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そのいち




――1――




 十二月も中旬に入ると、世間はクリスマスムードに彩られる。

 そこかしこでクリスマスグッズの販売やフライドチキンの広告を目にするようになった頃、特専ではクリスマス目前に開かれる“行事”の準備で盛り上がっていた。

 それが、終業式前、日帰りで行われるイベント。特専きっての“遠足”である。


「それで、ええっと?」

「うぅ、ご、ごめんなさい。どうしたらいいか、わからなくて」


 職員室。私の前で涙目になっているのは、鈴理さんだ。その両脇を固めるように夢さんとアリュシカさんが居て、三人揃って頭を下げている。なにも、三人は私に悪戯をしたとか、怒られるようなことをしたとか、そういうことではない。

 “遠足”は、特専きっての――“危険度”を誇る行事だ。そろえる必要があるのは学年のみ。あとは、性別が違っていようと学科が違っていようと誰でも組める。だが、重要なのはその“人数”だ。

 前衛、中衛、後衛、予備要員。最低四人、最高六人でチームを組んで望む必要があるこの行事。必修科目なので、落とすと留年しかねない大事なものだ。そう、“最低四人”なのだが……。


「い、いつもどおり三人で組もうかと思っていて、申請書類を締め切りの今日まで出すのを忘れていて、うぅ……」


 鈴理さんはそう、涙ながらに答えている。というのも、その、“出し忘れた”のが申請を任されていた鈴理さんなのだという。まぁ、夢さんとアリュシカさんは“三人の責任”と捉えているようではあるけれど、鈴理さんは背負いがちだからなぁ。

 けれど、うん、困った。とても困った。なにせ、今日は締め切り。みんな同じ事を気にして、余っている人なんてまったくいない。


「一応当たってみるけれど……最悪、三人ばらばらで他の組に入れて貰わなければならなくなる、という可能性があるのは、留意しておいてね?」

「うぅ、はい」


 四人組の最低人数。足しても、二人。一人見つからなければ、少なくとも一人は引き離されてしまうだろう。その場合は、鈴理さんかな。内輪に入れないのであれば、“特異魔導士”という特性を持つ彼女は特専側からの信頼が厚いグループ……つまり、“生徒会”のグループに組み込まれることになることだろう。

 生徒会は毎年特例が組まれる。というのも、彼らの役割は他の生徒たちのサポートだ。学年を問わず、生徒会の括りで一グループとして扱われる。庶務、会計、書記、副会長、生徒会長の五名で、一枠余ってもいる。今の副会長、来年の生徒会長として内定が決まっている女生徒、“魅惑の爆弾魔ボンバー・ショコラティエール”も優秀な生徒だし、鈴理さんの特異性も十二分にサポートしてくれることだろう。

 とはいえ、やはり三人を引きはがすのも、身内としての同情をさっ引いても、微妙な心持ちだ。なにせ、鈴理さんの特異性も目立ちはするが、夢さんの“術式刻印レリーフィング”やアリュシカさんの“啓読の天眼”もずば抜けた特異性を持つ力だ。できればひとまとめにしておきたい。


「今日の放課後にはなにかしらの方向は提示できるようにします。ひとまず、クラスに戻りなさい。良いわね」

「はい、その、ありがとうございます……っ」

「お礼は、どうにか出来たあと。ね?」

「はいぃ」












 恐縮する三人を職員室から出すと、一息吐いて考える。

 実のところ、ここのところ発足したファンクラブだとかいう謎の部活動(正式に認められていた。何故だ)により、一声掛けると集まってくれるようにはなった。

 だが、それをしてしまうと、自分の班を放り出すように来てしまうことだろう。けれどそれは、職権乱用というものだろう。


「どうしたものかなぁ」


 やはり、組み込んでしまうのが現実的、かなぁ。


「どうかされましたか? 観司先生」

「陸奥先生?」


 そう悩んでいると、不意に声を掛けられる。

 茶色の髪をしっかりとセットした、あからさまなチャラ男のようにしか見えないのに好青年というギャップを持つ、私の同僚の先生。

 “陸奥むつ国臣くにおみ教諭”。何かと接するようになった方だ。


「ええっとですね、実は――」


 異能科の先生の中でも、気軽に相談できるの彼と南先生くらいだ。そんなことを考えつつ、鈴理さんたちのことを説明する。すると、最初は思案顔だった彼も、ぽんと手を叩いて笑った。


「なるほど……そうだ、それでしたら、紹介できる生徒が居ます!」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。彼女はその、病み上がりでして……。回復してみれば、クラスメートは六人一組で余るところがないみたいなんですよね。いやー、それならちょうど良かった!」」


 そうか、病み上がりか。

 でも、遠足の班決めはけっこう前からやっているし、そもそもひとと馴染むのが苦手なのだろうか。どちらにせよ、その子が承諾してくれるのであれば、鈴理さんたちもひとまとめにしておけるし、助かることには違いない。


「どんな子なんですか?」

「大人しい子ですよ。と、言いますか、その、観司先生とも面識があります」

「私と?」


 大人しい、異能科の生徒?

 面識のある生徒そのものは多く居るが、こんな言い方をするということは印象深い子なのだろうか。


「その、笠宮さん同様、巻き込まれやすい子でして……」

「え?」


 巻き込まれやすい子。異能科の生徒。って、まさか。

 はっと目を瞠った私に、陸奥先生は気まずげに苦笑する。彼がよく気に掛けていて、かつ私と面識があり、笠宮さん同様、巻き込まれやすくて、この時期に病み上がりの生徒。


「その、ご想像のとおりかと思います。一学期の連続居住区生徒失踪事件と、この間の連続刺傷事件。その双方で被害にあった唯一の生徒。異能科準Aランク稀少度の異能者で、異能名を“妖精の詩(エルフ・ソング)”。――水守みずもり静音しずねさん、です」

「ぁ――“ボイス”系異能者の、女生徒」


 そうか、いや、これは、鈴理さんと水守さん、どちらの運勢になるのだろうか。

 ただ一言あるとするのなら、ううむ、一筋縄ではいかない感じに、なるのかなぁ。





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