表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
276/523

そのじゅうよん

――14――




 教員棟にたどり着いて直ぐのことだった。

 纏わり付くような違和感。忍者として鍛えられた私の“勘”が、疑うことを止めない。


「鈴理、ちょっとストップ」


 私が声をかけると、鈴理は奥に進もうとした足を止めてくれる。

 信頼してくれているその姿に感謝しながら、私は直刀型魔導機械、嵐雲を構えた。


「ちょっと離れていて」

「うん……わかった」


 通常、弾丸は信管に撃鉄で衝撃を与えることで、間に挟まれた油紙に着火、火薬に引火して爆発、弾丸を射出という手順を辿る。

 この直刀に備えられた薬莢の役割も、それに非常によく似ていた。撃鉄に刻まれた“術式開始オープン”の術式刻印レリーフィングが、忍法ニンジャスペル準備用の刻印紙柱レリーフィング・スクロール油紙を着火同調。魔導火薬によって外界に干渉し、キーワードの詠唱だけで魔導術を発現させる。それがこの嵐雲である。

 手甲の黒風が最新技術のプロトタイプだとすれば、嵐雲はこれまでの技術の集大成だといえるだろう。習得に、それはもう時間が掛かったのもそのせいだ。今回は完全に、静音に良いところを持って行かれたからね。いや、静音たちとも遊びたいけれどね?


 それはともかく。


 鈴理が見ている前で、トリガーを引く。

 すると、“術式刻印レリーフィング”の施された撃鉄が信管を打ち鳴らし“刻印紙柱レリーフィング・スクロール”の油紙に着火。魔導火薬が爆発すると、刀身に施された刻印鋼板レリーフィング・プレートに術式が流入。


「【起動術式スタートワード】」


 詠唱と同時に空に魔導陣が刻まれて。




「【忍法ニンジャスペル天網恢々オールサーチフィールド展開イグニッション】」




 霧のような魔導術が、教員棟に広がった。


「全方位領域探査――鈴理、やっぱりこの棟の人間は、ほとんど眠らされているわ」

「えっ。それなら、江沼先生も?」

「いえ。江沼先生はおそらく大丈夫。けれどこれは、足止めでもされているみたいね」

「なら、わたしたちの行動は――」


 鈴理の言葉に、強く頷く。

 今、私たちが行うべき行動は、おそらく一つ。


「――ええ。江沼先生との合流よ」


 なんとか無事な人間同士で合流して、敵対者の企みを封ずること!


「江沼先生の場所は?」

「反応が出ているのは、屋上ね。外からのショートカットはこの状況じゃ無理でしょうし……ま、穏便に階段から行くわよ」

「うんっ」


 探査の術式は継続されている。

 なら、おそらく問題は無いだろう。このまま探査を持続して、“先手を打つ”。後の先なんて甘いことは言わない。見つけたら即、射貫く。


「ここからは慎重かつ、迅速に移動よ」

「任せて! あ、そういえば夢ちゃん」

「なに?」


 振り向けば、そこには、どこか悪戯っぽく笑う鈴理の顔。


「合流前に、倒しちゃっても良いんだよね?」


 その言葉から来る“自信”は。

 紛れもなく、“信頼”から来るモノで。


「ははっ――私に先を越されないように、気をつけなさいよ? 鈴理」

「ふふっ、こっちの台詞だよ、夢ちゃん!」


 普段、どこか“良い子”であろうとしているそぶりを見せる。

 それは未知先生に甘えられるようになってから、少しだけ弱まった。だからずっと、未知先生にしか引き出せない感情なのだと、“諦めて”いたのかもしれない。

 けれど、今、鈴理は私に対して、全幅の信頼を見せている。私という人間に対して、“子供っぽい自分”を見せても良い相手だと、思ってくれている。


 だったらさ、親友。

 その期待に応えなきゃ、女が廃る。


「行くわよ、鈴理!」

「うん、行こう、夢ちゃん!」


 二人並んで、駆け出す。

 反応はおそらく天兵のもの。数はハンドサイン、位置はアイコンタクト。


「穿て、黒風」


 私の右腕から放たれた鏃の弾丸が、靄から“まだ出てきていない”天兵の胴に当たる。

 そのまま連射をしてやると、何度か弾かれ、翼と肩と足は貫けた。


「私の黒風で射抜けるのは、末端だけね。鈴理、私が行動不能にするから」

「わたしがトドメだね!」

「ええ、ぶった切りなさい!」


 鏃の弾丸が天兵の動きを鈍らせて。


「【回転ロール】!」


 鈴理の盾が、鋭利に両断していく。

 その進撃を止められる存在などはいない。ただ余すことなく、討ち倒すのみ!

 もっとも、“後ろ”から追いかけてくる相手はぜったい強い奴だから、追いつかれないように必死だけれども!


「鈴理、階段」

「わかった!」


 細かい指示は必要ない。

 昇りながら、鈴理は階段を潰していく。そうすると、がれきで天兵や“後ろの敵”を引き離せる。


「屋上へ移動するには、渡り廊下で南棟。走り抜けるわよ!」


 渡り廊下を崩されたら厄介だが、そうそう崩れないように建築されているらしい。

 階段とは訳が違う。デザインにこだわる余り、建物が崩壊しても生き残ると言われた渡り廊下を駆け抜ける。


「って夢ちゃん、あれ!」

「あれ? なっ」


 鈴理の指さした先で、降りるシャッター。

 渡り廊下の出口を封鎖? そんなことが出来るのは、“国連に呼び出されて不在”の理事長か、それに次ぐ権威のある人間だけのはずなのに?!


「ぶち破るわよ!」

「うん、まかせ――」


 鈴理がそう、手を翳し。





『いや、それをされると困るんだ。せっかく追い詰めたのだからね』





 飛来したナイフを落とすのに、行動を持って行かれた、


「――っ、夢ちゃん、この“匂い”」

「ええ、私も探査結界にビンビン感じているわ。アレが、今回の黒幕ね」


 ぱちぱちと、ここまで逃げてきた私たちを、称賛するような仕草。

 長いコートが特徴的で、片手には穴の空いた帽子を持っている。空いた手に持つのは、鋭利なナイフだった。

 その顔はさらけ出されている。青白い肌。濁りきった青い眼。くすんだ金髪。貼り付けた笑み。ドタマぶち抜いてやろうかしらと思うくらいには、腹立たしい表情だ。


「って、鈴理?」


 そんな敵を見て、驚愕に目を瞠る鈴理。

 もしかして、並み居る変質者共の一人だったのかしら? だったら、タマは潰すけど。


「なんで、生きているの? ――ジャック・ヴァン・レストリック!」

『やあ、久しいね、笠宮鈴理。といっても前回は、ろくに挨拶もせずに退場してしまったがね』


 ジャック・ヴァン・レストリック?

 どこかで聞いたような――いや、違う、習ったんだ。異能及び魔導史の授業で必ず学ぶ“七魔王”の項目の一人。近年、人間から悪魔になりはてた人物で、ジャック・ザ・リッパーと同一人物であることを発表された、“死者”。

 それがなんで、天使と手を組んでいるのよ?! 悪い冗談にも、程がある……!


『いや、間違いなく死んだよ。だが僕は、偉大なる“あの御方”に蘇らせて貰ったのさ』


 ――天使が、悪人の魂を蘇らせている。

 なんて、悪い冗談。わざわざそんな奇跡を快楽殺人犯に与えようとは、ひどい冗談だ。


「夢ちゃん」

「ええ」


 だが、なんにせよ。


『さて、鬼ごっこもここで終わりだ。君たちの血はどんな色なのか、僕にみせてくれ』


 この楽しそうに笑う男と、戦わなければならないという事実には、なんら変わりは無い。


「やるわよ、鈴理!」

「うん、やり通そうっ!!」

『はははは、いいね、その表情! 希望に満ちた顔だ! ――実に、切り刻み甲斐があるよ!』


 嘲笑に屈しない。

 ただその決意を弾丸に込めて。


「撃ち穿て、黒風!」


 私はその一撃を、ジャックの額に向けて放つ。


「反撃開始よ!」


 さぁ、今ここに、今一度、見せつけてやろう。

 人間の持つ力の脅威を、あいつに刻みつけよう。


 鈴理が隣に居る時の私は、最強の忍者だと――その薄ら笑いに叩きつけてやろうじゃないの!!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ