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そのなな

――7――




 ――西之島異界“遺跡大結界”中央遺跡群。


 西之島異界の成り立ちは、他の異界とは毛色が異なる。どのような経緯で出現したか不明であり、悪魔からの侵攻が始まったその年に、いつの間にか出来ていたものだ。

 神の試練。突然変異の異界。悪魔の修練場。色々な名で呼ばれてきたこの異界はただ安全であるということしかわからず、だが安全だと言うことだけはわかったので観光スポットとして注目されてきた。


「ここね」

「ああ」


 私が呟くようにそう零すと、獅堂は重く頷く。

 中央遺跡群と呼ばれるその場所は、平原に設置された苔むした遺跡が密集する場所であり――これは、秘匿されていることだが“ダンジョン”がある場所でもある。

 異界の中心地から特別なコードを打ち込むことで出現するエレベーターを下ると、ただどこか近未来的な装いの階層が連なる、空白のダンジョン。このダンジョンもまた安全が確立されてはいるが、ダンジョンとは何が起こるか解らないのが常だ。政府によって秘匿され、地上部分のみを解放されている。


「見て、未知。エレベーターが起動している」


 先行してくれた七がそう教えてくれたので、強く頷く。

 起動コードは持ってきたが、やはり不要だったようだ。敵は、虎穴に入ることを望んでいる。


「なにがいるかは判明していないわ。未知はいつでも“本気を出せる”ように、注意を払っておくこと。良いわね?」

「ええ、時子姉。ここぞというときは、躊躇わないわ」


 躊躇いたいけど!

 なんて言ったら色々とぶちこわしなので、神妙に返事をするのに留めた。いやまぁ、“変身”が始まってしまえば、掟によって敵の全ての行動はキャンセルされるのだけれども。


「全員、行くわよ」

「おう!」

「ああ」

「うん!」


 大きなエレベーターに乗り込んで、中央遺跡から地下へ降りていく。

 機械的な照明。機械的な異能と言えば、拓斗さんの“巨神の鋼腕”が思い浮かべられることだろう。“共存型キャリアタイプ”は総じて妙なモノが多いのだが、あれもその一つだ。

 ならこの異界は、異能に連なったものなのだろうか? こんな巨大なモノが? よく、わからない。ただなんというか、本能的に、あまり関わりたくない異界でもあった。


「獅堂、何階層あるか覚えているかい?」

「七、テメェ馬鹿にしてんだろ。六階層だろ?」

「はは、ちゃんと予習してきているじゃないか。で、獅堂、今、どれくらい潜った?」

「あん? そんなもの――んんん?」


 七の言葉で、気がつく。

 六階層に別れたこの遺跡ダンジョンは、一階層目までは意外と短い。だがこうしてゆっくりと考察をしても到着の気配がない、ということは。


「一番下、地下大空洞まで連れて行かれる?」

「さっきから精霊に頼って距離を測っているけれど……おそらくね」


 地下大空洞。

 ダンジョンの最下層に位置するその場所は、東京ドームが丸々一つすっぽり収まる巨大な、なにもない空間だ。一見すると、広く戦える分有利に思える。だが、障害物がないということは実質以上にプレッシャーであり、なにより、十中八九参戦しているであろう魔王の一柱。

 エルドラドの魔女とも呼ばれる彼女に、全力での戦闘を許可してしまうことにある。


「まぁ、出てくるようだったら私が相対するから心配は無用よ。それよりも」


 時子姉に言われて、俯いていた顔を上げる。

 エレベーターが到着したようだ。目の前の扉が、ゆっくりと開いていった。




「――――~♪」




 聞こえてきたのは、楽しげな鼻歌だ。

 ただ白いだけの大きな空洞。その壁側に置かれた複数のキャンパス。中央で絵を描くのは、青白い肌の男だ。

 彼の横でぼんやりと虚空を眺めているのは、ファリーメアと見て間違いないだろう。だが、ファリーメアの横で鎖に繋がれている黒い影は、なんなのか。それから、ウルヴァの背後に設けられた四つの箱も気になる。


「おっと、客人を待たせてしまったか。ようこそ! ワタシの臨時アトリエへ! 招待状は受け取ってくれたみたいだね。嬉しいよ」


 響く声。

 立ち上がり、歩み寄る姿。


「初めまして、英雄の諸君! そしてご機嫌麗しゅう、ワタシの配下を謎の方法で撃退したという魔導術師よ!」


 ファリーメアに聞いていたのだろう。

 彼はそう大きな声で、いや、まるで舞台俳優のような大ぶりな動作で拍手をしながら近づいて来る。なんて、胡散臭い。


「紹介しよう。ワタシの名は“ウルヴァ・イズーリ”。彼のワル・ウルゴ・ダイギャクテイ様より七魔王の一柱たる“魔狂王”の渾名を授かりし、しがない悪魔だよ」

「――で? その魔王サマが招待状に人数制限までかけて、なにがお望みだ?」

「ワタシは野蛮なことはキライだが、それ以上に君たちの手によって悪魔が駆逐されていくのも心苦しくてね。この機会に間引きも必要だろう? プランは簡単さ。君たちの死体を綺麗に飾り付けて、悪魔に勝てると思い込んでいる人間共に見せつけてやれば良い! そうすれば、彼らは悟るだろうさ。絶望し、心を折ることだろう! 悪魔には勝てないのだと!! くひっひゃはははははははっ」


 なるほど、理屈はわかった。

 だが、英雄三人と+αに勝てると自信満々に言えるほど、彼が強大な存在にも思えない。いや、強いことはわかるが、広大な空間で全力を出せる獅堂たちに、本当に叶うとは思えない。

 なら、なにかある?


「はははっ……さて、せっかく足を運んでくれた君たちに、なにも差し出さないのは申し訳ない。存分に鑑賞してくれ。ワタシの芸術をねェ!!」


 パチンと指を鳴らすウルヴァ。

 その背後、四つの箱が崩れて消え、そして。


「なっ」


 中からは、十字架に縛り付けられ、襤褸切れを着せられた鈴理さんたちの姿があった。


「ククク、活きが良くてねぇ。今朝、ようやく捕まえたのさ。――さて、ルールは簡単だ。この空間のどこかに隠されたボタンを四つ同時に押せば彼女たちは解放される。ただし、ボタンを破壊したら、破壊したボタンに対応した人間が、綺麗な赤い花を咲かせることになるだろう。どうだい? スリリングだろう?」

「そん、な。でも」

「ああ、そうそう、厄介な裏切り者の犬は外だ。いかに彼が強くても、起動コードなしではこの場所には来られない。出し抜くのは苦労したよ」


 ――矛盾は見られない。

 どうしよう、どうする、どうすれば……? そうだ、魔法なら?


「――未知、奥の手は待て。ボタンとやらの性質が不明だ。まずはなんとしても一つ見つけて、性質を見極めるぞ」

「ッ――ええ、わかった。わかったわ、獅堂」


 卑劣な――!

 ウルヴァはあくまで楽しげに、肩を揺らして笑っている。なら、私に、この場で唯一軽んじられている私にしかできないことを、しなければならない。


「さぁ、はじめよう。愉しい愉しい晩餐会だ! キミたちがボタンを見つけるのが先か、こちらがキミたちをコロスのが先か、ひひ、実に楽しみだよ!」


 ウルヴァは手を叩くと、傍らの鎖を解放する。

 中から出てきたのは、身体から余計な腕を生やし、正気を失った目で私たちを見る黒い影。


「ダビド?! チッ、正気を失ってやがる」


 魔血王、ダビドか!

 相手は七魔王が三柱。こちらは四人。だが――その人数差は、それほど意味のあるモノでも無いことだろう。


「悪趣味。でも、契約の内だから」


 ファリーメア・アンセ・エルドラド。

 魔龍王、不死にして紅き茨の魔女。魔王と称される遙か以前から、その名を刻む太古の魔女だという、少女にしか見えない空ろな瞳のかんばせ


「【いにしえの盟約・永久とこしえの誓約・我が血・我が声・我が力に応えて来たれ・死滅の龍王】」


 地が軋む音。

 空が歪む声。

 白に刻まれる紅き方陣。


「【盟約承認・現体顕現】――来たれ」


 時子姉が、獅堂が、七が、私が。

 確信と予感に突き動かされて止めようとするより、一手早く。




「血壊龍【アルヴァ・エルドラド】」




 巨大な血色の方陣から、赤黒い龍が現れる。

 見上げるほどに大きな身体。震えるほどに大きな重圧。


「等身大は無理だから、小さめに召喚。行こう、アルヴァ」


 咆吼。

 轟音。

 衝撃。


 なんの準備も終えないままに、強制的に、戦いが始まってしまった――。





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