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悪意を積み上げる3

「次の財務大臣か……うむ、通常時ならばともかく今は非常事態である。後任の候補の選出を待つ間、一時的に宰相を財務大臣に任ずる。これは勅命である」


「はっ、謹んでお受けいたします」


 通常ならば宰相と財務大臣という二つの重職を掛け持ちするなど、他の貴族たちの反発が強すぎて不可能だっただろう。

 だが、国庫が破産の危機に面している現状で財務大臣の職を望むような愚か者はいない。

 また、内政の長である宰相に対し直接罰する余裕はないが、今回の前代未聞の不祥事への責任を問うという懲罰人事の意味もある。

 さらに国王直々の勅命ということあって、異論を挟む者はいなかった。


「重責だがそなたなら期待に応えられると信じておるぞ。それで、足りぬ予算の穴埋めだが、誰かこれという案を出せるものはおるか?」


「「……」」


 出席者がお互いの顔色を伺う。

 国庫の半分を賄うだけの収入のあてなど、そうはない。


「……当然、財務大臣は私財の全てを徴収し国庫に収めるつもりだが、これでも到底足りぬ」


 足りないのならば、あるところから持ってくるしかない。

 財務大臣もそれなり私財を溜め込んでいたようだったが、国王たちが期待していた額には到底足りず、それこそ雀の涙ほどの足しにしかならなかった。

 では、残りの費用をどこから集めるのか?


「……税を、集めるしかないでしょう」


「ふむ。では、なんという名目で徴税を行うのだ?」


 この国で一番金銭を有しているのは貴族である。だが、貴族には免税特権がある。

 また、この会議に出席しているのは全員が貴族なのだ。自分で自分に税をかけようという殊勝な者も、私財を投げ打って国に献上しようという者もいなかった。

 ならば、平民たちに税をかけて集めるしかない。


「……いっそ、戦時国債をまた発行いたしますか? 商人どもに買わせればよいかと」

「いや、国債はこの前も出したばかりだ。ならば戦時特例として新たな税を設けた方が……」

「それは……」

「やはり商人を締め上げた方が……」

「ううむ……」


『……勇者税というのは』


「――む?」


 ああでもない、こうでもない、と空回りしていた会議が、静まりかえった。


「今のは、誰の発言だ?」


 国王が参加者の面々を見渡すが、彼らもお互いの顔色をうかがっていた。

 名乗り出る者はいない。

 どうやら、発言をしたはいいが、自分がそうだと名乗り出るつもりはないらしい。発言者として責任を負わされるのが嫌なのかもしれない。


「……ふむ。だがなるほど、勇者税か……」


 国王が考え込む。

 商人から絞り過ぎるのはあまり好ましくない。

 平民に新たな税を課せば不満が溜まり、治安も悪化する。


 ――だが、平民から喜んで税を差し出させればどうだろうか?


 『異世界から我々の為に訪れた勇者様を支援するために、新たな税を設ける』


 なんと耳に聞こえのいい言葉だろう。

 これならば、敬虔な信者である国民たちは諸手で税を納めるに違いない。

 自分たちのため、この世界のために戦ってくださる勇者様の為に、節約し、生活費を切り詰め、あるいは子供を売ってでも金を用意することだろう。

 全ては勇者様のため、そして女神様の御心を叶えるため、人間たちがこの世界の主人となるため。

 信仰を示すためにこぞって私財を差し出すことになる。


 ――そして何より、この税に反対を唱える者は、女神の教えに教えて背く背教者と呼ばれることだろう。


「『勇者税』……皆は、どう思う?」


 国王が貴族たちを見渡した。

 だが、その目はすでに新たな税の制定を決定しているように思えた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……ふう」


 自室で会議の成り行きを見守っていたが、どうにか誘導に成功したようだ。

 あれだけ人数がいればボソッと聞こえた呟きが誰のものかわかるはずがないと思っての行動だったが、どうやら賭けには勝てたらしい。


『では、新たな税は『勇者税』に決定とする』


 憎たらしい国王がそう宣言し、宰相たちが臣下の礼を取った。

 これで会議は終わりだ、後は諸官が細かい調整を行って勝手に動き出すだろう。


 映像を閉じて部屋から出た。

 短い廊下を歩き、鍛冶場へと繋がる扉を開いた。


「そこの奴、退け! 注意しろ! 煮えたぎる合金だぞ!!」

「火力が足りん、もっと炭持ってこい!! 二つ、いや三つだ!!」

「こっちはもう冷えている! 手が空いてるやつは取り出してチャックに入れ! 混ぜるようなヘマはするなよ!!」


 むわっと広がる熱気、ガチャガチャと金属同士がぶつかり合う音、短い足であちこち走り回るドワーフたち。

 鍛冶場は今も全力稼働中であった。


「おっと、ご主人じゃねえか。会議の方は終わったのかい?」


「ああ。どうやら新税設定の方向でいくらしい。『勇者税』だ」


「……なるほど。まあ、そうだと思ったが、やはり貴族や王族なんて腐ってる連中ばかりだな」


「そうだな」


 話している間も手を止めない。こいつはあの奴隷商で買った中でも一番腕が良くて高価だった奴だ。

 今は適当にドワイチと呼んでいる。他の二人のドワーフはドワジ、ドワゾウ。エルフたちはエルイチ、エルニ、エルサンと呼んでいる。わかりやすくていいだろう?


「で、どのくらいできた?」


「今から上がってくるロット数を含めて、まあ半分ってところだ。全部贋金に変えるにはもうちょい時間がかかる」


「そうか。思ったより発覚が早かったからな……まあ、焦る必要はない」


「そう言ってもらえると助かる。流石に作れる速度にゃ限界があるからな」


 そう、俺がドワーフたちを買ってきたあの日から、ドワイチたちは延々と贋金を作り続けていた。だが、材料と職人を集めればすぐに望める物が出てくるわけではない。

 貨幣は型での鋳造と打刻で作られているらしいのだが、国庫にある貨幣を全て入れ替えるにはドワーフとエルフ三人ずつでは到底手が足りなかった。

 そこでドワイチからの要請もあり、追加でドワーフ奴隷二十人とエルフ奴隷十人を買ってきて、交代で休憩をさせながら昼夜問わず贋金を生産させたのだ。

 ちなみにこの室内だけじゃ炉が足りず、屋外では既に第二の炉が稼働中だし、第三の炉も作成中だ。


 また、貨幣の型と打刻の印だが、これはドワイチでも完全に真似をすることはできなかった。ドワーフの名工と言われたドワイチの師匠が制作に関わっているのだろう、と言うのだ。純粋な技術の差である。


 仕方がなかったので造幣局の本物とドワイチの作った偽物を入れ替えておいた。


 今造幣局にある貨幣の型は全て偽物だ。新しい金貨を鋳造するそうだが、いつ気が付くのかは見ものだな。


「だが、国庫の贋金はばれちまったんだろ? 今作っている分はどうすんだ? 他でばら撒くのか?」


「は? なんで?」


「なんでって……じゃあ、この作った贋金はどうするつもりなんだよ」


 ドワイチが今も手元で作業している偽金貨を俺に見せて聞いてくる。

 うん、型も打刻も本物だし、色合いを優先的に似せているから見た目だけでは本物との違いが判らない。相変わらず顔に似合わずいい仕事だ。


「混ぜるよ」


「だから、どこに?」


「だから、国庫に」


「いや、だからな? 国庫はもう贋金と本物で仕分けが――まさかっ!!」


 ようやく俺の言いたいことに気が付いてもらえたようだ。


「うん、仕分けが終わった本物とこの贋金を入れ替えるって、そう言ってるんだ」


 三日三晩かけて一度確かめたはずの本物の金貨に、また贋金が混ざっていたら?

 そして、それに気が付かずに商人の支払いに使ってしまったら?

 それが何度も何度も繰り返されたら?


「……えげつねえ」


「そうかな? 誰でもこれくらい思いつくだろ?」


「…………」


「何か言えよ」


 おいこら、ドワイチ。口と一緒に手も動かせ。


「……はあ。だがそうなったら最悪、国庫の金貨全部溶かして新金貨を作っちまわないか? それなら贋金も関係ないだろ」


「ああ。それは最悪だ」


 もしも王国がその手段を選んだら、本当に最悪だな。


「なあ、ドワイチ」


「あん?」


「もしも、もしもだけどさ。――新金貨ですって言われて差し出された金貨が何種類・・・も出てきたら、どうだい?」


「…………は?」


「毎日日替わりで刻印も金の比重も違う金貨が何個も何個も出回ったら、どれが本物の新金貨なのか、お前にはわかるか?」


「――っ!?」


 貨幣を一新するなら、新しい貨幣を広く宣伝して使う者たちの認識を共有しておかないといけない。

 さもないと本物の貨幣はどれかと判断する基準・・が崩壊してしまう。

 そして、基準が崩壊して贋金と区別ができない貨幣など最早使い物にはならない。

 それは貨幣経済の真の終焉を意味する。





 積みあがった贋金あくいの山を前に、思わず笑顔をこぼれる。


「本当に、そうなったら最悪だよな?」


 さあ、王国がどう対応をするのか、楽しみだ。

とりあえず贋金関係はこれで一旦区切り

もう少ししたら別の仕込みを始めます


しかし、この主人公性格悪いなぁ……どうしてこうなった

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