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そのじゅう

――10――




 ――駐車場。


 黒服の男たちに指令が入ると、彼らは各々重火器を片手に出てくる。

 その一連の姿を写すようにシャッターが切られ、男たちは驚きながら音の方向を見た。


「いや、こんなにわかりやすい証拠をどうもありがとう、というべきかな?」


 金髪に青い眼。

 整った顔立ちの少年は、デジタルカメラを片手にそう告げる。


「――始末しろ」

「言い忘れていたけれど、これ、動画なんだよね。今から冗談だったと言えば、情状酌量くらいはあるんじゃないかな」

「死者は何も語らない。全員、構えろ」


 男たちは淡々と、各々の重火器を構える。

 そんな彼らに少年――レンは、肩をすくめて呆れた表情を浮かべると、彼らを“視”た。


「やれ! ――どうした、何故撃たない?! ……っ」


 指示を出した男は、いつまで経っても始まらない攻撃に苛立つ。

 動揺しながら振り向いた、その先には。


「なっ……凍って、いる、だと!?」


 人も。

 銃も。

 車も。

 地も。

 草も。

 木も。


 等しく平等に広がる氷像の庭に、男はぺたんと尻餅をつく。


「じゃ、僕はこれで失礼するよ」

「ま、待て! ひっ、お、おれの足が! 手が?! あ、あああ、あああああああッ!?」


 追いかけようと手を伸ばす男。

 だが、その足は既に根元まで凍り付き、動かない。

 やがて男は狂ったように悲鳴をあげながら、仲間たちと同じように氷像に閉じ込められた。


「なに、せっかく死なないように“調整”したんだ。そこで涼んでいると良いよ」


 レン・キサラギ。

 稀少度Sランク異能者。

 共存型キャリアタイプ――“氷界の魔眼”。


 無類の制圧力を誇るその異能を前に、男たちは足掻く間もなくその身を氷像へ変えるのであった。






















――/――




 ――学校圏森林部・電波ジャック車。


 武装付きの装甲車。

 それは、その車両の重要度を示すように、機関銃や装甲兵士によって護衛されていた。要塞のように警護されるそれらを叩き潰すのは、一筋縄ではいかないことだろう。

 相手が、この少女でなければ。


「面倒だから、さっさと片付ける」


 金髪に青い眼。セミロングの髪。

 アンニュイな表情を隠そうともせず、ビスクドールのような美少女――レナは、散歩でもするように、歩いて装甲車に近づいた。


「ストックセット――“魅了の魔眼”」


 レナはそのまま、警戒中の装甲兵士を“視”る。


「なんだ、貴様、どこから――ぁ」

「行って。仲間割れ。できるね」

「カシコマリマシタ、ゴシュジンサマ」


 ふらふらと歩き、次いで、銃の乱射音。


『オォォォ』

『なんだ、どうした?』

『ぐぁっ』

『血迷ったか!?』

『く、クソッ!!』

『車両を守れ! 走らせろ!』

『だめだ、車軸が“凍って”いるぞ!』

『や、やめろ、来るなァァァァッ!!』


 叫び声。

 轟音の雨。


「参戦の必要は無い、かな」


 爆発音。

 何かが砕ける音。


『こいつ、まだ立つのか!?』

『やめろ、やめてくれ!!』

『オォォォォォオオォッ!!』

『う、うわぁぁぁぁぁッ!?』


 悲鳴と怒号が溢れる中、レナはひとり平然と切り株に腰掛ける。

 数分が経ち、思い立ったように立ち上がり、ふらりと立ち上がって現場に歩く。傷ついた装甲車。ぼろぼろの装甲兵士。傷ついてはいるが、全員に息は在る。重傷者すらいないだろうが、直ぐに動ける怪我でもない。

 その、仲間割れの怒号と悲鳴があった現場にしては、綺麗な光景は、偶然などではない。


「“王審の魔眼”――王は遵守を命ず、この場に落ちる命はないと。……うん、やっぱり便利」


 レナ・キサラギ。

 稀少度Sランク異能者。

 共存型キャリアタイプ――“魔倣まほうの天眼”。


 レナはそう頷くと、また、散歩でもしているかのような気軽さで、踵を返して帰って行った。

 後にただ、無残に倒れ伏す男たちだけを残して。


































――/――




 ――森林部・特殊部隊。


 木陰から、武装部隊の様子を見守る影が二つ。お団子頭の少女、ロンシェンと、フィフィリアだ。


「どうする?」

「まずハ私が攪乱するヨ」

「行けるのか?」

「任せテ」

「わかった」


 香はそう告げると、大きく息を整える。

 呼吸から霊気を循環。丹田から身柱を巡り、巡り、巡り。

 呼吸と共に励起された異能が、彼女の心を封じ込め、魂を解放する


「武闘霊術――“天衣無縫(てんいむほう)”」


 踏み込み。

 震脚とも呼ばれるそれは、地を蹴る力を反動から己に乗せる技術だ。通常なら、実力者ほどに轟音を鳴らし、クレーターができるほどの威力を残すことだろう。

 だが、香のソレに音は無い。強烈な踏み込みの“全て”を余すこと無く踏み込みに乗せることで、余剰な力発生せず、正しく力に還元された。


「ッなんだ、貴様!」

「う、撃てェーッ」

「だめだ、味方に当たる……ぐッ?!」


 音も無く集団の中央に降り立ち、身体を沈めて回転。

 足首、膝、股関節、腰、胴の捻りから繰り出される、肘による一撃。それは今度こそ轟音を立てて重装甲の兵士をはじき飛ばし、けれど香はそれを見届けること無く、さらに回転して受け流しながら戦場を歩く。


いーあるさんすぅうーりゅー


 向けられた銃口を上に弾きながら、背から体を打ち付ける。

 突き出されたナイフを絡め取りながら、腕を極め、膝をたたき込む。

 四方からの一撃を足を開いて座り込むように避け、ぐるりと回転しながら蹴る。

 そのまま飛び上がると、“空を蹴って”銃撃を避け、胴回し回転蹴りで肩を打つ。

 猫のように軽やかに着地をすると、左に掌低、右に拳撃、前に走って跳び蹴りを。

 香は最後に踊るように一礼すると、大きく背後へ飛び退いた。


「チィッ、こんな子供に?!」


 兵士の一人が、悲鳴のように叫ぶ。

 だが、香の役割はもう終わったも同然だった。兵士たちをなぎ倒し、充分に意識を惹きつけ、心に隙間を作り、“厄介な装甲車”から“兵士の意識を引きはがす”ことに成功したのだから。


「雷揮神撃――」


 装甲車の上。

 雷雲を纏いて振りかぶるは、神の鉄槌。


「――砕け、ミョルニル!!」


 轟音。

 爆砕。


 粉々に砕ける装甲車。

 それを呆然と見ていた兵士たちは、隙をつかれるように、次々と香の手によって意識を刈り取られていった。


「やるじゃないか」

「すぅ……はぁ……――フィフィリアこそ、流石ヨ」


 ぱん、と、音を立てて打ち合わされる二人の手。

 あとには敵も、傷もなく、ただ兵士たちが転がるのみ。どちらからともなく口角を上げる二人の姿は、どこか似た雰囲気さえあるのであった。































――/――




 ――上空三千メートル。


 リリーは“ドローン”と報告し、それを夢たちは“三千メートルも上空なら似たような何かだろう”という程度で捉えていた。だから、きっと“こう”だとは想像しては居ないことだろう。

 上空三千メートル。雲の更に上に浮かぶ円盤は、巨大であった。サイズだけで言うのなら、東京ドームとさほど変わらないだろう。それだけの質量が、“天力”によって偽装されている。

 ――そう、これだけは今回の一連の中で唯一金沢無伝の知るところにないモノであり、彼がへまをしたときの保険。金沢無伝の“スポンサー”の関わる、機動兵器であった。


「あそこはね、私の遊び場なの」


 宙に浮くリリーはそう、ため息と共に呟く。

 機動兵器はリリーのことなど歯牙にもかけない。子供型の、それももっとも天力が優位に運ぶ悪魔。ただひとり進路に立とうとも、止められるはずがない。

 だからこそ、以前のカタリナの事件の際も多くの天兵を輸送した、輸送兵器でもあるコレは、悠々自適に飛行する。




「だから、私は私の庭を掃除するわ」

――もしリリーがただの悪魔でしかなかったら、それで問題ないことだろう。


「せいぜい足掻いて逃げて、悲鳴をあげなさいな」

――もし彼らが自動操縦で無ければ、“予感”で動かすことも出来ただろう。


「ふふ、逃がしては、あげないけれど♪」

――もし……そんな、淡いIFは、もう輝かない。




 リリーが、指を翳す。

 アメジストの瞳が黄金に変化。輝きを増す力に、あくまで対処しようと兵器が天兵を出そうとする。

 けれど、それではあまりに遅すぎる。本当なら、彼らは逃げなければならなかったのだから。




「闇に抱かれ深淵に眠れ――【闇王の天剣ダークホール・スライド】」




 そのまま、虫でも払うように、手を薙いだ。

 たったそれだけの行為で、黒い閃光が飛行兵器を斜めに両断。僅かに横にずれて、そこで止まる。


「では、ごきげんよう」


 そして、リリーのカーテシーに合わせるように、切り裂かれた飛行兵器の中心から空間が歪み、まさしくブラックホールに押し潰されるように消えていく。

 轟音。機械に悲鳴は無く、スクラップに変わっていく音が、阿鼻叫喚の代わりのようにも聞こえる異常な空間。リリーは僅かに微笑みを浮かべると、飴を請う子供のように掌を差し出した。


「ふふ、鈴理にあげれば喜ぶかしら」


 手に収まった歪な銀色。

 物理法則を超越して押し固められた球体から零れる銀の鱗粉は、天装体が破壊されたことで逃げようと足掻く天使の魂。いずれは解放されるだろうが、その全てが小さな道から出ることなど適わず、順番待ちだ。

 しばらくは、良い見世物になるだろう。そう微笑むリリーの横顔は、“友人”に土産が出来たことを喜ぶ、無邪気な少女のそれでしかなかった。





2024/02/02

加筆・誤字修正しました。

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