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そのさん

――3――




 関東特専大学院及び研究学区。

 地図を見た時の一番左側に存在するこの学区の役割は、大学院校舎というよりも危険を伴うような実験や、危険なことがあっても大丈夫なように配慮された場所なのだという。

 遠征競技戦までの間、わたしたちは特訓やら勉強やらと忙しなく過ごしていた。本当ならこの土曜日もちょっと遠出して見ようかとかも話していたのだけれど……急務ができたので、そちらに対応することに決まったのだ。


「ご、ごめんね、二人とも。私のために……」

「大丈夫大丈夫、わたしも行ってみたかったんだよね!」

「私なんか、こうしてシズネとスズリと出かける日を楽しみにしていたんだ。それではだめかな? シズネ」

「だ、だめじゃない! あ、ありがとう、鈴理、リュシー」


 赤くなった静音ちゃんを、わたしとリュシーちゃんは二人がかりで撫で回す。

 今回、夢ちゃんは情報収集したいことがあって離脱。杏香先輩は諸々の資料を揃えてくれている。リュシーちゃんは“目利き”ができるので同行して、浮いたわたしはオマケで着いてこさせてもらったのだ。


「けれど、まさかそう来るとはね」


 わたしがそう、思わず呟く。

 そうしたら、静音ちゃんとリュシーちゃんは、まったく同じタイミングでこくこくと頷いた。ううむ、やっぱり考えることは同じかー。だよねぇ。


 さて、わたしたちがこんなところに居るのは、もちろん理由がある。

 事の起こりは昨日のことだ。色々と忙しい師匠に変わって、監督のレイル先生がわたしたちに通達をしたことがある。




















――金曜日――




 部室に集まったわたしたち。レイル先生が用があるのはそのうち二人。わたしと静音ちゃんだった。てっきりわたしは、異能の制限をさせられると思ったのだけれど。


「いや、異能はシヨウしてかまわないよ」

「そうなんですか?」

「ああ。クギを刺されたのは、そっちじゃなくてソレだ」


 そうレイル先生が指さしたのは、静音ちゃんの腕輪だった。


「鈴理、静音。君たちの“悪魔”のシヨウをキンじる、とのことだ」

「ええっ、で、では、ゼノれないのですか?」

「良いかい、静音。ゼノられて無事なガクセイはイナイ。ダメージ変換結界を抜く可能性のあるキケンドだということを、自覚した方が良い」


 そっか、ゼノるとそんなに危険なんだ……。

 でも、そうだよね。そもそもゼノってゼノの存在が衆目に知られるようなことにでもなれば、静音ちゃんが社会的にゼノられかねないのかな。魔鎧王だもんね……。

 ということは、わたしが呼び出されたのも同じ理由ということかな。そうレイル先生に首を傾げてみせると、レイル先生はふかぶかーと頷いた。


「ポチも当然ダメだよ」

「で、でも先生。す、鈴理のポチは公式には、み、未知先生の契約魔獣ではないんですか?」

「ダカラさ」


 だから……って、もしかして。


「ポチが師匠の所有物だから、わたしに貸し出したら問題になる?」

「そう、そういうことだよ、鈴理。さすがに教員がダイレクトに手を貸すわけには行かないからね。速攻術式と異能があればモンダイないと、君の師匠からのおスミ付きだよ」

「師匠が……」


 でも、考えてみれば当たり前だよね。

 高原先生が、あの軍隊みたいな異能で警護させた生徒を、試合に出すようなものだ。さすがにそんなことをすれば、えこひいきと言われるだけならまだしも、わたしも師匠も失格にされかねない。


「ということで、当日のゼノる、ポチることはキンシだ。良いね?」

「はい!」

「は、はい」


 そういうことなら頷くほか無い。

 でも、幸いなことにこれはチーム戦だ。支え合えば勝てないことなんてきっとないと思うんだ。

 ……なんてわたしは自信満々だったのだけれど、静音ちゃんはどうにも元気がないように見えた。どうしたのかな?


「静音ちゃん?」

「あ、あの、鈴理……実は」

「え?」


 俯く静音ちゃんから、詳しくお話を聞いてみる。

 そうしたら、幾ばくかの逡巡のあと、静音ちゃんは話してくれた。


「剣を扱うこと、そ、想定してたんだ。だ、だから――剣を買いに行くの、て、手伝って?」


 と、静音ちゃんは瞳を潤ませて、わたしに問いかけたのであった。




――なんてことがあって――

















 そんなこんなで、わたしたちはこの大学院研究学区に来ていた。

 というのもこの学区、研究員たちが作った異能武器を学生向けに安価で販売しているらしいのだ。わたしは武器を使う感じでは無いからまったく知らなかったけれど、魔導術師向けのものも売っているらしい。

 当初、リュシーちゃんは自分のお父さんに頼んで静音ちゃんの武器を作って貰おうとしていたらしいんだけど、静音ちゃんが“そんな高価な物は受け取れない”と言って断ったみたい。そうだよね、有栖川博士みたいなその道の権威にそんなの作って貰ったら、一生頭が上がらないし、手が震えて使えないよね……。

 と、そんなこんなでわたしたちは、安価で使いやすい剣を見繕うために、機械剣に強いリュシーちゃんと、剣そのものに強いゼノの意見を聞きながら、異能武器を探すことになった、というのが顛末だったりする。


「あれが販売所だね。シズネ、値段設定は?」

「こ、ここに売っているモノ程度であれば、え、Sクラス生徒の補助金でまかなえるみたい」

「そっか。静音ちゃん、Sランク稀少度の補助金があるんだ。選び放題だね!」

「なら、使いやすさで見ていこうか」


 リュシーちゃんの案内に従って、校舎の一角に入っていく。

 どうやら、教室の一部を常に解放している、というよりは、最初からテナントのようにまっさらなスペースが作られていて、そこを使わせているみたいだ。




「いらっしゃい、うちの武器はどうだい!」

「うひひひ、この剣は千年前の王国遺品をイメージしたもので……」

「包丁から剣までひととおり揃ってるよ!」

「武器と言ったら銃だろ、銃! そこのお嬢ちゃん、銃はどうだ?!」

「槍、斧、鎚、よりどりみどり自爆つき。壊したら弁償ね」

「ギミック武器だよ! このハンマーは剣になるんだ! どうだい?」




 ……と、中はけっこうな熱気に包まれていて、静音ちゃんは早々にわたしの背中に隠れてしまった。

 なんでも、売れると研究費として使って良いらしい。そのため、日々かつかつの研究者たちはここで必死なんだとか。一部、どう見ても趣味一辺倒みたいなブースもあるみたいだけれどね。


「ここで、試用も可能なんだよ。ほら、隣に専用のブースがあるのが見えるかな? 建物から出すと防犯装置が働くみたいだけれど、試用スペースで扱ってみるのは問題ないんだ。今から一度手分けして、ぴんと来たのを集めてみて。その上で、一度、選び方を覚えよう」

「未来のわたしたちのために、ということだよね? リュシーちゃん」

「さすがスズリ、正解だよ」

「な、なるほど……」


 つまるところ、“自分の選んだ武器のなにがだめで何が良いか”という選び方を教えてくれる、ということだろう。

 ゼノは剣を見る目は間違いないだろうけれど、異能武器となると難しいだろうからね。


「では、一度解散。三十分後に戻ってこよう。それで良いかな?」

「うん、わかった!」

「あ、ありがとう、リュシー。じゃあ、い、行ってくる!」


 三者三方向に分かれて、異能武器の探索開始。

 ……なんだけど、そういえばわたしはなんで、探す側に組み込まれているんだろう? いや、為になりそうだから、望むところではあるんだけどね?





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