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そのご

――5――




 各々で武器を見繕い、集まろうと約束をしてから三十分。

 試用ルームの一角に集まったわたしたちは、それぞれで持ち寄った剣を机の上に並べてみた。

 わたしは超覚エンスシスで“まるで親友のように”とか“恋人のように”とか“愛娘を愛でるように”とか想いが込められて作られた三種類。上から日本刀のように反りのある片刃の西洋短剣、二股で音叉みたいな形の片手剣。両刃の宝石が装飾された可愛らしい長剣の三種類だ。


「スズリのアイテムは珍しいね」

「ぜ、ゼノも“さすがはポチの同胞だ”って褒めてるよ」

「ええっと、ありがとう……?」


 それって、褒めてるのかな? ゼノの中でのポチのポジションも、わたしの中でのポチのポジションも迷子だからなぁ。まぁ、いいや。気にしないでおこう。

 次に見るのは、静音ちゃんが集めてきた剣だ。さすが、ゼノの目利きと言えば良いか。とてもバランスの良い見た目の剣が揃っている。極力シンプルな西洋系の短剣、片手剣、長剣で、どれも色は白。機能美みたいなものを感じるデザインだ。


「へんなモノは付いていない方が良いだろうって、ぜ、ゼノが見てくれたんだ」

「シズネ、店員さんに説明は聞いた?」

「う、ううん。忙しいみたいで、こ、声、かけられなかった。だめだったかな?」

「いいや。凄く、良い勉強になると思うよ。あとで説明するから、悲しそうな顔はしなくても大丈夫」


 ぽん、と静音ちゃんの頭に手を置くリュシーちゃん。

 王子様、として既に後輩の女の子たちから人気者だというリュシーちゃんは、なるほど、そう騒がれる仕草をしているのもわかる気がする。

 かわいいリュシーちゃんも、わたしは好きなんだけどなぁー。なんて、そんな意味を込めて、わたしもリュシーちゃんの頭を撫でてみた。


「す、スズリ?」

「だめ?」

「だ……ダメじゃ無いさ。でも、恥ずかしいかな」

「な、なら、鈴理の頭は私が撫でるね? えへへー」

「あわわわわ」


 なんだろう、これ、三すくみ?

 と、撫で合いをしていたら、周囲の視線がわたしたちに集まってきたことに同時に気がついて、慌てて離れて口笛を吹く。ふすー……吹けなかった。うぅ、恥ずかしい。


「……では、気を取り直して。私が集めてきたのはこれだ」


 そう、リュシーちゃんは恥ずかしそうに咳払いをしてから気を取り直す。

 机の上に並べたのは、やっぱり三種類。でも、どうもわたしたちの視点とは違ったアプローチをしてきたみたいだと、一目でわかった。


「これって……」

「……け、剣、なの?」


 一つは試験管サイズの銀の筒。一つは刀身の無い柄と鍔だけの剣。一つは複雑な、けれど魔導術式とはまったく毛色の違う方陣の描かれた、肘まで覆う左手用手袋。

 これって、剣といっても良いのかな?


「こんな選択肢もある、っていうのを見せたくてね。それっぽいのを探してみたんだ」


 リュシーちゃんはそう言うと、悪戯っぽく笑って見せる。

 でも、考えてみればそうだよね。天下の特専。異能者が千差万別であるように、異能武器だって十人十色であるべきだ。ううむ、考えさせられるなぁ。


「そうしたら、まず、スズリの武器から査収して行こうか」

「うんっ、おねがい、リュシーちゃん」

「ああ、お願いされたよ」


 そう言ってリュシーちゃんがまず手に取ったのは、装飾が施された長剣だ。リュシーちゃんはそれを、“天眼”のある左目で見ているようだった。未来だけじゃ無くて、過去も現在も知ることが出来る、っていうことだったもんね。

 この長剣は、あの眼鏡の男性が“娘のように愛を込めて”作っていた男性だ。試用の際は傷つけないように、かつ、飼わないようであったらそっと戻すように、と言い含められている。

 ところで、ニュアンスが“買わない”ではなく“飼わない”だったのはいったい……いや、深く考えない方が良いよね。うん。

 ちなみにわたしの三種類、どれも――一つは不在だけど――店員さんは効果を教えてくれませんでした。う、売りたくないのかなぁ? うぅ、なんだかわたしの体質で、“変態さん”を集めてしまったような気がするよぅ。


「これは、剣として扱うモノでは無いね」

「えっ」

「そうだなぁ……。スズリ、魔導術で人形とかは作れる?」

「うん、やってみる」


 試用スペースでは、当然と言えば当然だけど異能や魔導術を併用して扱う必要があるから、記録はされるけれど使用は許可されているし、あとで届け出をする必要も無い。

 わたしは脳内で必要な術式を思い浮かべると、詠唱を開始する。


「【速攻術式セット物質生成展開陣(マテリアライズバレル)速攻追加インクリース木人形ウッドパペット展開イグニッション】」


 作り出したのは、よく、デザイン系のグッズが売っているようなお店で見かける素体人形だ。球体関節がうまく成功するとは思わなかったけれど、どうやら異能の精度と比例するように魔導術もうまくなってるみたいだ。


「さすがスズリだね」

「す、すごいよ、鈴理!」

「え、えへへ? そうかな?」


 なんだか、こうも率直に褒められると照れてしまう。

 うぅ、顔が熱いよぅ。


「では、早速実演してみよう。【起動ライズ】」


 リュシーちゃんがそう唱えると、長剣に拵えられた宝石がぼんやりと輝く。

 その剣で素体に傷を付けると、輝きが素体に移ったように見えた。


「踊れ」


 その一言で、素体が立ち上がって踊り出す。

 動きはぎこちないけれど、でも、ちゃんと理解しているんだ。


「すごい!」

「な、なるほど、確かに“剣”ではないね。でも、お、おもしろい」

「ねぇリュシーちゃん、これでゼノを操るカモフラージュにできないかな?」

「あ、そ、そうだよ。ど、どう? リュシー」

「他校にはバレないだろうけれど、ゼノそのものが止められているからね。うちの先生たちに発覚して無理だと思うよ」


 あぅ。そうだよね、ゼノの存在を知る人がいるのはうちの学校だ。

 瀬戸先生にでもばれたら、きっと、大目玉に違いない。瀬戸先生、怒ると正論で論破を一時間繰り返すって聞いたことがあるからなぁ。


「で、次はこれだね」


 そう言ってリュシーちゃんが手に取ったのは、音叉の形をした片手剣だ。

 ひょっとして音を増幅させるのかな? なんて思って手に取ったのだけれど、これを“恋人のように”愛でながら作ったお相撲さんみたいな感じの男性は、なにやらトリップしていて無反応だった。


「これ、も、剣じゃないね」

「ええっ」

「げ、元気出して、鈴理」

「うぅ」


 も、かぁ。

 まさか二つ目も剣じゃ無いなんて思わなかった。あ、でも効果が音に関わるモノなら、セーフかな。そう思ってリュシーちゃんを見上げると、リュシーちゃんは備え付けの試用標的人形を離れた場所に置いていた。ええっと?


「これの扱い方は、こう。【起動ライズ】」


 キィンっと、硬質音。

 音叉の中央から溢れた光が、レーザー銃のように光線をはき出して、標的人形の胴体を撃ち抜いた。


「じゅ、銃、なのかな?」

「みたいだね。この二股も、剣身では無く増幅装置だ。斬ったら折れるよ」

「そんなぁ……」


 本当にイロモノばっかりなのかな。

 あれ、でも、もう一つある。これが剣なら、セーフかも。そう思って期待を込めた目でリュシーちゃんを見ると、リュシーちゃんは応えるように苦笑した。


「最後のこれは、ちゃんと剣だね。日本刀の職人さんが試作で作った西洋剣、といったところかな。能力は……【起動ライズ】」


 “親友のように”という願いが込められたこの反りのある片刃の西洋短剣は、唯一店員さんが不在だったお店だ。試用はご自由に、という看板があったから、試用に持ち出させて貰った、という流れだったことを思い出す。

 リュシーちゃんがそれを起動させると、西洋短剣はぼんやりと翡翠の光に包まれた。それをリュシーちゃんが振り下ろすと、さっきの標的人形が僅かに揺れる。


「十メートルの距離だとこれだけれど……」


 なんとなくリュシーちゃんの言いたいことがわかったので、小走りで標的を抱えて、戻ってくる。標的人形を二メートルほどのところに置いて見ると、リュシーちゃんは笑顔で頷いてくれた。


「このくらいの距離で」


 再び、翡翠の光が溢れる。

 もう一度リュシーちゃんが振り抜くと、標的人形が見えない圧力に弾かれて、吹き飛ばされた。今のって……。


念動力テレキネスだね。近づいた相手に衝撃を与えることが出来る、護身用の短剣だろう。もちろん、剣としても扱えるよ」

「や、やったね、鈴理」

「うんっ」


 そっか、なるほどなぁ。

 確か、念動力は一番下のEランク稀少度の異能だ。ある程度、上位の異能者なら霊力で似たような現象を起こすことが出来る、という程度のモノだという。

 その性質を生かして、武器に宿らせた、ということなのかな。今までの三つで一番、“研究試作品”っぽさのある剣なように思える。


「さて、どれを選ぶというのは置いておいて、いったん、シズネの持ち込みを見よう」

「は、はいっ! よ、よろしくね、リュシー」

「うん、任せて」


 そう言ってリュシーちゃんが見るのは、静音ちゃんが持ってきたゼノ目利きの三種類だ。

 一般的な西洋剣のジャンルで、短剣・片手剣・長剣の三種類。

 まずリュシーちゃんが手に取ったのは、短剣だった。ナイフと片手剣の中間くらいのサイズで、長さが普通の人の上腕程度のものみたいだね。


「これは……ふむ、属性剣だね」

「属性剣? リュシーちゃん、それってなに?」

「見ていて。【起動ライズ】」


 リュシーちゃんが唱えると、翡翠の光が剣に吸い込まれる。

 すると、次いで短剣が燃え上がり、爆発をするような炎が試用室の天井を灼く。たった一度の炎上で短剣は焦げ付き、起動が怪しくなってしまったようにも見えるのだけれど……ええっと?


「うーん、耐久性に難あり、だね。これが属性剣。つまるところ、発現型アビリティタイプの異能の中でも、明確な属性が込められた武器のことだよ」

「う、うっかり使ってたら、これ……」

「見分け方は単純に、起動はせずに霊力を込めてみると良い。霊力が吸い込まれたら属性剣だよ」


 相手か自分か、どかん、だよね……。

 なんだろう。これもまた、“らしい”研究試作武器だ。


「ちなみに、片手剣の方も同じだね。【起動ライズ】」

「ひゃっ、冷たい!?」

「こ、氷の属性剣? でもこれ、どうすれば、い、威力を調整できるの?」

「ははは……できないみたいだね」


 リュシーちゃんが手に持つ片手剣から、冷気が漂ってくる。

 床に突き立てれば凍る、くらいのことにはなりそうだ。あわわわ。


「じゃ、じゃあリュシー、長剣も?」

「長剣の方はちょっと毛色が違うね。【起動ライズ】」


 リュシーちゃんがそう言いながら長剣を手に取ると、長い剣身が二股に割れて、真横まで開く。それから、鍔のところで剣身が縦軸に半回転。そのまま、剣先同士が光の糸で繋がる。


「ねぇリュシー、こ、これって……弓?」

「そうだね。遠距離は弓で戦って、中距離を長剣で制するためのギミックソードだろうね」

「ギミック……夢ちゃんの武器みたいな?」

「はは、そうだよ、スズリ」


 なんだかあんまり丈夫では無さそう、だけど、面白いなぁ。

 あれでも、そうすると近距離はどうするんだろう? そう尋ねると、リュシーちゃんはわたしに長剣の鍔の部分を見せてくれた。


「ほら、ここに接続を試したような痕があるの、見える?」

「え? うん」

「おそらく本当は、ここで切り離して双剣にしたかったのだろうね。これを試作品に、そういったギミック武器を作るつもりなんだろう」


 なるほど。そのためのプロトタイプだもんね。

 これから色々と勉強して、派生させていくんだね。


「じゃあ最後に、私が持ってきたものを見ようか」

「そうだ。あの、変なの!」

「か、形から効果がわからないもの、だよね?」

「うん、そうだね」


 リュシーちゃんがまず手に取るのは、試験管サイズの銀色の筒だ。

 それに、起動はせずに翡翠色の霊力を溶け込ませると、筒から銀色の液体? が、でろんと出てきた。


「うひゃあ、なにこれ?」

「これは、こう。【起動ライズ】」


 そうすると、銀の液体が形作られ、物質化する。

 ええっと、この形は剣?


「形状記憶魔銀だね。霊力を通して起動することで、様々な形に変化する。弱点は、一定以上の衝撃が加えられると液体に戻ってしまうところ、かな」

「り、利点は、形を選ばないところ?」

「そうだよ、正解だ。シズネ」


 そっか、剣じゃ無くても良いんだ。

 斧や槍にしても良いのだろうけれど……うん、確かに丈夫さはなさそう、かも。


「次はこれ。これも効果は似たような感じで……【起動ライズ】」


 今度は、剣身のない剣だ。

 リュシーちゃんの詠唱に従って、ブゥンと音が鳴り、光の刃が出現する。なんだかすっごく近未来的というか……うん、SFチックな剣だなぁ。


「す、すごい、けどこれ……」

「焼き切るための剣だから、そもそも打ち合いは出来ないだろうね」

「……だ、だよね。えっとなら、さ、最後は?」


 最後のものは武器というか剣というか……手袋、だよね?


「ああ、これはイロモノだよ。こうやって装着して」


 と、リュシーちゃんは左手の肘まで覆う手袋を嵌める。

 ちょっとサイズはぶかぶかかな? なんて思っていたけれど、自然にサイズ調整が行われてぴったりになった。


「【起動ライズ】――こう」


 詠唱しながら、左手の掌に右手の握り拳を当てるリュシーちゃん。

 そのまま標的人形に向かって右手を振り抜くと――光の刃が、標的人形を切り裂いた。


「な、なにこれ?」

「居合いから一閃分のエネルギーを放射する、特殊兵装だよ。無手に見せかけた奇襲用暗器だね。これはオススメ、というよりも、“こういう手合い”がいることもあるから気をつけて、といった程度の話かな」

「ほへぇ」

「どれも実用品としては怪しいけれど、参考にはなったと思うよ。ね?」

「う、うん、た、確かに」


 そうだよね、奇抜な武装なんて、他に見る機会なんか無いもんね。

 あれ、そうなると、実際に静音ちゃんが選ぶのは、これの中から、ということ?


「いや、そうでもないよ。今のことを参考に、改めて武器を選びに行っても良い。シズネはどうしたい?」

「わ、私は――この中から、選ぶよ」


 どうやら、この中でも気になるモノはあったようだ。

 静音ちゃんは腕輪を握り、ゼノに意識を傾けながら選んでいく。そうやって最後に手に取ったのは、二振りの剣だった。


「ぎ、ギミックはあくまで補助にしようと思う。だ、だからこの長剣と、鈴理の選んでくれた短剣。ちょうど遠距離用の武装も、ほ、欲しかったから――だから、どう、かな?」

「はは、シズネが良いと思ったモノを使うのが一番だよ」

「うんっ、良いと思う!」


 静音ちゃんはわたしたちの言葉に、はにかむように笑う。

 なんにせよ、これで武器の問題は解決だ。わたしは、短剣のお店を進めてくれた棟方先輩に心の中でちょっぴり感謝をしながら、武器を手に持ってみる静音ちゃんを、手伝う。



「これで一安心、だね」



 誰に言うべくもなく口に出した言葉に、リュシーちゃんはそっと笑いかけてくれる。

 遠征競技戦まであと僅か。準備は万端、みたいだね。





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