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えぴろーぐ

――エピローグ――




 ――回転寿司系居酒屋“りつ”。

 普段は大衆居酒屋然としているこのお店も、今日に限っては赤と白と緑と、煌びやかな装飾が目立つ。

 普段なら駆けつけ一杯と言わんばかりにぐぃっと呷るのだが、今日ばかりはお酒の提供をストップして貰っている。……と、いうのも。


「メリー、クリスマース!」


 パンパン、とクラッカーの弾ける音がする。

 そう、今回はクリスマスパーティの為に場所を借りて、こうしてパーティをすることにしたのだ。生徒たちも、交えて。

 というのも、訳あって家に帰ることが出来ない居住区住まいの生徒たちは、クリスマスパーティをしようとは中々思えないようだ。そこで、鈴理さんと水守さんと、そもそもクリスマスを祝う習慣がないという夢さんを、クリスマスパーティに誘った、という訳だ。

 ちなみに、アリュシカさんと香嶋さんは実家でパーティをするようだ。


 ということで、今日ばかりは、気分は引率の先生だ。

 労働、という意識よりも、可愛い生徒たちを見守ることが出来る温かい気持ちの方が大きいけれど、ね。

 で、みんなの様子はというと。


「そうか、静音は水に携わる家だったのか。おかしな話だね、“音”と“水”を分けるなんて。彼らは“流れ”のなんたるかを知らないのだろう。なにか言われたら僕に言うといいよ」

「あわ、あわわわ、あわわわわわ」

「なんだ? あ? 水守ィ? あそこの主君ってどいつだ。大したお家柄でもねぇだろ、人間一人追い出す余裕あんのかよ。おい時子! ぶっ潰してやれ!」

「あうあうあうう、あう、あう」

「そういうことに権力を遣う気は無いわよ。けれどそうね、何か許容できないことを言われたら私の名前を出しても良いわよ。未知の弟子で鈴理の友達ですもの。そうね……“現在は黄地に才能を買われて指導されているのでその要求にはお答えできません”……これでいいわ。はいこれ連絡先ね」

「(ぶくぶくぶく)」


 何故か七と獅堂と、暇だから良いよと参加してくれた時子姉に囲まれて、恐縮している水守さん。だ、大丈夫かな? 泡を吹いていないかな、あれ。ま、まぁ、お酒で絡んでいる訳でもないから大丈夫、かな?

 ……本当に危なそうだったら助けに入ろう。で、あとは。


「聞いたぞ。君は本当にどうしようもない男だな」

「うぐっ」

「かの“幻影の貴公子ファントム・オブ・プリンス”が、まさか同僚の女教師を視姦とは、旧知の人間として情けなくて涙が出る」

「なっ、なんで、知って」

「性格から予測して推理しただけだが? 君は犯人役には向かないな。こんなに早く自白するとは思わなかった」

「いぎっ」

「しかし、そうか、本当だったか。マ――観司先生を視姦か、そうか。ふむ」

「な、なんだよ。亮治だって妙な要求していなかったか?!」

「ハッ」

「鼻で笑った?!」

「合意の上で事に及んでいるだけだ。……なんだ、うるさい。時々子守う――歌を聴かせて貰ったり、撫でな――髪を整えたり、めっ――気がつけないことを注意勧告して貰えるよう頼んでいるだけだ。全て、こちらの行動に対する褒賞だというのに君というやつは、普段から大して役に立たない上にマ――観司先生を悲しませるとは言語両断。一週間以内に減給させてやるから覚悟をしておきましょうね、陸奥先生?」

「き、聞き捨てならない言葉がいっぱいあったけど、反論できない?!」


 ……うん、その、なんだ。

 あそこの会話に入るのは止めておこう。思わぬ藪を突いて蛇やら鬼やら出したくないし。なんというか、負わなくても良い怪我を心に負いそう。


「しーしょっ。えへへ、夢ちゃんと、お隣良いですか?」

「鈴理さん、夢さん……ええ、どうぞ」


 やってきた二人に場所を空けて、私と夢さんで鈴理さんを挟むように座る。

 いつもどおりの“鳶色の目”と“茶色の髪”。けれど、請われて頭を撫でると、ふわふわとした“なにか”の感触。

 そう、あの遠足から三日。想像以上に重い怪我を負った鈴理さんは、フィードバックを負わないようにするために、未だ、ポチと合体をしていた。今の姿は、陸奥先生の“幻視ファントムコート”によるものだ。


「怪我の調子はどう?」

「だいぶ、よくなったみたいですっ。ね? ポチ」

『九割といったところだな。明日には分離できるだろう』


 鈴理さんの口から、少しだけトーンを低くした声が零れる。“悪魔憑依デーモン・トランサー”状態のポチによるものなのだが、うん。やっぱりなんだか違和感がある。

 もっとも、夢さんにとってはそうでもないようで。


「男前口調の鈴理も良いわね……」

『なんだ? 夢。このまま、一晩過ごして見るか? なに、我とて今は鈴理の一部。悪くはせんぞ?』

「なっ、に、を、んとうに?」

「冗談に決まってるでしょ、もう」

「んんんっ――わかってたわよ?」


 けっこう、この鈴理さんも気に入ってくれていたようだった。

 夢さん……。鈴理さんの夢さんへの評価は、“サッパリしていて気前が良く、涙もろくて暴走しがち”とのことだが、うんそうだね……。


「師匠は、どちらのわたしが好きですか?」

「どちらの鈴理さんも、どんな鈴理さんも、私の可愛い生徒で、大事な弟子よ」

「もう、そこは“かわいい鈴理”扱いでも良いんですよ?」

「あはは、酔ってる?」

「はいっ!」

『融合による“妖力酔い”だ。気にしないでやってくれ、ボス』

「ああ、なるほど。ええ、わかったわ」


 そうか、妖力酔い、か。

 魔導術師が魔力によって、異能者をサポートするとき、性質の違う力を浴びた異能者が、魔力に“酔う”ことがある。今回もそのケース、ということだろう。


「夢ちゃんは? わたしのこと、好き?」

「す、鈴理? 鈴理のましゅまろ? ――ハッ、ご、ごめん、あの日の夢の続きかと思った!」

「ほぇ?」


 ゆ、夢さん……それはたぶん、思い出さなくても良い傷跡じゃないかな?


「あ、この玉子焼き、おいしー。師匠、はい、あーん」

「悶えている夢さんは放置なの? そ、そう。ええっと、あ、あーん」


 食べさせてくる鈴理さんに、今日くらいはと応えてあげる。なんだか酔ったときの私の行動に似ている気がしなくもなくて、ちょっとはらはらしてしまった。

 弟子は師匠に似るのだろうか。不可抗力の痴女化だけは阻止せねばなるまい。


「えへへ……こうしてまた、一緒に過ごせて、嬉しいです。もう、手放してしまうかと思ったから」

「鈴理さん……」


 ポチから、救出時の状態は聞いた。

 全身至る所の骨折と、一部の内臓への損傷。それから、貫通した枝と失血によるショック状態。それはポチに合体を選択させるほどの大怪我だったという。

 どうしようもないことは、わかっている。でももっと早く駆けつけていれば、鈴理さんはそんなにまでも苦しい思いをしないで済んだのではないか。そう、考えてしまう自分がいた。


「そんな顔、しないでください。わたし、師匠には笑顔で迎え入れて欲しいんです。我が儘、ですか?」

「……いいえ。よく、帰ってきてくれたね。私も貴女と一緒に居られて、嬉しいよ」

「えへへ、やった♪」


 嬉しそうにはにかむ鈴理さんの頭を、優しく撫でる。羨ましそうにしている夢さんも招き寄せて、一緒に撫でる。

 この子たちが笑っていられる未来を作るためならば、魔法少女になるのも割り切れる。と、思う。たぶん。


「さ、このあとはケーキもあります。あまり食べ過ぎないようにね?」

「師匠の手作りですか?」

「残念。店主さんの手作りです」

「あぅ。次は、師匠の手料理がまた食べたいです」

「また? えっ、鈴理、またって? ずるい! 未知先生、私も!」

「ふふ、ええ、畏まりました。お嬢様」

「えへへ、なんだか照れちゃいます」


 頬を染める鈴理さんと、嬉しそうにはしゃぐ夢さん。

 その様子に思わず笑みを浮かべて、もう一度、二人の頭を撫でた。


 この先も、まだまだ受難は続くことだろう。

 それでも今日この日、この瞬間を守るためならば、私は何度でもステッキに魂を売ろう。




 この、尊い未来を、守るために――。











――To Be Continued――

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