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そのじゅういち

――11――




 どうにかこうにか試験準備に間に合い、本日一緒に試験を行う高原先生とイルレア先生に挨拶をし、なんとか一息吐くことが出来た。本当はイルレア先生ともう少し話をしたかったけれど、仕方ない。今は試験に集中しよう、と、試験を担当する生徒のデータを見る。

 最初の生徒は、Sクラスの中でも二人だけの男子生徒、その一人。超常型アンノウンタイプの異能者、黒土くろつち一馬君だ。異能名は“あゝ我が愛しの黒歴史ブラックノート・グラフ”といい、自分の能力ステータスを“表示”して、スキルと呼ばれる異能を追加。条件を満たしながらロールプレイすることで熟練度を上げると、新しい異能として己に身につく、という破格の物だ。

 もっとも、おいそれとは追加できないようなのだけれどね。色々と条件があって、習得するまで長く、習得してもロールプレイをミスすると発動しない、とか。

 試験に臨むに当たって、ロードレイス先生から送られてきた最新のステータスを表示する。試験までに力を磨いていることだろうから、これで全てではないのだろうけれどね。










――――――――――――――――――――




Name:黒土一馬 LV:30

Race:人間   Job:異能者・超常型アンノウンタイプ

HP:4000/4000

MP:5000/5000

STR:55

VIT:42

AGI:65

DEX:120

INT:210

MND:280

LUC:19

SKILL↓

ステータス鑑定  LV:8

業炎の魔王    LV:MAX

真実の目     LV:MAX

眷属召喚(影獣) LV:MAX

右腕封印(黒雷) LV:MAX

左腕封印(吸魔) LV:MAX

荒雅の魔眼    LV:MAX

血針獄界スティグマ   LV:6

救霊王の天翼   LV:4

悪導王の魔翼   LV:3

天閃(Rapid)       LV:2

魅了の魔眼    LV:2

悪食       LV:1

転移       LV:1

影撃ち      【950/1000】

武闘霊体     【220/1000】

王審の魔眼    【10/1000】




――――――――――――――――――――












 うーん、多い。

 熟練度、という形で習得できるものは、最大で三つまで。

 つまり、習得訓練が出来る異能は、三つが限界ということなのだが、それでも破格だ。ただし、スキルレベルはマックスまで上げないとそこまで強い効果は見られないらしい。

 レベル三以上でまぁまぁ、レベル五以上でそこそこ、レベル八以上で普通に使えて、最大の十まで上げて破格の神髄に至る、ということであるらしい。

 また、レベルも非常に上げにくく、魔眼だけは血反吐を吐いて努力をした、ということだが……他のレベル八以下の異能については、使えるという領域ではないようだ。


「細かい制御が苦手、ということであればそこを基準に」


 有栖川博士提供という、自動人形を起動。

 見た目は流線型のフォルムの白い戦士で、設定に合わせて武器を持ったり攻撃を変えたりする。数は最大で十体まで起動できるが、今回は三にしておこう。数が多いと、最大十五分の試験時間では終わらない。

 今回の設定は、手にアタッシュケースを持たせて、それを破壊せずに自動人形(ダメージ変換結界の影響下に置けるので、破壊はされない)を行動不能にすることが目的、と、準備をしているであろう黒土君の端末に転送した。

 試験開始まで五分程度。この間に作戦を立てることも試験のうち、ということだ。


「試験官への攻撃は可能。今回は、試験官の扱いは予備戦力にしておこうかな」


 自動人形の援護に集中して、私自身は姿を消す。

 索敵をして私の姿を発見した時点で加点。攻撃を加えてライフを削ればさらに加点。ライフが半分で撤退、という扱いに設定しておく。これらの情報は、黒土君に伝えない情報だ。つまり、気づくことも課題なのだ。


「【速攻術式セット隠遁展開陣ハイステルスバレル展開イグニッション】」


 気配遮断、消音、背景同化。

 存在感知妨害や、思考妨害はかけない。あくまで試験の一環だからね。本気で隠れるわけには行かない。その上で、今回使用するのは新アイテム。夢さんから“こんなことはできないか”と相談されて、彼女の練習になるようひとまずこちらで実用化しておいた、碓氷秘伝術式改良版。

 見た目は手甲で、ベルトのカードホルダーとワンセット。手甲に術式刻印レリーフィングが施されていて、ホルダーに納められた魔導鋼のプレートカードにも術式刻印レリーフィングが施されている。


 “試作型プロト刻印鋼板レリーフィング・プレート起動装置”


 もちろん起動実験や安全確認は終えている。

 その上で、今回の実戦でデータを取り、それをもとに夢さんの質問に答えてあげる流れとなっている。当然、理事長にも許可は取ってあるので、黒土君の負担にもしない。


「さて、そろそろかな」


 指定範囲は、一Km半径。

 実体型ホログラムの森を投影し、外側には空中に刻まれた黄色いライン。さらに外側に赤いラインが引いてあり、黄色が警告、赤が場外失格のラインだ。


「最初は、合図用の、と」


 ホルダーから手甲へ刻印鋼板レリーフィング・プレートを装填。

 手甲の嵌められた右腕を、空に掲げるように上げて、合図を行う。詠唱は不要。ただ、手甲に刻まれた術式刻印レリーフィングに魔力を通して、指定の動作をするだけで良い。


「さ、開始ですね」


 ぱちんっと指を弾く。

 すると、手甲に光が灯って循環。

 空に赤い照明弾が上がり、輝いた。


 “動作展開モーション・イグニッション”、成功、かな。


 さて、それでは、試験に集中しよう。





















――/――




 開始の合図である赤い照明弾の輝きを見て、思わず吐きそうになったため息を堪える。

 実戦合同演習。画期的だし、試みの大事さはよーくわかるつもりだ。だがこの授業は、おれにとって苦痛なモノでしか無い、というのもまた事実。

 どうして好きこのんで、恥をさらさなければならないのか。試験を放棄して逃げたい。けれど、それをすると、追試で二重に恥ずかしい思いをするだけだ。だったら、好成績を残して、なんとかこの一回で試験を終えるのが一番と理解しているのもまた、事実。


「やるしかないなら、やってやる――“ステータス鑑定”」


 確認するのは自分のステータス。

 試験官に渡すのは二週間前のステータスだ。だからこそ、試験までに試験官の知らないスキルを身につける必要があった。これぞ、鑑定ができることの最大のアドバンテージ。

 努力の方向性が目に映る、ということだ。










――――――――――――――――――――




Name:黒土一馬 LV:32

Race:人間   Job:異能者・超常型アンノウンタイプ

HP:4100/4100

MP:5200/5200

STR:56

VIT:43

AGI:67

DEX:130

INT:220

MND:285

LUC:18

SKILL↓

ステータス鑑定  LV:8

業炎の魔王    LV:MAX

真実の目     LV:MAX

眷属召喚(影獣) LV:MAX

右腕封印(黒雷) LV:MAX

左腕封印(吸魔) LV:MAX

荒雅の魔眼    LV:MAX

血針獄界スティグマ   LV:6

救霊王の天翼   LV:4

悪導王の魔翼   LV:4

天閃(Rapid)       LV:2

転移       LV:3

魅了の魔眼    LV:2

悪食       LV:1

影撃ち      LV:1

武闘霊体     【340/1000】

蹴空       【50/1000】

王審の魔眼    【11/1000】




――――――――――――――――――――











 ステータスは、高等部卒業程度の実力で二百五十。つまり、おれの精神力は大学生レベルまで上がっている。他の項目は知力と器用さ以外は悲しいほど上がらないが、スキルは増やすことが出来た。

 なんに使うんだよ、と、妹にどん引きされた“魅了の魔眼”はレベル上げをせず、代わりに転移のレベルを上げた。実用性の高い異能で勝負をかける。


(アタッシュケースに盗品や重要な証拠が入っていると仮定した、犯人撃破想定、か。試験官は監督と妨害、か? なら、こちらはライフを削らないように、慎重に動く!)


 ステータスに意識を集中。

 さぁ、覚悟を決めろ、黒土一馬。呼び起こすは、我が愛しの黒歴史!


「フンッ……どうやら、我が領域に溺れたいようだ。克明に映し出せ、【真実の目】よ!」


 右手を目に当て、指の隙間から覗くように見る。

 ※ポーズに意味は無い。


 すると、脳内に地図が浮かび、そこに“三つ”の影が浮かび上がった。

 試験官の姿が見えないな。元々、“真実の目”は隠蔽されたものや対象の嘘を暴き出すスキルだ。索敵はスキルレベルを上げたことによる副産物でしかない。

 おそらく隠蔽系の術式を用いて居るであろう試験官の姿を暴くには、目に見える範囲までいかないと難しい、だろうな。試験官の扱いはどうなるのか、まだ判断が付かない。先に自動人形を撃破しよう。


「くっ――はは、後悔しろ。おれに、この力を解放させたことを!」


 霊力循環!

 背中に集中した霊力が、形を変える。左側のみから形成される烏のような片翼。これが、攻撃型異能の中でも使い勝手の良いお気に入りの異能――“悪導王の魔翼”だ。

 ふわっと浮き上がって、高速で滑空。片翼なのになんで飛べるのかって? はっはっはっ、そもそもこの異能、飛ぶのに羽根とか必要ないし!


「ブラックバード――」


 異能効果圏内に自動人形を検出。

 自動追跡モードに設定。異能解放まであと三秒、二、一。


「――クレイモア!!」


 浮き上がり、闇色のエフェクトを展開。背中の片翼から羽根が十三本(※固定)排出され、それらは全て空中で剣の形に変化した。これぞ、ブラックバード・クレイモア。数は十三本固定な上に、手を振り上げてから振り下ろす姿が結構恥ずかしいけど、威力は相応だ。

 走る自動人形に向かっていき、“木を貫通”して迫る。その飛ぶ刺突は自動人形の一体の胸に突き刺さり、後方の木に串刺しにした。それだけでライフポイントが切れたのだろう。光の粒子になって消えていく。

 残りの二体は、避けた? いや、自動追尾だったんだけど……。


「ほう。少しは骨のある試練のようだ」


 砕かれた剣。

 なるほど、試験官による妨害か! 詠唱は聞こえなかったが、基本的に、魔導術師は詠唱が必要だ。無詠唱なんて言うチート主人公みたいなことはできない。

 だったら、対処は詠唱に対するカウンターで間に合うだろう。


「では、次は本気だ。せいぜい踊れぶふッ?!」

――LP15000→LP14200


 腹に思い切りめり込んだ魔力弾。どや顔でキメていたから、“あからさまな油断”に対する警告だったんだろう。減点されたであろう失態だ。だが、それ以上に動揺がある。

 “えっ、詠唱は?”という、覆せない動揺が。


「我が闇の僕よ。王足る我が身に宿りし漆黒の狩人よ。我が前に顕現し、我が身を守れ」


 眷属召喚。

 いやまぁ、物質成形系異能力なのだけれど、それはともかく。

 影から現れたのは、漆黒の蝙蝠たちだ。自動防御、索敵、迎撃までこなす万能型。おれが動揺しているのなら、警戒はおれの異能にやらせる。ま、適材適所ってやつだ。


「まずは憐れな絡繰り人形よ、魂を持たぬ貴様たちに地獄の痛苦を味合わせてくれようぞ!」


 滑空しながら、次の自動人形に向かう。

 流線型の銀のフォルムは、一昔前に流行った正義のヒーローによく似ていた。確か、魔導機械の虚堂博士と異能機械の有栖川博士の合同出資で、ボランティア目的のチャリティー映画、だったっけな。

 ヒーローを攻撃っていうのも微妙に気まずいんだが、もう、おれ自身がどう見ても悪役系のフォルムだ。悪役なら悪役らしく、悪属性っぽい攻撃で切り抜けてやるまでだ!


「我は獄門、地獄の罪過を灼き尽くす者なり! 聳え立て【血針獄界スティグマ】!」


 地面を撫でるように、下から上へ掌を振り抜く。

 すると沸き立つように血色の針が地を突き破って出現。波のようにせめぎ合い、森を走る。木に触れれば木から生え、石に触れれば石から生える。運良く隠れた試験官が効果範囲に居れば、試験官は貫く。当然、自動人形も貫く。レベルが六になったことで、貫ける物を選択できるようになったのだ。


「フハハハハハハハハハッ! 見よ、これぞ我が力の神髄なり!」


 自動人形に追いついた血針獄界は、アタッシュケースに当たると、アタッシュケースは貫かずに自動人形を串刺しにする。あと一体はすばしっこく効果範囲から離れたが、一体だけなら最早、少々派手でも問題は無い。


「おいおい、逃げるならちゃんと逃げなきゃダメだぜ、ベイビー。――天閃(Rapid)


 異能による高速移動で、瞬く間に最後の一体を視界に納める。

 ――瞬間、目の前に飛び込んできた壁に、思わず別のスキルを選択。転移により、レベル三の最大距離である三メートル奥にワープした。

 っ試験官の妨害か。転移のレベル、上げておいて良かったぜ!


「ハッ、美人だからといって手加減はしないぜ? 観司試験官。悪いがこれでキメさせてもらへぶッ?!」


 と、唐突に躓いて転ぶ。

 って、はぁ?! 滑空してるのになんで躓いたんだ?! よくよく観察すれば、足下に小さな壁。防御用のシールドを遠隔展開して、妨害に使ったってことか!

 どうしよう、減点だ、すさまじく格好悪い! い、いや、まだ希望は残ってるよな。このまま手早く、試験をクリアすれば作戦遂行レベル自体は高くなるはずだ!


「ふ、フフフ、敗北にはほど遠い。見せてやろう、これが我が異能だ!」


 選択するのは右腕のスキル。

 右腕封印、黒雷。黒いだけの稲妻と侮るなかれ。威力も速度も雷級だ!


「クッ――我が封印の味を知れ。右腕が疼く――ッ、穿て、黒雷!」


 放たれた稲妻は、瞬きの間に突き進む。

 アタッシュケースは狙わない。綺麗に、自動人形の頭だけを吹き飛ばし、自動人形を光の粒子に書き換えた。これぞ我が力――思い知ったか!

 と、だめだ、あんまり調子に乗ると、夜中に思い出し笑いして友人に引かれる。自重自重。おれはハーレム願望なんて持ってないっ、と。


「――これにて、試験終了です。お疲れ様でした、黒土君」

「って、ファッ?! み、観司先生」


 気配無く現れた観司先生に、思わず驚く。

 び、びっくりした。でも、きょとんと首を傾げる観司先生かわいい。じゃなくて!


「あ、あはは、お疲れ様です、観司先生。ところでその、評価は……?」

「評価は後日、みなさんと一緒に通知します。ですが、追試にはおそらくなりませんから、安心して下さい」

「ほ、ほんとですか!? よ、良かったぁ」


 バイトして妹に誕生日プレゼント買ってやらないとならなかったから、助かった。

 追試じゃなければセーフ、セーフ! あんまりギリギリだと、妹に引かれるけどな!


「では、今日はもう帰宅しても大丈夫ですよ」

「は、はい、観司先生! さようなら!」

「はい、さようなら。お気を付けて」


 観司先生に頭を下げて、上機嫌で走り去る。

 このときおれは、後に降りかかる試練など、知る由もなくさっさと帰った。


 まさか成績に、“調子が良くなるとミスが多くなる”などという減点項目があり、妹にため息を吐かれる羽目になろうとは……。





2017/04/03

誤字修正しました。

2024/02/02

誤字修正しました。

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