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悪意を積み上げる

 いやー、お金持ちヤバい。マジヤバい。死ねる。

 そしてシシオとクマオがもっとヤバい。


 あの後たった二日で四回も盗賊と強盗が来た。

 中には二十人くらいまとまって襲ってきた連中もいるんだけど、二人があっという間に蹴散らした。


 二人に聞いてみたところ、獣人の身体能力は基本的に人間を凌駕していて、特に獅子や熊なんていう大型肉食獣の獣人の戦闘力はそこらのゴロツキや盗賊が束になっても敵うものではないとか。

 猫と獅子、犬と狼の獣人奴隷では外見は似ていても金額が一桁違うのが当たり前で、それは戦闘力が桁違いだからという話だった。


 そういうわけで、大型肉食獣の獣人を格闘戦で相手できるのは、きちんとした戦闘訓練を積んだ軍隊や同じ獣人や魔族たち、そして勇者くらいしかいないらしい。

 なるほど、あの奴隷商が護衛に薦めるだけのことはある。

 注文していた鎧も受け取り、完全装備をしたシシオとクマオは確かに近寄るものを圧倒する力強さに溢れていた。


「よし、準備できたしまた奴隷を買いにいくか」


 この二日の間に入念に準備を行っていた。

 いつまでも宿住まいなのもあれなので、良さそうな空家を買い取ってみたり、家具や寝具、生活雑貨の類を新しく増える予定の奴隷の分まで揃えたりと、なかなか大変だった。

 人前で異空間への《収納》を頻繁に使うわけにもいかないので、そこはクマオの怪力には大変助けられた。やはりお買い得である。


 馬車屋で馬車を借りて、シシオが御者台に座って手綱を握った。馬はシシオの獅子獣人としての気配に怯えているのか、大変大人しくシシオの言うことを聞いてくれるのだ。目や鼻もいいので索敵も兼ねている。




「これはこれは、ようこそおいでくださいました」


 クマオを連れて店内に入ると、前回も取引した商人が出てきた。


「ようやく資金の工面ができたので、またここで買おうと思ってね」


「それはありがとうございます、本日はどの奴隷をお求めでしょうか?」


「前回のドワーフ、まだいる?」


「はい、まだおります。早速連れてまいりますか?」


 大金貨四十枚の高額商品だ、やはりなかなか売れるものではないらしい。

 

「エルフの方は?」


「そちらも売れ残っております。……もしも二人ともなれば、多少の勉強もさせていただきますが、いかがでしょう」


 エルフが大金貨五十枚、二人合わせて大金貨九十枚だ。

 この二人が売れればきっと儲けも凄いことになるのだろう。


 本当ならもう少し駆け引きをするものなのだろうが、商人の値引き合戦など俺には無理だ。

 向こうもそれを察してまけてくれているような気がするし、ここは任せてしまうことにする。


「ドワーフとエルフ、前回言っていた腕のいい職人3人ずつ連れてきてくれ。全員買おう」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 買った奴隷を馬車に乗せ、街から出て街道を進む。

 目指すのは南東。

 一番森が近い道だ。

 行く手の森に感覚を向けると、木々に隠れて何十人もの気配がしていた。

 おそらく盗賊なのだろう。姿は見えないが魔力までは隠せていない。


 このまま進めば盗賊たちの格好の餌食だ。金貨や大金貨を惜しげもなくばらまく大金持ち。

 護衛の獣人二人は危険だが、それでも二人しかいない。上手くやれば一生遊んで暮らせるだろう。欲望に掻き立てられた連中がうようよといる。


 そんな連中に付き合ってやる義理はない。


「シシオ、馬車を止めろ」


「……」


 街からある程度離れて視線が減っただろう地点で、馬車を止めた。

 シシオがもの言いたげにこちらをにらんでいる。きっと近くに盗賊がいることを察しているのだろう。足を止めればそれこそいい的だと思っているのかもしれない。

 そんな彼に何も言わず、黙って馬車の周りを《膜》で包み込む。


「《転移》」


 次の瞬間、馬車は王都の街道を遠く離れた森の中にいた。


「――っ!?」

「な、なんだ!?」


 シシオとクマオが周囲を見渡す。

 馬車の中にいた奴隷たちも、異変を察してざわざわと騒ぎ出した。


「シシオ、あそこの建物が見えるだろ。あそこに馬車を移動させろ」


「……わ、わかった」


 おや、シシオはまともな返事を返した。

 ずっと黙っていたのだが、どうやら仰天のあまり黙っているのを忘れたみたいだ。


「御主人様……、今のは、あんたがやったのか?」


 クマオが大きな体を小さく縮こませて、恐る恐る尋ねてくる。


「ああ。《転移》と言ってさっきの場所からこの場所まで一瞬で移動したんだ」


「そ、そうなのか……」


 クマオだけじゃなく、シシオや他の奴隷たちにも聞こえるように説明した。


 なるべくこの場所を知っている人間を少なくしたかったので、シシオやクマオにも《転移》のことは教えていなかった。家具や雑貨の搬入は《収納》を利用したのでそこまで苦労しなかったのが幸いだ。

 ちなみに、この場所は王都から西にかなり離れた場所にある農村の、そこから更に半日ほど森を進んだ場所にある。この家の持ち主がなくなり、住むものもいなくて放っておかれていたのを俺が買い取った。


「ドワーフとエルフたちは中に入れ。シシオとクマオを周囲に誰かいないか見張っていろ」


 一応魔力感知で周辺の索敵は行っているが、シシオたちにも指示を出しておく。

 ドワーフたちを連れて、中に入る。一番最初の部屋はベッドとかが置いてある寝泊りするための部屋だ。

 そこをスルーし、さらに奥の部屋へと向かった。


「こ、これは……!!」


 ごくり、と誰かが息をのんだ音がした。

 実はこの家、一番奥のこの部屋に鍛冶用の炉がある。

 昔は鍛冶師がここに住んで村人にいろいろなものを作っていたらしいのだが、結局それを継ぐ者がいないまま鍛冶師が死に、持て余されていた設備を俺を買い取った、というわけだ。


「ご、ご主人様」


 一番腕の立つドワーフが前に出た。


「なんだ?」


「あの……あの、『金貨の山』は、いったい……?」


「ああ、あれか」


 折角鍛冶用の炉を用意してやったのに、ドワーフとエルフの視線は、横に置かれた金貨銀貨の山に注がれていた。

 うん、あんなの置いてあったら俺も見るわ。黄金の輝きは目に毒だ。


「あの金貨と銀貨はお前たちの為に用意したんだ」


「わ、私どものため……?」


「ああ」


 よく見ると山の全てが金貨と銀貨ではなく、下の方に鉄や銅などのインゴットも積んであるのが見えるのだけど。

 将来的には、あれが金貨の山に成るので大した違いではないな。


「あれは見本だ。見本なんだから多い方がいいだろう?」


「み、見本? ……まさか……!!」


「ああ」


 火に焼けた顔を真っ青に染める、ドワーフ。

 その後ろでエルフたちも白い顔を青くしている。




「あの材料を使って、贋金を作れ。金貨の山を積み上げろ」


 ――さあ、楽しい復讐の始まりだ。

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