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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 二日目
354/523

そのじゅうに

――12――




 昨日、盛大に破壊した森はダメージ変換結界の解除と同時に復活している。

 けれどそれは、戦闘訓練だったから非公式の現場での使用が認められたのであって、そう易々と持ち出していいものではない、という制約があった。

 そういったことはもちろん生徒たちには伝え済みであり、合宿の意義を生かした青空討論会とか、技術を磨く研究会とか、そういった科目を行うと思っていた私は、きっと悪くは無いと思う。ところが私が許可を送る際、なんというかやはり忙しく、レイル先生に一任。結果、私は内容を知らず、今日に望むことになった。誰も教えてくれなかったしね。

 そう、まさかこんなことになるなんて。




「東西、お嫁さん対決~!!」

「……どうしてこうなったの?」




 夢さんのイキイキとした宣言が、佐渡の大離島の海岸に響き渡る。

 空は快晴。白い砂浜と青い海。こんなに澄んだ景色の中、私の立場は“スペシャル助っ人”と可愛らしくポップされたプリントTシャツを、水着の上から着ている。

 審査員はレイル先生、鳳凰院君、焔原君の男性陣三人。お嫁さん対決、というよくわからない科目は組み合わせを変えて三回戦。全て二人対決。一回戦は愛のビーチフラッグ。二回戦も理想のお嫁さんシチュ対決。三回戦目はお料理対決。これをそれぞれ生徒会VS魔法少女団にて行い三回戦目に総ポイントが高いチームが勝利する、のだとか。

 で、肝心の私の役割は、各チームが各一回だけ使える“助っ人ボタン”で登場。チームにスパイスを与える役割、だとか、なんとか。

 生徒会チームは二人抜けているので、魔法少女団からも二人、夢さんとリュシーさんが抜けて運営に回る。夢さんはそれはもうイキイキと、楽しそうにマイクを握っていた。


「はいはいそれでは最初は、愛のビーチフラッグ対決っ! 両者が様々な障害を抜けてフラッグを競い、その愛らしさで勝負をします! スペシャルお邪魔虫として、我らがアリュシカ・有栖川・エンフォミア選手がスケスケ水鉄砲で「夢さん?」……こほん。普通の水鉄砲で邪魔をしますので、ご留意を!」


 倫理コードに引っかかる真似はさせませんよ?

 夢さんにそう視線を飛ばすと、直ぐに訂正をしてくれた。うんうん、そこはちゃんとしようね?


「また、今回はスペシャルお邪魔虫クイーンとして、気分次第でリリーのお邪魔が入るから、そちらも気をつけて!」

「ふふふ、楽しませてくださいな?」


 いつだったか、一緒に選んだワンピースタイプの水着に身を包んだリリーが、ふよふよと浮いている。

 そのまま、審査員席の傍を遊泳したりと自由気ままだ。なるほど、リリーもお邪魔虫ポジションなんだ。ごめんね、みんな。


「栄えある審査員はこの方! 魔法少女団監督にしてSクラス担任教師――レイル・ロードレイス先生です!」

「いや、このようなオジサン相手ニこんな栄誉をクレルなんて思わなカッタよ。だが選ばレタ以上は公正な審査をココニ誓おう」


 しれっと私の知らぬ間に許可を出していたレイル先生は、実に爽やかにそう告げる。

 あなたという人は、まったくもう。友人だからこその気軽さで、少しだけ引っぱたきたくなった。


「続いてこちらは生徒会から副会長が選出です! 生徒人気で上位に食い込むクール男子は、幼馴染みだという生徒会長を贔屓せずに審査できるのか?! 鳳凰院慧司先輩です!」

「贔屓はしないよ。だがそうだな、これでも副会長だ。生徒会には少々厳しく審査させてもらうことにしよう」

「おおっと、これはまさかの“魔法少女団に好きなこが居るんだ”発言かー?! 鈴理は渡しません!」

「碓氷……君とは一度、じっくりと話をせねばならんな。生徒指導室で」

「――はい、では次に行ってみましょうーっ!」


 夢さんのハイテンションに、頭を抱える鳳凰院君。

 うんうん、その気持ちはよくわかるよ。わからない訳が無いよ。


「ではでは最後に、生徒会の誇る変身ヒーロー! 実は書道家でもあり、その能力を買われて生徒会書記に任命されたという彼は、女の子が競う姿になにを思うのか! 焔原心一郎審査員です!」

「ぶっちゃけ、生徒会として付き合うと、奴らは女に見えない」

「会長、心一郎を頭から入浴させましょう」

「採用」

「そういうところだよ! 刹那に会長!」


 ガタンっと審査員席から立ち上がる焔原君。

 彼の横顔に浮かぶ冷や汗は、きっと心の涙なのだろう。


「それでは、第一回戦の選手はこちら! 東チームからはフィフィリア選手です! 意気込みはどう? フィー」

「問題ない。なに、軽く一ひねりしてくれようぞ」


 そう言うのは、ビキニタイプの水着に身を包み、堂々と腕を組むフィフィリアさんの姿。

 その動作によって色々と持ち上げられて、男性陣はドギマギしている様子だ。なお、一番、こう、食い入るように見つめているのは夢さんという、ね。


「続きまして西チームからは、影都刹那選手です! あんた、スクール水着ってマニアック過ぎない?」

「競泳の心得。誰が最速最強なのか、そこの贅肉に思い知らせる所存」

「気持ちはわからんでもないけど、自重なさいよ」


 刹那さんは、どこから調達したのか、黒のスクール水着だ。

 前後のゼッケンにはそれぞれ、達筆な字で最速最強の文字。というかこれ、焔原君の字だ。書かせたんだね……。


「さぁ、二人とも、助っ人は?」

「いや、いい」

「私も。実力で圧倒する」

「その体で圧倒とは、どうやって」

「潰す」


 早くもバチバチと視線に火花を散らす両選手。

 もうこれ、早くもどうなることやら心配だけれど、ひとまず、私の出番は無いようだ。


「はぁい、未知。楽しんでいるかしら?」

「まだ、状況に追いつけないわ。リリー」

「ふふふ、こういう時は童心に帰れば良いのよ。違わなくて?」

「そうね、そうできれば良いのでしょうけれど」


 私も、もう少女じゃないからなぁ。

 着々と準備を進めるみんなの様子を、じっと外側から見つめる。なんともみんな楽しそうにしていて、そのことが嬉しくも羨ましい。

 私の高校生時代は、こう、色々と捻くれていたからなぁ。とてもではないけれど、こんな風にはしゃがなかった。

 ……うん、そう思うと、ここで童心に帰るというのも、そう悪くないのかも知れない。いや、後始末を全てレイル先生に任せてしまおうだなんてことは、すこーししか考えてないよ? いやだって、勝手に競技を決めてしまうから。


「さぁ、いよいよスタートです! おおっと、最初に駆けだしたのは刹那選手! 小さい体格を生かして障害物をすいすい抜けていく!」


 障害物、というのはあれだ、木で作ったハードルや網で作ったくぐり抜け。

 それから、カルピス水に顔をつけて飴を取り出す競技など、いったい誰が考えたのか、まるでアスレチック系テレビ番組のような構成だった。





「ねぇ、未知はどんな子供だったのかしら?」


 その喧噪を聞きながら、リリーがそっと聞いてくる。

 ふと、思いついたかのような声色だ。なるほど、悪意がある言葉では無いということか。そうだよね。あはは、はぁ。


「荒れていたわ。自分の世界がひどく狭くなってしまったような錯覚を受けていたの。今に思うと恥ずかしいことだらけよ」

「まぁ! 聞きたいわ」

「言わないとだめかしら?」

「ええ、もちろん」


 もちろん、もちろんかぁ。

 高校生の頃は、なんだかやたらと絡まれることが多かった。やれ勝負を付けろ、やれインチキ魔導術師め、やれ正体を暴いてやる。やれ舎弟にして下さい、やれお姉様と呼ばせて下さい、やれ踏んで下さい。いったいなんで私がこんな目に遭わなければならないのか、と。


「ふふふ、あなたはひとかどの天才だもの。凡人たちの目からはさぞ、眩しく見えるのでしょうね。面白いわ」


 そうやって色々なモノから孤立して、私も静かに行きたかったから、図書委員に立候補した。結果、私を畏れて誰も立候補者が出ず、他のクラスからも断られ、私は司書という謎の立場に選出される。

 図書館、といっても良い規模の特専図書室に居座り、のんびりと本を読む。たまに見知らぬ本の名前を聞かれて、それがあまりにもみんなが提示するモノだから『あなたもその本を求めるのね』と言い返したら、相談事を持ちかけられる。

 これ、ちょっと経って気がついたのだけれど、私に相談事を持ちかける合図のようなものであったらしい。黒百合の魔女に道を尋ねたくば、『黒百合真書』について聞いて見よ、という謎の合図。せめて私に教えてから始めて欲しい。

 その結果、私は、解決の出来ない問題に打ち当たった時、最後に頼る魔女の手引き書、という扱いを受けていたのだとか。なんだそれ。


「へぇぇ、それなら未知、何度もそうやって学舎の事件に関わっていったの?」

「ええ。幽霊事件、盗難事件、ストーカー事件、殺人未遂、消えた生徒。本当に色々なことに関わって、なんだかんだと言いながら色んな人に助けて貰ったわ。今にして思えば、それも青春の形だったのだろうけれど……ええ、まぁ、当時はなんで巻き込まれているのか知らず、右往左往としていた記憶しか無いのよ」


 そういえば、高原先生もそれで知り合った方だ。

 生徒失踪事件で友人がいなくなり、独自に調査をしていた彼。見事な不良生徒であった彼とはそれはもう衝突したが、今や気の良い後輩に収まっているのだから、なにが起こるか解らない。

 消えた彼の友人、新藤先生も無事に見つかり、その時も確かカウンセラーの先生が犯人だったなぁ。


「楽しそうね。私も、関わってみたかったわ」

「許して頂戴。あなたまでいたら、私の胃がどうにかなってしまっていたわ」

「あら、失礼ね」


 いや、うん、本当にね? しんじゃうからね?




「おおっと、刹那選手、フィフィリア選手の水着を強奪だーッ! フィフィリア選手動けない。動けないうちに、刹那選手ゴールッ!! 判定はいかに?」




 ビーチフラッグを握りしめる刹那さん。

 そんな刹那さんに審査員の先生方もうんうんと頷いて票を入れたようだ。


「さて、リリー」

「なぁに?」

「ちょっと、“オハナシ”してくるね?」

「あはは、いってらっしゃーい」


 まったく。

 うら若き乙女の水着を強奪して、なおかつ諫めないとは言語道断。

 ちょっと反省をして貰うけれど、ちゃんと、受け入れてくださいね?





2017/07/04

2024/02/09

誤字修正しました。

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