胎動
小野桃花は、いつもあの部室にいる。
時間は必ず進み、僕らの青くて苦い日々は遠ざかって行く。
何とかして憶えておけないだろうか。できれば、すべてを。
うだる暑さの昼下がり。
青い空が、目にやたらとしみる。
工事の音が絶え間ない。
今日も、時間は刻刻と過ぎている。
その中を肩で風を切るようにして歩く。もちろん、その心持ちは猫背のまま。
焦燥。
怠慢。
平和ボケしたこの世界では誰もが老けいる。
かく言う私も同じく、心持ちは晩年の老人の姿で震えている。
老けているのだ、この世界は。
生きている自覚がない。
先進国にはアンデッド達がひしめき合っている。
私は肢体を引き摺り、今日も歩く。
何ら変わり映えのない毎日の中で、今日も死ぬのだ。
そして命尽きる時が来て、私はやっと生き返るのだろう。
生きたかったと願うはずだ。
ドラマの様に。
何故なら、「彼」がこの世に存在しているから。
彼は、私の事を知らない。故に出会う事もない。
しかし私は彼をよく知っている。
貴方は、睫毛が長い。美しい目をしている。その目が笑うと、私は少しだけ、心臓が跳ねるのを感じた。
血液が、脳を働かせ、視神経を叩き起こし、彼を記録せんと興奮し始める。
その時、私は少しだけ生き返る。
君の睫毛の長き事。
その先に、うだるような暑い夏空。
煩悩の塊なので、こんな純粋な恋心は持ったことないです。
見る人見る人に恋していました…。
実は不器用な人ほど幸せなのかな。
君の睫毛の長き事、始まりました。どうぞよろしくお願いします!