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そのよん

――4――




 ――世界特殊職務機構管理協会。

 教科書にも載っている、異能者や魔導術師を管理するための機構だ。といっても、その役割は創作物でありがちな治安維持や粛正などに携わるモノでは無く、あくまで“名簿管理”が主だ。

 退魔師連盟や魔導術師連合などもここへ名簿登録され、組織人数や能力稀少度をランク分け、管理し、世界各国の警察組織・治安維持機構と情報共有させることにより、増えつつある特殊技能犯罪(ExtraSensoryPerception&MagicSkill-Crime)対策に役立てるために作られたもので、国際連合が管理している組織だ。

 前世と違い、英雄の活躍もあって六番目の常任理事国として登録されている日本にも、この世界特殊職務機構管理協会――通称・協会――の主軸に幹部を所属させている。例え管理している、とされている国連であっても自由に干渉することの出来ない、異能者や魔導術師たちの最後の砦だと、そう言われることすらもある国際的中立機構。実質、世界各地の特専は協会によって管理されている部分も大いにあり、海外の特専との交流の際にはどのような人員を派遣すべきかなどの人材管理も行っている。

 その協会から、日本の関東特専へ、人員が派遣されることになった。名目としては英雄を二人を教員として講義に取り組むことで、授業内容や生徒の成長にどれほどの成果が見られるか、という点を海外諸国が学ぶための“視察”である。その裏向きの理由は、関東特専を中心にして報告される悪魔騒動の原因調査と、海外で悪魔関連の事件を起こさせないための情報共有。それから、報告されて居るであろう特異魔導士の観察だ。

 更に言うのなら――不満防止、とでも言えば良いのかな。協会の最上層部は“私が魔法少女である”ことを把握している役員がいる。だから、悪魔関連のことについても当たりがついていることだろう。その上で視察を行わせるのは、海外諸国からの不満の抑制と不安材料の解消を、海外の視点から行わせること、といったあたりかな。


「いやぁ、緊張しますね、観司先生」

「ええ、はい、そうですね。陸奥先生」


 そんなこんなで、本日。

 我らが関東特専に、十日という期間を用いて視察の役員を迎えることになった。この十日間、というのはつまるところ、学期末試験の様子を視察する、ということだった。

 内訳としては、通常授業を三日と試験週間の一週間を数えて、土日を挟んだ数字だ。本日、水曜日の授業を視察した後に土日を挟んで、月曜日から金曜日までの五日間。合計で十日間という日程になる。


「それにしても、十日は長いですよね……。僕はもう、胃が痛くて痛くて」

「それを言ってしまったら、私は試験視察ですよ? 陸奥先生」

「……そういえばそうでしたね。しかも、あれですよね? 実践演習の」

「ええ。もう既に、緊張しております」


 知りたいのは普段のままの姿だ。

 そのため、基本的にはランダムで授業の見学を行う。だが試験期間は別だ。なにせ、教師たちは大いに緊張させても良いだろうが、生徒は別だ。急に偉い人が来る、と言われてしまえば普段通りの実力で試験を受けることが出来ないかも知れない。

 そこで、緊張しやすい生徒や場に惑わされやすい生徒がいないクラスを慎重に選定した上で、事前告知を行い、極力リラックスさせて授業に臨ませることになっていた。


 で、その事前告知された試験教科の一つに、私が試験官として参加することが決まっている実践合同演習が含まれているのだ。


「でも、なんで観司先生なんでしょうね?」

「な、なぜでしょうね? あはは……」


 理由は、けっこう明白だったりする。

 私が試験官を担当するのは、二年生の二クラス合同試験。一つはアリュシカさんたちの所属する異能科Sクラスであり、もう一つは、その、まぁ、魔導科Aクラス。そう、鈴理さんや夢さんの所属するクラスだ。

 私が試験官を行う理由は、鈴理さんの師匠として“不測の事態”に対応するため。視察官がこのクラスの試験を視察する理由は、特異魔導士である鈴理さんが所属しているため。つまるところ、なるべくしてなった視察だった。


「うーん? ぁ、来ましたよ」


 職員室での最初の顔合わせ。

 応接フロアで立ち並ぶ私たちの元へ、足音が響く。先導するのは理事長の浅井あざいさんで、正面から迎え入れるのは瀬戸先生と異能科のおじいちゃん先生、江沼先生だ。白い、もさもさの眉毛から覗く、つぶらな瞳に癒やされると評判の。


「ようこそ、はるばるお越し下さいました。私は魔導科三年学年主任の瀬戸亮治と申します。こちらは、異能科三年学年主任の江沼えぬま耕造こうぞう重光しげみつです。本日からは、主なご案内等は我々が主に担当させていただきます。よろしくお願い申し上げます」

「ご丁寧にありがとうございます」


 澄んだ声だった。日本語も巧みであり、淀みもない。

 腰まで届くホワイトブロンドのウェーブヘア。空と見まごう程に透き通った青い眼。体躯は白人圏の方にしては、小柄でスレンダーだ。だが、美しい所作が女性らしさを伝えてくる。


「本日より視察に参りました、イルレア・ロードレイスです。皆さんも気軽に、普段どおりの業務を見せていただけましたら幸いに存じます」


 温かい拍手に迎えられ、ロードレイス視察官は嫋やかに微笑む。

 瀬戸先生が着席を促すと、それに彼女は丁寧にお礼を言って、そして。


「コート、皺になんぞ」

「あら、預かっていてくれるからしら?」

「ああ。ほら、よこせ」

「ふふ、ありがとう。ホームでは紳士なのね」

「いつでも紳士だよ、俺は」


 後ろに控えていた獅堂に、コートを手渡した。

 んんんん? あれ? 獅堂? 久々に見たのもそうなのだけれど、ええっと、なんだかロードレイス視察官と親しげ?


「女性に紳士なのね? ふふ。勘違いされちゃうわよ」


 ロードレイス視察官がそう、獅堂に楽しげに告げる。

 すると獅堂は、端に控える私に気がつく様子もなく、ふっと口元を緩めた。えっ、なにその表情?


「構わねーよ。俺もおまえも。そうだろう? イルレア」

「ふふ、理解のある言葉で嬉しいわ。獅堂」


 ん?

 んん?

 んんん?


(「観司先生、観司先生、今の見ましたか!?」)


 小声で、陸奥先生が語りかけてくる。


(「どー見たって親密な仲ですよ! あれ! うわー、九條先生ってそうなんだ!」)


 親密?

 誰が?

 ああっと、獅堂とロードレイス視察官ね。


(「いやー、お似合いの二人ですよね! 赤と白で目出度いっ、なんて、ははは」)


 そうだよね、元々、赤と瑠璃色って相性は良くないもんね。

 いやいや、別に良いんだよ? 獅堂が誰と仲良くなろうが。別に、友達だけれどそれ以上の関係ではないんだし!

 うんうん、私なんかよりよっぽど相性は良さそうだし、友達として、も・ち・ろ・ん! 祝福するよ?


 でも。

 でもね?


 親密な女性が居るのに、“あんなこと”を言ったの?







『おまえが世界を憎むなら、俺が世界を壊そう』

『おまえが世界を憂うなら、俺が世界を救おう』

『おまえが世界に怯えるのなら、俺がおまえを閉じ込めて、誰の目にも触れないように愛し尽くすよ』

『惚れた女の懇願だ。応えなきゃ、男じゃねーよ』

『ほっぺにちゅーしてくれても良いんだぜ?』




『告白の返事は保留にしてくれ。――必ず、俺に惚れさせてやるから』







 ふーん。

 へぇー。

 そっかぁ。

 そうなんだー。


(「み、観司先生?」)


 陸奥先生が声を掛けてくれたので、にっこり笑顔で陸奥先生を見る。

 すると陸奥先生はびくりと震えたアトに、顔を引きつらせながらゆっくりと逸らした。もー、失礼な話だなぁ。あはははははははは。


「さて、それでは九條特別講師とロードレイス視察官はこのまま、理事長室へ。教員は通常業務へ移行となります」

「ええ、よろしくお願いします。浅井理事長。獅堂、エスコートして下さるかしら?」

「ハイハイ、我が儘なお姫様だこと」

「あら、あなたと私の仲じゃない」

「言ってろ」


 否定しないんだねー。

 そうだよねー。綺麗な方だもんねー。

 でも、事前に教えてくれたら私も、無・駄・に! 悩まずに済んだんだけどねー。






 歩き去って行く獅堂たちの背を見送ると、色々と情報が詰め込まれ過ぎた心をリセットするために、踵を返す。

 同時に、獅堂が振り向いたような気がしたけれど――きっと、気のせいだろう。彼がもう、私を見る必要なんかないのだから。

























「獅堂?」

「ん……ああいや、なんでもない。目が合えば、と思ったんだが」

「ふふ、なにそれ? ロマンチックね。似合わないわ」

「うるせー。そろそろ補充しなきゃ心が保たないんだ」

「そんな繊細じゃないでしょうに。ふふふ、おかしいわ」

「男はみんな繊細なんだよ……ったく」

「はいはい。センチメンタルは仕事の後にしてちょうだいな」





2017/04/03

誤字修正しました。

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