適当過ぎる女神
・中編、ファンタジー世界での復讐物
・そこそこ過激な内容です
・主人公の戦闘描写はありません
・初っ端からぶっ飛んでいます
『聞こえているかしら? 貴方は《勇者》に選ばれたの。私、女神*****の寵愛を受けしものとして』
『どうか、お願い、貴方の力を貸して……この世界を救ってほしいの……』
『私の守護する世界、いとし子たちに危機が迫っているの……』
『この世界を救う為に、どうか力を貸してください……』
――……わかりました、女神様。俺でよければ力を……
『――さて。《勇者》の“彼”は予定通りこれでいいとして。“これ”はどうしようかしら』
『《聖女》《聖騎士》《大魔導士》……うーん、この辺はもう使っちゃったし。こんなことなら一つくらい残しておけばよかったかしら?』
『あ、そうだわ。前回の《勇者》たちが困っていたことがあったわね』
『そう、確かこんな感じで……これもつけて……』
『……よし、これでいいわ。これなら“彼”の為に“これ”も役に立つでしょう』
『さ、せいぜい“彼”の為に頑張るのよ? それじゃね』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「勇者が二人!? どういうことじゃ、勇者とは一人ではなかったのか?」
髭の生えた偉そうなおっさんが側近に怒鳴り散らしている。
「は、どうやら一人は召喚魔法に巻き込まれたようでして。今からステータス魔法にて確認をする次第であります」
「む。ならば仕方ない。すぐに準備をせよ!」
「はっ!!」
俺たちをこの部屋に連れてきたローブ姿のおっさんが、俺たちに向き直って慇懃に頭を下げた。
「では、お二方とも《ステータス》と唱えてくださいませ」
「「《ステータス》」」
このおっさんに従う理由はなかったが、正直混乱から立ち直っていなかったこともあり、素直に従ってしまった。
《ステータス》
名前:
悪七龍司
職業:
時空魔法使い
スキル:
【異世界言語】
【時空魔法(Lv☆)】
【魔力増大(Lv☆)】
【魔力回復(Lv☆)】
【魔力感知(Lv☆)】
【魔力操作(Lv☆)】
称号:
《勇者のふくろ》
《ハズレ》
「なんだ、これ……」
突然目の前に出てきた文字の一覧に唖然する。
「どうやら無事に《ステータス》を出せたようですね。では、《勇者》様はどちらでしょうか。お教えお願いますか?」
まるでゲームのステータス画面みたいだ、と思ったがおっさんには普通のことらしい。
言われるまま自分のステータス画面に目を通して、《勇者》の文字を探す。
「俺、職業に《勇者》って出てます」
隣に立っていた少年がそう言った。年は十五くらい、高校生っぽい制服を着ている。
顔はイケメンだった。
「おお! 貴方が《勇者》様でしたか! では、そちらの方は?」
《勇者》という文字なら、職業欄にない。
ただ、称号欄に変なことが書いてあった。
「称号に《勇者のふくろ》と《ハズレ》って書いてある」
意味がわからない。なんだ、ふくろって。ハズレって。
《勇者のふくろ》
大荷物を持って旅する勇者のための荷物持ち。時空魔法で無限収納&時間停止の異空間を創造できる
《ハズレ》
異世界召喚に巻き込まれた一般人。特にこれといったものがない、ハズレ
……詳細な説明が出てきた。
「なんだよ、これ……」
内容を呼んで、震えがくる。
――荷物持ち。巻き込まれた一般人。
俺がここにいる必要なんか、どこにもない。
ただ巻き込まれただけだった。
「《勇者のふくろ》……なるほど、なるほど」
震える俺を一瞥し、おっさんがなにかに納得するように頷いた。
「勇者様は、何か称号やスキルはお持ちでしょうか?」
「あ、はい。称号は《女神の寵児》《聖剣の主》ってあります。スキルは【異世界言語】【神聖魔法】【聖剣術】【身体強化】【魔力極大】【幸運】の六つです」
「おお、さすが勇者様です! 六つもスキルの持っている者など世界中どこを探してもおりませんでしょう!! 素晴らしい!!」
「そ、そうなんですか……えへへ」
おっさんのお世辞に勇者の少年が照れくさそうに笑った。
どこに照れる場所があったんだ? 俺もスキルを六つ持っているぞ、時空魔法っていうのに特化しているけど。
「ふむ。では勇者殿、どうかこの世界を救ってはいただけぬだろうか? 人々の暮らしを脅かす悪しき魔族と魔王を、どうかそなたの力で打倒してもらえぬか?」
「……わかりました! この世界の人たちのために、俺、頑張ります!!」
なぜか王様に即答で快諾する。
これが勇者なのだろうか。王様の頼みは引き受けないといけないとDNAに刻み込まれているのか?
魔族や魔王なんて怖い。戦いになるのなら絶対に巻き込まれたくない。
俺が頼まれたら絶対に断ろう、そう思った。
「では、本日はこれにて解散とする。勇者殿も休まれよ」
「はい! わかりました!!」
……あれ?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「明日から戦闘訓練となります。魔王討伐の旅は一週間後に出発となりますので、それまではどうぞこの部屋を自分の部屋と思ってお使いください」
「うわぁ、凄い広い! すごい素敵な部屋ですね!」
宰相とか言うこれまた偉そうなおっさんが、勇者の少年の前に立って案内をしている。
「本来は国賓の方々を御もてなしする為の部屋でございます。もし何か不自由がございましたら、こちらの者へお申し付けください」
「はい、ありがとうございます!!」
「では、勇者様、私はこれで失礼します」
――バタン
扉が閉まる。ちらりと中を見たが、本当に豪華でテレビで見たどこぞの一流ホテルのスイートルームみたいな感じだった。
「お前はこっちだ。――おい、そこのメイド。連れていけ」
「あ、あの、ちょっと聞きたいことが……」
いろいろと状況の変化についていけず、このおっさんに聞きたいことが山とあった。
いつの間にかこの城に来ていたこととか、勇者と魔王のこととか、俺は今後どういう扱いになるのか、とか。
「かしこまりました」
「任せたぞ」
「え……ちょっと……」
だが、おっさんが俺に一瞥をくれると、そのまま歩み去っていってしまった。
その後を追おうかと思ったが、話しかけるタイミングを見失っている間に角を曲がって姿が見えなくなってしまった。
……まあ、今後話をする機会もあるだろう。
《勇者》とそれ以外では待遇の違うのもある意味仕方ない。
そう納得する。
「こちらです」
メイドがそれだけ言って歩き出した。
慌ててその後を追う。
「あの、ここってなんて国なんですか?」
「…………」
「勇者とか魔王とか、まだよく理解できていないんですけど、その辺の説明とか……」
「…………」
「……けっこう歩いていますけど、目的地はどこなんでしょう?」
「……つきました」
「え?」
メイドさんが止まったのは、飾り気のない頑丈そうな扉の前だった。
「どうぞ」
「あ、はい」
扉を開けてもらったので中に入る。
狭い部屋だった。
棚に積み上げられたシーツ、何本も並んでいるランプのような器具、すみにまとめられている同じ形の鏡。他にも雑貨が所狭しと置かれている。
どう見ても物置だった。
「あれ? あの、ここって本当に――」
――バタン、ガチャ
「ちょ、ちょっと!? あ、開かない!? なんで、おい! 出せ!! ここから出せ!!」
ノブを回しドアを叩くが、扉はビクともしなかった。
「うるさいです。静かにしなさい」
「静かに!? 何言ってんだ、あんた! 頭おかしいんじゃないか? いきなり閉じ込められて静かになんてできるはずないだろ! さっさとここから出せ!!」
「――“ふくろ”の分際で、偉そうに人間様に命令をするな!!!」
「――っ!?」
メイドさん――いや、メイドが、扉の向こうで声を荒げた。豹変ぶりに、腰が引けそうになったが、なんとか声を絞り出した。
「ふ、ふくろの、分際? 何言ってんだ、俺は人間だぞ!! こんな、こんな待遇認められるはずが――」
「黙れ、と言っているのです!!」
ガン、と扉が蹴られて大きな音がなった。
「お前は女神様もお認めになられた勇者様の“ふくろ”、つまりは道具なのですよ! “ハズレ”のお前がせめて少しでも勇者様のお役に立てられるようにと言う、御慈悲の結果にすぎません。
そんな道具の分際で、女神様から御加護を与えられている私たち人間と同じように振舞おうなど、許されることではありません!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!!
「なんと図々しい!! 女神様の御慈悲に感謝をなさい!! 自らの行いを省みて今すぐ懺悔なさい!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!!
「懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい!」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!!
「懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい! 懺悔なさい!」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
扉の前で喚き続けるメイドが恐ろしくて、俺は一番奥にシーツを運び、その中で丸くなってじっとしていた。眠気は全くこなかった。
どれくらい時間が経っただろう。いつの間にか音が止んでいた。
鍵がかかっていたはずの扉が開いた。
メイドがお盆を持って近寄ってくる。
「***********」
口を開いて何を言っているが、なぜか音が聞こえない。
何言っているのかわからなかった。
「***********!!」
怒りに顔を歪めたメイドが、俺に向かってお盆を投げつけた。
お盆の上に乗せられた食事、スープ皿が中身をぶちまけて転がり、パンが床に落ちる。
「************!!」
聞こえない。何を言っているのかわからない。メイドが部屋を出ていった。
お盆が当たったのに、まったく痛くなかった。
スープを頭から被ったのに、熱いとも冷たいとも感じない。
「は、ははは……」
どうやら俺の頭は、おかしくなってしまったみたいだ。