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そのさん

――3――




 ――第六実習室・更衣室。



 何故わたしがここに居るのかというと、話はほんの数分前に戻る。

 現生徒会長の“四階堂しかいどうりん”会長に指導を受けることになったわたしは、さっそく、会長の指示に従って“異能訓練”をしようと、会長と一緒に第六実習室へ足を踏み入れた。

 その道すがら、会長はわたしに更衣室に寄るように指示。なんでも異能科の制服には霊力に耐えうるような加工が施されているらしい。霊糸を用いて霊衣を縫い合わせるのだとかなんとか。そこで、今回は魔導術の一切を封印して異能訓練に望む必要があるから、と、制服一式を受け取ったということだった。


「なんだか慣れない制服って、気恥ずかしいなぁ」


 姿見の前に移るのは、リュシーちゃんたちで見慣れた白いブレザー。

 黒い魔導衣のブレザーに慣れているからかな。なんだか、違和感が拭えない。悪い言い方だけど、コスプレ感が拭えないというかなんというか。


「うぅ、でも、お待たせするわけにもいかないよね」


 よし、と気合いを入れて深呼吸。

 扉を開け放ち向かうのは、強くなるための一歩だ。わたし自身に言い聞かせろ、笠宮鈴理。師匠の足手まといになるのは、もう、いやだ。師匠と並ぶわたしを作るための一歩が、今なんだ!


「あの、お待たせしました!」


 ――白い空間だった。

 広大な範囲。東京ドームほどではないけれど、半分はあると思う。それだけの範囲が一面、真っ白な空間で出来ていた。

 耐久性と広さでは、特専異界の方が上。けれど設備と機密性ではこちらの方が上なのだという。その最新設備の様相は、何もない空間にガラスの板のようなパネルを出現させ、宙に浮かぶ透明なボードを叩く会長を見れば、理解する。


「ん? 早かったわね、笠宮さん」


 空間に反響する声に気がついた会長が、わたしを見てそう微笑む。


「さて、最初の授業を始めよう」

「はいっ! なにを教えてくれるんですか?」

「クス……簡単よ。今回は色々と教えてあげるための“資料集め”」

「へ?」


 言いながら、会長は空中のパネルをタッチする。

 すると、周囲の空間が廃ビルのような光景に変化した。おお、すごい。試験の時にも使われてた、実体ホログラムだ。


「ダメージ変換結界展開っと」

「ええっと、会長?」

「やることは単純明快。私と戦って、どれほど異能を使いこなしているのか見せて貰うわ」

「っ」


 戦う?

 えっ、最初の授業から、もう、実戦?!

 ぁ、いやでもそうか。資料で見える範囲には限界がある。だから自分の目で見てみようってことなのかな?

 だったら、うん、すごく納得できる。


「ルールは一つだけ。魔導術の一切を封印して戦うこと。理由はわかる?」

「異能者としてのわたしの力が見たいから、ですか?」

「正解。培った体術だとかそういうものは、何を使っても良いから」

「勝敗は、ライフポイントですか?」

「そう。――私に削りきられる前に、実力を見せてくれたら良いわ」


 薄く、刃のように怜悧に微笑む会長。

 実力に裏付けられた大言は、大げさだとは言い切れない迫力がある。なら、わたしはそれに答えなきゃ。精一杯、自分の力を出し切る!


「スタート位置設定。位置転送システム起動」

「え? ――ひゃんっ」


 会長が触っていたパネルが輝いたかと思うと、気がつけば、わたしはビルの一室に居た。

 窓の外から見えるのは、一地区丸々切り取ったかのような街並みだ。作り物だとわかる空は、昼をイメージしてか、少しだけ傾いた太陽があった。



『実証訓練観測モードに設定――開始まで十五秒』



 手を握る。

 ――翡翠の光。

 手を開く。

 ――翡翠が散る。



『開始まで十秒』



 窓の外から外を伺う。

 遠目で見て、おそらく最初にわたしたちが居た交差点。その中央に立つ会長は、わたしの方を向いていない。



『開始まで五秒』



 前に聞いた夢ちゃん情報によると、会長の異能は九條先生と同じ“発火能力者(パイロキネシスト)”。

 当然ながら発現型アビリティタイプの、炎を操るような異能だ。



『開始まで三秒』



 組み立てろ。



『二秒』



 わたしの“干渉ロジック”は。



『一秒』



 師匠のように、“法則ルール”を乗っ取る力なんだから!



『ゼロ――実証開始』

「“干渉制御ロジック・コントロール”」



 師匠とあの日、合体して扱った力は、わたしの“到達点”だ。

 ならわたしが今、行うのは――扱えるギリギリの技能!


「“多重干渉マルチ・ロジック”――“加重グラビティ慣性イナーシャ”――“二重制御ダブル・コントロール”」


 窓から飛び出して、重力制御。

 慣性をコントロールして、遙か上空へ舞い上がる。その最中、廃ビルのコンクリート片を重力制御で運ぶことも忘れない。

 まだこちらを見ていない会長を視界に入れて、異能で操ったコンクリート片を投げ――


「“爆火矢ボンボン”」

「っきゃあ!?」


 ――る、前に、コンクリート片が“爆発”した。


「っ、体勢が」


 崩れる。

 急な乱れ。異能の制御に支障が来たし、空中でバランスを崩す。

 下を確認する余裕がない。わたしは今、いつ、どうやって攻撃されたの?!


「“慣性制御イナーシャ・コントロール”!」


 なんとか着地に必要な分だけの力を使って、廃ビルの屋上に着地。

 これまで、幾つもの戦闘を駆け抜けてきた“経験”が、わたしの足を真横に跳ぶように動かした。


「“爆火矢ボンボン”」


 詠唱。


「きゃあっ」


 爆発。


「あっ、ぶなかった!」


 なんとかビルの中へ駆け込んで、壁を背にしてようやく一息。

 なんらかの手段で位置を特定され、爆撃された? どうしよう。どうやって切り抜けたら良いのだろう。

 ひとまず、体勢を崩されたら自爆しかねない空中は危険だ。同時に、今のように物を投げようとすると、それを爆発物にされかねない。あとは足を止めてもだめ。足場を爆破されたら、なにもできない。


「なら――取れる手札は、近接」


 作戦を組み上げる。

 勝利までの軌跡を読み取る。

 わたしに今、一番必要なものをつかみ取る!


「息を潜め、牙を研ぎ、獲物を見据え」


 距離を算出。


「冷たきをそとへ、熱きをなかへ、心意に満ちるは刃の如く」


 感情の炎は心に宿し。

 冷静な判断力で頭を回転させ。


「故にこれぞ」


 最大効率の狩りを、シミュレートする!


「狼の矜持!」


 リュシーちゃんや静音ちゃんが行っている身体強化。

 霊力による能力補強。身体に霊力を循環させて、身体能力を向上させる。


「“干渉制御ロジック・コントロール”」


 わたしの異能は、法則を制御し拒絶する力だ。

 わたしが今、邪魔に思っている法則は、“爆発”という現象。なら、“それ”をかいくぐる。


「“屈折迷光ステルス・カット”」


 姿を見えなくする。

 音は消えないが、それで良い。狼は悟られる前に、一気呵成に狩るものだ。ただ、飛びかかる瞬間さえ確保できればそれで良い。

 足を動かし、コンクリートの壁を蹴り、アスファルトを駆ける。大きく周回するように目指すのは、会長エモノの背後。


(見えた)


 障害物を駆け抜け、のど元に食らいつくまでの最短ルート。

 わたしは大きく身をかがめると、ばねのように身体を爆発させて、駆けだした。

 縮む世界。通り過ぎていく光景に脇目も振らず、会長の背から食らいつくように――


「発想は悪くないね。でも、練度が足らない」


 気がつかれた?!

 いや、疑問はあと。今は食らいつくことだけを考える! ただ、構えは必殺ではない。一撃を避けられ、追撃を想定し、最後には食らいつく流れに変更。今度こそ!


「狼雅!」


 肉体強化により、研ぎ澄まされた腕を振りかぶる。

 こちらの動きを読んでいた会長は、当然ながらわたしの一撃を避け――ない?!


「“爆火抗テンパリング”」


 会長の首筋に触れた瞬間、至近距離に“黒いオーラ”が見えた気がした。けれどそれに疑問視などしている暇はなくて、わたしに“熱”が降りかかる。


「くぁっ!」

「よそ見をしている暇なんて、どこにもないわ。“爆火矢ボンボン”!」


 爆音。


「きゃあっ」


 衝撃。


 咄嗟に腕をクロスして防ぐが、わたしの身体は大きく投げ出される。


「っ“流向遮断トレント・カット”!」


 爆発とは指向性を持った衝撃だ。

 なら、その指向性を遮断すれば、わたしには届かない。けれどどこから爆発が来るかわからないので全方位に向けて放つ。


「“爆火矢ボンボン”――あら」


 案の定、爆発に包まれてもダメージはない。

 このまま畳みかける!


「“慣性イナーシャ――あれ?」


 ――と、踏み込んだ瞬間、傾く身体。

 ぽすん、と、会長の腕の中に収まるわたし。あ、あれ?


「ブラックアウトは危険だから、一定以上の霊力消費を行うと制限が掛かるように設定してあるのだけれど……倒れるほど、ということは、よほど霊力を知らないのね」

「あ、霊力枯渇、ですか?」

「そうね――よし、では一度、ここまでにしておいて……総評に、入りましょうか?」


 にっこり笑顔の会長さんに、思わず引きつった笑みを返す。

 あぅ、これぜったい、ギチギチに絞られるヤツだよぅ……。





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