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悪魔の悪意

気がついたら日刊ランキング一位になっていました。

応援ありがとうございます!

これからも頑張ります!!

 聖地の周囲に張り巡らされた城壁に重なるようにして、《防壁》が展開された。

 

 クマオに試しに触らせてみるが、力自慢の熊の獣人の怪力をもってしてもビクともしなかった。

 武器や魔法をぶつけている者いるが、小動こゆるぎ一つしなかった。


 俺も触れてみるが、どうやらこの《防壁》は膨大な魔力で構築されたものらしい。

 周囲から常に魔力を補充して延々と発動し続けられるタイプのようだ。


「ふむ、見事だ」


 聞き覚えのない声がした。

 少し離れたところに青黒い肌の男が立っている。

 どうやら先ほどの声は彼がつぶやいたようだ、恐ろしいほどによく通る声である。


「これほどの魔法は人間には不可能だろう。また女神の輩の仕業か」


 ゆったりとマントを揺らしながら歩いてくるその姿だけで、俺の心が折れそうになる。

 今にも跪いて、臣下にしてほしいと願い立ってしまいそうなほどの圧倒的なカリスマ。生物としての格の違い。


 ――《魔王》。


 誰に言われるでもなく、自然とそう理解をした。


「貴様があの情報と物資を手配した人間か」


 咄嗟に《膜》を展開した。

 魔王の強大な存在感が、《膜》に阻まれて消える。

 いつものように、薄っぺらい現実味のない世界が包み込む。


「ほう……、我も知らぬ魔法。それも無詠唱で……面白い」


 野性味の溢れた端正な顔立ち。別系統だがエルフにも負けず劣らずの美形だが、まるで舌なめずりした肉食獣のように見える。

 飯を食う前のシシオの顔に似ている。そう思うと怖さも半減するのだから不思議だ。

 半減だから、全く怖くないというわけではないんだけど。


「あんたが魔王か」


「ああ。貴様の寄越した情報と物資には大変助かった。礼の一つも言っておこうと思ってな」


 じろじろと全身を熱い視線が這い回る。

 そういう趣味はないので勘弁してください。


「貴様、俺のものに――」


「さようなら」


 《転移》。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「いいのか、魔王の誘いを断って?」


 部屋に戻って休んでいるところに、珍しくシシオが話かけてきた。


「受ける理由があるのか?」


「それは……魔王の部下になれば、いろいろと……」


「いろいろと、何だよ? 金か? 地位か? 女か? そんなものに何の意味がある?」


「だが、この戦いが終わった後は……」


「心配するな、ちゃんと考えている」


「……そうか」


 まだ言い足りないという顔だったが、それでシシオは引き下がった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 獣人・エルフ・ドワーフの連合軍に魔族も合流を果たした。

 魔王によって《防壁》が発生している間はいかなる攻撃も無効化されると全軍に通達され、即応部隊を残して部隊ごとに休息に入る。


 聖地を包囲して三日。


 俺はシシオたち奴隷を集めた。


「《解放》」


 その一言で、シシオたちの首から《隷属の首輪》が外れる。


「今までご苦労。じゃあな」


 驚くシシオたちを残し《転移》を発動する。

 同時に、魔王の号令が陣営内に響き渡った。



 ――最後の戦争の始まりだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 勇者が剣を振るう。

 目の前の獣人が倒れるが、その穴を埋めるようにまたすぐに別の獣人が押し寄せる。


 大魔導士が長大な詠唱を完成させ戦場を焼き尽くす大魔法を放つが、魔王とその部下たちが放った魔法と衝突し、その破壊の力を発揮する前に対消滅を果たす。


 効果の薄れた《防壁》での攻防はすでに半日が経過していた。

 最初は《防壁》を利用し魔法や攻撃を凌いでいた人間たちだったが、徐々に効果が薄れていき矢や魔法が突き抜けてくるようになってきていた。


 このままでは持たない。

 焦燥感に駆られながらも必死に勇者は戦う。

 この世界の人間たちを守るために。

 今までに出会った大切な人たちを守るために。


 そして、大切な誰かのために――。



「勇者様! 聖女様から、準備が完了したとの知らせです!」


「――今行く!! 後は頼んだ!!」


「はっ!!」



 伝令兵の知らせを受け、勇者が走る。


 激しい戦闘によって体は鉛のようで、先の見えない状況に精神的疲労も重くのしかかっていた。


 だが、これでようやく戦いも終わる。


 もうこれ以上戦わなくて済む。


 そう思うと、つい先ほどまで感じていたはずの疲労が不思議と跡形もなく消えてしまった。


 勇者は走る。最後の地へ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 開いたままの扉を潜り抜けて、一人の影が入ってくる。


「勇者様!」


 勇者だ。薄汚れ、あちこちに軽い怪我を負っているが、その足取りは軽い。


「準備はもういいの?」


「はい! いつでも始められます!!」



 二人の視線の先には七色の煌めきの宿る宝珠があった。


 大地の力を集め、それを聖女と神官が浄化し、純粋な力のへと昇華させたもの。


 聖剣を用いなければ、到底制御できないほどの魔力が渦巻いていた。



 ――人間たちの祈りと希望の結晶だ。



「さあ、勇者様。聖剣を手にしてこの宝玉に触れてください。

 そうすれば、この大陸中・・・に聖剣の力が行き届くようになります」


「――あ、ああ!」


 ほんの一瞬、宝珠の美しさとこれまでの旅の険しさを思い浮かべて、呆けてしまっていた。

 だが、防壁ではまだ騎士団の仲間や聖騎士、大魔導士たちがその身を削って時間を稼いでくれているのだ。

 今はその一瞬でも惜しい。


「……終わり、か」


 聖地の周辺だけではなく、大陸に巣食う悪魔の軍勢を全て一掃できる。

 多くの犠牲を出したがこれで人間たちの勝利だ。


 勇者が宝珠に手を伸ばした。




















「ああ、ようやく終わりだ。長かったよ」



 その手を掴み。


 もう片方の手で、宝珠を握りこむ。



 ――バチッ


 ――バチバチバチチチチチッ!!!



 聖剣の所持者という正規の資格者以外が触れたからだろう。


 宝珠が手の中で暴れだし、放電に似た現象を巻き起こす。


「あ、あんたは――!?」


「――魔力爆発の兆候っ!? 勇者様、今すぐ離れて――!!」


 制御の外れた魔力が暴走し、物理的な圧力を伴って解放されようとしていた。



 ――バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!!!!!



 宝珠から轟音が発され、召喚の間全体を揺るがす。


 こうなってはもう誰にも止められない。


 この聖地全てを吹き飛ばし更地へ変わる。









 最後に残された人間たち全てを道連れに――この世界から消滅する。



















 ――まあ、もしも宝珠に触れたのが、俺以外だった場合は、だけど。


 最初に《ステータス》で見た時の、俺のスキルを覚えているだろうか。



  スキル:

  【異世界言語】

  【時空魔法(Lv☆)】

  【魔力増大(Lv☆)】

  【魔力回復(Lv☆)】

  【魔力感知(Lv☆)】

  【魔力操作(Lv☆)】



 女神自身に与えられた、世界最高レベル・・・・・・・の超常的な【魔力操作】を持つ俺にとって、この宝珠はただの餌に過ぎない。


 本当に女神のくれたチートは役に立つが、女神は俺に何を与えたのか覚えているのだろうか?


 ……なんとなく、忘れているような気がするな。

 まあ、それは今はいい。


 ――バヂヂヂヂチチィィィ………………


 暴走を抑え込み、その中に収められた莫大な魔力を糧に、魔法を行使する。


 今まで魔力が足りず使えずにいた、最高位の時空魔法。







「さて、帰るか」




 ――《世界転移》




 この瞬間、世界から俺と勇者は消えた。








 後に残ったのは、魔力を失った防壁。

 防戦一方で損耗の激しい騎士団。

 怯えて女神に祈るだけの人間たち。

 崩れ落ちた聖女。

 傷だらけの聖騎士。

 魔力の尽きた大魔導士。



 ――そして、まだまだ潤沢な戦力を有し。

 復讐を叫び、血の生贄を求める、亜人たちの連合軍だけだった。











◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 『電車が参ります、白線の――』


 夕焼けのホームに、一人の少年の姿があった。

 手に抜身の剣を持った、全身ずたぼろで、ところどころに返り血のような赤黒い汚れのついた服を着ていた。


「――え? あれ、え? ……に、ほん……?」


 いつの間にか立っていた怪しい風貌の少年に、周囲の人間の視線が突き刺さる。


 ――あ、剣


 隠さなきゃと、なぜか一番最初にそれを思った。


 ずっと愛用してきた剣を、背後に隠す。


「あ」


 ふらっと、足から力が抜けた。



 一日中、ずっと戦っていた。


 防壁まで召喚の間で全力で駆け抜けた。


 気を張っていた精神が、懐かしい光景を見て、緊張の糸を切らせてしまった。



 自分の疲労を自覚した瞬間、まるで手足が自分の物ではないかのように重く感じられた。


 ふらふらっと、よろめいて、倒れこむ。



 プア――――ッ!!!



 夕焼けの茜色が藍色にとって変わる。

 白い光が少年の視界を真っ白に染め上げる。



 ――俺、行かないと行けない場所が――



 衝撃。


 少年は――

ちなみにネタバレ:

一番不憫なのは勇者くん、間違いない

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