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女神の世界

 この世界は聖山を中心に東西南北の四つの方角に分かれている。

 人間が女神に創られる前、それぞれの地方を各種族が治めていたらしい。


 南、平原が広がり獣人たちが暮らしていたビスタ地方。麦や米、その他豊富な作物が作られる世界の食糧庫。


 西、鉱山の連なりドワーフたちが居を構えていたドウェル地方。この世界の金属資源のほとんどはここの鉱山から産出されている。


 東、広大な森林に包まれたエルフたちの故郷、アルブ地方。木材の産出以外にも貴重な医薬品の原料や珍しい果物など豊富な資源の宝庫と呼ばれている。


 北、荒野と雪原が続く魔族の国、サタニア地方。夏は短く冬が長い、資源と呼べるものもほとんどない。高品質な宝石の原石が採れるだけの貧しい土地である。


 多少の諍いはあったものの、大きな争いはなく概ね平穏に暮らした。

 だが、そこに人間が生まれ、女神が人間たちを優遇したことで争いが生まれた。


 人間は弱かった。獣人が容易く蹴散らすことのできる弱者だった。


 そこで女神は人間たちに《召喚魔法》を教えて《勇者》を遣わし、また《奴隷の首輪》の作り方を教えた。


 勇者に率いられた人間たちは獣人の小さな集落を狙った。

 獣人たちは種族ごとに分かれて暮らしており、それぞれの繋がりは薄かった。

 強力な加護を与えられた勇者は小さな村々を次々に襲って回り、捕縛した獣人に奴隷の首輪をつけて戦奴として利用した。獣人奴隷の数が揃えばより大きな村を襲い、着々と勢力を増していった。


 強力な戦士を抱えていた獅子や熊、虎、狼、牛、象などの部族がその侵攻に気が付いたときには手遅れとなっていた。

 獣人奴隷相手でも一対一なら負けることはなかった。

 だが、人間たちが捕まえた獣人奴隷の数は既に彼らの手に負えないほどに膨れ上がっており、必死の抵抗むなしく、彼らは敗北した。


 こうして南方の肥沃な大地と海は獣人たちの血によって真っ赤に染まり、人間たちが支配する大地となった。



 その後、獣人奴隷を使い捨てるようにして東と西の地に攻め入り、双方に多大な被害を出しつつ制圧を果たした。

 その戦争で人間たちの軍の戦闘には常に勇者がいた。

 また、勇者の傍には仲間たちもいた。


 獣人たちとの戦いで傷ついた勇者を癒した《聖女》。

 エルフの暗殺者によって狙われた勇者と聖女を護るための盾となった《聖騎士》。

 勇者の前に立ちふさがるドワーフたちの城塞を吹き飛ばした《大魔導士》。


 この世界の人間の中から選ばれた勇者の仲間たち。

 勇者と彼らがいれば勝てない戦いなどなかった。

 そして、今回の魔族との戦争に勝利し、ついにこの世界の全てを支配する。

 そう人間たちは信じていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あの女、なかなか考えているな……」


 シシオやクマオ、ドワイチ、エルイチたちの話を聞いた感想がそれだった。


 戦力が少なかった一番最初の頃は回復能力持ちの仲間は貴重だっただろう。

 正面戦力が充実した後はゲリラ戦法や暗殺者などの対策としての護衛が必要だし、要塞戦において一撃ですべてを吹き飛ばす大火力があれば何も障害にならない。

 それぞれの種族の強みを完全に潰すメタ戦術を取り入れている。

 あいつ、戦争の女神とかそういう類なんじゃないか?

 そんな風にさえ思えてしまう。


 ――となると、魔族を相手にするには俺の能力が必要ってことになる。


「魔族との戦争は今どうなっているんだ?」


「膠着状態ですね」


 エルイチができる秘書みたいな感じでキリッと答える。眼鏡とか似合いそう。


「魔族の土地は荒野が延々と続き、奥地には夏でも溶けない雪原があると伝えられています。

 軍を送り込もうにも食糧、燃料になるものが現地では手に入らないので、自分たちで運ぶしかありません」


「兵站が膨らめば行軍速度は遅くなるし、遅くなりゃその分荷物は増える。馬車の馬に食わせる餌やら何やらもだな。

 もちろん途中で魔族の連中が襲ってくるから予備の武具や医薬品も必要だし、けが人の輸送手段も用意しとかねえといかん。

 最前線に砦を築いて戦線を押し上げ、また砦を築いて押し上げ……ずっとこの繰り返しだな」


 呆れたようにドワイチが続けた。


「今の調子じゃあ、戦争終結まで何十年かかるかわからんな。本当に勝てるかどうかも不明だ。あそこは自然の要塞だから魔法で吹き飛ばすわけにもいかないだろうよ」


「ですが、それは逆に言えば『潤沢な物資の補給があれば勝てる』とも言えるわけです。

 兵站用の馬車など用意せず、軍隊の行軍の足を緩めることなく、一気に荒野も雪原も走り抜けることができれば人間たちの軍は勝つでしょう」


「……なるほど」


 一軍を支える潤沢な補給物資。

 それだけあれば人間は魔族に勝てる。

 逆にそれがなければ何十年経っても勝てるかどうかわからない。

 それが二人の結論だった。


 やはり、俺がこの戦争のキーマンだった。

 《ふくろ》という名の新しい勇者の仲間――いや、《付属品》。

 それが俺に求められた役割だったのだと、改めて認識した。


 そんな役割を果たしてやる気は欠片もないけどな。



 ――さて、この世界の情勢もだいたいは把握できた。

 勇者税の布告も先日行われたようだし、そろそろ次の展開へ進むとしようじゃないか。


 どうせどこかで見ているんだろう?


 お前の為に演じる劇なんだ。


 たっぷりと楽しんでくれよ、メガミサマ。

これで世界観の説明は大体終わりかな?

次の仕込みに入ります

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