えぴろーぐ
――エピローグ――
七魔王二柱が特専に襲撃し、それを未然に防いだ翌日。
平和が戻った特専は、まだ春休みから明けないので、お休みです!
なのは、良いのだけれど……。
「し、師匠、大丈夫ですからっ、静音ちゃんも、黙っておいてくださるそうですからっ」
わたしは今、病み上がりだという師匠の部屋に、訪れていたりします。
「ひぐっ、う、うぅっ、うぁっ、あ、あんな、よりによって、ひっ、うぁっ、封印していたコスモフォームを、ひぐっ、生徒の前で、うぁぁっ」
布団を頭から被って、本気で泣く師匠。
可愛いかも、なんて思っている暇はない。頭をなでなでしたり、慰めたりしたりしながらどうにかこうにか言葉をかける。
「ひ、ひぐっ、うぅっ、こ、こんな、なさけない、“控えめに言ってもド変態”な師匠で、うっ、すんっ、うぁっ、ごめんねぇっ」
「だだだ、大丈夫ですっ、わたしからすればその、アダルティで素敵でした!!」
「うぁぁぁっ」
ほ、本音なのに、師匠がますます小さくなった?!
あわわわ、どうしようっ。事態が悪化しそうだったから静音ちゃんは連れてこなかったけど、これならむしろ連れてきた方が良かったのかもっ。
最初は、和気藹々と看病をしていた。
けれど昨日のことを徐々に、けれどはっきりと思い出すと、師匠はこうして泣きだしてしまったのだ。泣いてる師匠、可愛い……じゃなくてね?!
ちなみに、九條先生はここにはいない。
――同じように引きこもった鏡先生の、面倒を見ているそうだ。なんでもずぅっと「弱っている未知につけ込んでディープに唇を奪うとか最低」とか言ってるらしいけれど、そちらはまったくもって同感だ。
「わ、わたしは!」
「す、鈴理さん?」
「わたしは――恥ずかしい思いをしても生徒を助ける師匠が、素敵だと、そう思っています。それでは、だめでしょうか?」
「――」
そう言うと、師匠はのろのろと布団から頭を出す。
目元が涙で腫れていて、それがなんだか傷ましい。
「鈴理さん――わた、私」
「あ、でも、昨日のフォーム、すっごく格好良かったですね! 帽子とか!」
――のろのろと、布団を被りなおす師匠。それから小さく聞こえる、すすり泣き。
あ、あれ? な、なんでっ!?
「し、師匠っ」
「ご、ごめんね――もう少し、このままにして?」
「あ、あれ?!」
さっきは良い感じだったのに、いったいなんで?
困惑するわたしの前で、師匠は小さく息を潜めるのように泣き続けて。
結局、布団から出てきた師匠とお話しできたのは、その三十分もあとのことだった。
え、ええっと、なんでそうなったんだろう? 開き直ったように死んだ目で笑う師匠を見ながら、わたしは首を傾げることしか、できそうになかった――。
――/――
一羽の蝙蝠が、夜の森を飛んでいる。
その蝙蝠は海辺まで辛うじて移動すると、ふらふらと、降り立った。
「ぐ、がっ、づ、あの男、めッ」
蝙蝠はその姿を変える。
土塊の中で必死に最後の力を蝙蝠に集めて飛び立ったダビドは、ほとんど残っていない力を振り絞るように膝を突いた。
「ゴーレムは残してきた。ある程度時間は稼げるだろう、だが、我が身はッ」
もはや、ほとんど力の残っていない身体に歯がみする。
もう一度戦うには、月を幾つかまたいだ上で、“無茶”をする必要があるのは間違いないだろう。
「こうなれば、なりふり構ってはおられん! 残りの魔王の中でも、吾輩の呼びかけに応えられるのは二柱。そのいずれも呼び寄せて、必ずや、英雄共を屠ってくれようぞッ!」
ダビドは叫ぶ。
血を吐くような、怨嗟の声で、叫ぶ。
「今に見ておれ! 低脳な人類共よ!!」
やがて、その叫びは嘲笑へと変わる。
「真なる勝利は悪魔の手にあるということを、思いしらせてやろう――!!」
ダビドは笑う。
その狂気を己に馴染ませるように。
ただ、月夜の下で、狂ったように笑い続ける。
――己の野望のことごとくを打ち破った本当の英雄の存在など、知る由もないままに。
――To Be Continued――