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そのじゅうに

――12――




 黒土一馬。

 レン・キサラギ。

 レナ・キサラギ。

 ろんしぇん

 アリュシカ・有栖川・エンフォミア。




 クラスメートたちが次々と試験を終えて、帰って行く。

 魔導科の生徒も合わせて、およそ二時間が経過した計算だ。


「つ、次はフィーだよね? が、がんばって!」

「ああ、ありがとう、静音」

「私の時は近接を強いられた。苦手分野で来るであろうから気をつけて、フィー」

「ありがとう、参考にさせて貰うよ、リュシー」


 応援してくれる仲間たちに手を振り、試験のエリアまで歩く。

 思えば、魔導術師として戦う観司先生をちゃんと見るのは、まだ二回目だ。もっとも、魔導術師という物をさほど知らない私からすれば、どの程度規格外なのかはわからないのだが。事前予習はしていたが、観司先生が相手なら固定概念は捨てた方が良いのかも知れない、というのはあるがな。

 私の次は、確か、ルナだったか。ルナの試験が終わったら聞いてみよう。観司先生が、私の大事な鈴理の師匠がどれほどの強者なのか、を。














 指定の位置に着く。

 赤いラインの結界を抜け、黄色いラインの結界を抜けた先。

 スタート位置は、端末が教えてくれる。ううむ、便利だ。


「さて」


 端末を展開。

 試験の五分前に送られてくるこれに目を通して、その場で作戦を練る。それも踏まえて試験、ということであった。






『試験科目:実戦合同演習

 担当試験官:観司未知

 試験受講者:フィフィリア・エルファシア・フォン・ドンナー



 試験内容:市街地戦を想定した人質の救出作戦

 合格条件:市街地破損状況が五割以下

      全人質の救出

      犯人を想定した自動人形の撃破

      任務の妨害をする試験官の牽制・もしくは五割以上のLP損傷』






 つまり、建物を壊さないように人質を救出。

 試験官の撃破は“可能であれば”という程度であり、最優先ではない。邪魔をされないように牽制すれば、それだけでも良いということか。

 こだわりすぎると痛い目を見るという裏返しでもあるが、これは実践演習の試験だ。おそらく、“実戦”に例えた場合、試験官の立ち位置は“犯人グループの一員ではなく、犯人に雇われた傭兵”といったところか。

 犯人の作戦が失敗すれば傭兵は撤退する。忠誠心は高くないから、危険を冒しはしない。その傭兵にこだわらず、人質を確実に救出。その上で犯人を確保すれば、合格か。ふむ、おそらく、私の実力に合わせて難易度を調整している、といったところだろうな。


『試験開始まで十五秒』


 端末から流れるメッセージ。

 同時に展開される実体ホログラムは、道路、ビル、街灯までを再現していた。想定内容が想定内容だけに、犯人の立てこもっているビルの位置は端末で教えてくれるようだ。


『試験開始まで十秒』

「【重火減転じゅうかげんてん・イルアン=グライベル】」


 手甲を展開。

 力が湧き上がる。


『試験開始まで五秒』

「【剛腕力帯ごうわんりきたい・メギンギョルズ】」


 帯を巻き付けて、更に強化。


『試験開始まで三秒』

「【雷揮重鎚らいきじゅうつい・ミョルニル】」


 手に持つのは、柄が短く、アタッシュケースほどの大きさの装飾ハンマー。


『試験開始』

「疾ッ」


 力を込めて、ビルの上まで“跳躍”する。

 目的のビルまで五百メートル。目標到達時間、五秒。手前のビルまで加速して、キッチリ五秒で到着。目標のビルは二階建てで、銀行をイメージして作られているようだ。

 犯人の数は不明。目視できる範囲のビル。向かい側のビルの二階に移動し、姿を隠しながら様子を伺う。


「基礎霊術【霊力波動】――循環」


 基礎霊術。

 霊力を使った基本的な技能のことを指す、が、一般の異能者は己の異能を磨く方が効率が良いため、あまり浸透していない。だが、私のような名家の人間は、その万能性故に必ず覚えている。

 使いこなせているかどうかは別だが、幼少の頃から時子たちに指南されてきた私は、基礎をおろそかにしないことの重要さを痛感していた。

 もちろん、仲間たちと居る時は頼れば良い。索敵も、得意な人間に任せた方が上手くいくし、自分の役割に集中できる。だがこのように、一人でことに当たらなければならないのであれば、話は別だ。


「反応あり。敵意を持つのが四人、人質は二人。人質の救出を最優先にして行動」


 実体ホログラムといい、敵意判定を持つ人形といい、有栖川博士はどれほど本気なんだ。絶対に娘のためだろう、これ。

 まぁ良い。それで上等な試験がこなせるのであれば、言うことはない。


「ミョルニル、縮小」


 ミョルニルを手投げハンマーサイズまで縮小。

 脳内で作戦遂行時間を予測。犯人の巡回、動き、仕草からタイミングを計測。

 一つ、二つ、三つ。


「穿て」


 ミョルニルを投擲。

 ビルの窓ガラスを割り、天井で発光。その一瞬に【霊力循環】による身体能力強化で跳躍。人質(という役割のスフィア)を持った自動人形二人の間に立った。


「吹き飛ばせ、メギンギョルズ」

――ズダタンッ!


 掌低+衝撃波。

 人質を手から取りこぼし、吹き飛ぶ自動人形を視界の端に納めながら、人質二人を抱え込む。同時に踵を返し、割った窓から飛び出た。


「戻れ、ミョルニル」


 私の意思に従って、私を追従するミョルニル。

 それが私の意図するとおりに、私の背中を打つはずだった魔力弾を迎撃した。試験だから、追撃の可能性がある。そう最初から想定していなければ、迎撃は難しかったであろう攻撃に舌を巻く。やはり、油断ならない相手だよ、観司先生。


「発展霊術【霊力結界】」


 人質二人に結界を展開。

 向かいのビルに待機させ、素早く行動。今度は通常のアタッシュケース程度の大きさに戻したミョルニルを手に、閃光の効果が抜けきっていない自動人形を無力化する。

 ……が、観司先生はどこだ? 隠形おんぎょうが巧すぎて見つけられない。仕方がない、警戒に留めてまずは無力化!


「麻痺程度の電撃だ。味わえよ、人形!」


 ミョルニルの一撃が、人形の腹を吹き飛ばす。

 もう一人が回復して、こちらに銃を向ける仕草をするが、感知済みだ。ミョルニルを投げて無力化すると、壁を背に立ち警戒を続ける。まだ無力化できていない傭兵(観司先生)がいる、という状況設定だ。気は抜けない。

 同時に、自動人形が全て光の粒子となっていく姿も横目で確認。オーバーダメージは狙えたようで、一安心だ。




『――状況完了。試験を終了します』




 と、緊迫した時間の中、端末が告げる。

 ……ふぅ、なんとかなったな。最後まで観司先生の姿を捉えきれなかったことが心残りだが。本当にどこに?


「お疲れ様です、ドンナーさん」

「って、な?!」


 観司先生がいたのは、私の真横だったようだ。

 いや、そう簡単に言うが、電気も利用した感知を続けていたのだぞ? それを切り抜けるとは……これが、熟練の魔導術師か。異能者でないことは、とくに海外では侮られやすいものだ。その油断が命取りになるということは、おおいに理解させられる。

 鈴理と夢? あの二人は元から技能も性質も規格外で参考にならない。歴史の浅い魔導術で“秘伝”を生み出せるなど、ハッキリ言って異常だからな? 夢よ。


「……お疲れ様です、観司先生」

「本日はこれにて終了です。質疑応答は授業後になりますが、よろしいですか?」

「ええ、もちろんです」


 なんでもないように言うがね、先生。

 何故、質疑応答を求めているのがわかったのか。鈴理並みの観察眼? なるほど、師弟とはこういうことか。


「観司先生」

「はい? 如何致しましたか?」

「実力を認めている相手には、やはり名で呼ばれたく思います。だめでしょうか?」

「――いいえ、そんなことはありませんよ、フィフィリアさん」

「ああ、良かった。ありがとうございます、未知先生」


 うむ、これでみんなとも近づけたような気がする。

 しかし、まだ一端であろうというのにこの実力か。まさか、“変身”もせずにあの如月風子に勝つなど夢物語だと思っていたが、なるほど。


「これは、あり得るかも知れない」

「はい?」

「ああ、いえ、なんでもありません。では後ほど」

「そうですか? はい、また後ほど」


 未知先生に頭を下げて、踵を返す。

 元より鈴理を待つために残ることは確定であったが――この一戦、想像以上に糧になる戦いかも知れないな。



「ふふっ」



 楽しみにしていますよ、未知先生。

 己を向上させる糧となるのであれば、たっぷりと見て学ばせていただきますゆえ。





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