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そのなな

――7――




 黒の特殊部隊服に、黒い防弾チョッキ。

 黒いゴーグルと黒い特殊ブーツと、黒いアームガード。

 全身黒ずくめの装備に着替えた夢ちゃんは、わたしたちと作戦を練り合わせていた。


「最初に、敵の異能を表示する。覚えておいてくれ」


 楠さんはわたしたちにそう言うと、腕時計をなにやら操作する。

 そして、腕時計からガラス板のようなモノを引き抜くと、それを机の上に置いた。


「鈴理、特課のホログラムシアターよ。そうそう見られるものじゃないわ」

「詳しいな。夢の実家が気になってきたよ」


 えっと、忍者屋敷?

 それはともかく。楠さんの操作で、机の上に情報が浮かび上がる。情報はいつでも見られる位置に置くのではなく、覚えるモノ。見逃さないようにしないと。


「上から、リーダー格の男。他に順列はないが、全員、前科持ちだ」









――――――――――――




 Name: 田山充 Mitsuru Tayama

 前科:強盗・殺人未遂


 Class:異能者=Single Rare:A- Type:発現型アビリティタイプ

 Ability:選別者の鎧(セレクト・アーマー)

 detail:結界系異能力 効果対象の選別が可能

 Style:Attack/― Defense/A+ Support/A Control/B+ EffectTime/D+

 Allassessment/B-




――――――――――――




 Name: 木村浩一 Kouichi Kimura

 前科:強盗・盗撮・強制猥褻


 Class:異能者=Single Rare:C Type:共存型キャリアタイプ

 Carrier:透視能力クレヤボヤンス

 detail:透視能力 半径10M圏内の透視が可能

 Style:Attack/― Defense/― Support/B+ Control/C+ EffectTime/E+

 Allassessment/C-




――――――――――――




 Name: 木村浩二 Kouji Kimura

 前科:強盗・盗聴・強制猥褻


 Class:異能者=Single Rare:E- Type:発現型アビリティタイプ

 Ability:聴感覚拡張能力(ピーピング・イヤー)

 detail:聴力強化異能 半径10M圏内の物音を聞き分ける

 Style:Attack/― Defense/― Support/B- Control/B- EffectTime/B

 Allassessment/C+




――――――――――――




 Name: 手島伸彦 Nobuhiko Tejima

 前科:強盗 懲役三年半 出所後に再犯 懲役四年半


 Class:異能者=Single Rare:B+ Type:発現型アビリティタイプ

 Ability:模倣者の仮面(スキン・トランサー)

 detail:変身能力 触れた人間の外見的特徴のみ模倣

 Style:Attack/― Defense/― Support/B Control/B EffectTime/A

 Allassessment/B




――――――――――――




 Name: 阿住巌 Iwao Azumi

 前科:強盗放火殺人 懲役十四年半 出所後に再犯 窃盗 懲役四年半


 Class:異能者=Single Rare:E+ Type:発現型アビリティタイプ

 Ability:発火能力者パイロキネシスト

 detail:放出系発火能力

 Style:Attack/B+ Defense/E- Support/E- Control/B- EffectTime/D

 Allassessment/C




――――――――――――









 一目で厄介だとわかる異能者たち。

 その中でも、ひときわ目を引く情報があった。


「強盗、放火、殺人」

「恐怖は仕方ない。恐ろしいことに違いはない。それは構わない。だが、足が竦むのならやめておけ」

「いえ……快楽殺人、ですか?」

「そうだ」

「それなら、似たようなモノを知っています」


 寄生虫お祖父さんは、今、立てこもっている犯人たちとさほど差はない。

 あの人は、そういう人間だった。今際の時まで、己の快楽のために人を陥れることしか考えていない――平気で人を傷つけることの出来る人間だった。


「人間的に厄介なのは確かに阿住だが、未知なら無傷で確保できるだろう。だが問題は他だ」

「……人質の声を聞き分ける、潜入者を見分ける、外部からの攻撃を無力化する、人質に紛れ込む、ですか?」

「ああ、流石、霧の碓氷か。手慣れているな」

「な、なるほどッス」


 夢ちゃんの言葉に、素直に感心した様子だった柾さんが、楠さんに無言で叩かれる。

 分析能力で女子高生に負けるな、と、その目が語っていた。


「今、交渉班が時間稼ぎをしているが、どの程度持つか。本来なら潜入班が潜入後、内部から制圧するのがセオリーなんだが、こういった場に潜入できる人間は出払っている。そこで、碓氷に音と気配と姿を消して潜入、犯人の情報を伝える道具を未知に渡して欲しい。どうだ? 行けるか?」

「私一人だと、難しいです。でも――」


 夢ちゃんが、わたしたちを捉える。

 その信頼に満ちた瞳に、わたしたちは笑顔で頷いた。


「なるほど――まぁ、なにかあったら責任は俺が取る。柾、結界、何度なら察知されずに“拓ける”?」

「リスクを考慮すると、一回ッス」

「よし。良いか? 伝達の道具はこれだ」


 そう言って見せてくれたのは、指輪だった。

 銀色の指輪で、内側に何かビッシリと刻まれているけれど、それ以外に特徴は見当たらない。


「これは“テレパス”の異能が刻まれた指輪だ。如何に耳が良くても、これなら聞かれない」

「それは……幾つあるんですか? 私と鈴理たちで意識共有できれば……」

「一対だ。片方は俺が持つ。だが、まぁなんだ、今回は“仕方ない”」

「え?」


 楠さんはそう言うと、銀の指輪を左手に握る。

 そして、その横に右手を並べた。


「楠秘術――“再臨さいりん”」


 その右手の中に握られていたのは、もう一つの指輪。

 更にもう一度唱えると、もう一つ増えた。


「えぇっ!?」

「まぁ、カラクリは気にするな。それと、今日一日は保つから、強度も気にするな」

「秘伝の一族、そっか、英雄のひさぎ仙衛門せんえもんと同じ……」


 夢ちゃんの呟きに、けれど深く聞くのは止めておく。

 気にしないように言われたのに追求するわけにもいかないからね。


「さて、作戦を聞こうか。どうするつもりだ?」

「ぁ、はい!」


 夢ちゃんは緊張した面持ちで頷くと、自分の考えを話す。

 それに楠さんが幾つかの修正を加えて――作戦が実行されることに、決まった。


















――/――




 スタート地点は作戦室から。

 姿を消して潜入する以上、野次馬やマスコミからも情報を隠しておきたいというのが本音だ。私は特殊部隊服の着心地を確認すると、準備完了の合図を送る。


「い、行くよ、夢」

「お願い、静音」

「汝は影、汝は闇、汝は暗闇を駆ける刃の心。なればその身は、【影の王】と知れ♪」

「よし、鈴理!」

「うん! “干渉制御ロジック・コントロール”――“屈折迷光(ステルス・アウト”)」

「【起動詠唱スタートワード忍法ニンジャスペル是無音之劇場ザ・サイレント展開イグニッション】」


 静音の歌で、忍者としての能力拡張。

 鈴理の異能で、姿形を完全に消す。

 刻印紙柱レリーフィング・スクロールを身体に巻き付けて、発動させて、身体から発せられるあらゆる音を消す。


「上部展開」

「らじゃッス」


 楠刑事の指示で、装甲車の天井部分が一部開放。

 同時に小規模ステルスが起動。作戦室の上部だけにしか効果はないが、短時間なら消せるらしい。マスコミ対策が主だとか。


「自分の異能で、一瞬だけ張られている結界を“拓く”ッス」

「そこに向かって、投げれば良いのですね? 柾刑事」

「はいッス!」


 そう告げるのは、フィーだ。

 極力、力を温存して臨みたい。そう提案すると、フィーが私をファミレスの二階部分に“投げ”てくれると言う。そのあとは、フィーは突入班に混ざる形だ。


「【重火減転じゅうかげんてん・イルアン=グライベル】、【剛腕力帯ごうわんりきたい・メギンギョルズ】――いつでもいいぞ、夢」


 フィーはそう、両手に籠手と、身体に天女のような羽衣を出現させた。


「確認するぞ。碓氷の視界はこちらのモニターで共有できる。道順はこちらの指示に従ってくれ。行動のタイミングについては、有栖川の指示で行う。いいな?」

「はい!」

「任せて下さい。ユメ、君の未来は私が見通す――導け【啓読の天眼】」

「ええ、任せるわ。リュシー」


 杏香先輩がいないのは残念だけど、これもある意味、魔法少女団の任務だろう。

 あとで“実績”として学校に提出できないか確認してみないとなぁ。まだ気が早いと言われるかも知れないけどさ――このメンバーで、全員で力を合わせて、負ける気がしない。


「うぬぬぬぬぬぬ――柾秘術“開闢かいびゃく”……今ッス!!」

「行くぞ、夢! おおおおおおッ!!」


 フィーの籠手に足を乗せ、砲丸投げのように投げられる。

 すると、指に嵌めたテレパスの指輪に、リュシーの声が届く。


『着地位置、東に三度修正』

「(オーケー、リュシー)」


 声は音として零れず、テレパスとしてリュシーに届く。これ、便利だなぁ。もう碓氷の“伝達”のイヤリング、魔法少女団に配っちゃダメかなぁ。


「(着地成功)」

『よし、結界は抜けた。人質に感知能力がいたら余計な混乱を招きかねない。念のため、ダクトから侵入してくれとのことだ』

「(承知。行くわよ)」


 室外機の奥から排気口に侵入。

 薄暗いが、視界は“外”に任せているし、なにより今の私は“影の王”だ。暗がりに恐怖はない。闇に怯えはない。漆黒こそが、最良の友である。


「(碓氷夢、任務開始するわ)」

『くれぐれも気をつけて、ユメ』

「(ええ、任せて)」


 闇を動く。

 普段は助けられてばかりの私たちだけど、今回ばかりは助ける側に回らせて貰いますよ、未知先生!





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