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そのいち




――1――




 怪我と入院に費やされた夏休み。

 結局、残り一週間しか遊ぶ暇は無く、わたしたちは二学期に突入することになってしまった。あうぅ、これもどれもジャックのせいだー!

 そんな風に嘆いても、時間が巻戻るわけではない。それに、夏休みが終わったことは、なにも嫌なことばかりじゃ無いんだ。なんといっても、夏休み中は丸々実家にいなければならなかったフィーちゃんが、戻ってくるのだから。


「鈴理、だらけすぎよ」

「ほえ~?」


 第七会議室。

 魔法少女団の部室と言えるこの教室で、わたしは夢ちゃんと二人、机に突っ伏して垂れていた。だってまだまだ暑いから、冷たい机が恋しいのだ。


「……クッキー、食べる?」

「たーべーるー」


 口元に運ばれたクッキーをかじる。

 あ、これたぶん、手作りだ。さくさくしていて美味しい。


「早いな、もう来て――ユメ、それ、私もやる」

「あら、リュシー。良いわよ、ほら」

「リュシーちゃん? リュシーちゃんだー」


 リュシーちゃんが帰ってきてくれたタイミングで、見事に再入院を果たしていたわたし。

 お見舞いに来てはくれたけれど、結局、全員揃って遊びに行くことは出来なかった。シルバーウィークに期待かなぁ。


「スズリ、ほら」

「むぐ、あうあう、おいひぃ」

「ユメ! ユメ! これ飼いたい!」

「ダメよ。私が飼うんだから」


 えっと、誰にも飼われないよ?

 でもなんとなく、二人とも楽しそうなので口を挟めない。

 ……あれ? これって私、もしかしなくてもフォアグラにされてしまう流れ?


「りゅ、リュシー、は、早いよ」

「楽しみにしていたんだろう? おはよう、夢、鈴理……鈴理?」

「わわわ、リュシー、そ、それ、わたしもやる!」

「ず、ずるいぞ静音! そうだ、私も菓子の一つや二つくらい」


 静音ちゃんとフィーちゃんがやってきて、わたしの口元にお菓子を運ぶ。

 静音ちゃんはチョコレート、フィーちゃんはマフィンかな? おいしい。







「……ちょっとあなたたち、なにをやっているの?」

「あ、杏香先輩」


 夏休み前から数えて、一ヶ月以上ぶりに久々な杏香先輩。

 先輩は呆れたようにため息を吐くと、いつものようにくいっと眼鏡をあげた。


「――豚になるわよ、笠宮鈴理」

「はい、もう起きました!」


 がばりと起き上がってそう言うと、杏香先輩に更に深いため息を吐かれる。

 いやでも、わざと丸くなろうとしていたんじゃ無いんだよ? ただこう、自然と口元にお菓子が運ばれてきただけで。


「全員、暑さで頭が茹だっているようだから、涼しくなるモノを持ってきたわよ。目をお通しなさい」


 そう言って、杏香先輩は、わたしたちの前に書類を置く。

 涼しくなるようなものってなんだろう。怖い話、とかかなぁ。だったらたぶん、わたしたちに見せるように師匠に見せた方が良いと思うんだけど?


「えーと、なになに……」


 一足先に、速読のようなスピードで読み終えた夢ちゃんが、氷のようにぴしりと固まった。わたしは、そんな夢ちゃんの様子を不思議に思いながらも、マイペースに文章を目で追っていく。

 ええっと、教員会議で可決、生徒会も承認。んんん?






『魔法少女団の活動内容不明 実績の提出なければサークル降格の上部室没収』






 ぶしつぼっしゅう。

 ええっと、部室没収?


「うぇえええええええええぇっ!?」


 ええっ、なんで?!

 だって実績だなんてそんな、この部室を取り巻く事件を解決した時に、実績は確保できたんじゃないの?

 混乱する頭で周囲を見回すと、みんな一様に顔色が悪い。だって、それはそうだよね。この場所が没収されるなんて、そんなのいやだ!


「杏香先輩……」

「そんな顔をしないで頂戴、鈴理。わかっているわ」

「じゃあ!」


 みんなで顔を上げて杏香先輩を見ると、杏香先輩は目に見えてたじろいだ。

 そういえば、年の離れた弟や妹が居るから、年下に弱いのだったか。杏香先輩は、赤くなった顔を誤魔化すようにそっぽを向く。


「部室確保の事件は結局、コトが大きくなりすぎたから、うやむやになったのよ。だから私たちは目に見える成果を出して、この決定を覆さなければならない。そこまでは良いわね?」


 うん、と、わたしたちが頷くと、杏香先輩は満足げに笑う。


「そして、魔法少女団における“目に見える実績”というものは、魔法少女の研究を通して力を身につけた、とするのが手っ取り早いわ」

「喧嘩や決闘をするということ?」

「ええ、正解よ、碓氷」

「せ、正解って、それで良いんですか……?」


 わたしも、静音ちゃんの意見に同意するようにこくこくと頷く。

 今のところ、夢ちゃん側に立っているのはフィーちゃんだけだ。リュシーちゃんも、わたしたち側に居てくれる。


「良いも悪いも、合法的に“良くなる”手段があるでしょう?」


 合法的に?

 そんな方法があっただろうか? そう考えるわたしの横で、リュシーちゃんがぽんっと掌を叩いた。


「わかった、キョウカ先輩!」

「はい、有栖川」

「“遠征競技戦”だろう?」

「ええ、正解よ」


 あ。

 そっか。

 それがあった。


 メガフロートの上に築かれた施設で行う、最大規模のイベント。

 特専七校が集まって、最強を見いだす競技戦。そこでの実績は、学内に収まるモノでは無い。優勝という二文字は、世界の特専にも響くと言われた一大イベントだ。


「遠征競技戦か……私は初めてだが、うむ、心が躍るよ」

「そ、そっか、フィーは、は、初めてなんだね」


 そっか、フィーちゃんは去年まで海の向こうだったもんね。

 そうすると、必然的に説明が必要になるだろう。そう察した夢ちゃんが、すくっと立ち上がってホワイトボードマーカーを手に取った。


「よし、んじゃ、なにに参加をするのかっていう意思疎通を前に、どんな競技があるのかおさらいするわよ」


 そう言って、夢ちゃんはどんどん書きだしていってくれるみたいだ。

 ……正直、覚えていなかったので助かります。うぅ。






 ・チームに渡されたフラッグを破壊、もしくは確保し合う“フラッグ・キャスト”。


 ・機密書類が入っていると設定されたトランクを守りながら、目的地までの道程を競い合う“トランク・コンバート”。


 ・異界をイメージして作られた箱庭で、謎を解き脱出する速度を競う“フロア・エスケープ”。


 ・同じく異界をイメージした箱庭で、指定物を複数チームで探し出す“フロア・サーチ”。


 ・九十秒間で異能や魔導によって映像を作り上げ演出する、“スクエア・フィギュア”。


 ・保持と破壊に分かれ、人間大の柱を指定時間競う“ブレイク&ホールディング”。


 ・エリアに配置されたターゲットを破壊しながらゴールに向かう“シュート・レーシング”。






 わたしたちが参加経験があるのが、一番上のフラッグキャストだ。

 今回もそれでいっても良いのだけれど、魔法少女団全員でなにか成さなければ根本的な解決にはならない、ということらしい。

 となると、人数制限も加味して参加できると言えば。


「ブレイク&ホールディング……より本格的にしたフラッグ・キャストであり――偉い人たちが楽しみにして訪れる街」


 そう、しみじみと呟く夢ちゃん。

 けれど、なるほど、そういうことでありならば!


「さすがね、碓氷。それからみんなも……文句はないみたいね。この部室の存在には、私もずいぶんと助けられているわ。――だからこそ、没収なんてさせる気は無い」

「なら……!」

「ええ。そうよ、笠宮鈴理。それからみんな、良いわね? 遠征競技戦、ブレイク&ホールディングに参加。そして必ず上位に食い込むことで、実績を確保する……!」


 杏香先輩の力強い言葉に、わたしたちも一丸となって頷く。

 どうやら今回の“遠征競技戦”は、わたしたち全員――全力で取りかからなければならないようだ。




「やるわよ、魔法少女団!」

『おーっ!!』




 手を振り上げた先は、未来への道標か。

 そんなこんなで我ら魔法少女団。どうやら、勝利のために全力を尽くすことになりそうです。

2017/04/24

2024/02/02

誤字修正しました。

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