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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 二日目
353/523

そのじゅういち

――11――




 ――合宿二日目。



 日差しが瞼の裏をじっとりと焼く。

 今日は一限、なんだったっけ? うなり声を上げながら、目覚まし時計をごそごそと探した。


『わふ……くすぐったいぞ、鈴理』

「ふぁ、ごめん、ポチ……ねむい」


 今、何時だろう。朝ご飯はあんまり抜きたくないけれど、冷蔵庫の中身ってなにがあったっけ? 常備菜は、きんぴらゴボウとあとは、ええっと。

 眠くても起きなくてはならないから、ずるずるもぞもぞと布団から抜け出す。うぅーあー、眠い、眠い。

 ――よし、まだ目覚まし鳴ってないよね? もう少しだけ寝よう。ポチも、自分のドッグフードの時間になったら起こしてくれるし、良いよね。寝返りを打って、さぁて夢の中へ……。


「ふふ、甘えん坊さんなのかな? おいで、スズリ」

「うにゅぅ」

「ふふふ、可愛い、可愛い」

「ごろごろ」


 撫でくり撫でくり。

 ふむふむ、このちょっと冷たくて優しい手つきはリュシーちゃんだね。


「りゅ、リュシー、次、つ、次は、私が」

「む。ずるいぞ、静音。次は私だ」

「ふぅ、最高のアングルで撮れたわ。で、そろそろ起きるころよ?」

「ゆ、夢、焼き回しはいくらから?」

「とらないわよ。撮るけど」


 むぅ、うるさいなぁ。

 わたしはこの優しい手に包まれて、のんびりゆったり過ごすんだから。

 ポチに相手でも――……ん、あれ、ちょっと待って。


「……」

「ん? おはよう、スズリ。よく眠れたかい?」

「……ええっと、リュシーちゃん?」

「そうだよ。ああ、まだ眠い? いいよ。スズリが満足するまで、抱きしめてあげよう」


 ぎゅうっと優しく抱きしめられて。

 仄かに鼻腔をくすぐるのは、ライムの香り。

 優しい心にほんわかゆったり……じゃなくて!


「あわわわ、ごごごごめん、リュシーちゃん!」

「はははっ、なにを謝ることがあるんだい? スズリが添い寝をしてくれなんて、光栄以外のなにものでもないよ」

「うぅ」


 は、恥ずかしいよリュシーちゃん。

 のろのろと起き上がって、ちらりとみんなを見回す。既に身なりを整えているフィーちゃんと夢ちゃん。起きたばかりという風に、着崩した浴衣の静音ちゃん。浴衣のまま、わたしを撫で繰り回して可愛がるリュシーちゃん。

 うぅ、これはとても恥ずかしいっ。


「さぁてご飯行くわよ、ごはん、朝食はホテルビュッフェよ。鈴理、早く用意しないと食いっぱぐれるわよ」

「もう、そんな食いしん坊じゃないからね?!」

「え、えへへ、鈴理、一緒に行こう?」

「あ、うん! 静音ちゃん」


 身だしなみを整えて、あれやこれやと準備をして、服装は浴衣のまま。

 ポチには部屋で待っていて――貰うのは難しいようだったので、散歩に行かせている。トイレの始末くらいはしてね? いや、水洗便所は使わなくてもいいから。ばれるよ!















 朝食の席に座ると、もう、全員が集まっていた――などということはなく。

 ひらひらと手を振ってくれる会長。笑顔で会釈をくれる六葉ちゃん。刹那ちゃんは、と、見回すと、師匠の横に陣取る姿。反対側には、やはり機嫌の良いリリーちゃん。

 レイル先生はいる。けれど男の子二人、副会長と焔原君の姿は見えない。朝、弱いのかな?


「へぇ、朝食は洋風の部屋なんだ」

「みたいだね、夢ちゃん」


 白いテーブル、白い椅子。

 銀の長机の上には、色とりどりの料理の姿。


「みなさん、おはようございます」

「師匠っ。おはようございます!」


 口々にわたしたちが挨拶をすると、師匠は笑顔で返してくれた。

 ……と、瞬く間にわたしたちの前に出てきてくれたけれど、刹那ちゃんは良いのかな?

 見ると、見事にリリーちゃんに捕まっている。そっかぁ、逃げられないかぁ、だよねぇ。リリーちゃんの唇の動きを読むと、“朝くらい譲ってあげる”と動いていた。さすが夢ちゃん直伝の読唇術。隙が無い。

 でも、朝くらいはってどういうこと? 夜の師匠は独り占め? うん、深く考えるのは止めよう。


「師匠、そういえば副会長たちはどちらに?」

「刹那さんが言うには、“『び』で始まって『いえる』で終わる”とか? 四階堂さんに聞いたら、二人とも朝は弱いということだから、まだ寝ているのではないかしら」

「び、いえる? そうですよね……」

「幸い、ビュッフェ形式だから、先に来た人から食べてしまいましょう。みなさんも、どうぞ」


 やった!

 ええっと、普段、自分で作る時はパンばかりだからご飯にしようかなぁ。あ、そうだ。お刺身食べようっと。


「食べ放題、ふふ、食べ放題か」

「フィーちゃん?」

「やはり、食べられる時に食べておくのが王道よな」

「フィーちゃん、落ち着いて!?」


 そっか、アルバイトをして実家に仕送りをしているフィーちゃん。

 タダで良い物をたくさん食べるっていう機会は、そんなにないんだね。


「影都、あんた朝からそんなに食べるの?」

「碓氷、あなたはその程度なの? フフン」

「よし、言ったな! ……とは流石にならないわよ?」

「チッ。太れば良いのに」


 トレイの上に、カレーライスと牛丼とカツ丼を載せている刹那ちゃん。

 トレイの上に、綺麗に盛りつけられた山菜サラダと少量の焼き魚と、ご飯とお味噌汁を載せている、夢ちゃん。なんだか個性が出るなぁ。


「りゅ、リュシー、それだけ?」

「そういう静音こそ。足りるのかい?」


 リュシーちゃんは、ハーフトーストとポテトサラダ、それからポタージュ。

 静音ちゃんは、お吸い物とお漬け物と玄米ご飯という、精進料理。


「みなさん、小食なんですね」

「あ、六葉ちゃん! おはようっ」

「ふふ、おはよう、笠宮さん。今日も元気だね」

「それだけが取り柄だからね!」


 トレイを持って選びに来た六葉ちゃん。

 その後ろからひょっこりと、会長も来た。


「笠宮さん、おはよう」

「はい、おはようございますっ」

「朝はやっぱりココアよね……ふぅ、チョコレートもあるみたいね」


 会長、やっぱりチョコレート、好きなんだ。

 見れば、息を切らせて走ってきた副会長たちを、レイル先生が労っている。

 良かった。これでやっと、全員集合かな。






























――/――




 全員が席について、全員が食事を終えるまで、それなりに時間が掛かった。

 なにぶん全て貸し切りという状況だからスムーズに済んだが、そうでなかったら痛い目を見ていたことだろう。こんなとき、スケジュール管理の鬼と呼ばれた瀬戸先生の手腕が、羨ましくなる。

 今度、教えてくれないかなぁ。いや、教えてはくれるかな。ただちょーっと代償がこわいけれど。なでなで、膝枕、めっ。次は何を要求されるのだろうか?


「当初よりも押してしまい、申し訳ありません。支配人」

「ははは、どうぞお気になさらないで下さい。お昼は外で召し上がるのでしょう? どうぞ、お気を付けていってらっしゃいませ」

「はい、ありがとうございます」


 支配人の玲堂さんに見送られつつ、次のプランを確認していく。

 戦闘訓練のようなことは昨日までだ。今日は、もうちょっと平和なことをやるらしい。その方が助かるかも。


「観司センセイ、首尾ハ?」

「レイル先生。はい、今のところは大丈夫そうです」

「ハハ、それはヨかった」

「そちらも……二人は大丈夫でしたか?」


 遅れてきた二人。

 鳳凰院君と焔原君は、揃って息を切らしてきた。生徒会の生徒が朝が弱い、とは耳にしたことは無い。疲れていたのか、体調でも悪かったのか、心配だ。


「タンなる寝不足だソウダよ。どうも、夜更かしヲしすぎたようダ」

「そうでしたか……」


 まぁ、そうか、それなら安心か。

 大事にならなくて良かった。なにせこの島に、ちゃんとした病院施設はないからね。


「次ハ、バスで海岸かイ?」

「ええ、そうです」


 バスの運転は、まぁ、私で良いか。免許もあるし。

 安全確認はレイル先生にやってもらって。ああ、私もちゃんと水分を確保しなければ。

 ……と、よし。これで準備は万端、かな。


「さて、いよいよ二日目ですね」

「? アア、ソウダね」

「今日も一日頑張りましょう。レイル先生」

「――っ……ああ、キミにはカナわないよ。モチロン。頑張ロウ」


 さて、まだまだ二日目の行程は始まったばかり。

 みなさんが怪我をしないように、頑張ろう。





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