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そのに

――2――




 生徒会へ提出が終わると、わたしたちは想像していたものよりもちょっと大きめの部屋を貸し出されることとなった。

 ――と、いうのも、その部屋にはちょっとした“曰く”つきであったから、なのだけれど。“曰く付きなら良い部屋がある”なんて言葉にほいほい頷いたのは、夢ちゃんだ。骨の髄まで“曰く”について調べ尽くせる自信があるので、曰く云々噂云々で怖いことはないようだ。他にも理由はあるみたいだけどね。


「と、言う訳で」

「どういう訳かちゃんと説明なさい、碓氷」


 なんて風に、色々すっ飛ばそうとした夢ちゃんを止めるのは、ピシッと背筋を伸ばして、クイッと眼鏡をあげた杏香先輩だ。

 そのもっともな意見に苦笑するわたしやリュシーちゃん、静音ちゃんと違って、フィフィリアさんはうんうんと強く頷いていた。


 今、部員は全員揃っている物の、顧問の先生と監督の先生は席を外している。

 というのも、瀬戸先生に呼び出された師匠は未だ帰ってきてはおらず、レイル先生は鍵を持って部室の開放とわたしたち全員への顔合わせだけして、用事があるからと席を立ってしまったからだ。

 その場合は、全権は一時部長に移行する。つまり、杏香先輩が場を仕切ってくれるのだ。


「この教室の曰く、どういうものなのかしら?」

「えーっと……夜な夜な怨嗟の声が聞こえる、とか。無人のはずなのに人影が見える、とか。血の手形がべったりとくっついていることがある、とかですよ? あれ? ひょっとして杏香先輩、怖いとか?」

「私が怖いのは貧ぼ――こほん。幽霊の類いに怖れることはないわ。ただ、それでは新入部員が集まらないでしょうに」

「はい。なので提案です。――最初の活動テーマにどうでしょう?」


 あ、そっか。

 活動テーマの一つに、“魔法少女の行動原理考察”という項目があるのはこのためか、と察する。部活動を部活動として維持するためには、相応の“実績”が必要だ。

 その“実績”のために、この活動テーマと部室の“曰く”を利用する。ということなのだろう。


「つまり、この“曰く”を魔法少女の行動原理考察の一環で、“正義と愛の魔法少女であれば解決に乗り出すはず”と考察するんです」

「――なるほど。実際に“曰く”の解決に成功すれば、実績は残る、と?」

「そうです」


 夢ちゃんはそう、得意げに頷いた。

 魔法少女団が魔法少女団として活躍できる場は、一学期だとそうない。二学期になれば学校最大のイベント、“遠征競技戦”があるので、部活動として出場して好成績を残せば、部の存続という意味では多大な功績となる。

 功績を作れる機会があれば即実績にとして残るように動いておけば、部活が解体されることはまずない、と、こういうことだろう。


「やはり、ユメは頭が良いな」

「よしてよリュシー。照れるじゃない」

「て、照れてる顔じゃないよ? 夢」


 得意げな顔の夢ちゃんに、静音ちゃんがスパッとツッコむ。

 なるほど、これが夢ちゃんの言っていた、“慣れる”ということか。……あんまり、無理はさせないように気をつけよう。


「それなら早速、調査開始ね」

「役割分担はどうします?」

「そうね……慣れておきたいのもあるわ。今回は、私に任せて貰っても良いかしら?」


 夢ちゃんの問いに、杏香先輩は少し考えてからそう告げる。

 なるほど。それであとで意見交換をすれば、だんだんとわたしたちのリーダーとして動けるようになっていく、と。

 確かに、杏香先輩はなんというか、一度に複数のことを考える、ということがずば抜けて得意な方だ。杏香先輩が巧みに指示出しをしてくれるようになったら、それはもう楽だろう。今までリーダーをしてくれていた夢ちゃんは、どちらかというと司令塔よりも策略、戦略家だ。本当は、指示を任せて作戦立案と諜報に専念したいのが本音だろうしね。

 ……ちなみに、杏香先輩が卒業したら、その役割が回ってくるのはおそらくわたしだ。今のうちに、杏香先輩の動きから色々勉強しておかないとなぁ。うぅ。


「そうね、なら――笠宮さんはドンナーさんと一緒に聞き取り調査をお願い」

「はい!」

「ああ、承った」


 わたしの“観察”があるから良いとして。

 フィフィリアさんは、色んな亊をやらせてみて、適正を見極めようってことかな。


「水守さんは図書室や資料室で過去の状況、噂、事件なんかを調べてちょうだい」

「は、はい」


 静音ちゃんはまだまだ人に当たりに行くのは難しいだろう。

 その反面、読書とかもけっこう好きみたいだし、資料捜索では活躍してくれそうだよね。確か、杏香先輩は大家族だったはず。それでよく見てるのかな?


「碓氷は、そうね、得意分野は影からの行動よね? 任せるから、独自の視点で動いて」

「オーケー、先輩」


 確かに。

 夢ちゃんはむしろ野に放った方が情報を知り得てくる。暴走しないように気をつけてあげなきゃ、だけどね。

 ところでなんで夢ちゃんのことは呼び捨てなんだろう? 今度聞いてみよっと。


「私と有栖川さんはこの場に残って現場検証。私はついでに司令塔を勤めるわ」

「了解だよ、キョウカ」


 師匠やレイル先生が戻ってきたときの、連絡係も兼ねて、かな。リュシーちゃんはいざとなったら見通す“目”がある。こういう時にはうってつけだろう。

 師匠が先に来たらどうしよう? 師匠、お化けってだめだからなぁ。リュシーちゃんにそれとなく伝えておくのが良いのかな?


「では、各員二時間を目安に情報収集を開始してちょうだい」

「おーっ」


 みんなで手を振り上げて、杏香先輩の言葉に頷く。

 さて、ミッションスタートだ。なんだか、わくわくしてきたかもっ。














 わたしたちの部室――ちょうど第七実習室の真上。

 それぞれ目的地に向かって出発したあと、わたしとフィフィリアさんはそれぞれ聞き込み調査のために動き出していた。

 二人で並んで色んな人に話を聞いてみたけれど、目新しいものには当たらない。どうしようかと悩み始めてきたところで、ふと、思い出した。


「あ、そうだ」

「ん? なにか、聞き込みのアテはあるのか?」

「うん。ちょうど良い調査網があるから活用してみようと思うんだ」

「ちょうど良い調査網?」


 端末を操作して、登録された通信番号をタップする。

 すると、その相手に向かって呼び出し音が鳴り、僅か二コールで出てくれた。




『M』

「L」

『Ichi』

「Ove」

『認証完了。どうした? 名誉会長』

「名誉ネーム金山同士ね。調査名、我らが敬愛せし御方の住み心地空間」

『!! 調査任務承諾』

「第七会議室について噂話や目撃情報をお願い」

『イエス! マム!!』




 これで良し、と。

 なにせふくれに膨れあがって三桁会員の大所帯。きっと誰かは知っていることだろう。


「あー……今のは?」

「人数だけはいっぱいいる、登録制掛け持ちオーケーの部活動があるんだ。そこに所属しているから、メンバーの人にお願いしてみたの」

「所属というか、会長と聞こえたような気が――いや、いい。気にしないことにする」


 ? 聞きたければ教えてあげるのに。

 まぁ、隠しておくようなコトでもないけれど、会員カード一桁はうらやましがられるから別に良いかなぁ。

 なにやらお腹を押さえながら歩くフィフィリアさんの横顔を、ふと、盗み見る。緩やかに結われ、飾られた黄金の髪は本当に綺麗だ。そういえば、時子さんから任務を与えられ、単身、日本に来たのだと言ったか。

 あまり深入りしたことを聞くのも悪い。今までならそうして見て無ぬフリをしたことだろうが……もう、彼女は、わたしにとって“内側”の人間だ。見ず知らずのわたしを守ってくれる人としても、魔法少女団の一員としても、フィフィリアさんのことが知りたい。


「――そういえば、フィフィリアさんはどうして依頼を受けて、日本まで来たの?」


 夢ちゃんが調べてくれた、レイル先生の調査書。

 その中に、フィフィリアさんの家、“フォン・ドンナー”と因縁があるような節は見られなかった。もちろん、フィフィリアさんが特別優秀だから、時子さんが依頼した、とか、そういった理由なのかも知れない。

 でも、こう、これまでの会話なんかを“観察”してきた限り、依頼を受けた理由について触れようとする節も見えなかったから――仲間のことなら、聞いておきたかった。


「そうだな……共に行動することも増える。隠しておけることでもないだろう」

「あ、あの、嫌なら良いんだよ?」

「内側に置かなくてはならない相手なら、探っても許されるほどだろうに――鈴理は、優しいな」


 疲れたような顔で笑う、フィフィリアさん。

 わたしはそんなフィフィリアさんに何も言うことが出来ず、ただ、その寂しげな手を握ることしか出来なかった。


「……あれは、休憩スペースか? どうだ、少し休まないか?」

「うんっ。日本の特専の先輩として、フィフィリアさんに飲み物を奢ってあげましょう! なにがいい?」


 あえておどけてそう言うと、フィフィリアさんは笑ってくれた。


「では、緑茶をお願いできますか? 先輩」

「はいっ、しばしお待ちを!」


 フィフィリアさんを、ベンチに腰掛けるように促すと、わたしは小走りで自販機に向かう。

 これが、彼女が、わたしたちに溶け込む一助となってくれるのなら――うん、それ以上に嬉しいことはない、かな。





2019/01/05

誤字修正しました。

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