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そのいち




――1――




 有栖川ありすがわ昭久てるひさ博士。

 異能者研究の第一人者でありながら、異能科学と呼ばれる独自の発明で名を馳せる異端の科学者。彼の研究は独創的で、また理解されづらい。現に彼自身は魔王襲来前から独自の発明で学会から嘲笑されてきたが、その嘲笑が魔王襲来以後、賛美の声に変わったというだけで、ずっと彼自身の研究テーマは変わっていない。

 そんなマイペースで周りの評価を気にせず、変人の誹りをも受け入れてきた博士。彼に娘が居ると聞いたときは、少なからず衝撃を受けた覚えがある。


 鈴理さんと夢さんの親友。

 Sクラス稀少度の異能、“天眼てんがん”の保持者。

 シルバーブロンドの髪、右目のエメラルド、前髪で隠した左目は黄金。


 アリュシカ・有栖川・エンフォミア。


「最近ね、のけ者にされているような、部外者扱いを受けているような、そんな気がしていたんだ」


 少々天然気味だが、優しく気遣いのできる少女。

 クールビューティと称されてもおかしくはない整った容姿を、照れたようにはにかませて笑う、可愛い女の子。

 そんな有栖川さんは今、よこされた異能科学の自動運転リムジンの中、お父様である有栖川博士への訪問の傍ら、私と鈴理さんと有栖川さんが“ぜひに”と連れてきた夢さんの前で儚く笑っていた。


 え、えっと、それはたぶん私の、“魔法少女”のせいです。

 口には出せないけれど、うん、ごめんね?


「あわわわわ、ち、違うのリュシーちゃん!」

「そそそ、そうだよリュシー!」

「ユメは、私のことはヨメ扱いしてくれないよね? なぜ?」

「えええええええ、そこでそうくる?! よよよよよ、よめ、よめ……いいの?」

「夢ちゃん?」


 三人寄れば姦しい。

 三人寄れば文殊の知恵。


 よし、三人揃っていることだし、私は介入しなくて良いかな。うん。


『ボス。良いのか? 我の雌が獲られるぞ』

「いや、ポチの雌じゃないからね?」

『む、ボスの雌、か。わかっているとも』

「わかっていないよ?」


 久々に、外出に連れて行くことになったポチ。

 私の膝の上でお腹を見せて寝そべるポチは、どこからどう見ても家犬だ。とても狼のようには見えない。というか、鈴理さんに預ける機会が多くなってしまったから拗ねているかと思いきや、自堕落に磨きが掛かっている。外飼いに切り替えた方が良いのだろうか。


「ふふ、冗談だよ。でも、寂しかったのは本当だ。いくら友達といえど、言えないことがあることを咎めるほど、捻くれてはいないさ」

「うううう、ごめんね、リュシーちゃん」

「わかった、私も覚悟を決めるよ、リュシー」


 うん、夢さん?

 それはたぶん、決めなくても良い覚悟だよ?

 なんだか落ち着きつつある三人にそんなツッコミを入れられるはずもなく、私は気を紛らわせるために、さらけ出されたポチの腹を撫でる。


『わふっ、わふっ、ボスよ、もう少し右』

「はいはい、痒いところはありませんか?」

『うむ、くるしゅうない。では礼は我のツガイとなること、で良かったな?』

「私がそれを望んでいるようにいうのはやめて。まったく」


 弟分の七が種族的に大別するとハーフエレメンタル――精霊に寄る種族だからか、種族の差というものを気にしたことはない。けれど、動物と恋愛できるか、と言われると厳しい。

 私にとってポチは可愛い使い魔であり、それ以上ではない。信頼はしているけれどね。信用は、ほら、ちょっと欲望に忠実すぎるきらいがあるから……。


「そういえば、リュシーちゃんのご実家ってどのあたりにあるの?」

「地域で言えば北海道かな」

「は? あのさ、リュシー。このリムジンで何時間かかるの? それ」

「そんなにかからないよ。ほら」


 有栖川博士の意向で、詳しい住所はわかっていない。

 けれど、北海道? どうするつもりなのだろう。戸惑いながらも、有栖川さんが指さす方向へ、運転席の向こう側へ目を遣る。

 すると道路の先には、透明なのに何故か向こう側が見ることができない、不可思議で大きな“環”が宙に浮いていた。


「さ、あれがお父様自慢の“転移装置テレポーター”だ。入るよ!」

「え、えええええっ」


 鈴理さんの驚きの声の中、リムジンが“環”に入る。

 すると刹那、空間が斑模様に歪んだかと思うと――リムジンは、雪で覆われた地平に、どすんっと着陸していた。


「すごい……」

『ほう。これは快適だ。楽なのが良い』

「ポチ、あなたねぇ……」


 促されて、降りる。

 昼間だから太陽こそ照っているが、それでも風は肌を刺すように冷たく、寒い。この特殊加工スーツでなければ風邪を引いていたことだろう。


「あわわわわ、さ、さむい」

「あれ? 鈴理、寒いの苦手だっけ?」

「スズリ、おいで、暖めてあげよう」

「あうあうあう、りゅしーちゃんおねが――ひゃんっ、りゅりゅりゅ、りゅしーちゃん冷たい!?」

「体温、低めなんだ。暑いのは苦手だけど、寒いのは得意だしね。――ふふ、可愛いね、スズリ」

「いやリュシー? それでなんで暖めようとしたの?」

「つい」

「わかる」

「わからないで?!」


 魔導科も異能科も、制服に防寒機能はついているはずだけれどなぁ。

 自分の体を自分で抱きしめる鈴理さんに、体温の高いポチを渡す。されるがままのポチは、大人しく、鈴理さんの腕の中で防寒材としての役割を果たしているようだった。


「さて、では改めて」


 有栖川さんはそう言うと、何もない地平を数歩歩く。

 それからパンパンッと手を叩くと、次第に空間が歪み、虚空から“白”が現れた。


「ようこそ、我が白亜の城へ。歓迎するよ」


 巨大な門。

 格子の間から見える、長い道。

 美しい庭園のさらにその奥。そびえ立つのは、白亜の城。


「すっごーいっ! リュシーちゃん、お姫様だったんだねぇ」

「え? 意図せず玉の輿?」

「えっ……夢ちゃん?」

「なななな、なんでもないのよ?」


 感動する鈴理さんに、照れる有栖川さん。

 何事か口走る夢さんに、首を傾げる有栖川さん。


「では、ミチ先生、私はお父様に来客を告げて参ります。直ぐに戻って参りますので、しばしお待ち下さい」

「ええ」


 有栖川さんの言葉に頷くと、彼女は満足げに微笑んで、敷地に一歩踏み出す。

 すると彼女の足下が“パカッ”と開いて、有栖川さんは、悲鳴を上げる暇もなく落ちていった。


「え?」

「は?」

「へ?」

『む?』


 四者四様。

 精一杯の疑問の直後、声にならない悲鳴が上がる。


 ちょっとこれって、どういうこと?

 波瀾万丈なスタートに、私は内心、肩を落とさずには居られなかった。




 で?

 結局、どういうことなの?





2024/02/01

誤字修正しました。

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