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そのにじゅうよん

――24――




 鈍色の装甲を増やしながら、巨腕を振るう巨大ロボ。

 その猛攻こそ食い止められているが、あまりの丈夫さに中々ダメージが与えられない。まるで、“異能”に耐性でもあるように。


「未知、無事?」

「時子姉……ええ。でも、中々壊れないわね」

「そうねぇ。本当は玄武で“圧縮”してしまうが良いのだけれど、島が沈みかねないのよね」

「それは……ちょっと……」

「わかってるよ」


 玄武の大質量だと危うい、ということかな。ある程度のサイズ圧縮はできたとは思うけれど……いや、違うか。異能で象られた島で大質量の概念を持つ聖獣を出すと危うい、とか、そういった話になるのだろう。

 なんにせよ、私の専門ではない分野かな。


「ねぇ、時子姉。やっぱり異能に耐性がある?」

「……そうね。異能耐性、魔導の範囲かな? 未知、心当たりは?」

「異能に耐性、だと」


 ぁ。

 そうだ。

 異能犯罪に対策するための、対異能魔導機械!


「麻生博士の、“異能抑制装置”!」


 急遽、窮理展開陣(ハイアナライズバレル)を展開。

 暴れる巨大ロボに翳して調べると、胸部の奥に不可思議な反応があるのを見つけた。赤い結晶型の装置で、周辺空間の霊力を吸収し、異能を抑制。同時に、それを蓄積しているようだ。

 蓄積の臨界値は? 蓄積目的は? 動力に変えているわけではない。なら、予備電力?


「――違う、これは……時子姉、みんな!」

「なにかわかったの? 未知」

「ええ、おそらくこのロボット……規定値を超える霊力を蓄積したら、爆発する。装甲が丈夫な分、その規模は、島が吹き飛ぶわ」

「ッまずいわね、島外脱出用の客船、に乗り込み指示を出すわ。規定値までの推測、出せる?」


 私たちの攻撃で霧散している霊力も吸収している?

 このペースで攻撃していれば臨界値まで直ぐ到達してしまう。けれど、攻撃をしなければ、自爆に専念される。念を見て最悪のパターンとして。


「早くて、三十分保てば良い、かな」

「……そう、なら。全員、牽制は不要よ、一撃で決めるつもりで戦いなさい!」

「こちらでも、なんとか霊力対策を講じるわ」

「ええ、お願い」


 それだけ言って、時子姉は飛び去る。

 自爆が目的なら、丈夫な“だけ”というのも頷ける。ようは臨界値に到達するまで、破壊さえされなければそれでいいのだから。


「じゃがのう。そろそろコツの一つは掴めるじゃろうて――【仙法・爆熱鋼体】ッ!!」

『85352332048085801322808580131243410443!?』


 空気の震えるような轟音。

 巨大ロボの膝を拳で撃ち抜いた仙じいが、そう、不敵に笑う。


「まったくもって、仙衛門の言うとおりだよ。【炎の魔王よ(サタナス)彼の者を抱け(イフリート)】」


 七の呼び出した、黒い炎の巨人がロボを包み込む。

 けれど、七はそれだけでは終わらない。


「凍てつき砕け――【氷の魔女よ(マギサ)棺に眠れ(キビア)】」

『6135035285926104910331-5212320480858013ッッッ』


 次いで現れた氷の巨人が、抱きすくめるようにロボを包む。

 すると、極限まで熱せられていた装甲が急激に冷やされたことでひび割れ、後付けの装甲が剥がれ落ちた。


「拓斗、遅れるなよ!」

「おまえこそ、とちるなよ、獅堂!」


 七の後ろからそう、獅堂と拓斗さんが飛び出る。

 最初に飛びかかったのは獅堂だ。その身に小型の太陽を追従させ、チェーンソーのように高速で循環回転させる。


「灼き断て、【第一煉獄(ソーラー・システム)】!」

『2280858013630435132513613503』

「斬り砕け、竜吼の剣。絶て、ドラグプレイヴァーッ!!」

『3204450413211263233513425212320480858013』


 獅堂の炎が胸部装甲を削りきり、拓斗さんの鋼腕が、剣を胸部に突き立てる。

 すると、剣を中心に放射状の罅が広がり、巨大ロボは体勢を崩し、轟音とともに地面に倒れる。


 ――その、真上で。



「【式揮顕現・オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ・神名解放】」



 時子姉の右足に宿る、翠の装甲。

 風と神威の嵐を纏い、打ち下ろすは神意の山颪。


「来たれぃ【韋駄天いだてん急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう】ッ!」

『9412928085802332808380133280838013351342613503』


 叩きつけられる神風が、ドラグプレイヴァーを中心に、巨大ロボを砕く。

 それはやがて竜巻のように渦巻いて、ついには、胸部結晶体を粉々に砕いた。


「っよかった、間に合った……」


 思わずそう、安堵の吐息が零れる。

 本当にどうなることかと思ったけれど、間に合って良かった。


「よう、お疲れ、未知」

「いや、楽勝だったな。なぁ七」

「獅堂、へんなフラグを立てないでよ。起きたらどうす――」


 男三人、足早に駆け寄って。




『224504133204808580132403418043803412』




 突如聞こえた機械音に、足を止めさせられる。


「――っ」


 窮理展開陣は持続している。

 もう自爆の脅威は無いはずなのに、機能は停止しているはずなのに、機械音は停まらない。





『2104233280838013211232』

『9203211242458043806105』

『630595230491730225133412』

『52033280858013211232』

『5203328085801332808380139280858013』

『22450413211232』

『224504133280858013520321039280858013』





 そして。




『2394719122450413』




 巨大ロボの頭部が開き、黒い腕が伸びる。

 サイズは成人男性程度。通常のエグリマティアスと変わらない。

 けれどその流麗な装甲は、洗練された機能美すら感じさせた。



『2245041321039280858013528592432204553344-320464122513――コレヨリ、ふぇいず2ノ、キドウジッケンヲオコナウ、たーげっとハ、エイユウトマドウジュツシ、キョウイン』



 喋った?!

 流暢とはいかないが、機械音ではない。

 いったい、これは?


「へぇ、敵の怪人か? おい、おまえ、名前は?」

『エイユウ、クジョウシドウ、カ。ワガナハ、“クレマラ”……オマエタチヲ、コロスモノダ』

「ハッ、相手にとって不足はねぇ……(七、俺が突っ込む。やばそうだったら防御は頼むぜ)」

「あまり調子に乗らないでくれよ、獅堂……(ああ、わかったよ)」


 誰もが警戒する中、獅堂が腕に炎を纏わせながら走る。

 というかなんだろう、あの大ぶりのテレフォンパンチは。ええっとこれってまさか、様子見?



『ソノテイドノコウゲキデ、ワタシヲハカイデキルトデモ? しすてむ“でぃけおすぃに・あまるてぃあ”――たいぷ“プロミネンス・イーター”』



 走り寄る獅堂に対し、人型ロボット“クレマラ”は排気音を響かせながら腕部装甲を展開させる。すると、ぼんやりとした紅い光が灯り、轟音と共に火球を射出。

 そして――火球同士を“チェーンソーのように”連鎖させ、獅堂に振りかぶる。


「うぉっ、とッ」


 獅堂はすんでのところで回避するも、通り抜けた地面が赤くえぐれる。

 その上、微妙に炎に変化して避けようとしていたはずの獅堂の頬に、焼け痕が走っていた。


「ははっ、異能を抑制した上でコピーした異能を使用ってか?」

『ホウ、アホウデハナイヨウダナ』


 これは、長引けば長引くほど不利になるということ?

 こちらの技術を多量にコピーされたら、こちらも不利になる。それだけならまだなんとかしようもある熟練の異能者たちだけれど、もし、それで取り逃がしたら?

 ――他の異能者が、英雄五人分の異能に、勝てるの?


「全員、早期決着を目指しなさい!」


 時子姉の、悲鳴のような声。

 それは、私と同じ結論に至ったことを示すようなモノだ。


『ソウカンタンニサセルトオモウカ?』

「ぬぅッ! 時子の韋駄天かッ」


 だが、クレマラは脚部装甲を展開・追加装甲の構築をし、“韋駄天”のように素早く動く。それは、私たちの中で“最速”の異能だ。素の身体能力の応用が効く、仙じいでも捉えきれていない。

 更に、背中の装甲も追加展開。赤い炎は、七の“特性スキル”で放ったものだろう。時子姉の韋駄天よりもさらに早くなると、最早、身体強化や窮理展開陣程度では捉えきれない。


「未知ッ」


 捉えきれない、と、そう思っていた刹那。

 拓斗さんの背中が私の前に現れて。



『カバウカ――ダガ、ソレデモイイ。“でぃけおすぃに・あまるてぃあ”、たいぷ“爆熱鋼体”』

「耐えろ、“巨神の鋼腕(ギガント)”ッ!」



 激突音。

 拓斗さんの身体が衝撃で浮く。


『たいぷ“鋼腕”』


 そして、肥大化したクレマラの左腕が、拓斗さんを打ち付けた。


「拓斗兄!!」

『ツギハオマエダ』

「させないよ――【巨人の砦(スモーリオ)】!」

『ソウシグレ、カガミナナ。マァイイ、オマエカラダ』


 吹き飛ばされた拓斗さんに駆け寄ると、壁に叩きつけられ、頭から血を流す拓斗さんの姿があった。


「ッ【速攻術式セット高治癒展開陣ハイヒーリング・バレル展開イグニッション】」


 魔導術で治療をするけれど、意識が戻らない。

 頭を強く打ちすぎた? それとも、打ち所が悪かった? 蒼い顔が、動かない指先が、傷ましい。


「拓斗さん、拓斗さんっ」


 戦闘音が背後から聞こえる。

 みんなが、こちらに余波が来ないように戦っていてくれている。

 なのに、まだ、拓斗さんの意識を戻らせられていない。拓斗さんが、目を開けてくれない。


「いや、いやだよ、拓斗さん、拓斗兄……っ」


 近しい人を失わなくなって、どれほどの時間が経ったことだろう。

 魔王を倒して、平和が訪れて、平和が乱れて、それでも助けられるだけの力を持てるようになった。そんな自負はまやかしに過ぎないと、目の前の光景が責め立てる。





『――背中は押してやる。だめそうなら後ろに倒れてこい。大丈夫、おれが、おまえの背中を支えてやるから』





 あの、優しい声が。

 愛嬌のある柔らかい笑顔が。

 聞こえないなんて、いやだよ。


「拓斗兄……っ」

「――ば……ぁか、なに、泣いてんだ。男として、ぐっ、みろって、言った、だろ?」

「拓斗兄? ッ拓斗さん!」


 項垂れる私の頭に乗せられた手。

 変わらぬ優しい笑みに、胸がぎゅぅっと痛くなる。


「良かった……本当に、良かった。ごめんなさい、拓斗さん」

「は、違うだろ? っつぅ、はぁッ――こういうときは、なんていうんだ?」

「ッ……庇ってくれて、ありが、とう――っ」


 撫でられる手。

 大きくて優しい、手。

 私の、初恋のひと。


「おれの身体は、特別製だ。っはぁ、大丈夫、直ぐに良くなる」

「本当に?」

「もちろんだよ、未知。ま、全部終わったら、デートでもしてくれよ」

「うん……わかった、わかったから、安静にしていて――アレは私が、片付けるから?」

「は? ……お、おい、未知?」


 ふらりと立ち上がり、おもむろにステッキを取り出す。

 散々引っかき回して、散々私の大事なひとたちを傷つけて、生徒たちの晴れ舞台も台無しにして。



「生きて帰れると思わない事ね――【トランス】」



 クレマラが私に気がついて、頭部センサーを向ける。


『ナンノツモリダ? ソレハナンダ? オモチャノボウカ?』

「見て、確かめてみなさい――【ファクト】」

『ソウカ……ナラ、キサマヲコロシテタシカメヨウッ』

「やってみなさい。やれるものなら――【チェンジ】」


 捉えきれない程の速度で、クレマラが襲いかかる。

 けれど――魔法少女の変身は、何人たりとも邪魔をすることが出来ない。

 攻撃行動を無理矢理抑制されたクレマラは、私の目前まで来て正座させられた。


『ナヌ?!』


 そうして、瑠璃色の光に包まれる。

 僅か一メートルの距離で正座して観戦させられている敵の前での、突発的変身ショー。誰が喜ぶ展開なんだこれ、なんて思わなくもないが、“これ”をスクラップにする方が先決だ。

 私怨? いいえ、正義です。そう自分を納得させれば、正義のステッキは嬉しそうに明滅した。感情なんてなかろうが。





「嘆きが空に響くとき」

――振り上げる手はふりふりレースのパツパツ仕様。

「誰かの涙が地を濡らすとき」

――ぷぎゅる、と差し出す足はむちむちニーソ(膝丈とは言っていない)。

「夜明けより現れて悪を討つ」

――パチンッと張る胸は無駄に強調されていて。

「愛と希望と正義の味方」

――揺れるツインテールに瑠璃色の☆。

「魔法少女、ミラクル☆ラピ! 今日も可憐で無敵に、すーいぃっさん!」

――ウィンクとともに、☆(物理)が飛んだ。





 静まりかえる空間。

 時子姉たちはそっと拓斗さんを助けて、私の意図を汲んで戦闘の余波に巻き込まれない位置まで、移動してくれたようだ。


『フ、フカカイダ、ナゼヌグヒツヨウガアル?!』

「必要性は、その身で確かめると良いよ? いっくよー♪」


 可愛らしく踏むステップ。

 ――慌てて飛び起きるクレマラ。

 小首を傾げてウィンク。

 ――腕部装甲を展開するクレマラ。

 大きくのびをしてスマイル。

 ――笑顔と共に発生した☆に、左腕を砕かれるクレマラ。


『グァアアアアアアアァァァッ?! ナ、ナニガオコッタトイウノダ? イマノハナンダ!!』


 スマイルで発生した☆は、物理的に衝撃を持って飛来。

 クレマラの腕武装甲を腕ごと吹き飛ばした、と、言ってしまえばそれだけだ。


『ヌゥゥゥ! たいぷ“爆熱鋼体”!!』

「お願い、瑠璃の花冠! どっ☆かーんっ!」


 轟音。

 風切り音というには生ぬるい音がして、クレマラの腕部を粉々に打ち砕く。

 完全に後出しで、それでも私の方が速い!


『た、たいぷ“韋駄天”――ワルイガヒカセテモラウゾッ!!』

「ほっぷ」


 飛び立とうとするクレマラ。

 対して私は、両手を頬に当てて小顔ポーズを決めながら、可愛らしくお尻をふりふりしてスキップ。

 ――その一歩目が音速を越え、ソニックブームがクレマラの体勢を崩した。


『ハ……?』

「すてっぷ」

『ガグァッ?!』


 二歩目で背後に回り込み、それだけでクレマラの身体が浮き上がる。


『ヤ、ヤメロヤメロヤメテヤメテセッカクウマレタノニセッカクコワシテアソベルトオモッタノニシニタクナ――』

「きぃっく☆」

『――イギャギグガッ!?』


 三歩目を踏み出すと同時に、両足を合わせてドロップキック。

 衝撃でミキサーのように掻き混ぜられた空気は、クレマラの右半身をミリ単位で砕いて、消し飛ばした。


『ア、アアア、アアアアアア、チジョニ、エイユウデハナクチジョニ、マケル?』

「もうっ☆ 女の子に痴女なんて言う悪い子には、オシオキだぞ♪」

『ヒイイイイイヤダヤダヤダヤダヤダクルナァァァァァッ!!』

「【祈願セット】♪」


 残った半身にバーニアを噴かせ、飛び立とうとするクレマラ。

 けれど、自分だけ壊しておいて、自分だけ傷つけておいて、無事でいようなんて優しい道理は存在しない。そのことを、メモリが吹き飛ぶまで教育して差し上げましょう!



「【極大魔法大光線ミラクル・ラピス・ブラスター】」

『ヤメロォォォォォ――』



 空に向かって。

 ただ、雲を突き抜けるように!



「【成就イグニッション】っ!!」

『――ォォォォァァァァアアアアアアアアアァァァッ!?!?!!』



 空に放たれた瑠璃色の極光が、文字どおり雲を突き破る。

 その光の中に消えていったクレマラは、鉄片のひとかけらも残さず消滅した。


「今日も、魔法少女案件はきれいサッパリ、か・い・け・つ♪ みんな☆応援ありがとーっ☆」


 くるっとポーズで、にこっとスマイル。

 頬に指を当てる仕草で小首を傾げつつターンすると、無事だった仲間たちの姿が見えた。

 爆笑する獅堂と、顔を逸らす七と、頭を抱える拓斗さんと、泣く時子姉と、時子姉を慰める仙じいと。


「ああ、終わった、終わった――さて、しのう」

「あわわわ、ま、待ちなさい未知っ! 獅堂、七、あなたたちも止めなさい!」

「痴女、ふふふ、痴女、痴女……」

「仙衛門は拓斗の治療! ほら、二人とも早くっ!!」


 ああ、空が青い。

 逝くには良い天気だなぁ。








 渇いた笑いが、空に満ちる。

 そろそろ普通に戦いたい、なんて、贅沢では無いと思うのだけれどどうだろう?

 空ろに尋ねる私に答えてくれる存在は、どうやら存在しないようだった――。





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