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そのなな

――7――




 クラス宣伝の一環として、衣装はお化けのまま。

 異能科の校舎へ移動すると、まず最初に目に入ったのは受付だ。何故か、羽の生えた小さくて可愛い妖精が、ふわふわ浮いて来場案内をしていた。


「ゆゆゆ、ゆめちゃんっ!! 妖精、妖精だよ!」

「鈴理が妖精なのは知って……ああ、あれね、“召喚サモン”系異能者か、妖精“共存キャリア”の異能者かしら。前者だったら稀少度Sランクだし、後者かなぁ」

「へぇー、そうなんだ! ところでずっと気になってたんだけど、稀少度って?」

「あー、そっか。知らなくても良いこと、じゃ済まなくなっているもんね。ざっくりそのまま“珍しさ”よ。下から順にEからAランク。枠に当てはまらない特殊さを持つSランク稀少度がある。重要なのは、能力の強さでは無くあくまで珍しさ、ということね。進化して珍しくなれば稀少度があがることもあるのよ。例えば静音は、これまで準Aランク稀少度だったけれど、能力進化でSランク認定を受けたみたいだから、来年からはSクラス配属になるわ」

「へ? クラスも変わるの?」

「競争意識を持たせるために、クラスの中は成績で均等になるように配分されるんだけど、“他に類を見ない”というフレーズのSランク稀少度を配分するとどんな化学反応を起こすかわからないからね。ひとまとめにするのよ」

「そうなんだ……ウルトラSとかそういうのはないんだね」

「USRとか? ガチャじゃ無いんだから」

「ガチャって、ガチャガチャ?」

「いや、主にSNSゲームにおけるキャラクターのランダム入手方法の総称で、最近では私も“BraveBlade”っていうゲームに鈴理似のキャラが居たから課金して爆死――んんっ、ほ、ほら鈴理! Sクラスが見えたわよ!」

「うん、すっごく気になるけど、気にしないことにするね?」


 なんだろう、最近の夢ちゃんはご実家のことや夢ちゃん自身の内面が落ち着いたおかげで、ずいぶんと余裕のある感じになってきた。

 余裕のある感じの最中で、突然暴走状態に入るようになったので、ツッコミが追いつかないというか。うぅ。夢ちゃんは本気で、わたしと師匠とリュシーちゃんをお嫁にする気なの? その場合、静音ちゃんのことはどう思ってるの? 聞きたいことはたくさんあるけれど、暴走の未来しか見えないのでそっと流しておくことに決める。


「いらっしゃーい。異能射的へようこそー」

「あ、あの、二人なんですけど」

「あら可愛い妖怪さん。どうぞー」


 受付は、妖精を肩に乗せた女生徒。

 この人が、ロビーの受付で妖精を置いていったひとなんだと、結びつく。


 教室は扇形の階段状だった。

 結構大きなスペースに装飾が施されていて、お客さんは後列から教壇に向かって射撃を行う形なのだろう。

 教壇では可愛い妖精が的を持っていて、上下左右に動いているようだ。妖精さんには光の膜が張ってあって、玉は当たらないようになっているみたい。


「リュシーちゃんはどこだろう?」

「あそこね、ほら。子供に手ほどきをしている」

「あ、ホントだ」


 見ると、リュシーちゃんはハンドガンを持った男の子に遊び方を教えている最中のようだった。そんなリュシーちゃん自身も西部劇風の衣装に身を包んでいて、格好良い。

 どうやら全員、西部劇風の衣装に身を包んでいるようだった。教室の装飾も、なんだかそれっぽい。


「いらっしゃい。 一年Sクラス“アメリカンキッド”へようこそ」

「ぁっ、お邪魔します」


 入り口付近でリュシーちゃんの様子を見ていたら、男の人に声をかけられた。金髪に青い目の男子生徒だ。


「ここは初めて?」

「はいっ。あ、でも」

「私たち、できれば友達の子に教えてほしくて。順番待ちしても良いですか?」


 夢ちゃんが引き継いで言ってくれたので、わたしもこくこくと頷く。


「いいよ。誰? 今、いる人?」

「リュシーちゃん……有栖川さんです」

「OK。じゃあ、後ろの椅子に座って待っていてくれるかな?」

「はいっ、ありがとうございます」


 よかった、良いひとそうで助かっちゃった。

 夢ちゃんと一緒にお礼を言って、待合いスペースのようなところのソファーに腰掛ける。

 というか、パイプ椅子じゃなくてソファーなんだ……。すごいなぁ。


 見渡す限り、色んな異能の人が居る。

 さっきの金髪の男の子の傍には、金髪の女の子。顔立ちがちょっと似てるから、双子なんだろうか。同じクラス、みたいだし。

 それからなにやら金属のような物を浮かせた男の子や、犬を連れている男の子。みんなSランク稀少度の異能者、ということなのだろうか。


「スズリ! ユメ! お待たせ。来てくれたんだね!」

「リュシーちゃんっ! 全然待ってないよ! その服、格好良いね」

「あ、ありがとう。スズリも可愛いし、ユメは格好良いね」

「そう? まぁ、忍者は格好良いもんね」


 夢ちゃんが得意げに言うと、リュシーちゃんはクスクスと上品に笑ってくれた。


「さて、改めて“アメリカンキッド”へようこそ! ここでやることは簡単だ。好きな飛び道具を手にとって、的に当てるだけ。中央は十ポイント、外に逸れるごとに二ポイント下がって、的の端は一ポイントだ。防護壁で当たらないようになっているとはいえ、妖精さんは生き物だ。当然ポイントは一つ引かれるから注意して欲しい」

「飛び道具はやっぱり銃なの? リュシー」

「リボルバータイプの銃と、ネイティブアメリカンをイメージした弓の二種類だ」


 見せてくれたのは、無骨な黒い拳銃と、すらっとした弓だった。

 なんだか格好良いなぁ。


「弾丸や矢は持つ人の“性質”によって変化する。性格やなんかだね。詳しくは“魂壁プリズン”に反応する、ということらしいのだけれど、よくわからないから省かせてもらうよ」

「へぇー。なんだかよくわからないけど、面白そうっ」

「そうね。しかし“魂壁プリズン”か。どっかで聞いたことがあるんだよね。うーん……まぁ、いっか。じゃ、私は弓ね」

「あ、ならわたしは銃にするね! えへへ、いつもリュシーちゃんが使っているのを見てたから、ちゃんと構えられるんだよ?」

「おおっ、さすがスズリ! 様になっているね」


 なんだかちょっと照れちゃうなぁ。

 リュシーちゃんに促されて、停止線のところまでいく。それから照準を合わせて、じっくり狙いを付けてみた。

 ええっと、妖精さんに規則性はないけれど、よく“視”ると、妖精さんによって動きたがるルートがある。規則というほどカッチリしたものじゃないけれど……うん。


「えいっ――へぁ!?」


 “観察”して放った弾丸。

 一発目からだしまずは様子見と思ったそれは、何故か一度空中で停止。それから、狙いを付けて進んで、半ホーミングのような動きで的の中央にピンッと突き刺さった。

 刺さる形じゃ無いけれど、刺さるようになっているんだね……って、そうじゃなくて!


「スズリは慎重で確実性のある狙い目をもつ“性質”ということなのかな? すごいじゃないか!」

「あ、ありがとう?」


 いやぁ、うん、実感はありませんです、はい。


「よし、じゃあ次は私ね。弦を引けば良いの?」

「ああ、それで“矢”が生成される」

「よし、こう、かな?」


 夢ちゃんがそう弦を引くと鋼鉄の矢が生成される。なんだろう、普段、夢ちゃんが戦闘に使っている“やじりの弾丸”を連想させるフォルムだ。


「ええっと、洋弓だから……弓なりに進むとして……こう! こう?!」


 矢が放たれると、決してその矢は弓なりには進まなかった。

 ごうっというすごい風切り音と共に射出。コースは的よりも下だったが、音に驚いた妖精が身をかがめると、的の位置が下がって真ん中をずどんっと射貫く。

 うん、そう、ぴんっと刺さらず、半ばまで射貫いたのだ。


「え? やばい?」

「す、すごいなユメ。テストプレイで私がやったときも、射貫きはしなかったのに」

「夢ちゃん、暴走型だもんね……」

「ちょっと鈴理? どーゆー意味?」


 あはは、はぁ。

 夢ちゃんは暴走しがちだから、矢も暴走したんだと思うよ? あえて言わずにじとーっとした目で見ると、夢ちゃんはさっと目を逸らした。













 それから。

 各五回の制限の中で、わたしは四十八ポイント、夢ちゃんは矢の軌道が暴走することが多くて妖精さんに当たりかけたりして、十五ポイントで落ち着いてしまった。


「すごいな、スズリ! テストプレイを除けばトップだ」

「誘導弾、みたいなものだったから、えへへ」

「い、いやぁ、難しいわね。日頃、“精密射撃ロックオン”に頼りすぎなのかも」


 なんだかちょっとずるかったような気もする、けど、やっぱり嬉しい。


「さて、十五ポイント以上からは十ポイントごとにランクの上がる景品があるんだ。ユメは四等賞だから、これ。妖精さんステッカーだ」

「あ、ありがとう。可愛いけど、使い道無いわね……。ま、実家にでも飾っておくわ」


 ステッカーには、西部劇風の衣装に身を包んだ妖精さんが、ポーズを決めていた。

 敢闘賞はべっこう飴、三等賞は妖精さん缶バッヂ、二等賞は妖精さんタペストリー。そして、一等賞は……。


「実のところ四十五ポイント以上はけっこう難易度が高くてね。私も【天眼】を限定使用してなんとか満点だったけれど、素の腕じゃ三十ポイントが精々だったよ。なにせ、妖精さんは気まぐれだからね。そんな訳で、一等賞には特別な物が用意してあるんだ」

「特別な物?」

「ああ、そうだ。受付もやってくれていた、クラスメートのルナミネージュ・イクセンリュートの異能“幻想書架(ザ・ファンタジスタ)”によって異界より運び出された水晶――“抗魔晶石フェイト・レジスタンス”。命に関わる攻撃を一度だけ防いでくれるアイテムだよ」


 え、ええっ、それってすんごいものなのでは?!


「あ、悪人に渡ったらまずいんじゃ?」

「いや、実のところ、ルナミネージュ本人だけは素通りできるから、悪人に渡ったら彼女がなんとかする、という条件で学校から許可を貰ったんだ。まぁ、理事長でも四十五ポイントを取られなかった、というのもあるかもしれないけれどね」


 な、なるほど。

 自分の干渉によって生み出した、異能の一部っていう扱いなのかな? それならなるほど、確かに、自分自身に干渉できないはずが無い。


「さ、なくさないようにね」

「う、うんっ」


 きらきらと輝く石だった。

 見た目はクリスタルだけど、その中で光の結晶のような物が明滅している。それに飾り銀をつけて、リングを通してある。なるほど、ネックレスになっているんだ。


「きれー……」

「鈴理、つけてあげる」

「へんなことしないでね?」

「うぇっへっへっ……ってやらんわ!」

「ふふっ、冗談冗談。お願いね」


 ネックレスを付けると、光は一度大きく輝いて、直ぐに元に戻っていく。どうも“登録”というやつらしくて、こうなると“譲渡”しなければ効果は発動しないのだと、リュシーちゃんは続けて説明をしてくれた。


「このあとはシズネのところか? それとも、もう?」

「まだだよ、これから」

「そうか、なら、後で顔を出すと伝えておいてくれないかな?」

「もちろん! 任せてっ」


 リュシーちゃんにそう返事をすると、リュシーちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。

 そのまま名残惜しいけど外に出ようとすると、ふと、わたしたちに声が掛かる。


「有栖川さん? 良かったら、そのまま交代に入るか?」

「キサラギ……いいのかい?」


 リュシーちゃんが“キサラギ”と呼んだのは、さきほどわたしたちを案内してくれた、金髪碧眼の男の子だった。

 彼はふらふらと手を振りながら、苦笑して頷く。


「ああ。見ての通り、交代要員のレナがもう来ているからね。人の流れも落ち着いてきたし、また忙しくなる前に行った方が良いよ」

「ああ、ありがとう。そう言ってくれると助かるよ。恩に着る」


 キサラギ君? が指さしたのは、同じ配色の女の子だった。

 なるほど、本当は交代の人だったけれど、もう来てたんだ。


「――なんだか、そういうことになった。ご一緒させて貰えるかな? スズリ、ユメ」

「もちろん、大歓迎だよ!」

「そうね、よろしくね、リュシー」


 キサラギ君に頭を下げて、リュシーちゃんと夢ちゃんと一緒に教室を出る。


「面白かったねっ、夢ちゃん! リュシーちゃん!」

「ええ、そうね」

「はは、ありがとう」


 リュシーちゃんがそう、照れたようにはにかんだ。

 夢ちゃんはそんなリュシーちゃんに温かい視線を向けると、それにしても、と一拍おく。


「――あれが“幻想書架(ザ・ファンタジスタ)”か。噂には聞いていたけれど、すっごいわね」

「ああ、ルナミネージュの。彼女の異能にはいつも驚かされるよ」


 ルナミネージュ・イクセンリュートさん、か。

 ロビーと、それから的を持っていた妖精さんの姿を思い出す。

 うん、確かに凄かった。


「妖精さん、可愛かったね!」

「それだけじゃないわよ。あの妖精に張られてた防護壁、あれ、妖精自身の手による物ね。召喚した存在に個別に霊力を術として使わせる、なんて、一人で軍隊やってるようなものよ」

「夢ちゃん……師匠に少女力がないって言われちゃうよ?」

「うん、言われないし、そんな扱い受けてるって思ったら未知先生、へこむからね?」

「はははっ、ミチには聞かせられないな」


 夢が無いよ夢が!

 ……まぁでも実際、ちょっとだけ“敵対したらどうやろう”なんて考えてしまった自分自身が、恥ずかしかったり。

 ごめんね夢ちゃん。ひとのこと、言えないかも。




 と、とにかく!

 気を取り直して、次は静音ちゃんの出し物だ。

 リュシーちゃんと三人で行ったら、驚いてくれるかな?





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