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そのに

―2――




 わざわざみんなで足を運んでお出かけ、ということにももちろん意味はある。

 もちろん、一女の子としてはみんなで遊びに出かけること、新しい服やアクセ、スイーツに胸をときめかせることも重要なことだ。

 けれど、今回の主目的は“それ”ではなくて、別のことにある。そう、それが――。


「沖縄、旅行、蒼い空、透き通った海! と、くれば、大事よね!」


 先頭に立つ夢ちゃんは、胸を張ってそう言い放つ。

 そう、今回の主目的。それはズバリ、“水着”だ。ちなみに、これまでは凝った水着だと変質者の吸引力が凄かったから忘れていて、話題を振られた時にうっかり“スクール水着って便利だよね!”とわたしが言ったことに端を発する。

 基本的にわたしよりの意見が多い静音ちゃんですら、“それはちょっと、ない”とか言われてしまったのもあって、せっかくだからみんなで新調しよう! と、集まったのだ。


 ダメかなぁ、スク水。

 きっと師匠だって似合うと思うんだよね! 流石に、着てはくれないと思うのだけれど。


「鈴理はワンピースタイプとかのが似合うんじゃない?」

「子供っぽくない?」

「す、鈴理はそれで良いとおもうよ」

「ユメはどうする気なんだ?」

「うーん、タンキニとかで合わせるかなー」


 わいのわいのと言いながら、水着売り場を巡っていく。

 なんだろう、わたしだって花の女子高生なんだし、こう、色っぽい水着とかでも許されると思うんだけど……やっぱり胸か。この絶壁が悪いのか! お母さんもなんというか、童顔だし、遺伝なのかなぁ。

 リュシーちゃんはけっこう大人っぽいし、ビキニとかでも似合いそう。黒ビキニとか。


「リュシーちゃん、これは?」

「リングトップ? うーん、着てみようかな?」

「いや、風紀的にアウトじゃない?」

「夢、その視点はちょっと……」

「セーフよセーフ! セーフ、よね?」


 でも、言われてみれば確かにちょっとダイタンすぎる、かも。

 それでもリュシーちゃんはあまり抵抗がないようで、積極的に色々とみているみたいだった。ハイレグ、とかは選ばないし勧めないけれどね?


「わ、私はどうしよう」

「静音ちゃんって、けっこうスタイル良いよね。童顔でほっそりしているのに、こう、わたしとは大違いっていうか!」

「す、鈴理は可愛いよ?」

「うぅ、慰めてくれなくても大丈夫だよ? 童顔絶壁お子様体型なのは自覚しているから」

「ステータスよステータス。静音の水着かぁ……鈴理よりは胸があるからね。ビキニと、恥ずかしいならパレオでも合わせる?」

「ステータス? シズネ、この場合はどういう意味で使うんだい?」

「え、えーと、えーと、さ、さぁ?」


 きょとんと首を傾げるリュシーちゃんと、戸惑いながら目を逸らす静音ちゃん。

 ステータスにはならないと思うんだけど、ホントにどういう意味で言ったんだろう? あとでぎっちり問い詰めなきゃ!

 夢ちゃんは良いよね。絶壁って言うほどでもないのもそうだけで、“お子様体型”じゃなくて、“スレンダー”で通じるし! むぅ。わたしだっていずれは、師匠みたいに“ないすばでぃ”になるんだから。


「ほ、ほら、元気出して。私は笑顔の鈴理が好きだな」

「静音ちゃん、ありがとう。ところでその手に持っているのは?」

「ワンピースタイプのだよ? 花柄で可愛いから、す、鈴理におすすめしようと思ったの」

「そ、そっか……うん、着てみるね」


 邪気なくにこにこと言われてしまえば、こちらとしても毒気を抜かざるを得ないなぁ。


「ありゃ、鈴理は決めたの?」

「うん。一応、かな。夢ちゃんは?」

「迷ってるのよねー。リュシーはモノキニにしたのよね?」

「ああ。これ、けっこう動きやすそうだしね」


 リュシーちゃんが手に持つのは、黒い“つなぎビキニ”だ。前から見るとワンピース、後ろから見るとビキニっていう、大胆なデザインのもの。

 とくにリュシーちゃんが合わせるとひじょーに大人っぽくて、同性ながらドキドキしてしまう。なにより、羨ましい。


「私はチューブトップにでもしようかなぁ」

「夢ちゃんはタンキニの方が似合うんじゃない?」

「そ、そうだね。あ、夢。あの水玉のとか可愛いよ」

「どれ、あ、あれね」


 夢ちゃんは手触りやらと確認したあとに、どうも気に入ったようで頷いていた。

 まぁわたしもリュシーちゃんもけっこう可愛いのが手に入ったし、あとは静音ちゃんかな。


「ほら、これはどうかな、シズネ」

「あ、け、けっこう布地が多い」

「フリンジビキニはふわっとしたものも多いし、シズネはこれにパレオを巻くとちょうど良いんじゃないかな?」

「あ、静音ちゃん。だったらこの白いのは? ほら、タンポポのワンポイントが可愛い」

「静音、ほら、パレオも柄幾つか持ってきたよ。鈴理のに合わせるならこれじゃない?」

「あわわわ……ふふ、ありがとう。あ、合わせてみる!」


 そう小走りで試着室に向かう静音ちゃんを見送って、わたしたちは顔を見合わせる。

 苦笑しながら思うことは、たぶん、同じ事。


「あとは」

「あの腕輪の色が」

「せめて変わってくれたら、な」


 うーん、染めれば良いのかな?















 買い物を終えると、次はランチだ。

 確かお洒落で美味しいイタリアンのお店があったはずだったし、そこで良いかな。


「んあ、みんな、近場の銀行で強盗があったみたい。念のため、迂回していこう」


 夢ちゃんがそう告げるので、慌てて頷く。

 ごく自然な動きで、静音ちゃんがわたしの後に、リュシーちゃんがわたしの前についた。それを見て苦笑しているだけのように見える夢ちゃんも、小さく周囲に目を遣っている。

 でもね、心配してくれるのは嬉しいけれど、そんなにカンタンには巻き込まれないからね? そう告げると、ため息を吐かれた。えっ、なんで?


「ほ、ほら、イタリアンだよ、みんな!」

「う、うん、そうだね、鈴理」

「ま、警戒は最小限にしてさっさと入っちゃいますか」

「席は空いているみたいだよ。良かった」


 席について、メニューを見る。やった、ランチタイムはサラダバーだ。

 パスタはどうしようかな。やっぱりナポリタンかなぁ。子供っぽいと言われようが、好きなモノは好きなのです。


「静音ちゃんはどうする?」

「え、えーと……ぁ、カルボナーラが美味しそう。ナポリタンも良いね」

「わたし、ナポリタンにするから分けっこしようよ」

「う、うん。ありがとう、鈴理」


 静音ちゃんがふにゃっと笑ってくれたので、えへへ、と返す。


「見て、リュシー、あれが癒やしよ」

「癒やし系か、なるほど。奥が深いな」

「そうでしょうそうでしょう」


 うん、夢ちゃん? あんまりリュシーちゃんに変なことを教えないでね。

 ほら、静音ちゃんが冷たい目で見ているよ? もう。


「そういえば、静音ちゃん……最近はどう?」

「あ、そういえば私も気になってた。もう変なこと言われてないでしょうね?」


 夢ちゃんはジェノベーゼ、リュシーちゃんはアラビアータ。

 全員分のパスタが来て手を合わせて。雑談の中、ふと気になって静音ちゃんに尋ねてみた。ご実家から上から目線の通達が来て、実際に特専に来た弟さん。静騎君、だったかな?

 なんだか芹君とは交流あるみたいだけど……。


「う、うん。あれから、なんでもお手紙の類いは時子様、じゃなくて、時子さんの検閲が入ることが決まったんだって。だ、だから私に来る前に時子さんに届くらしいんだけど」

「あ、もしかして、一通も静音ちゃんに届いてない、とか?」

「そ、そうなんだよね――どうせ炎獅子祭で静騎に勝ったことまで罵るようなことでも書いてあったんでしょうけれどご愁傷様。ふふっ、あなたたちが捨てたから時子様が後見人になって下さったというのにその時子様に言いつけるなとでも書いたのかしらね。ほんとうにおばかさん。直接言いに来たら良いのに。来たらゼノるけれど」


 お、おおぅ、ブラック静音ちゃん。

 ま、まぁ、前向きになってきたのはすごく良いことだよね。素直に笑顔で祝福しよう。でもね、静音ちゃん。“ゼノる”はたぶんオーバーキルだよ?

 そんな風に納得するわたしに、対面から身を乗り出す夢ちゃんが耳打ちをしてくる。


「水守の家、手紙に“この手紙を読んだらつべこべと言い訳をせず、どのような事柄よりも優先させて出頭しろ”って書いたみたいなのよ」

「えっ、それって、まさか」

「そう。黄地のご意見番以下数名のその場に居合わせた退魔古名家当主と、水守の上部で水守が守護に当たるべき“水無月”の現当主が、顔面蒼白で水守に行くことになったみたいよ。もちろん、“お説教”にね」

「うひゃあ」

「もちろん、検閲に関しては静音から手紙で告げてあったみたいなんだけど、それもこう、都合良くというかまぁ、“名家の名を騙る”なんて風に解釈されたらしくて、ね」


 事前通知を無視、かぁ。

 それは確かに、救いようのない話だ。


「今後は一切、静音に変なちょっかいはかけないはずよ。ギチギチに絞られたとか」

「それは、そうなるよね、普通」


 黒いオーラを出して、リュシーちゃんに手を握られて、落ち着いていく静音ちゃんを見る。ほにゃっと苦笑して雰囲気が戻る静音ちゃん。握られている手に真っ赤になる静音ちゃん。そんな静音ちゃんを見ていると、同時に思い出してしまう。

 自分に自信がなくて、自信のなさを告げるために言う言葉に傷ついて、心の奥底でずっと助けを求めていた静音ちゃん。あの日から今日までの間、やっと優しく笑えるようになった静音ちゃんを守りたい気持ちで、時子さんたちに負けるつもりはない。


 だからもし、まだ、静音ちゃんになにかしようというのなら。

 わたしも容赦なく――“ポチる”しかないよね!


 そんな風に決意に燃えるわたしを、静音ちゃんはきょとんと首を傾げて見ていた。





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