そのいち
――1――
――ザザッ
「おねえちゃんなら、大丈夫だよ」
――ジッ―ッ―ザッ
「みちせんせー、おはよーございまーす」
「はい、おはよう、鈴理ちゃん。今日も元気が良いね」
「えへへー。あ、ゆめちゃーん、りゅしーちゃーん、みちせんせーにほめられたー」
元気に走って行く“幼い”後ろ姿を見つめる。
今のは確か、この特専の一年生――
――ザザッ
――と、違う違う。三年生の笠宮鈴理ちゃん、だ。
この“小学校”に通う元気な女の子で、嬉しいんだか恥ずかしいんだか、私に憧れてくれている小さな女の子。
いつも一緒にいる仲の良いお友達は、由緒正しいお家柄のお嬢様だけど外で遊ぶのが好きな元気な女の子、碓氷夢ちゃん。
それに、ロシアからの帰国子女でハーフの、アリュシカ・有栖川・エンフォミアちゃん。
いつも、仲の良い三人組だ。
「んー、なんだろう。白昼夢かな?」
さっき、なんだか妙な違和感を覚えた気がして首を傾げる。
そういえば今朝も、変な夢を見た。私が超能力や魔法を教えている学校の先生で、私自身も変身して戦う、ヒーロー番組みたいな内容。
へんな夢。
この世に、“超能力も魔法もあるはずない”のに。
「観司先生、おはようございます」
「陸奥先生……。はい、おはようございます」
「体調、あまりよろしくないのですか? ぼおっとされていたようですが……」
「あ、いえ、ご心配をおかけして申し訳ありません。お恥ずかしながら、日差しに心地よくなってしまったようで……」
「あ、なるほど。わかります。でも、気をつけて下さいよ? 僕みたいに、校長先生に怒られてしまいますからね」
「ふふ、陸奥先生も」
「は、はい。あはは」
いけないいけない、しっかりしなきゃ。
この公立“兎組泉小学校”に赴任して四年。まだまだ先輩方に比べて若輩者。せっかく幼い頃からの夢だった、小学校の先生になれたのだもの。まだまだ夢半ば。気合いを入れ直さないと。
「今日も一日、頑張ろう」
握りしめた手は、我がことながらまだまだ頼りない。
私は所詮、“なんの実績も無い”人間だ。子供たちのパワーに負けないように、頑張らないと!
「おはようございます」
『おはよーございます!』
受け持ちの教室に入ると、元気な声が響いてくる。
私の担当クラスで、受け持ってまだ一年目。それなりに仲良くできたとは思うのだけれど、うん、自意識過剰にはならないように気をつけなきゃ。
「ふっ、やはり未知教諭も俺に夢中のようだな」
「九條君、机の上から降りなさい。あと、教諭じゃなくて先生、ね?」
「ふむ、良かろう、未知教諭」
クラスのムードメーカー。
今時流行の中二病というやつなのかもしれないが、そこはまだ小学生。たんに、かっこいいヒーローやなんかに憧れているだけだろう。
まぁ、将来もあの調子ならちょっと心配だけれど、そこはそれ。私が彼の道を示せる一助となれるように、努力しよう。
「獅堂。五年生にもなったんだからちゃんとしろよ」
「俺ほどちゃんとしている男もいないぜ?」
「先生、獅堂がうそついたー!」
「う、嘘じゃないぞ!」
あわや喧嘩。
なんてことには当然させずに、間に入る。
「ほらほら、九條君、先生との約束を守れないと、ちゃんとしてるとは言えないよ?」
「うっ……わかったよ、未知“先生”」
「よくできました。……楠君も、おともだちを“嘘つき”なんて呼んじゃダメだよ」
「はーい……。ごめん、獅堂」
「ううん、俺も、怒鳴って悪かった」
なんとか、一件落着かな。
獅堂は言動が、その、ロマンチックなだけで友達思いの良い子だし、楠君はクラス委員長で、ぶっきらぼうだけど真面目で優しい子。
……うん、だいぶ私も、児童たちのことを理解できるようになってきた、かな。
さて、まずはホームルーム。
名前と顔は当然覚えているにしても、性格もきちんと把握できるように頑張らないと!
――ザザッ――ザッ
「大丈夫。あなたなら、すぐにわかるよ」
――ザ――ザザッ
……と、あれ?
今、何してたっけ?
ああ、そうだ、放課後だ。
宿題の管理をして、残業は――うん、“寝て”しまったようだし、やり残しがないか見て置かなきゃ、かな。




