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エンディング後の魔法少女は己の正体をひた隠す  作者: 鉄箱
魔法少女の合宿 一日目
343/523

そのいち




――1――




 新潟県北部にフェリーで移動すると、大きなS字の島に到着する。

 佐渡島さどがしま。ここで一時間ほど休憩して、私たちはさらに北へと移動することになった。


「師匠っ、師匠っ、もう島が見えてきましたよ!」

「この当たりは時空が歪んでいるから、実際の到着まではまだ時間がかかるわよ。ほら。落ちないように気をつけて」

「はいっ」


 はしゃぐ鈴理さんをそう宥めて、改めて、水平線の向こうを見る。

 佐渡島からフェリーで三十分ほど航海すると、もう一つの島に到着する。かつての大戦の影響で周辺の磁場や空間が歪み、目視可能地点からが長いという不思議な島だ。

 この島そのものも大戦の影響で出来たモノだが、異界化が原因では無い。島を生み出して、人を惑わす悪魔が居た。この悪魔の能力の名残が未だ島として存続しているだけであり、西之島異界のように特別な空間だったりする訳では無いのだとか。

 宿泊施設や娯楽施設も多くあり、キャンプ目的で訪れる人間も多い。そんな“第二佐渡島”――あるいは、“佐渡の大離島”と、そう呼ばれるこの場所こそが、今回の目的地だ。


「観司先生、なんか手伝うことはありますか?」

焔原ほむらはら君……。いいえ、お気遣いありがとう。到着までゆっくりとしていてください」

「はい」


 黙礼して、踵を返す焔原ほむらはら君。

 そう、今回の行事の名は、“合同合宿”。私が顧問を務める“魔法少女団”と、生徒会が合同で行う合宿なのだ。

 今回、獅堂たち英雄グループ……即ち、獅堂、時子姉、七、拓斗さん、仙じい、それにイルレアを加えた六人は、九州南部で発見した虚堂静間の研究施設及び本拠地を調査することになった。そこで、ほどよく遠い場所を生徒会を交えて議論。今回の佐渡の大離島へ合宿することに決まったのだ。


 ということで、今回のメンバーは、と。


「なんでおれに行かせたんだよ、刹那」


 私の立つ甲板の後ろ。大きくため息を吐く長身の男子生徒。

 生徒会書記――焔原ほむらはら心一郎しんいちろう君。


「女所帯のわくわくハーレム体験。堪能したかったんでしょう? お礼にアイスを奢っても良いよ」

「人聞きの悪いこと言うなよ! 第一、レイル先生も居るだろうが!」


 そんな焔原君がすさまじいツッコミを入れる中、飄々と避ける小柄な女生徒。

 生徒会会計――影都かげつ刹那せつなさんは、相変わらずの様子だ。


「落ち着いて。あんまり、甲板で暴れたらだめだよ」

「ん、悪ぃ、六葉むつは

「む、フラグの気配?」

「するか、タコ」


 一触即発の二人に割り込んで止めるのは、穏やかな女生徒だ。

 生徒会庶務――伏見ふしみ六葉むつはさん。


「止めなくて良いのか? 凛」


 彼らを眺めて呟くのは、眼鏡をかけたクールな眼差しの男子生徒。

 生徒会副会長――鳳凰院ほうおういん慧司けいじ君は、そう、隣の女生徒に尋ねる。


「良いんじゃない? 楽しそうだよ、ほら」


 鳳凰院君にからからと笑いながら告げた彼女は、菫色のロングポニーが目立つ女生徒。

 生徒会会長――四階堂しかいどうりんさんは、自分の生徒会のメンバーを微笑ましそうに見ていた。

 生徒会の顧問は、未だに空席のままだ。一応江沼先生が仮担当しているが、正式なモノでは無い。本来なら若くて優秀な先生に任せるのだけれど、以前、ちょっとやってしまって追放された柿原先生以外、やりたがらないというのが現状だ。

 そこで、今回は引率の教員は二人、私とレイル先生であり、私たちが生徒会の方も担当することになった、という経緯だった。

 瀬戸先生も立候補はしてくれていたようだけれど、ほら、瀬戸先生と香嶋さんは“優良生徒特別交流会”で北陸特専に行っているから、こちらに参加することはできなかったのよね。同じような仕草で落ち込んでいたのが印象的だったので、今度、なでなでしてあげよう。どちらに、とは言わないよ?


 で、こちらのメンバーと言えば。


「うぅ、会長にお礼を言いたいんだけどなぁ」


 私の隣から離れたと思えば、物陰からぴょこんと頭を出して四階堂さんを見る、鈴理さんの姿。


「鈴理、いつもの強気はどこへ行ったのよ? ほら、静音を落とした時の」

「夢ちゃん?!」


 呆れた表情と仕草で、なんだかとんでもないことを言う夢さん。


「ゆ、夢! 落とされたとか、ないからね?!」

「ほっ」


 動揺しながら突っ込むのは、静音さんだ。でもからかわれたのが解ったのか、直ぐに頬を膨らませていた。


「ふふ、私もスズリに落とされたようなものかな」

「ふぇっ、リュシーちゃん?!」


 淑女然と笑うアリュシカさんの空気は、実に上品だった。大人っぽさと王子様感に、磨きが掛かったようにも思える。


「では、私もかな」

「フィーちゃんまで!?」


 ついでとばかりに便乗したフィフィリアさんに、鈴理さんは流石に動揺し始めて、あわあわとしている様子だった。うんうん、平和だ。

 フェリー到着後のあれこれの確認も必要かな。なんて思っていると、先日からずいぶんと仲良くなったレイル先生が、視線から意図をくみ取って生徒会の方へ向かってくれた。ありがたい。

 ということで、私は、大騒ぎしすぎて四階堂さんたちから観察されていた鈴理さんたちの方へ、足を進める。


「到着後のチャートを確認します。よろしいですか?」

「ほっ……はい、師匠! ほら、みんなも!」

「はいはい。みんな、鈴理をからかうのは一時中断よ」

「夢ちゃん!?」


 ぷっくりと膨らんだ鈴理さんの頬を、両側からつつくアリュシカさんと静音さん。

 そんな彼女たちを見守るフィフィリアさんと、口元を抑えて笑いを堪える夢さん。楽しそうなのも良いけれど、ほどほどにね?


「では、そこで笑いを堪えている夢さん、どうぞ」

「まずは旅館に直行。そこで昼食を食べたあとに、生徒会の方々と正式な交流を図るために、実力向上競技に挑戦。旅館に戻って各々で温泉を堪能したら夕食、反省会、就寝。ですよね?」

「はい、さすが夢さんです。よくできました」

「あはは、これしきのことで褒められると、逆に照れちゃいます」


 そう、頬を掻く夢さんは、実に嬉しげだ。

 碓氷の家はなんというか、全体的に“出来て当たり前”の職人感が漂うからなぁ。どうも、お父様が飴の役割をしているようだけれど、圧倒的に乙女さんの方がパワフルなようだし。


「では、そろそろ到着ですね。みなさん、準備を」

『はい!』


 荷物を取りに戻るみんなを見送って、私とレイル先生も船室へ向かう。

 時子姉や獅堂たちが作ってくれた、“平穏な時間”だ。しっかりと充実に過ごさないと、バチが当たってしまうかも知れないからね。




































――/――




 九州南部、琉球大庭園より東方。

 空間を歪ませて周囲と溶け込む、中規模の“島”。それこそが、有栖川博士がエグリマティアスやクレマラを解析することで見つけ出した“虚堂静間のラボ”である。

 潜入を秘密裏に行うために、全員が有栖川博士謹製の船に乗り込み、念のため、仙衛門の仙術で風景と溶け込む。最大まで配慮した状態で、英雄たちはラボへ侵入することになった。


「見えたわね」

「肉眼ではサッパリだがな」


 呟いた時子に、そう、獅堂が返す。

 時子の手に持つレーダーには、はっきりと島が映し出されていた。だが獅堂の言うとおり、肉眼では捉えることが出来ない。


「しかし、この間の職業体験、無事に済んだ今となっちゃあ、幸運だったな」

「そうね」


 獅堂の言うように、先日行われた職業体験。そこで、まさき刑事が虚堂静間を目撃したことで、犯人として確保できる最後のピースが埋まった。また。そこで彼らが見たプロドスィアという機械兵士が、“動機”まで掘り起こすことになる。

 モンタージュで作成したプロドスィアの顔。それを有栖川博士に正路が見せると、彼は息を呑んでこう語ったのだ。



『これは――そうか、静間はやはり復讐を望むのか』

『どなたか、心当たりが?』

『彼女の名は細口美琉。私の親友、虚堂静間の元フィアンセだよ』

『復讐、ということは、まさか』

『ああ。異能犯罪に巻き込まれてね。一時はふさぎ込み、表舞台に出てきた時は乗り越えたのだと思ったよ。けれど会いに行くことが出来ずにいるうちに……そうか』



 復讐。

 なるほど、と、獅堂は頷く。それは共感できない理由では無い。もしも未知が傷つくようであれば、ましてや命に関わることがあれば、獅堂は命をかけて復讐を果たすことだろう。

 だが、だからこそ、疑問に思う。


「博士の復讐相手は、生きてんのか?」

「それなのよね……。記録によると、十年前、彼女の死と同時に特課により射殺されているわ。守り切れなかった特課に逆恨みでもしているのかと思えば、そうではない。もしかしたら、私たちが知らない何かがあるのかもしれないわね」

「おいおい、そんな曖昧で大丈夫なのかよ」

「大丈夫よ。動機の調査は、逮捕後でもできるもの」

「あー、まぁ、そりゃそうか……っと」


 刹那、膜を潜るような感覚。

 まるで、水面から顔を出したかのような不思議な感覚に、獅堂は首を傾げながらも受け入れたようであった。


「そろそろ到着よ。気張りなさい、獅堂」

「はいはい。みんなにも、伝えてくるとするよ」

「ええ、お願い」


 そうして一行は、人工島の中へと足を踏み入れていく。

 まだ、序盤もいいところだ。気は抜けない。そう各々が瞳に強い意志を抱きながら、虚堂静間のラボへ侵入していくのであった。





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