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女神の聖地

 北の軍が撤退を開始した。

 それまで行っていた遅延戦術紛いの代物ではなく、後に続く魔族の侵攻を一切考慮に入れない逃げっぷりだ。

 同じように南東西の鎮圧軍も撤退し、《聖地》へと引き返してしまった。


 忽然と消えた鎮圧軍に対し、反乱軍は混乱した。

 そもそも反乱したくて蜂起したのではなく、俺たちの仕込みによって無理やり戦う理由を作らされていたのだ。

 敵がいなくなったのなら、それを無理して追う理由はないし、戦力的にも組織的にも遠征しての追撃戦など不可能だった。


 王国の人間が軍を引き揚げただけで、あっという間に戦争は下火になってしまった。


「……」


 折角、人間たちの心に不信と疑惑と憎悪を植え付けて、団結などできないように殺し合わせていたのに……。


 あくいを撃ち込む前に、逃げられてしまった。


 今までとは相手の行動が違う。

 人間たちに何かが起こっている。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「こちらへ」


「……ここは、召喚の間?」


 勇者と聖女は、《聖地》の最奥に位置する召喚の間を訪れていた。

 かつて、勇者がもう一人の人間とともにこの世界に降り立った場所。


 その円形の魔法陣が敷かれたその中央に、青い輝きを帯びた宝珠が置かれていた。


「……こんなもの、前はあったかな?」


「普段は表に出ていないのですが、これは聖地の守護を担う結界の《宝珠》なのです。

 大陸を巡る力をこの宝珠が集めることによって、この地を中心とした聖地全体に、絶対に破ることのかなわない防壁を張り巡らせます」


「絶対に破ることのできない、防壁?」


「はい。かつて、我々人間の祖が地上に生まれた時、全ての人間はその防壁の内側で過ごしていたと伝承が残っております」


 目を閉じ、祈りを捧げるようにして、聖女が静かに語りだす。

 遥か昔。東西南北の地にそれぞれ亜人たちが住み、その中心、聖地には創られたばかりの人間が住んでいた。

 だが、やがて数の増えた人間たちは聖地の中から出ていくこととなる。

 そうして、女神の導きによって南の地を獣人たちから解放し、東西の地もまた同じように解放したのだ。


「女神様は仰られました。今、この地上に悪魔がいると」


「悪魔だって……!?」


「悪魔の軍勢が迫ってきています。この聖地を除く全ての方角から」


「……まさか、北の魔族だけではなく、他の地方の反乱軍も?」


「……残念ながら」


 聖女は悲しげに、そっと目を伏せる。

 その姿に心動かされたように、勇者の少年が彼女を抱きしめる。

 女神から啓示を受け人間たちを導く使命を帯びた少女は、少年がほんの少し力を込めただけで壊れてしまいそうなほどに小さかった。

 少女の腕も少年の腰に回され、無言で抱きしめ合う。


 しばらくして、二人はそっと離れた。


「……僕は、どうすればいい?」


「その時が来たら聖剣をお貸しくださいませ。宝珠に集められた力を聖剣によって変換できると女神様が仰られました」


「変換?」


「扉を守る絶対防御の力を、攻撃の力へと転じるのです」


「攻撃の力……」


 絶対に破ることのできない防壁の力。

 それを攻撃に使ったら、一体どうなるというのか?


「私はこれから神官の方々と儀式の準備に入ります。

 宝珠にこの大陸を巡る力を集め、整え、聖剣に注ぎ込めるように準備をします。


 その作業を開始すると、扉を守る防御の力が減じてしまいます。勇者様は他の皆様と一緒になって悪魔の軍勢を防いでください。

 決して、この聖地の中へ入れないでください。

 宝珠の準備が整いましたら、聖剣を持ってこの場所においで下さい」


「……わかった」


「……ご武運を、心より祈っております」


 深く、少女が――聖女が頭を下げた。

 少年――勇者は、踵を返して召喚の間から出ようとする。もうこの場でできることは何もない。


 彼にかけられる言葉はない。

 互いに後はただ全力を尽くすだけだと理解していた。


 聖女の言われたとおり、この聖地の中に悪魔の軍勢を一人たりとも入れはしないと。

 勇者はそう固く決心した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 王国軍・鎮圧軍が撤退した翌日。


 魔族の軍が北から侵攻し、今まで姿を隠していた獣人、エルフ、ドワーフの連合軍が各地で生き残っていた反乱軍を襲った。


 連合軍は女子供関係なく、発見した人間を全て殺した。

 生き残った人間は一人もいなかった。

使わない道具はしまっちゃおうねー

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