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そのじゅうきゅう

――19――




 “速攻術式セット

 “飛行制御フライトユニット

 “展開イグニッション




 異界を低空飛行で移動し、目的地に急ぐ。

 光の柱は出現してから、飛行術式なら直ぐに到着できることだろう。そう思っていたのだが、甘かった。

 光の柱は異界の天井に当たると、白い液体をまき散らした。それがなんであるのか確認する前に、四足歩行の蜘蛛のような怪人に変化。手当たり次第に襲いかかってきたのだ。

 風子さんは大丈夫だろう。ダメージ変換結界の中は、許可された者以外は侵入できない。風子さんは、怪人の姿を確認することすらないだろう。

 他の、おそらく残って居るであろう生徒たちについては、高原先生にお願いした。緊急通知も回っているようなので問題は無いだろう。なにより、試験後とはいえ、彼女たちは強い。


「退きなさい!」

『ルゥオオ?!』


 怪人に“切断スラッシュ”で斬り掛かり、退かせる。

 なにより心配なのは、光の柱の中心部分に居るであろう鈴理さんだ。イルレア先生の立ち位置もよくわかっていない現状で、異常事態の中心に居る。それだけで、不安しかない。

 よしんば、イルレア先生が完全に味方であったとしても、鈴理さんが無茶をしない保証はないのだ。気に掛けておかなくては心配だ。


『ルゥウウウ』

『ルォオオオオ』

『ウルルルルゥ』

『オルゥウウア』

『ルオウルウウウ』


 じゅわじゅわと液体の中から立ち上がり、増え続ける怪人。

 こんなことをしている間に、鈴理さんたちがどうなっているのかわからないというのに。


「どうせ、人目はない」


 どうせどこかで覚悟を決めなければいけない。

 こんなところで立ち止まっている訳にはいかないというのなら、いつ、どこで、どう決断しようとも変わらない。ただ、ただ、“こんな仕様”にした神様に恨み言をぼやきつつ。


「来たれ【瑠璃の花冠】」


 私は、ステッキを手に取った。


『ルォオオオオ!!』

「せいっ! ――【トランス】」


 襲いかかる怪人の腹に、ステッキで一撃。

 吹き飛ばされていく怪人の姿を視界の端に納めながら、詠唱。


「【ミラクル・ファクト】」


 変身。

 転換。


 フリフリコスチュームに身を包み、首を傾げる怪人共を一睨み。

 私はステッキを振り上げて、更に詠唱を重ねた。


「【トランス・ファクト・チェーンジ】!!」


 瑠璃色の輝きが、私の身体を包み込む。

 一度、生まれたままの姿になって、それから弾けて包む星エフェクト。

 この状況。多対一かつひょっとしたら剣士が的かも知れない状況。魔法少女としてもっとも力が引き出せるシチュエーションが“正々堂々”であるということも慮って、“このモード”が最適であろう。

 私の精神に最適であるかどうかは、さておき。さておき!






「月夜に悪を見つけては」

――カチャリと掲げるステッキは、瑠璃色の両刃剣。

「鎧袖一触、悪を断つ」

――ばさりと翻るのは、瑠璃色のマント。ただし、肩甲骨までのサイズです。

「胸に宿る正義の心」

――手を覆うのはパツパツ手袋。足を覆うのは銀の装甲のブーツ型ぱつぱつグリーブ。

「剣に宿る愛と星」

――そして、忌々しい、その身体を覆うのは。

「魔法少女ミラクル☆ラピ! モード・ナイトでしゃきんっと推参!」

――瑠璃色と銀がアクセントの、ビキニアーマー。髪はもちろんツインテールです。しぬ。






 よし、ポーズ終わり!

 幸い、周辺の怪人はほぼ無機物のようなものなのだろう。私のきわどい衣装(※ビキニアーマーなのに面積少ない子供向け)に対する反応はない。


「【祈願セット幻創アーム青雷浄剣ホーリー・サンダー・ソード成就イグニッション】」


 騎士剣を包み込む、青い水晶。

 第二の刃として出現したのは、物質化した稲妻であり、浄化の剣。


「さぁ、来なさい☆」


 そう言って剣を構えると、怪人たちもようやく身体の自由が利くようになったのか、一斉に襲いかかってきた。

 だが、遅い。七魔王を打ち倒し、衣装が十一歳女児用になってから、基礎能力が上がったのだ。可愛いポーズを取ることで少女パワーをチャージ。ステップに霊力を込めると、踏み込みで大地が割れた。


「ばいばい♪」


 その瞬く間の攻防。

 まさしくそれは鎧袖一触。

 瑠璃と青の稲妻に包まれて、彼らは灰燼へと帰していく。


「急がなきゃ☆」


 さて、ここで留まっているわけにも行かないのだ。

 私は大きく足を踏み出すと、景色が霞むほどの速度で駆けだした。






















 駆けて、駆けて、駆けて。

 見えてきた結界は、ひび割れて綻びが出来ている。最初の光の柱は、おそらく意図的に結界をすり抜けるように調整されていたのだろう。で、あるのなら、ひび割れは鈴理さんかイルレア先生の仕業か。

 結界の間をくぐり抜け、コロシアム風の試験会場に侵入する。その先では、歪な天使とイルレア先生が戦っていて――手前で、鈴理さんが血の海に沈んでいた。


「ッ【祈願セット治癒斬撃(ヒールスラッシュ)成就イグニッション】!」


 剣を振り、瑠璃色の斬撃が鈴理さんに命中する。

 起き上がる気配はない。だが、斬撃に乗せた治癒の光は本物だ。心肺停止していても数分以内なら助かる。念のため超高速で近づいて息を確かめれば、確かな反応が返ってきた。

 まったくもう、本当に無茶をして。あとでお説教です。しばらく、離してあげませんよ?


「無事で、本当に良かった」


 さて。

 眼前を見ると、音も気配も無く近づいてきた私には、まだ気がついてないのだろう。

 天使? 天使(もど)きとイルレア先生が、剣を合わせて戦っていた。天使擬きは剛剣。手数は少なく、一撃は重い。イルレア先生は凄剣せいけん。手数は多く、連撃に圧力が乗る。

 どちらが味方であるかは、一目瞭然。であるならば、私はそれに応えよう。私の可愛い生徒たちに徒なす悪人に、魔法少女の天誅を下そう。



「そこまでよ!」



 声を上げ、剣を振りかぶりポーズを決める。

 ビキニアーマーが肌に触れると、ちょっと冷たい。


「は?」

『なぜ、しょうふが、ここにいる??』


 しょうふ? ああ、娼婦か! って違うから!

 呆然と手を止めるイルレア先生と、大きく後ずさりながら首を傾げる、グロテスクな天使擬き。相変わらず、敵からもこの言われようってどういうことなの……?


「女の子を傷つける悪い子は、魔法少女ミラクル☆ラピが成敗なんだからねっ!」

「かわいい」


 イルレア先生がなにやら呟いたが、私の耳には届かない。

 届いていないよ? 趣味が悪いとか、オモッテナイヨ?


『なんでもいい。しょうふでもちじょでも、なんでもいい』

「っいけない! ら、ラピ? 逃げて!」


 天使擬きが構えると、機械混じりの翼に天力が装填される。

 その細かい天力事態は感知できていないようだが、勘でなにかわかったのだろう。イルレア先生の悲鳴のような警告が、私の耳に届いた。


『ちにくに』


 けれど。


『なれ』


 瞬く間に私の正面に移動して、剣を振りかぶる天使擬き。

 なるほど、ただの人ならば脅威だろう。けれど見え見えの発動に、見え見えの天力に、わかりきった意図。ならば私は少女力を高める可愛いポーズを取りながら、くるっと回転して避ければ良い。


「きゃるーん☆」

『なに?!』


 ポーズにより少女力が充填。

 ステッキソードが淡く輝く。


『おまえ、どうやって、よけた!』

「そ・れ・よ・り・も――どうやって避けるか、心配したら?」


 後ろに向かって飛ぶ天使擬き。

 ――に、完全に追従する形で踏み込んで、剣を振り上げる。たったそれだけのことで、剣を持つ彼の腕が吹き飛んだ。


『ぐぁあああ?!』

「らぴらぴっ、すらーしゅっ!」


 技名に意味は無い。

 けれど、叫ぶことに意味がある。ステッキからの強制という意味が。



『な、ぐがっ?!』



 天使擬きの翼を切り落とし。

 ――避ける動作に追従、踏み込み、斬撃。

 天使擬きの足に剣を突き立て。

 ――天力の発生を少女力で阻害。斬撃。

 天使擬きの残った手を切り飛ばし。

 ――口から天力を感知。顎を蹴り上げ、ポーズ。斬撃。



『ぎぁあああああああ!?』



 三秒間。

 三拍子の間に、満身創痍の天使擬きを作り上げた。


「すごい……攻防が、目で追いきれない? こんな、これはまるで――」


 イルレア先生は、斬り飛ばした手などを丁寧に白炎で灼いてくれながら、そんな呟きを漏らす。まるで、なに? え? 運命? どういう……いや、考えるのはよそう。

 それよりも今は、目の前の天使擬きだ。


「悪い子は許さないんだからね!」

『ほざ、け。もう、いい、きさまのちにくは、いらん。しね、しに、つくせ!』


 天使擬きの身体が膨れあがる。

 まるで脂肪の塊のような容姿に、不釣り合いな力の圧力。なるほど、切り札と言うことか。


「ラピ、共闘するわ。あれは手に余る。違うかしら?」


 膨れあがった力。

 なるほど、その力は“上位天使”に匹敵することだろう。すぅ、と、イルレア先生の額から汗が落ちる。


「ありがとう☆ でも大丈夫♪ ラピを信じて!」

「へ?」


 大丈夫、大丈夫に決まっている。

 だって――“上位天使”ごときの力で、私を、魔法少女を打ち倒せはしないのだから。


「【祈願セット形態フォーム極大浄光架滅剣(ブレイブスラッシュ)】」


 ステッキを、見せつけるように振り上げる。

 すると、瑠璃色の光が天を割り、柱を作るほどに伸びた。脂肪の塊も危機感を覚えたのだろう。醜い声をあげながら、機械のアームを伸ばしてくる。

 けれど、遅い。




「これで終わりだよ☆」

『なんだそれは、なんだ、なんだそれはやめろぉぉ――』

「【成就イグニッション】!!」

『――おぉおおおおおぉぉぁああああぁぁぁッッ!?!?!!』




 瑠璃色の極光に、なにもかも呑み込んで消し飛ばされる脂肪の塊。

 いくら温厚な魔法少女とはいえ、生徒を巻き込まれて怒らないはずがないのです。ぷんぷん。……いや、だめだ、脳内までこの口調は胸にクる。


「“災害級ディザスタークラス”のモンスターが、ただの一撃? こんな、ことって」

「っ」


 あ、忘れてた。

 ど、どうしよう、口封じする? 黙っていて貰う? 封印する? するしかない?!


「“正体はわからないけれど”、なんて力。あなたは、いったい?」


 うん?

 正体はわからない?

 そ、そっか、この人は、変身した姿を見ても気がつかない、“ロードレイス先生の姉”なんだった!




「ふっふっふっ、これにて魔法少女の事件は解決☆ また会う日まで!」

「あ、待って!」




 イルレア先生の声を背に、瑠璃色の爆風を上げながら立ち去る。

 ――際に、少しだけ見た鈴理さんの顔色は、だいぶ良くなってきていた。もう、本当に、もう……良かった。





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