そのはち
――8――
なにやら偉い人たちが見回るという、授業参観二日目。それ自体は、わたしのクラスを回ってくる偉い人がみんな知っている人(時子さんとか、有栖川博士とか、乙女さんとか)だったから、気が楽だった。
けれど学校全体で見ると、なんでも反魔導術師で有名な国連の偉い人が来ていて、それはもう緊張したそうな。けれど、二日目の授業参観ということもあって、偉い人のために授業を開講する三年生を除いて、今日は午前授業。終えて見ると、あっさりしていたなぁ、なんて感想だ。
「それは良いけれど、鈴理。今日は絶対、一人で行動しないこと。良いわね?」
「ええと、夢ちゃん。それってまさか、そういうこと?」
「そういうことよ。なにがあるかわからないからね。ま、安心なさい。嫌でも一人にさせないから」
そういうこと――即ち、変質者なり敵対者なり、わたしを狙う人間が居るということ。
夢ちゃんはそう告げると、胸を張って一歩引いた。部活で使う第七会議室。そこに集まっているのは、授業参観という一仕事を終えた一部の面々だ。
まずは私たちの部活から。三年生は授業中なので、二年生のメンバーが勢揃い。
「す、鈴理の敵はゼノる。いいね?」
『心得た』
『わんっ』
ゼノの腕輪と子犬ポチを片手に、そう気合いを入れる静音ちゃん。
ひょっとしてその“ゼノる”というのは一刀両断でしょうか……?
「フィー、腕は鈍っていないよね?」
「ああ、リュシー。おまえが見て、私が潰す。問題あるまい」
「そうだね。頼りにしているよ」
「ああ」
涼しい顔で銃の手入れをするリュシーちゃんと、獰猛な笑顔で鎚を研ぐフィーちゃん。
打って叩いて潰したら、きっと原形を留めないと思うんだけれどそれは。
「リリーが協力してくれるんなら百人力ね」
「構わないわ。夢、あなたが足掻く姿は面白そうだもの」
「ええっ、まさか……恋? だっ、だめよ! 私には未知先生と鈴理とリュシーと静音とフィーとなんだったら杏香先輩にルナがいるんだものそんなこと」
「多いわね。悪魔も引く強欲って中々よ?」
「うぐっ……い、いやねぇ、冗談よ、冗談。ニンジャジョーク」
「目を見て言いなさいな」
ふざけているように見える夢ちゃんは、一歩引いて以降、一切手を休めずに嵐雲と黒風の調整をしていた。
リリーはただ一人余裕そうだが、全体的に状況を楽しんでいるようにすら思える。うーん、心強い。
「ねぇ、鈴理も引いたでしょ?」
「そんなことはないよ? たぶん」
「たぶんってなによっ」
それから次に、魔法少女団以外のひとたち。
彼女たちは“先生方は忙しいようだから”と、心配して見に来てくれたのだという。
「ま、安心していれば良いよ。いざなにか来たら、私がスパッと片付けるから」
「風子ちゃん、ありがとう――でも、本当に両断したりしないよね?」
「しないしない。千切りにするだけ」
ええっと、それは跡形も残らない、ということかな。
黒い髪をながーいポニーテールにした風子ちゃんは、緑がかった黒目を細めてそう笑う。爽やかに言ってるけれど、それはたぶん即死だと思うの。
「はぁ、こんなに戦力があるんだったら、私はいらなかったんじゃないかしら。ねぇ静音、どう思う?」
「る、ルナが足止めして私がゼノる。か、完璧だと思うよ?」
「いや、作戦の話じゃ無くてね? ……ところでゼノるってなに?」
そう、どことなく苦労事を背負っていそうな顔で静音ちゃんに話しかけるのは、ルナちゃんだ。近くに見覚えのない黄色い妖精を連れていて、彼女は胸からプラカードを下げていた。
ええっと、内容は……“異能使用履歴絶対消去するガール”――ルナちゃん、ノリノリなんだね。いや、すっごい助かるけれども。
「あ、あるぇ? おかしいな、“鑑定”がまったく効かない。なぁレン、アレ、どう思う?」
「ごめん、一馬。僕には君と違って、幼女趣味はないんだ。レナ、近づいちゃ駄目だよ」
「うん」
「ちょっと待ておまえら! おれはただ、あそこの幼女に“鑑定”がまったく通らないから純粋に疑問に思ってだなぁ……ッ」
「はっはっはっ、やっぱり一馬は駄目人間アルね」
「香、おまえもか?!」
リリーちゃんを見ながら首を傾げるのは、リュシーちゃんたちと同じクラスの黒土一馬君だ。それから、そんな黒土君をからかっているのが、金髪青目の美少年、レン君と、その双子の妹のレナちゃんだ。
彼らを見て笑っているのが、確か“龍香”ちゃん、だったかな。わ、忘れていないで良かったぁ。
彼らは純粋に、“風子とルナが面白いことをやっていそう”という理由で来てくれたみたいだ。
「今日こそおまえを出し抜くから覚悟して」
「あはは、いつから“闇の影都”は有言不実を標語に掲げたのかしら? “霧の碓氷”こそ最強だと、思い知りなさい」
「傲慢。そうやって表舞台に立つ忍者が、どこで己の技を競うと言うの? 脳筋の碓氷に改名したら?」
「能無しの影都に言われたくはないけれど……まぁ良いわ。鈴理に気がつかれずに守り切った方の勝ち。それで良いわね」
「いいよ。観司先生への点数稼ぎにするだけだから」
バチバチと火花を散らし合うのは、同じ忍者のお家柄。
“霧の碓氷”の夢ちゃんと、“闇の影都”の刹那ちゃん。どうみても犬猿の仲なのに、いつも一番息が合う二人だ。もしかしたら、すっごく仲が良いのかも知れない。
そして。
「はは。みんな、仲が良さそうだね」
金髪のショートヘア。
日本人を思わせる黒目。
真っ白なジャージには、左胸に銀刺繍で“神無月”。
「うん。ええっと、神無月さん、だよね?」
「茅で良いよ。“秘密”を共有する仲だしね」
「そっか、そうだよね。ありがとう、茅ちゃん。サイン下さい!」
「あはは、本当に好きなんだね。僕のサインで良ければ、いくらでも」
私も愛読する人気小説、“黄昏探偵”シリーズの登場人物、そのモデルが茅ちゃんだ。
茅ちゃんは実際にモデルとなった事務所、暦探偵事務所で働いているのだと言うから、本当にすごい。つい、サインを強請っちゃうくらいには。
うぅ、それでも、貰ったサインは宝物にします。
「ところで茅ちゃん、茅ちゃんはなんでここに?」
「僕の役目はまぁ、そのうち解るよ」
ええっと、なんだか“黄昏探偵”のワンシーンみたい!
そんな風に言われたら、楽しみにするしかないよね。
「そのために、今日は“六式隠密ジャージ”だからね」
「じゃ、ジャージって……そんなにたくさん持っているの?」
「モチロン」
もちろん、なんだね。
全部聞いてみたい。聞いてみたいけれど、なんだか聞ける雰囲気じゃないな。
とにかく。
そんなこんなで事情も変わり、スターティングメンバーの集合です。
……うん、このメンバー、例え強力な悪魔であろうと瞬殺できるだけのポテンシャルを秘めているような気がするのは……。
うん、気にしないでおこうかな!




