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そのよん

――4――




 若草色のロングスカートに白いシャツ。小花柄の刺繍の上着。肩から鞄をかけて、編み込んでいない方の髪はピンで留めている。

 なんというか、フィーちゃんの私服は“お嬢様”っぽくて、なんとも清楚な雰囲気だった。


「……服は、実家から送られてくるんだ。ほとんどは母の手作りだよ」

「すごい、器用なんだね! へぇ……綺麗な刺繍まで」

「我が家の財政は母のおかげで成り立っているといっても過言ではない」


 そう遠い目をするフィーちゃん。

 そうなんだね……。でもでも、なんだか素敵なご家族だ。


「よーしっ、それじゃあ気合い入れて、フィーの水着を選ぶわよー!」

「あ、あんまり暴走しちゃだめだよ? 夢」

「大丈夫大丈夫! ……今更アンタらに“碓氷さん”呼ばわりされたら吐血するわよ」

「はは、どんなユメでも好きだが、落ち着いている時のユメは素敵だよ」

「たらしか! ジゴロか! 貴公子か!! ――リュシー、爽やかすぎない?」


 ド直球の言葉に、夢ちゃんは流石に頬を朱くする。

 リュシーちゃんは、王子様然とした中に、かわいらしさと天然さがうまーく同居しているからね。

 先ほどとは違って、雑貨売り場もある複合デパートに入ってフィーちゃんの水着を選ぶことになった。


「フィー、希望はある?」

「ううむ。正直、海で遊んだことなどないからな……種類とかはわからん」

「ああ、いいのいいの。露出の感じと好きな色と柄ね」

「なるほど。それであるのなら、わかりやすい。露出は布が極端に少なくなければ良いよ。色は黄、赤、黒、灰が好きだ」


 容貌に合うような水着を見ていく。

 フィーちゃんは静音ちゃんよりも“大きい”けれど、どちらかというと小柄だからなぁ。


「これなんかどうかな? フィー」

「アリュシカ……じゃなくて、リュシー。ほう?」


 リュシーちゃんが見つけ出してきたのは、白の生地に黄色の花柄がついたワンピースタイプだった。胸元がやや開き目で、パレオ付き。

 夢ちゃんと二人であーだこーだと指を差し合い、どうやら同時に手にとったようだ。


「ふむ、良いな。よし、これにしよう。レジはどこに?」

「んじゃ、今日の記念に私の奢りね」

「お詫びに、でしょ? 夢ちゃん」

「そうともいうかもしれないわ!」


 フィーちゃんは夢ちゃんの様子にいくらか逡巡し、けれど引きそうにない夢ちゃんの様子に、苦笑しながらも頷いてくれた。


「まったく。施しは受けない様にしているのだが……今回は、これで手打ちだ。いいな? 夢」

「もちろん!」


 嬉々としてレジに向かう夢ちゃんを、三人で見送る。

 その背中はなんとも嬉しげで、わたしたちは思わず、顔を見合わせて苦笑した。


「ああしていれば、本当に素敵なんだがな、ユメは」

「ほ、本当にそうだよね」

「たまに残念系だよね、夢ちゃん」

「そうか、なるほど、あれが“残念系”なのか」


 そうなんです、あれが残念系なんです。

 苦笑するわたしたちの元に、夢ちゃんが戻ってくる。


「ん? どうかした?」

「夢ちゃんは素敵だよ、ってお話」

「うん? 素敵なのはアンタらでしょーが」


 こういうことも素のまま言える。

 それってけっこう夢ちゃんの良いところ、だとは思うんだけど……ふふ、まぁいっか。


「ほら、それより次に行くわよ、次! ポチ似のぬいぐるみ買って、未知先生の前でぬいぐるみと入れ替えてみるんだから」

「やめてさしあげろ、夢」

「ぜ、ゼノ似のぬいぐるみもあるかな?」

「それは……ええっと、プラモデルのコーナー行く? 静音ちゃん。ロボットなら、あるかも」


 あ、でも、玩具コーナーに行くんだったらなりきり魔法少女コスプレセットが欲しいなっ。

 ミラクルラピ仕様は十二才女児用までだったと思うから、パーティグッズの方が良いのかなぁ? 悩んでいると、夢ちゃんがぽんとわたしの肩を叩く。


「ミラクルラピ変身キットは、確か今は十三才仕様まで出ているから大丈夫よ」

「それ、わたしが十三才程度の体格って言ってない?!」

「スズリは可愛いからね」

「う、うん、鈴理はかわいいよ」

「ああ、それは間違いないな。鈴理はかわいい」

「褒めてるの、それ!?」

「ほら、やっぱり鈴理は可愛いのよ」


 なんだか、お子様って言ってないかな?!

 そう思ってよくよく“観察”すると、夢ちゃんまで素で言っていることがわかって困惑する。うぅ、わたしは大人っぽくて格好良い、師匠みたいな魔法少女になりたいのにっ。













 それから。

 ぬいぐるみ、玩具、小物。色々と見て回って、そろそろデパートを出ようかと言う時。一階の電化製品売り場がなにやらざわついていたので、わたしたちはふと、なんとなく、足を向けた。


「有栖川博士謹製の、異能家電?」

「ク、クラウン社の提携もしているんだよね? じゅ、授業で習ったよ。薬品と美容用品の。ドライヤー、とか」

「そうね。それから、サイレント社の魔導家電だね。サイレント社の社長で科学者の、虚堂こどう静間しずま博士は、有栖川博士の知己じゃないかしら? ねぇリュシー」

「いや、お父様の口から他の科学者のことは聞いたことがないよ?」

「ありゃ。あーでも、他の博士を褒める暇があるくらいだったら、リュシーとベネディクトさんを褒めるか」

「……ひ、否定できない、かな」


 頬を朱くしつつ、もじもじと肯定するリュシーちゃん。

 うん、ほら、わたしなんかよりもリュシーちゃんの方がよっぽど可愛いと思うよ?

 リュシーちゃん、普段は格好良いのに、ふとした時に見せる顔は可愛いから。


「ね、ねぇ、みんな、あれじゃないかな? ひ、人だかりのもと」

「どうしたの? 静音ちゃん。あ、展示のテレビ?」


 テレビに映っていたのは、どうやらニュースの映像のようだ。

 人だかりも、どうやらこの臨時ニュースをみていたみたいだ。なんだろう? なにかあったのかな?

 首を傾げながら、わたしたちも人だかりに混じってニュースを見る。




『――今朝未明渋谷で発生した銀行強盗事件は』




 あ、そっか、

 そういえば夢ちゃんが、“銀行強盗が出たから迂回しよう”って言ってたもんね。


『強盗グループは現金三千万円を盗み逃亡。途中、ファミリーレストランに逃げ込み、現在は立てこもりをしております』

「立て籠もり? 怖いなぁ」

「近づかない方が良さそうだなぁ」

「巻き込まれかねないもんね……」


 なんというか、ほら、運が悪いと……ね?

 次いで、カメラは現場の様子を映し出してくれる。ええっと、人質は後方にかき集められているのかな?

 異能で撮影したのか、人質の様子が見える。そして。


『現場の様子です。人質は男女十余名であり――』

「はぇ?」

「んん?」

「え、え?」

「うん?」

「これは……」


 その中に、見知った顔を、見つけてしまった。


「な、なんでいるんですか? ししょー……」

「あ、リリーもいる。えっ、これって」


 それから、意図せず声が重なる。


「いやぁ」

「犯人」

「無事で」

「す、済むの」

「かな?」

「――否定できん」


 ほんの一瞬のことだったけど、映った人質の様子。

 女性や子供がひとまとめにされたスペースで、肩を寄せ合う女の子と女性の姿。まるで、女性が庇うように女の子を抱きしめているように見えて、テレビを見ているひとたちからも、同情的な声が上がる。

 けれど、事情と中身を知っているわたしたちからしてみれば、その状況の内情は一目瞭然だった。






 あれ、犯人たちを虐殺しようとするリリーちゃんを、師匠が抑え込んでいる姿だ、と。

















――/――




 ――PM:4:25 ファミリーレストラン内――




 テーブルを片付けてバリケードにされ、空いたスペースは“人質のブース”として活用されている。大雑把に男と、女性と子供に分けられていた。

 そんな、銀行強盗に囚われた中、犯人たちにこれみよがしに銃を突きつけられている男性の姿があった。

 輝かしいプラチナブロンド。鮮やかなスカイブルーの瞳。身なりの良いスーツに身を包んだ彼は、テーブルから引っ張り出された椅子に腰掛け、頭に銃を突きつけられていた。


「へっへっへっ、まさか“クラウン社”の会長が人質に手に入るとは思わなかったぜ」

「そうだね、私も反省しているよ。興味本位で入店するべきではなかったね」

「うるせぇ! 人質は黙ってろ!!」


 あからさまに様子がおかしい犯人に、ため息ひとつで肩をすくめ、口を閉じる男性。

 彼はよほど肝が据わっているのだろう。堂々とした態度を崩さず、足を組んでいた。


「金はあるんだ、高飛びして、逃げ切ってやる……」


 犯人の数は四人。

 裏口の見張りに一人、人質の周囲に二人、そして男性に銃を向ける男で全員だ。その全員が異能者であり、典型的な異能犯罪の一つであった。


「これから大事な会議があるんだがね」

「ハッ、テメェは逃がさねぇよ。あんたの身柄だけであと六千万は優に稼げそうだ」

「無事は保証してやるよ、命だけは、なぁッ! ひゃっはははははははっ!」


 周囲の犯人からも、嘲笑うような声が響く。

 その威圧的な態度にも、男性はこれ見よがしに肩をすくめて見せるだけだった。


「なぁオズワルドさんよぉ、あんたの身代金がいくらになるのか、オレは今からでも楽しみで仕方ねぇよ。げっへっへっ」

「今からでも改心するには遅くないと思うがね。――生きとし生けるもの全てに、更正の機会はあるべきだ」

「だから黙ってろ!!」

「君から声を掛けてきたように思うのだが……まぁいいさ」


 男性――名を、フィリップ・マクレガー・オズワルド。

 この事件に巻き込まれ、重要な人質とされている彼。大企業の会長である彼を人質に取る彼らは、金に欲目がくらんで、だからこそ気がつかない。




「私と、未知の、デートに茶々? ふ、ふふ、おかしな話ね? そう思うでしょう? 未知」

「お、お願いだから、抑えてっ」

「いやね、未知。抑えているわよ? ほら、まだみんな五体満足ですわ」

「そ、そうね、その調子でね?」




 彼らが取り囲んでいる“弱者”は――その実、世界でもっとも敵に回してはならない存在であるということに。





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