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そのに

――2――




 ――京都・鞍馬山。




 黄地の屋敷の裏手には、黄地のご意見番――黄地時子の為の離れがある。

 その一室でぐるりと円陣を組むのは、五人と一匹の姿だった。


「さて、今日は集まってくれて有り難う」


 そう切り出したのは、上座で正座する幼い姿。

 白髪黄眼の少女――英雄・式神使い“黄地おうぢ時子”だ。


「妙に畏まるじゃねーか。悪いもんでも喰ったか?」


 そうからかうように言うのは、時子の隣で胡座を掻く男。

 赤髪赤目の、目を瞠るほど顔立ちの整った男性――英雄・紅蓮公プロミネンス・イーター“九條獅堂”。


「ほっほっほっ、形式を大事にするのは儀式に於いて重要な意味を持つものじゃ。獅堂、お主はもう少し勉強をした方が良いのぅ」


 そんな獅堂の隣、時子の正面で快活に笑うのは、白髪の老体。

 筋骨隆々の大男――“元”英雄・仙法師“ひさぎ仙衛門”。


「獅堂が馬鹿なのは今に始まったことじゃないだろう? 気にすることはないよ」

わんっ(うむ)


 ため息を吐きながら告げたのは、青髪に灰銀の瞳の美青年。

 何故か肩に黒い子犬を乗せて――英雄・蒼時雨“鏡七”は、仙衛門の隣で肩をすくめる。


「久々に集まったと思えば騒がしいな、おまえら」


 最後に、時子の横、獅堂の逆隣で苦笑する男性。

 黒髪黒目に愛嬌のある笑顔――英雄・異邦人トリッパー東雲しののめ拓斗”。


 かつて大魔王を討伐した七人の英雄。

 その五人が、一堂に会して膝を詰める現状は、知らぬ人間が見れば再び戦争の訪れかと恐々とすることだろう。

 だが、今ここにいるのは五人と一匹――と。


「皆様、お茶をお持ちしました」

「ありがとう、みやこ。申し訳ないけれど、下がっていて貰っても構わない?」

「心得ております」


 音も無く現れお茶と茶菓子を置き、音も無く消えた使用人の女性のみ。

 事情を知らぬ物は一人も居ない。ただ、先を見据えて集まる最強戦力の集会も、ほとんど同窓会のようなものであった。


「そういや時子、未知は?」

「安心なさい、獅堂。“魔界の伝手”と一緒にもうすぐ到着する予定よ」

「ああ、あの、大魔王の娘の」

「ほほう、大魔王の娘か! 手合わせ願いたいのぅ」

「じいさん、あんたは大人しくしてろ。あと片付けをするのは、どうせおれと時子だぜ?」

「拓斗は苦労性だからね。獅堂、見習えば?」

「おまえもな、七」


 一人が話し出すと、際限なく話が広がる。

 気の合う仲間たちのやりとりに、違和感なく混ざるポチ。せっかく集まったというのに流れはただの同窓会になりつつある。

 なにせまだ全員揃っているわけではないのだ。彼らはまだまだ雑談で時間を稼ぐつもりなのだろう。そう見て取れて、時子は頭痛を抑えるように額に手を当てていた。


「で、お主ら、儂の孫娘との進展はどうなのじゃ? 拓斗はともかく、獅堂と七、お主らは同僚じゃろうて」


 仙衛門の問いかけに、獅堂と七は目を逸らす。

 天使薬製造工場の調査・破壊を任務に動き回っていた彼らは、ここ最近、ろくに未知に会えてもいない。その上、彼らにとって予想外の事態になり、追い込まれている現状だ。


「それがね、仙衛門。獅堂と七、よりによって未知と初対面の女性にまんまとリードされているのよ」

「ばっ、時子おまえ、なんでそれを!?」


 時子が件の女性――イルレア・ロードレイスと未知を含めて池袋で友情を紡いだ事なんて露と知らない獅堂と七は、驚いて目を剥く。片膝立ちで動揺する獅堂と、むせて蹲る七の様子はいっそ哀れですらあった。

 事情を知る拓斗がそっと目を逸らす程度には、可哀想な様子である。自業自得と断ずるには、不憫に過ぎる。世のためヒトのためにかけずり回っていた事実があるのだから。


「まぁおれも、似たようなものさ。あとで合流すると嘯いておいて、結局、用事が終わったのは夜だったからな」

「へぇ? でも拓斗、あなた、連絡は一日たりとも欠かしていないのでしょう? ホログラム通信まで使って」

「いやいやいや時子、あんたはなんでそんなことまで知ってんだ?」

「アニメだったらマイモノローグで語り入る役じゃねーか。拓斗あんた、抜け駆けにもほどがあるだろ」


 方々から口々に言われ、拓斗は先ほどの時子と同じように、額を抑えて蹲る。

 どこかにこの嫉妬の目線から逃れる術はないものかと探していると、ふと、拓斗の異世界トリップで培った聴力が、足音を捉えた。


(大人一、子供一、声は三。足音がないのがみやこか)


 拓斗はすくっと背筋を正すと、さてどうしたものかと刹那、思考する。

 ここは一つ、今にも焼き殺さんばかりに見てくる獅堂に、意趣返しの一つでもしておくべきかと。


「獅堂。願望の一つも、きちんと口に出さないと伝わらないぞ」


 外見年齢は拓斗より獅堂の方が年上に見える。

 けれど、異世界トリップでなんだかんだと成長が止まったり、“若返ったり”と繰り返している拓斗の方が年上だ。余裕たっぷりに言われた言葉に、獅堂はぐぐぐ、とうなり声を上げた。




「監禁させてくれとでも言わせる気か? 俺だってできるものなら、家に繋いで――」

「――うわ、引くわ。ねぇ未知、やっぱり戻ってデートしない?」




 障子を開けながら告げられた声。

 獅堂は石のように固まると、さび付いたブリキ人形が如く緩慢な動きで、声の方角へ顔を向ける。


「そうだね、リリー。嵐山でも行く?」


 大きなため息。

 頭痛を堪えるような仕草。

 ――英雄・元魔法少女で現教師、“観司未知”は、はぁっとあからさまなため息を吐く。


 服装は、薄手のシャツにカーディガン、丈の長い浅葱色のロングスカート。

 髪は縛って肩口から垂らし、今日はだて眼鏡はつけていない。夏休みにスーツは返って目立ってしまうので、あえて私服で訪れたようだ。


「そうこうなくっちゃ! 時子、あなたも特別に招待してあげるわ。円陣を組んで女性をどうこうしようなんて企む野蛮人共の集会に置いていくのは、可哀想だもの」


 薄手のゴシックロリータを身に纏うリリーは、笑顔でそう提案する。

 だが、その目は決して笑っておらず、さりげなく、発言元の獅堂のみならず、他の男共も一括りにした。


「ありがとう。気持ちは嬉しいけれど、ちゃんと会議に“戻す”から、少し待っていてね?」

「えー」


 不満げながらも、時子の言葉にしぶしぶと頷くリリー。

 そんなリリーの様子に満足すると、時子は一度大きく手を鳴らした。


「はい、英雄定例会議、始めるよ!」

「おう」

「りょーかい」

「ああ、わかったよ」

「ほっほっほっ」

『わんっ』


 獅堂、拓斗、七、仙衛門、ポチ。

 流石に気心の知れた仲間と言うことか、たったそれだけで居住まいを正して円陣を組み直す。時子の正面にさっと空けた二つの座布団は、未知とリリーのものだった。


「わざわざ来てくれて有り難う、未知、リリー」

「ううん。大事なことだからね」

「ま、未知のためなら力を貸して差し上げますわ。光栄に思いなさいな」


 恐縮そうに言う未知と、尊大に告げるリリー。

 ――ここに、変則的ではあるが七人、英雄とその仲間たちが一堂に会した。



































――/――




 ――関東特専上空。



 背に生える白い翼。

 顔面を覆う銀の仮面。

 両手に持つ鈍色の長剣。

 天界兵器“聖天兵装エクスシア”を両脇に、一人の男が浮かんでいた。


『いやはや、参ったね。まさか特専に行かされるなんて思わなかったよ。君もそうは思わないかい?』

『……』

『武器に何を言っても無駄か。まぁ、そのストイックさは嫌いじゃないけれどね』


 長いコートに、目元を覆う帽子。

 つい先日、池袋で教会襲撃を計ろうとした男。彼は今、新しい“使命”のために、特専に訪れていた。


『いやはや、天使様方も酷なことをする。召し上げられた哀れな魂をこんなにも酷使しようなんてね。疲れてしまうよ』

『……』

『そこは“何を言うんだ、楽しいくせに”と合いの手を入れるところだろう?』

『……』

『はぁ。君たちは本当にナンセンスだね』


 男はわざとらしく肩をすくめると、眼下の様子に唇を歪ませた。

 つり上がる口角に乗る色は、歓喜と快楽。ナイフを弄ぶ指に、力が籠もる。


『さぁ、もう少し様子見を続けるよ。コトは慎重に行う必要があるからね。僕とて――』


 口元に持って行ったナイフを、男は愉しげに舐め上げる。


『――痛いのはこりごりだからね』


 それから、そう言って、声を上げて笑った。





2024/02/02

誤字修正しました。

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