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そのよん

――4――




 関東特専大学院研究学区。

 リュシーちゃんの案内の下、訪れたわたしと静音ちゃんは、まずは目利きチェックも兼ねて武器を選んでくることになった。

 形状は当然剣。そういえばどんな剣を望んでいるのかは聞きそびれてしまったけれど、静音ちゃんが片桐総合病院の地下で使っていたようなものを選べば良いかな、なんていう風に思っている。


「えーと、どれが良いんだろう?」


 なんだか色々ありすぎて、目移りしてしまうというのが本音だ。

 なのでここは、最近習得した技能に頼ってみることにする。


「異能武器、なら――“超覚エンスシス”」


 霊力で感知。

 本来、超覚エンスシスで霊力を感知すると、そのひと個人で差のある感じ方をするらしい。それは例えば、甘い香りで感知するのならその強さで。熱で感知するのならその熱さでそれぞれ捉える。

 でも、どうやら、“相手の感じる感覚で異能を捉える”という珍しい形で発現したわたしの超覚エンスシスは、その人がどんな感覚で霊力を捉えながら異能を使用したのか理解できる、という方向に落ち着いたようなのだ。それは、自分の主観で捉える範囲を超越した感知――相手の主観を見る、なんていう離れ業。

 それはつまり、“真心”を込めて作った武器があれば、わたしの超覚エンスシスはそれを理解できると言うことだ。武器の目利きはさっぱりなわたしでも、この方向ならみんなとは違うアプローチで探し出すことが出来ると思うんだよね。


「そこの君、魔導武器はどうかな?」

「はい? ごめんなさい、わたし、異能武器を……」


 かけられた声に顔を上げて、なんだか見たことのある顔立ちに首を傾げる。

 黒髪黒目で、なんというか印象に残らない雰囲気。でもどうしてか見覚えがあるのだけれど、どこだったか。えーと、ああ、そうだ。


棟方むねかた先輩?」


 告げた言葉に、先輩は目を瞠る。

 そうそう、こう、キューピッド様に友達をお願いしていた方で――いや、これ以上は止めておこう。なんか不憫な気持ちになってしまう。

 ええっと、棟方むねかた恭弥きょうや先輩。特専高等部三年生で、受験と友人捜しに明け暮れる先輩だったはず。残念ながら超覚エンスシスで魔力は感知できないが、まるで友達でも扱うように丁寧に扱っているようだった。


「どこかで会ったことがあったか? ……はっ、まさか潜在的ともだ」

「違います」

「そ、そうだよな。はははは、はぁ。まぁいいや、異能武器なら奥で同士が作っているから見ると良い」

「友達ですか?」

「いや、知人」


 そっか、友達が出来たわけじゃ無いんだね。

 なんだか昔の自分を思い出して胸が痛い。だからといって、友達になろうと言うのは同情が過ぎることだろう。ここは素直に、お礼を言って向かってしまおう。

 棟方先輩に頭を下げて、知人だという方のブースに向かう。なにか、良いのが見つかると良いんだけどね。












「えーと、ここかな?」


 その方のスペースは、なんというか、店員さんは不在だった。

 キッチリと武器が置かれていて、日本刀が中心。中には西洋剣もあるが、それも片刃のモノばかりだ。


「さっそく……“超覚エンスシス”っと」


 それらを、霊力感知でよく見ていく。

 どうやら店員さんは、超覚エンスシスを扱う際に音で判断するようだ。撃鉄の鳴るような、あるいはハンマーで鉄を叩くような音。聞き分けると、心にしみいるように感じる。

 この人は、作ったモノを“友”のように扱っているのだろう。撃鉄の音は、寄り添うように心地よい。


(あ、これ)


 その中でも、一振りの短剣が目に入った。

 西洋風の短剣だが、日本刀のように反りがある。刃と峰の間、確かしのぎと呼ばれる部位には複雑な紋様が刻まれていて、梵字? と言うのだったか。力ある言葉があることがわかった。

 あるいは本当に、親友と作った剣なのかもしれない。


「持って行っても良いのかな? 試用はご自由に……? なるほど、では試用にお借りします、と」


 誰も居ないカウンターに頭を下げて、剣を持ち運ぶ。

 これはもしかして、幸先が良いのではないだろうか。そう思うと、自然と足取りは軽くなった。
















 ……の、だけれども。

 次に立ち寄ったところは、キラキラとした装飾のついた、可愛い武器がたくさん売っているお店だった。ラピが持っていそうなステッキから、子供向けと言えなくもないゴテゴテとした槍まで、本当に様々だ。

 その中でも気になったのが、超覚エンスシスで捉えた宝石装飾の長剣。甘ったるい匂いから感じる制作者の主観は、これ、ええっと、親愛? 愛娘のように、ということかな。自分の作品を子供のように思う人って、珍しくないみたいだし……そういうことなのかな?


「あの、これ、試用に持って行ってもいいですか?」

「ははん? ぼくのリフェリーちゃんを飼いたいのか?」

「ええっと、まだわかりませんが、試用したいと思っています」


 店員さん、即ち制作者の方は、眼鏡をかけた細身の男性だった。

 男性は目の下に濃~い隈を作っていて、心なしかふらふらとしているような気がする。だ、大丈夫なのかな?


「試用? 良いけど、大事に扱えよ。傷つけるなよ。あと、飼いたいんじゃなければそっと返せ。いいな?」

「かう、買う、えっ、飼う?」

「なんだよ」

「な、なんでもないです。お借りしますねっ」


 なんだか圧倒されてしまったけれど……うぅ、大事に返せば大丈夫だよね?

 でも、試用はするんだし。大切に扱うことはもちろんだけれど、持ち運びにも気をつけなきゃなぁ。はぁ。


















 なんて、ぽやぽやしていたからだろうか。

 次に立ち寄ったお店も、なんというか変なところだった。


「むふふ、どうだい、おいらのマイラヴァーたちは」


 お相撲さんのような体型の男性が、そう、わたしに武器の類いを薦めてくる。

 さきほどの眼鏡の男性ほど、武器にわかりやすい特徴がある訳では無い。ただ、大剣に噴射口がついていたり、鞘に銃口がついていたり、なんだかさっきとは別の意味でゴテゴテとしていた。

 超覚エンスシスで判断する限り、この人は感知に胸の高鳴りを感じている。より愛を捧げれば、それは本当に恋人を相手取るようなトキメキを得られるのだろう。つまりこの人は、制作した武器に恋をしているのだ。恋、恋かぁ。濃いなぁ。


「あ、これ」

「らんるんちゃんが気に入ったの?」

「ら、らんるんちゃ……ええっと、見ても良いですか?」

「んふふふふ、いいよぉ」


 なんとなく、怖いと思ってしまう自分が申し訳ないです。はい。

 そんなことを考えていることを極力表情に出さないように注意しながら、武器を手にとってみる。それは音叉のような形をした剣だった。


「これって、音に関わりがあるんですか?」

「だめだめ! プロフィールは自分で聞くこと!」

「は、はぁ」


 ええっと、教えてはくれない、ということかな。

 剣先が二股に割れた片手剣。まさしく音叉のような形をしているし、もしかしたら音に関わるのかも知れない。それなら、静音ちゃんの異能にぴったりだ。


「これ」

「らんるんちゃん」

「……らんるんちゃん、試用しても良いですか?」

「デートだね? 君にらんるんちゃんを貸すのは心が痛むけれど、らんるんちゃんにも女友達は必要だからね。特別に! 許可をしてあげよう」


 欲しくなったら本当に売ってくれるのだろうか?

 疑問に思いつつも、愛想笑いで頭を下げる。


「あ、ありがとうございます。では、お借りしますね」

「ああ、良いとも! らんるんちゃん、楽しんでおいで~」


 そう、ひらひらとわたし(と剣)に手を振る男性。

 あれ、なんでこんな、奇抜なところばかりに吸い寄せられてしまったんだろう。

 色々と不可解なところはある……というか、認めたくない自分の体質が十二分に効果を発揮してくれたようだけれど、とりあえず、三つもあれば良いだろう。





「どれか、気に入ってくれるかな?」


 できれば、その“あと”に、余計な問題が起こりませんように。

 そう願う足取りは、不思議と最初の一歩よりも、ずっと重く感じた。





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