表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/523

そのいち

第一章は短編の加筆修正版なので、細部は変わっておりますが大筋は同じものとなります。




――1――




 ――世界が絶望の闇に覆われるとき、七人の英雄が立ち上がる。

 ――七人の英雄はまったく異なる力を振るい、闇を打ち払う光明とならん。


 伝説のワンフレーズ。

 おとぎ話に過ぎなかったそれが現実になったのは、今からほんの二十年前のことだ。

 そしておとぎ話のように世界に平和がもたらされたのは、僅かその四年後のことだった。


 神様の気まぐれというやつで私が転生して、六歳になったとき。

 転生特典が云々というメールが突然届き、私は七人の英雄の一人に数えられるようになった。

 能力はまさしく最強無比。おとぎ話に準えた、“夢を叶える”魔法使い。独特な魔法装束を身に纏い、血で血を洗う戦場を駆け抜けること四年。今から十六年前の、十歳の時に魔王を名乗る悪党を打ち倒し、世界に平和が訪れた。

 過酷な戦いの中で男女の垣根どころか年齢の垣根も飛び越えて兄弟のような絆を得た彼らは、人々に讃えられ、あの絶望が再びおとぎ話になろうとする現代でもってもアイドルのような扱いを受けている。


 ただひとり。

 私を、除いて。


「英雄たちは日常に戻り賞賛を受け、ただ一人はそんな彼らを見守るために、天に帰った。……なんか、死んだ、みたいな扱いじゃねぇか? これ」


 そう私の前で呆れたように表情を崩すのは、まぁ、やたらと顔の整った男だ。

 切れ長の眼と、整えられた赤髪。細身のように見えて、服の隙間から覗く肉体は引き締まっている。今年で三十を数えるこの男は、私の昔の“仕事仲間”だ。


「いいの。死んだの。彼らの知る英雄はもういないのよ」


 そううなだれる私が居るのは、完全個室の居酒屋だ。

 回転寿司系列の居酒屋なためか、料理もドリンクも壁のレーンから流れてくる。店員にすら顔を見られないこの店は、私たちにとって都合が良い。


「死んだって、おまえなぁ。名乗り出れば良いじゃねぇか」

「口元が笑っているわよ。紅蓮公プロミネンス・イーター

「おっと、こりゃあ失礼。魔法使い殿?」


 七英雄が一人。

 当時十四歳、バリバリの中二病だった彼こそが紅蓮公プロミネンス・イーターと呼ばれた最強の炎使い。その名を九條獅堂という。


「どうやって名乗り出ろって言うの?」

「そりゃあおまえ、ぶふっ、変身すればいいだろう?」

「うっさい。じごくにおちろ」


 うなだれたまま私がそう零すと、獅堂は腹を抱えて笑ってくれやがる。腹が立ったので彼が頼んだやたら値の張る日本酒を飲み干してやったが、笑いが収まる様子はない。

 変身して、世間に出られる物ならそうする。正直、あの戦い以降“異能力至上主義”になったこの世界で私のような“魔導術師”は生きづらい。

 だが、変身するということは、イコールあの禁断の姿を見せなければならない、ということに他ならない。


 私の能力は、“魔法――”である。

 夢を叶える魔法使い。魔法の杖を振りかざし、まるでおとぎ話のような魔法を駆使する物語の英雄。


「“あれ”じゃあ、英雄の名が廃る、ってか? くっ、ははははっ」

「ええ、ええ、そうですよー」


 そう。

 思い出したくもない、あのおぞましい姿。

 七英雄会合という名の同窓会で披露して、会場に爆笑の嵐を巻き起こし、姉のように慕っていた英雄仲間の女性からマジ泣きされた禁断のトラウマ。

 だが待って欲しい。泣きたいのは私だ。


 地位も名誉も約束されていた。

 お金に困ることもないはずだった。

 いや、望めば手に入るだろう。“あの”姿で英雄として世間に出る覚悟さえあれば、なんの問題も無い。


 けれどそんな覚悟が持てるはずもなく。

 私は未だ笑い転げる獅堂の頭に、渾身の手刀をたたき込むことしかできそうになかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 初っ端からもう面白い笑 そりゃかつての妹みたいな存在の痛々しい姿見たらなくよ笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ