が万能であることが気がかりだが、副会長は人に合わせるのが巧く、静音は身体能力が高い。六葉がどの程度まで物事に対応できるかが、勝負の分かれ目であろうな」


 そっか、そうだよね、六葉ちゃんがどこまで静音ちゃんたちに食らいつけるかってことだよね。でもそうすると、また、師匠に余計なフラグが……いや、それは考えないようにしよう。


「さてさて気になるコース内容は……これだ!」


 そう、夢ちゃんの言葉に合わせて空中にモニターが投影される。

 コースは海岸に作られた簡易コース。さきほどのビーチフラッグからも一部流用されているような形だ。



「第一レーンは、愛の共同作業――苦難の壁を持ち上げろ!」



 一つ目のミッションは、旦那さんが壁を持ち上げている間に、壁の下に設置された計算問題を相方が解く、というものだ。解けると次のコースに移ることが出来る。



「第二レーンは、愛の共同戦線――憎いあいつを討ち倒せ!」



 二つ目のミッションは、射的のようなものだ。

 いつの間に組んだのか。地面固定式の大きないしゆみが用意されていて、一人は弾を込めて、もう一人が的を撃つ。これをスムーズに繰り返して、得点を得るのだ。


「ほう、バリスタか」

「ばりすた?」

「攻城兵器だよ」


 ほへぇ、そうなんだ。

 大きくて台座のついたボウガン、ということ以上はわかんなかったよ。



「最後の第三レーンは、愛の救出劇――愛しいあの人を救い出せ!」



 最後のミッションは、一人が生贄になるものだ。

 海の上に滑り台を設置。もう一人がクイズを答えて、正解すると敵の滑り台の角度が高くなる、というものだ。落ちる場所は怪我も溺れもしない位置になっていて安全だけれど、好きこのんで落とされたくは無い。

 なんだか、思っていたよりもずっと練られていた。なるほどー。



「なお、異能と魔導術の使用は禁止ですが、霊力と魔力の単純操作、基礎霊術と基礎魔術はオーケーとします!」



 そうだよね、特専の部活で行う競技だもんね。

 まったく禁止、にもしないんだ。



「それでは両チーム位置について――」



 夢ちゃんの合図。

 静まりかえる会場。



「――始め!」



 そしていよいよ、二回戦の幕が上がるのだった。



































――/――




 さて、理想のお嫁さん対決、と発表された競技。

 私は助っ人役として駆り出されて、伏見さんの相方として出場することが決まった。

 うん、まぁ、こういう形ならば良いでしょう。生徒のために、全力を尽くすのも先生の役目だ。


「あの、ありがとうございます、先生」

「いえ。伏見さんもどうぞ、お気になさらず」

「でも、先生は笠宮さんたちの顧問なのに……」


 気にする様子の伏見さんを、ぽんと優しく撫でる。

 それから出来るだけ安心できるように、柔らかく微笑んで見せた。


「伏見さん。あなたも私の大事な生徒です。ですから、一緒に頑張りましょうね?」

「っ――はい! 改めて、ありがとうございます。先生」


 そうやって、伏見さんははにかんでくれた。

 うん、わかってくれてなによりだ。


「最初は、私が壁を持ち上げるから伏見さんは計算問題を解いて下さい」

「え、でも、先生が問題を解いた方が良いのではありませんか?」

「伏見さん、基礎霊術はどれほど使用できますか?」

「む、基本的なことでしたら、一通り、平均以上には扱えます。“伏見”ですから」


 少しだけ、語尾を強めて言い切る伏見さん。

 うん、と、侮っているわけでは無いからね、と意味を込めて頭に手を置く。


「ふふ、ごめんなさい。あなたが優秀な生徒であることは知っています。気に触ったのであれば、ごめんなさいね」

「い、いえ、熱くなりました。それで、何を伝えようとして下さったのでしょうか?」

「単純なお話です。せっかくの課外授業のできる場面、せっかくの合宿、せっかくの“助っ人”です。授業で学ばないようなことを、お教えしますね」

「それは、魔導術の? ――いえ、基礎霊術と基礎魔術は似たものがあるとお聞きします。共通で扱える技術、ということですね?」

「ええ。“伏見”はもちろん――“藍姫”であっても退屈はさせないと、お約束しましょう」

「っ」


 藍姫あいひめ――退魔七大家序列五位。

 魔導術と霊術を極限まで研究し重ねている、退魔古名家の一つ。これを納得させると言うことは、我ながら言い過ぎだとは思うけれど、まぁ聞いてないから良いよね!


「わかりました。そこまでおっしゃるのであれば……期待します。楽しみに、しております。先生」

「はい、お任せ下さい」


 胸を叩いて見せると、伏見さんはミルク色の髪を揺らしながら小さく微笑んでくれた。

 そうそう、子供はそうやって笑っているのが一番。彼女を見ていると、緑方という大家の重圧に足掻いていた、彰君を思い出す、というのもあるのだけれどね。




「それでは両チーム位置について――」




 夢さんの声が響く。

 簡単なアスレチックコースの先にある、第一関門。隣のレーンに並ぶ、静音さんと鳳凰院君の真剣な表情に、どこか微笑ましくもあった。




「――スタート!!」




 伏見さんと並んで走り、でこぼこの道を、アリュシカさんの水鉄砲(手加減)を避けながら進む。

 壁、という名目ではあるが、見た目は大きなコンクリートブロックだ。わざわざ重さ表記がしてあるのがなんとも凝っていて、一トンのマークが……いや、そんなにはないよね?


「循環、凝縮、反発」


 魔力を循環。

 濃度を調整。

 魔力球生成。

 方向性ベクトル注入コントロール


「持ち上げます」

「はい!」


 コンクリートブロックの前に立つ。

 最初に持ち上げ用のくぼみに手を当て、魔力による単純身体強化で僅かに持ち上げる。その持ち上げた隙間に、生成しておいた魔力球を四つ挿入。

 魔力球は内部でS極とN極のように、異なるベクトルの循環が固定挿入。四角で垂直調整されたバウンドは、コンクリートを持ち上げる(・・・・・)

 ……なお、このベクトル操作を利用して普通に浮き上がらせる方が楽なのだけれど、こちらの方が複雑で面白いからね。


「い、いったい、幾つの操作を同時に? 魔力循環を固定、魔力に方向性を挿入って、どうやるの?」

「ふふ。伏見さん、このままだと私が解いてしまいますよ? 計算問題」

「ひゃっ、ごめんなさい! ……操作切り離しも可能? どういうこと?」


 コンクリートの下にあった計算問題を、伏見さんは素早く解いてゆく。

 横を見れば、静音さんが身体強化のみでコンクリートを持ち上げて、鳳凰院君が即問題を解き、出発していた。


「出来ました!」

「では、次に参りましょう」

「はい!」


 伏見さんにはもう、先ほどまでの不安な様子は見られない。

 ただ既知とは外れた技術に対する期待に満ちた目で、私を見てくれているようだ。だったら、私もその気持ちには十割以上に応えたい。

 ……ええっと次は、愛の共同戦線。矢を装填する役と射撃に別れた射的か。うーん、次はどんな技術を使おうかな? 水鉄砲の弾幕をよけながら、伏見さんを負ぶって平均台を駆け抜ける。

 なんだか少しだけ、わくわくしてきている自分に気がついて、私は伏見さんに気がつかれないように、そっと苦笑した。





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