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えぴろーぐ

――エピローグ――




 特別に借りた予備の医務室。

 そのベッドの上には、なんとか外傷だけ治療されたロードレイス先生が横になっている。その更に隣のベッドでは先ほどまではドンナーさんが寝ていたが、今はもう起き上がって私たち――鈴理さんとリリー。夢さんとアリュシカさんと水守さんは別室待機――に向き直っていた。

 ……うん、それはいいんだけど、なんで私を“恐ろしいモノ”みたいに見るのかな?


「それで、ドンナーさんは……時子さんに関わりが?」

「はい、観司先生。私たちの一族は皆、黄地時子を筆頭とした幾ばくかの英雄に“借り”があります。今回はその関係で、日本に派遣されました」

「その、どうしてわざわざ海外から?」

「……今、まさしくローマを中心に、イギリスや北欧で確認されている現象があります。私は元々そちらの調査に当たっていたこともあり、経験者という形での派遣が理由です」


 なるほど。

 でも、この口ぶりだともう一つある、かな?

 時子さんからの依頼であるということを考えると、海外からつけ込まれる隙を与えないために、同じく海外から人員を動員して、“協力体制”にあるというアピールをするため、とかかな。

 それで思い出したけれど、確か、ロードレイス先生の“神聖なる悠久”とドンナーさんが所属している、らしい、“神記血継連盟”は、互いに“伝説及び伝説級の異能保持者”が集う組織の、タカ派とハト派だったと思う。神記血継連盟がハト派だ。


「その現象、というのが、熱心な信者がなることがあるとされていた“神獣化”現象です。ただ、神獣となった人間はほとんどの場合理性が持たず、暴走します。その場合は“異端審問”が“神より与えられた力に溺れた愚か者”として処分するのですが――貴殿は、救ったのですね」


 ドンナーさんはそう、憧憬と怯えの眼差しで私を見る。

 圧倒的な力を見せたリリーに対しては、こんな目で見ていなかった。ということは、畏れられているのは“力”の部分ではなく十中八九“魔法少女”。つらい。


「それで、このあとはどうなさるのですか?」


 ドンナーさんはそう私に尋ねたあと、小声で“やはり洗脳?”などと呟いていた。

 えっとね? 鈴理さんが私のことを“格好良い”とか言っていたのは、洗脳とかではないからね?


「天使化、という状況に対処したのは初めてだからなんとも言えないけれど……目が覚めて、彼が“覚えて”いるようだったら、七の到着を待ってから記憶処理、かな」

「なるほど、赤子の脳にしてしまう、と?」

「いや、問題シーンの処理のみですからね?」


 まっさらにしてしまったら、殺してしまうのとかわらないでしょうに。

 うーん、なかなか物騒な子なのかな? 経歴、機会があったら調べておこう。


「えー、それなら早く起こしちゃおうよ、未知。私はさっさと未知と愛の巣に行きたいわ」

「愛の巣? なにそれ、リリーちゃん?」

「もちろん魔界よ。雑魚悪魔共も私にとっては雑魚の上級悪魔共も全部支配して作り上げた、“ハートフル・リリ☆ラピ・ランド”よ」

「えっ、なにそれ! いいなー!」

「もちろん、鈴理も連れて行ってあげるわよ? あなたも美味しそうだし」

「そこ二人、危うい話はしないこと」

「やはり日本は魔窟だったか……」


 さっきから、ドンナーさんの顔色がすごいことになっているので自重してね?

 そんな風に二人を窘めていると、ふと、気配がして向き直る。


「う、ぐ」


 もぞもぞと、頭を抑えながら起き上がるロードレイス先生。

 私が警戒を露わにすると、鈴理さんとリリー一歩引いてくれて、ドンナーさんは私の隣に並び立った。


「ボクは、いったい?」

「目が覚めましたか? ロードレイス先生」

「ッ! ミツカサミチ!? な、なぜここに? いや、ボクは――そうだ、負けた、のか」


 ロードレイス先生は狼狽するも、直ぐに落ち着きを取り戻し、沈痛した表情で俯く。


「ハハッ、大口を叩いておいてこの結末。“彼女”にとってボクは悪だった。そう、言われると、やっと周りが見えてきたよ。――ボクは、捨て駒だったんだな」


 どうしよう。

 こんな風に思うことはとても良くないことだとは思うのだけれど。


 物わかりが良すぎて、気持ち悪い。


「悪魔はユルせないし、天使は正しいと思う。ケレド、ボクの信じてきたモノが正しいとは、限らないんだね」

「は、はぁ」

「フッ――キミに言っても仕方のないことか、ミツカサミチ。だが、生徒を重んじるキミには伝えておこう」

「え、ええっと?」

「モウ、ボクは安易に“子供”たちを傷つけるようなことはしないよ」

「そ、そうですか?」

「ああ、シンジられないのもムリはないさ。でもどうか、ボクの行動で、ボクが何者にも恥じないニンゲンになるだと、見届けて欲しいのサ」


 どうしよう、なんか怖い。

 胡乱げに横を見ると、困惑した表情のドンナーさんと目が合う。その目は、確実に、“魔法少女がなんかやった”と確信しているような目だった。

 いや、知らないよ? なんでこんなことに?


(これってやっぱり、魔法かな?)

(ショック療法ってやつね、かったーい頭が柔らかくなったんなら良いんじゃない?)

(い、いいのかなぁ?)


 まずい、これ以上放置しておくと、余計な噂が立ちかねない。

 すごく聞きたくない。すごく聞きたくない、けど、聞かないとダメなようだ。




「……………………何故、急にそんな?」

「キミに言ってもしようのないことだが……フッ、心を奪われたのさ」

「……………………………………はぁ?」




 あ、どうしよう、今すっごく胡乱げな声になってしまった。


「あの、天から舞い降りる美しい御姿。そのサマはまさしく天使だった。ラピスラズリを身に纏い、可憐な顔に笑顔を浮かべ、透き通った肌を惜しみもなく天にかざす姿はまさしくミロのヴィーィィィナッスッ! ――ああ、認めよう。ボクは恋をしたのサ。あの、魔法少女、ミラクルラピに」


 ピシッと身体が固まった。

 ぶふぅっと拭いた声が、後ろから二つ、横から一つ聞こえた。


「あ、え? その、でも、私は――」

「結局、その“素顔”はわからなかったがね。いったい、正体はどんなヒトなのだろうか」

「――んんんっ、顔が見えかった、と?」


 顔の情報だけ吹き飛んだ、とか?


「はぁ? キミは“ボクのヴィーナス”と違って物わかりが悪いね。可憐な顔に笑顔を浮かべ、と言っただろう? ボクは無念にも気絶してしまったから、変身を解くラピの姿が見えなかったのさ。――ああ、ラピ。キミはいったい、どこの誰なのだろう?」


 いらっ。

 っと、違う違う。

 つまり、ロードレイス先生は、ラピと私を=で結べない、と?


 なんだろう、すごく嬉しい。すごく嬉しいのだけれど――無性に、目の前で変身してやりたくなる。


「今回のことは、誰にも言わないと誓うよ。それで良いだろう?」

「それは、助かりますが……その、よろしいので?」

「捨て駒のボクを気に掛けるニンゲンなんて、ボクの愛しのヴィーナスくらいさ。だから、気がついたんだよ。ボクの麗しきヴィーナスがボクを気に掛けてくれるというのなら、ボクはその愛に応えよう。彼女は正真正銘の天使だ。その天使様が導いてくれるのなら、それこそがボクの信仰に報いる形なのサ」


 誰が“ボクの麗しのヴィーナス”だ。

 そう言いたくなる気持ちをぐっと呑み込んで、曖昧に頷いておく。死んだ魚のような目になってしまったドンナーさんはともかく、笑いすぎて過呼吸になっているリリーは、さっさとこの場から引きずり出さなければならないだろう。


「わかります、そう、ししょ――ラピは可憐で、かっこういいんですよね!」

「おお、キミもわかるか! 笠宮鈴理! いや、襲いかかったりして悪かった。あの悪魔も、事情があってのことなんだろう?」

「はい! あの悪魔、ポチはラピの愛で改心した、魔法少女のマスコットキャラなんです!」

「な、なんだって?! そうだったのか……あれほど強力な悪魔を改心させるなんて……ボクの美しきヴィーナスはまるで聖母のようじゃないカ!!」


 盛り上がるロードレイス先生と鈴理さん。

 床に突っ伏すリリー。

 胃を抑えて蹲るドンナーさん。





 私はそんな四人の風景を見て、そっと下がって後ろ手にドアを閉じた。











 さて――今回も、事件は万事解決。

 隣の部屋の水守さんと夢さんとアリュシカさんを誘って、気晴らしにごはんでも行こうかな!




 そう私は色んなモノを見なかったことにして、その場を歩き去ることしか、今はできそうになかった。













――To Be Continued――

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