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そのじゅうよん

――14――




 ――遠征競技戦、二日目。

 順調に勝ち上がったわたしたち魔法少女団は、今、テーブルを囲んで作戦会議に乗り出していた。いよいよ次は、準決勝。その相手は、奇しくも同じ関東特専だった。

 けれど、どうしてだろう。わたしが“名誉会長”だというのに、わたしは今日この瞬間まで彼らの登場に、気がつくことが出来なかった。


「なんで、M&Lが……?」

「ろくでもないことに決まってるでしょ」


 わたしの深い呟きに、夢ちゃんが呆れた声を返す。

 M&L……Michi&Lover――即ち、“未知先生を敬愛し信奉する友の会”は、師匠の(本人)非公式(学校)公式のファンクラブだ。

 その名誉会長はわたしだというのに、なんの情報もなく勝ち進み――いつの間にか、こうして敵に回っていた。


「反逆ね。クーデターを起こして、実権を握り、情報を掌握しようとしてるんでしょ」

「! そんな。それじゃあ、彼らの目的は……」

「ええ。おそらく、“顧問の略奪”と“会長の簒奪”に違いないわ」


 そうか、つまり彼らは師匠を自分たちファンクラブの顧問に据えて、日々、師匠からパワーをいただこうと考えているのだろう。つまり、ゆくゆくは、師匠の独占が目的に、違いないだろう。

 そして、副会長以下役員たちが暴走。ついには魔法少女団を脅かしかねない位置まで、のし上がってきたということなんだね。むむむ、これは油断できない。


「負けられないね、夢ちゃん」

「ええ。あの犬共に、どちらか飼い主か思い出させてやりましょう、鈴理」


 表示されたメンバー。全員覆面をしていて、名前の表記は上から一号、二号と続くだけだ。

 けれどたぶん三人は、わかる。こういった場に必ず出てくるであろう男子生徒で、確か、金山君、手塚君、村瀬君だったかな。ここ一年でめきめきと実力を伸ばしているという実力者たちだ。油断は出来ない。確定では無いけれどね。

 おまけに、試合中は“部活ユニフォーム”と称して、全員、白頭巾だ。全員同じようなものに見える、という点は大きいよね。ターゲットをあやふやにしてくる、なんて、敵ながら感心させられるよ。


















「ね、ねえ、なんだか二人とも、真剣そうに話しているけれど、あ、あれって」

「静音さん、気にしてはならないわ。鈴理も碓氷も、少しアレだから」

「キョウカ先輩、アレは可哀想だよ。私もスズリとユメの気持ちはわかるからね」

「あんなのからこんなのにまで幅広く好かれているのか……相変わらず、先生は不憫だ」


 ええっと、四人とも? 聞こえてるからね?

 小声で話される内容に、なんだかちょっと恥ずかしくなる。うぅ、だってピンチなんだよ? 子飼いの部下の反乱なんだよ?

 ――こ、こうなったら、何が何でも会長権を取り戻して、師匠を健全に見守る会にしてやるんだから!




























――/――




 初日と変わらず快晴の中、アイドル、リムちゃんの声が拡声器により響き渡る。


『さぁさぁついにやってきました、ブレイク&ホールディング準決勝! 奇しくも、相対するのは同じ関東同士となりました!!』


 会場から響く歓声。

 午前中は生徒たちの準決勝、決勝。午後には先生方の試合があって、明日はいよいよ英雄入り乱れたエキシビション・マッチ。観客の方々も、昨日で熱を覚えて今日は中日最高の盛り上がりを見せている。

 去年はここまでではなかったからなぁ。なんだかとても、緊張するよぅ。


「すすすす、鈴理、だだだだだ、大丈夫?」

「静音ちゃんのこと見ていたら、なんだか大丈夫になってきたかも。ありがとう」

「ふぇっ?! え、えへへ、どういたしまして?」


 こう、自分よりも緊張しているひとと一緒にいたら、けっこう緊張ってほぐれるよね!

 静音ちゃんに笑いかけると、静音ちゃんもほわっと笑い返してくれた。うん、よし、なんだか緊張なんかには、ぜったい負けないって思えてきた。


「杏香先輩、見てください、天使が二人も居ます。持ち帰りましょう」

「碓氷、私はあなたがいつか捕まらないか心配よ」


 ……えっとね、夢ちゃん。わたしもちょっと心配かな?


『――それでは、チームの紹介です! 連携? 作戦? 集団行動? 彼らの前にはそのいずれの言葉も相応しくはありません。その動きは一つの生き物。全にして一、一にして全の集団力。彼らを見損なうことなかれ。異能者も魔導術師も、とく刮目して警戒せよ! 関東特専謎サークル“M&L”!!』


 紹介アナウンスと同時に、真っ白な空間に降り立つ真っ白な集団。

 とんがり頭巾に白装束。頭にMと、胸にLと刺繍された特異な衣装。宗教団体と言われても納得してしまいそうな特殊な出で立ちに、戦慄を覚えずにはいられない。というか、うん、なんだかちょっときもちわるい。


『対するは光! 闇に対峙する可憐な乙女! これまで全ての戦いで、多彩な戦術を用いながらも手の内をまったく晒さなかった実力者! その花に隠されたのは、甘い蜜か鋭い棘か……関東特専の秘蔵っ子チーム、その名も、“魔法少女団”!!』


 か、かれんな花?

 これはどうしよう。なんだかとってもどうしよう。わたしたちに向けられる視線は、どれもこれも好意的だ。情欲的な視線も“観察”できるけれど、まぁ、男性ならこの程度はある、くらいのものだ。

 なんと言えば良いのか。“アイドル”に向けられる視線とよく似ている、なんて風に思う。


『それでは、実体ホログラム展開! 準決勝の試合は――砂漠フィールドだァッ!!』


 展開されたのは、丘陵おびただしい砂漠地帯だった。

 砂漠の丘や岩場がたくさんあり、荒野と言っても良いかもしれないそのフィールドは、砂塵こそないが、肌で熱を感じるほど暑い。体力の消耗も視野に入れないと、痛い目を見そうだ。


『それでは、両者位置について……――タクティカル・スタートォッ!!』


 開始の合図とともに、歓声がシャットダウンされる。

 今この瞬間から、外界の音からは切り離されて、わたしたちは自分たちの手だけで情報を得なければならない。


「事前情報で出てきたのは、闇から闇へ移動して、石柱の守りは放棄してこちらを削ってくるということだけよ。当初の予定通り、今回の作戦は“迎撃”とするわ」

「はいっ、先輩!」


 杏香先輩に返事をして、配置につく。

 石柱の上にリュシーちゃん。前後にわたしと杏香先輩。左右にフィーちゃんと静音ちゃん。夢ちゃんは気配を消して独立潜行。手口の解らない相手に対する戦法として、考えた配置だ。



『―――い――あ』

「……何か聞こえるな。警戒は怠るなよ」



 フィーちゃんがそう、ハンマーを握る手に力を入れるのが見えた。

 確かに、なにか聞こえてくる。試しに“超覚エンスシス”で捉えられないか意識を集中させて見るけれど、さすがに対策が取られているのか、感覚にノイズがかかる。





『敬愛敬愛敬愛、敬愛敬愛敬愛』

『信奉信奉信奉、信奉信奉信奉』





 響くように、震えるように、声が聞こえる。





『我ら一律、望むは寵愛』

『我ら一丸、臨むは親愛』

『我ら一眼、拝むは微笑』





 その声の位置は――全方向。





『我らの挙動に悩み無く』

『我らの鼓動に迷い無く』

『我らの呼応に淀み無く』





 全方向から聞こえると言うことは、“ボイス”系異能者?

 あれ、でも、関東にいる“ボイス”系異能者は確か、静音ちゃんを含めて二人だけだったはず。ということは、まさか!


「静音さん、警戒なさい! 相手には十中八九“音無おとなし影楼かげろう”がいるわ!」


 なんで、音無君が?!

 まさか、あのビーチバレーの実況をしたことで、師匠のファンになった……とか?

 師匠の人間吸引力はすっごいからなぁ。あり得ない話じゃ無いよね。



『――“闇当て”』

「きゃあっ!?」

「夢ちゃん?!」



 突如。

 砂の中を潜行していたのであろう夢ちゃんが、はじき出される。咳き込みながらもなんとか体勢を立て直してくれたけれど、LPは千近くも減っていた。

 不意打ちのせい、だよね。でも、なんで夢ちゃんが不意打ちに?


「みんな、気をつけて。六人メンバーのうち一人は、私と似たようなモノよ」

「夢ちゃん……それって、まさか」

「ええ。“霧の碓氷”、“無音の門音”、“鮮烈の孔雀院”と並ぶ忍の一派――“闇の影都”に違いない」


 確か、音無君と一緒にあのビーチバレーで実況を勤めていた女の子だ。

 小柄な身体と黒髪ショートで、子猫を思わせる雰囲気。毒舌が売りで、あろうことか師匠を生徒会に引き込もうとした――現生徒会会計、影都かげつ刹那せつなさん。


「リュシーちゃん、未来視はどう?」

「私の異能は、見た風景に準ずる。風景そのものを誤魔化されていたみたいだけれど、気がついてしまえば大丈夫だよ。次は通じない――ただ、初手は通じる可能性があると、気づかされたよ」


 ということは、もう一人は景色……幻覚系?


「いや、影都は闇を操る忍よ。光の屈折に作用していても不思議じゃ無いわ。――杏香先輩、影都は私が対処します」

「ええ。任せたわよ、碓氷」


 杏香先輩に頷くと、夢ちゃんの姿が掻き消える。

 魔力も霊力も感じない……ということは、技術? どんどんすごくなるなぁ、夢ちゃん。わたしも負けていられない。




『敬愛信奉敬愛信奉』

『敬愛信奉敬愛信奉』




 音は変わらない。

 でも、“嫌な予感”はじわじわと近づいている。

 これはもしかしたら、長期戦を覚悟しなければならないかも知れない。




 わたしたちはそう、ただ、息を呑んで襲撃に備えた。





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