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えぴろーぐ

――エピローグ――




 修学旅行四日目。

 感動の再会を喜んだ後、修学旅行三日目を泥のように寝て過ごし、生徒たちが観光に賑わう四日目に後回しにさせて貰った後始末に追われていた。

 場所は、複合施設共有スペースのテラス。重要書類は魔導術で保護済みだ。


「はぁ、あんなに頑張ってもこんなに仕事があるのよね」

「サポートしかできなかった僕が言うのもアレだけれど、派手に壊してしまったからね」

「そうなのよね……。迷宮崩壊はやはりまずかった、かな」


 そう、迷宮は崩壊した。

 ……とだけ聞くとものすごいことだが、実際はそうでもない。実のところは迷宮そのものは、変革の度に自壊するし、強力な調査員が崩壊させた前例もある。

 だが“異界核”と呼ばれる異界の心臓を破壊しない限り、異界内部の迷宮がどれほど崩壊しようと、異界が崩壊していないので回復する。なんとも“とんち”な話である。


「まぁ、僕らにとって沖ノ鳥諸島の探索なんて今更だ。今日はのんびり、綺麗な海でも眺めながら仕事をしていればいいと思うよ」

「九條特別講師の、勝ち誇ったような顔が目に浮かぶよう」

「ははは。獅堂はむしろ悔しがっていたよ。ここに居られなかったこと」

「あれ? そんなに疲れてた? 獅堂」

「いいや? 元気は有り余ってるんじゃないかな」


 なんだろう。えっ、これ謎かけ?

 獅堂は今、ここにはいない。書類整理よりも身体が動かすことが得意な彼は、周囲に請われて崩壊後の異界周辺調査を任されている。

 ちなみに、陸奥先生を初めとする他の教員の方々は、生徒たちの引率である。


「今回も無事に解決できて良かったよ」

「私の心以外は、ね」

「未知の心の傷は僕が癒やすよ。許してくれるかい?」

「大丈夫大丈夫。七は私の癒やしだからね」

「そういう意味じゃないのだけれど……今はそれでいいよ」

「?」


 おかしな七だ。

 そう、おかしい、で思い出した。

 もちろん、ここ最近の事件の密集率もおかしいのだが、そこはそれ。私も七も獅堂も違和感には気がついているけれど、直ぐに答えの出る問題でも無いので後回し。

 ひとまず、私と七、二人きりのときにしか、聞けないこと。


「あのさ、七。もしかして……最近、調子悪い?」


 ――かがみななは、英雄だ。

 まだ力も弱い幼い頃から戦場に立ち、私たちと共に数々の戦場をくぐり抜けた、百戦錬磨の戦士だ。

 能力はサポート系だが、あえて戦闘者としての分類訳をするのなら、“後衛補助能力者フルバック”でも“中央官制格センター”でもなく、“戦闘技巧者テクニカルファイター”だ。

 数多くの手札でペースを乱し、場を掌握し、己の舞台で戦い続ける。その在り方は局面を選ばず、万能オールラウンダーに踏み込んだ戦いができる。


 なのだけれど。


「もし、あなたになにか悩みがあるのなら、話して欲しいの。私はあなたの仲間で、七の“お姉ちゃん”なのだから、ね?」


 遠い昔。

 私がまだ、バリバリの魔法少女をやっていたときに、私の姉貴分に言われた言葉がこれだった。

 なんの覚悟もないまま戦闘の世界に飛び込んで、迷って失敗して、落ち込んで逃げだそうとしていた私に、彼女はこういってくれた。


『悩みがあるなら話して。だって私はあなたの仲間で、未知のお姉ちゃんだから』


 受け売りと言われれば、そうなのかもしれない。

 でもそれ以上に、胸の奥底に響いた、宝物のようなことば。


「――心配、かけちゃったかな?」

「心配するよ。心配くらい、させて?」

「ははっ、そう言われると弱いなぁ。でも、僕は大丈夫だよ」


 七はそう、嬉しそうに微笑む。

 その笑顔に嘘がないと言うことが心の底からわかって、少しだけ、まぁ、安心した。


「ちょっとね、まだ詳しくは言えないんだけど――魚釣りをしていてね。美味しそうな餌を用意して、糸を垂らしているんだ」

「魚、釣り?」

「そう。釣れさえすれば問題は無くなるからね。安心して欲しい」


 ええっと、調子が悪いように見えているのは、“釣り”のためになにか準備をしているから?

 いや、それでは調子が悪くなる理由はつかないんじゃないかな? ええっと?


「七?」


 にこにこと笑う七は、それ以上なにも答えてくれようとはしない。

 ええっと、これ以上聞いても無駄ってことね? まぁ、それなら聞かないけど……うぅ、気になる。


「でも、心配してくれてありがとう。でも、未知が僕を気にかけてくれているように、僕も未知に思いを寄せているんだよ?」


 そう七は呟くと、私の頬に手を当てる。

 少しだけ冷たい手。柔らかい笑み。優しい瞳。慈しむような、声。

 あ、あれ? なにこの状況!?


「ねぇ、未知。姉弟以上のこと、してみない?」

「姉弟以上? 親友的な?」

「わかっていないなら、ヒントをあげるから目を閉じて?」

「ええっと、こう?」


 七が私の頬に手を寄せたままそう言うので、言われるがままに目を閉じる。

 なんだろう。何を用意しようとしているんだろう。ちょっとだけ子供の頃を思い出して、口元が綻んだ。


「っ――……それは反則だよ、まったく」

「?」


 なにごとか呟く七。

 頬に寄せられた手が、両手になる。

 そして、気配が、ゆっくりと近づいて――


「見つけましたよ、未知先生!」


 ――ナニカが、離れる気配。

 それと、近づく気配。思わず目を開けると、顔を押さえて天を仰ぐ七と、テラスの入り口で仁王立ちする笠宮さん。それから、そんな笠宮さんの背から顔を覗かせる、碓氷さんと有栖川さんだ。


「未知先生も一緒に遊びましょう!」

「だ、だめだよスズリ! 忙しそうだし……」

「そ、そうよ鈴理。もう!」


 かしましい三人の姿を見て、苦笑する。

 同時に、彼女たちが無事で居てくれたことに、心の底から安心した。


「まだ、仕事が終わっていないから、三人で遊んで――」

「行ってきなよ、未知」

「――七?」


 未だに、何故か天を仰いだままの七に告げられて、首を傾げる。

 ええっと、いいの?


「もうあとちょっとだし、未知がやらないとわからないところも終わっている。それにまぁ、僕も――――頭を冷やしたいからね」


 最後に何を言ったのかわからないが、どうも、私に休憩時間をくれようとしているようだ。

 期待したような顔で私を見る、笠宮さん。口では止めながらも、ちらちらと私を見る碓氷さんと有栖川さん。ううむ、どうしよう。


「ほら、未知? 僕を助けると思って、さ」


 なんで私が遊びに行くことが、助けることになるのだろう。

 邪魔だったかな? というような雰囲気でもないし……あれかな。魚人に変態呼ばわりされてショックだったことを引きずっていたのがばれたかな? だとしたら、面目ないです。

 無理しているって思われちゃったかぁ。うーん、こうなった七は絶対に引かないし……うん、まぁ、仕方ない。


「わかりました。七、あとはお願いね?」

「ああ、任せて」

「やった! 言ってみて良かったでしょ? 夢ちゃん、リュシーちゃん!」


 喜ぶ三人に苦笑しながら、そっとこの場を離れる。

 うん、まぁ、たまにはこんなのも良いかもしれない。




 嬉しそうにする三人の姿に癒やされながら、施設の外に一歩踏み出す。天気は快晴。気温も悪くない。大事な生徒たちと過ごすには、最高かも、しれないなぁ。








――To Be Continued――


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