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女神の勇者2

「大丈夫ですか? 肩に掴まってください」


「ゆ、勇者様! あ、ありがとうございます……」


 なんとか敵を追い払うことができたが、被害は甚大だった。

 勇者一行が何とかたどり着いたとき、すでに砦は魔族の激しい攻撃によって陥落寸前に陥っていた。

 勇者の目に飛び込んできたのは、せめて最後の足掻きと言わんばかりに全軍が一丸となって敵前衛に突貫を仕掛けた姿だった。


 勇者が走る。一人でも多くの人を救おうと剣を振るう。

 未熟な彼の背後を守るように聖騎士が付き添い、聖女はうめき声をあげて死に瀕している者の回復魔法をかけて回った。


 そして、大魔導士の放った極大の一撃が魔族の本陣を焼く。


 勇者の登場と大魔導士の一撃で一気に士気を高めた人間の軍に、魔族は散り散りになった兵士を集めて再編成を済ませると、そのまま撤退を始めた。


 それを好機と見た結果、追い打ちをかけようと深追いし過ぎた者から逆に討たれ、屍をさらすことになる。

 撤退をしていても隙は少ないと判断した聖騎士の号令により、追撃は中止。多くの死傷者を出したが人間の軍は辛くも魔族の軍勢を跳ね除けることに成功した。


 そして今、動けるものたちが戦場を回って、まだ息のある者を回収しているというわけだ。


「ほら、あのテントについたら治療が受けられる。もう少しだ、頑張れ!」


「は、はいいぃぃ……」


 助かった安堵からか、涙を見せる負傷兵に肩を貸しながら、勇者は救護所についた。

 中には聖女が待っている。死んだばかりなら死者すら生き返らせることもできるという、この世界の最高位の回復魔法の使い手だ。

 彼女の下にたどり着けば多くの命を救えるだろう。

 勇者はそう思っていた。


「……勇者様、こちらへ……」


 だが、彼を出迎えたのは青白い顔をした聖女の姿だった。

 真っ白なローブはけが人の血に染まり、頬にも血が飛び散っていた。


「……どうしたんだ?」


 彼女の只ならぬ様子に、負傷者を近くの衛生兵に預け、奥へと向かう。

 そこには聖騎士と大魔導士もいて、そろって深刻な表情を浮かべていた。


「どうしたんだ、二人とも? 何か問題か?」


「何か、問題か? じゃないわ! 問題だらけよ!!」


「声が大きい」


「――っ、ごめん」


 興奮した様子の大魔導士を、聖騎士が宥める。


「……詳しく聞かせてくれ」


 すぐに済むような話ではなさそうだと、腰を下ろす。

 三人を代表して聖騎士が口を開いた。


「この砦には物資がほとんどない。備蓄されていた回復薬を見たが高位の回復薬はただの色水だ。魔力回復薬も同様で、これでは怪我の治療も満足にいかない」


 聖女が青い顔で頷く。

 彼女は魔法の使い過ぎによる魔力不足になりかけていた。


「兵士に言われて武器や防具の方も確かめたが、そちらも酷いものだ。刃の潰れたものや関節がいかれてまともに着ることもできない鎧など、ガラクタの山としか言えない。あれで魔族に対抗するのは自殺行為だ」


「手前側にまともな装備が置かれていて、奥はガラクタばかりだったって言っていたわよ」


 無自覚なのか貧乏ゆすりをしながら大魔導士が説明を補足する。


「……物資の管理者は? それに、この砦の指揮官は……」


「最後の突撃の際に魔族に殺されたそうだ。指揮権の上の者から死んでいったらしい。暫定的に今は私が指揮を預かっている」


「……そうか」


「そして、最大の問題なのだが……」


 まだあるのか、と嫌そうに顔をしかめた勇者に、聖騎士が表情を消した固い声で告げた。


「この砦の食糧庫と燃料庫が、敵の攻撃で焼けた。

 もうすぐ雪が降るが……このままでは、私たちはこの砦に閉じ込められ、餓死することになる。



 ――状況が落ち着き次第、生きている者だけを連れて一番近くの砦を目指す。もちろん、途中で予想される魔族の襲撃をしのぎながらだ」



 地獄の撤退戦が、始まる。

ちょっと短いけど、勇者の話はここで終わり

次は別の仕込みが始まります

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