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女神の祝福

・人を殺す覚悟!

「グルルルルルルルル」


「『黙れ』」


 獅子の獣人――シシオが唸るのをやめる。だが、まだ目には憎悪が浮かんでいる。


「『目を閉じろ』『直立して動くな』」


 気をつけの姿勢で立ったまま動かなくなる。


「……凄いな、首輪の呪い」



 二人の首に巻かれている『隷属の首輪』だが、これは女神が人間たちに作り方を教えたマジックアイテムらしい。

 主人と定めた人間の命令に絶対服従。また、主人に危害を加えることも、逃げることもできなくなる。

 反抗的な亜人たちを捕まえて人間が主人だと教えるためのものだ。

 人間にとっては女神からの祝福であり、亜人たちからすれば呪いそのものと言える。

 どれだけ女神が人間たちを優遇しているのか、これだけ見てもよくわかる。



「……」


 熊の獣人――クマオが冷めた目でこっちを見ているが、別にこいつらと親しくなるつもりはないので構わない。

 それに奴隷側からしても主人に馴れ馴れしい態度で友人みたいに接されるのは嫌だろう。

 後々解放するつもりで接するとかならともかく、今の俺にはこの二人を解放するつもりは微塵もないし、もしも危機的状況に陥った場合にはこの二人を捨て駒にしてでも生き残るつもりだ。

 そういう前提なのだから、無駄に情を移すようなことはしない。

 奴隷と主人の関係なんてそんなものだろう。


「『目を開けて動いていいぞ』『騒ぐのはやめろ』」


 シシオの憎悪の籠った視線。

 ずっと傍に居られると気が滅入りそうだが仕方ないと割り切ろう。



 適当に目についた屋台で買い物をして、クマオに荷物持ちをさせる。

 異空間に入れる場面を人に見られると面倒だから、そう考えると荷物持ちはいると便利だ。


「そういえば、お前たちって人間と同じものを食えるの? 何か食えないものとかあるの?」


「……」「……」


「『質問に答えろ』」


「ぐっ……別に、食えないものはない」


「人間と同じもので大丈夫だ……です」


 なるほど。姿は獣が混じっているけど、完全に獣というわけでもないらしい。

 猫や犬はネギがダメとか聞くしな。


「じゃあ、他に何か必要なものは? 思いつく限りなんでも言ってみろ。武器とか防具とか、あと日用雑貨も含めて」


「お、れは……爪を、使う。鎧は、革の軽いものを。……他は、思いつかん」

「斧とか槌とか、あとは棒なら使える……ます。鎧は金属の全身鎧も大丈夫だ……です。他は………………特には」


 それぞれ一応は考えて答えたみたいだけど、あんまり参考にならなかった。

 奴隷だからなのか、獣人だからなのか、判断がつかない。


「クマオ、無理して敬語使わなくていいぞ」


「わかっ……はい……わかった」


 とりあえず、この下手な敬語はやめさせよう。逆に鬱陶しい。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ドワーフの鍛冶屋で鋼鉄製の武器やクマオの鎧を買った。

 鎧は熊などの大型の獣人の為に作られた既製品があるらしく、それを多少手直しすればすぐに使えるらしい。

 シシオの欲しがった革の鎧は裁縫関係で皮革を扱っている専門の店を教えてもらい、そこで注文した。

 ついでに二人の服も薄汚れて汚いので買っておいた。


 ちなみに、シシオは二メートル弱くらいで引き締まったボクサーのような体つき、クマオはそれから更に頭一つ分は高く筋骨隆々だ。顔は七割動物三割人間といった微妙な混ざり具合をしている。


 さすがに鋼鉄製の武器や半オーダーメイドの防具は高い。

 鋼鉄の爪が金貨三枚、鋼鉄の斧が金貨十枚、鎧が金貨二十枚、革鎧が金貨四枚、その他の雑貨や服が金貨二枚。

 少しまけてもらって、しめて金貨三十七枚ほど使った。だいたい三年は遊んで暮らせる金額だ。

 自分の金じゃないから金遣いが荒くなっているのを自覚する。

 でもいいよね、必要経費ってやつだ。


「「……」」


 シシオとクマオの『こいつ、どんだけ金貨を持ち歩いているんだ』という視線がちょっと気持ちよかったというのもある。

 財布代わりの布袋から、金貨を山のように取り出す度に驚いていた。


 ま、二人を買った時に金貨五十枚支払っているし、今日だけで大金貨一枚近く散在しているのだから、驚くのも無理はない。

 俺だって日本で百万円とか一千万円とかをそのまま持ち歩いている人がいたら驚く。そして引く。



 治安のいい日本でも大金持っているとわかったら万引きや強盗に狙われるかもしれないのだ。

 こんな異世界で、大金を見せびらかすように買い物して歩いたらどうなるのか、答えは火を見るよりも明らか。


「……ご苦労様」


 魔力感知で追跡されているのがわかったので、大通りから離れたら早速強盗に狙われた。

 転移で逃げるのは簡単だったけど、シシオとクマオに任せてみた。


 まさに一蹴。一撃だった。


 元人間だったものが、辺りに散らばっている。

 臭いがきつそうだったので《膜》を張った。


 それだけで、少し遠く感じる。

 目の前の惨劇がテレビの中のスプラッタ映像くらいには減じて見える。まあ、その手の趣味はないので、じっくり見たいものではない。


「こいつら、このままでいいのかな?」


「……」

「いいと、思う」


「じゃ、帰るか。頑張ったご褒美に今日買った食いものは好きに食べていいぞ」


 白昼の惨劇から目を背けて、宿に歩き出した。



 自分が手を下したわけではないが、俺の奴隷が俺の命令で人を殺した。


 とても直視できるものではない。

 そして、直視する気は毛頭ない。

 頼むから俺に関係ないところで好きに殺しあっていてほしいと、そう思うだけだ。

覚悟なんかしないし、する気もない!勝手に殺しあってろよ!という主人公失格な主人公

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